軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第25話 その頃アストンのパーティは(Ⅴ)

——貴公らに期待した私が馬鹿だった。二度と私の前に姿を見せないでくれ。

満身創痍で王都の拠点に戻ってきたアストン達が目にしたのは、フェンネル卿からのそんな書簡だった。

足元で、何かががらがらと崩れる音をアストンは聞いた気がした。

「ちょ、ちょっと待って下さい。直接フェンネル卿に弁明させて下さい」

書簡を持ってきた黒服姿の使いの男に、アストンは食い下がる。

しかし、男は首を横に振った。

「もうお嬢様の誕生日は過ぎてしまいました。今さら何を弁明するおつもりですか」

「で、ですからっ……」

「アストン殿。フェンネル卿がお怒りになられているのは、討伐失敗だけが原因ではありません。日程には少し余裕があったはずです。無理だと思ったら、早めに連絡することだってできたでしょう。せめてそれさえしてくれれば、フェンネル卿は、お嬢様の誕生日を手ぶらで迎えるという大恥を免れることができたのです」

「そ、それは……」

アストンは拳を握りしめ、その場に立ちすくんだ。

大貴族とのお近づきになる機会が目の前にぶら下がっていながら、無理などと言えるはずがないだろう。

喉まで出かかった言葉を、ぐっと飲み込む。

「ち……違うんです」

「何が違うのですか」

「俺達はうまくやってたんです。あと少しでファイアフォックスの討伐にも成功するはずでした」

「……何をおっしゃりたいのですか」

「パ、パーティに裏切り者が出たんです」

怪訝な表情を浮かべた使者に、アストンは神妙な顔つきで言った。

そうだ。全て、あいつのせいにしてしまえ。

「全てうまくいっていたのに、あと一撃でとどめを刺せる時に、ゼノスの野郎が急に邪魔をしたんです」

「……ゼノス?」

使者は首をひねった。

「おかしいですな。【 鋼鉄(アイアン) の 不死鳥(フェニックス) 】にそのような名前のメンバーがいるとは聞いておりませんが」

「——!」

そうだった。

貧民街出身者がパーティにいた過去を残さないよう、公式の場や文書には一切ゼノスの名は登場させていなかった。

「はて、ゼノスという方は一体……」

「い、いえ、間違えました。ユーマです。ユーマという弓使いが裏切ったんです」

「おい、アストンっ。お前何を言ってんだ」

後ろで聞いていたガイルが、アストンの肩を掴んだ。

「うるせえっ。あいつが使えなかったのは事実だろうが」

掴み合いになりそうな二人を、使者の男がやんわりと制する。

「それはお気の毒でしたが、パーティの問題はパーティで解決して下さい。フェンネル卿には関係ないことです」

「そ、そうですがっ……」

アストンはガイルから手を離して、使者の男に向け、直角に頭を下げた。

「お願いですっ。もう一度っ、もう一度だけチャンスを下さいっ!」

どうしてこの俺が貴族相手ならともかく、使いの男ごときに頭を下げなきゃいけないんだ。

そんな内心は出さず、アストンは頭を下げ続ける。

今までずっとうまくやってきた。

子供の頃から、他人を利用しながら世の中を渡ってきた。

あと少しで、高みに手が届くのだ。

間違っても、こんなところでこける訳にはいかない。

使者の男は、アストンの後頭部を眺めながら嘆息した。

「貴公のパーティは、2人が重傷で入院中と聞きました。依頼に失敗し、しかもメンバーが半分しか残っていないパーティにどうやってチャンスをやれというのですか」

「それは大丈夫です。すぐに優秀なメンバーが補充される予定ですから、もう一度チャンスだけを下さいっ、次こそは間違いなく期待に応えてみせます!」

顔を上げたアストンの勢いに、使者は一歩下がって答えた。

「……一応、フェンネル卿に伝えるだけは伝えておきましょう」

「ありがとうございますっ!」

アストンは、ことさら明るい声で使者の男を送り出した。

来客が去った後、ガイルがアストンに詰め寄った。

「おい、あんなこと言ってどうするつもりだ。アテなんかねえだろ」

ギルドに掛け合って、新メンバーを募集することはできる。

しかし、当然ながら優秀なメンバーを引き入れるには、それなりに金がかかる。

散財を繰り返したせいで手元の金は限られているし、フェンネル卿に手を引かれた今、ますます資金は先細っている。

「あ、そうか。【 鋼鉄(アイアン) の 不死鳥(フェニックス) 】の名前で人を集めるつもりか」

「今は無理だ。忌々しいが、討伐失敗の噂がギルドで広まってやがるからな。しばらく目立つ動きは取りにくい」

「じゃ、じゃあ駄目じゃねえか」

「心配すんなよ、ガイル。俺達のパーティにはもう一人いただろ。奴隷がよ」

ガイルが眉をひそめる。

「……ゼノスか? だが、あいつは——」

「問題ないさ。あいつだって戻りたいはずだ。俺が一声かければ泣いて喜ぶだろう」

ゼノスがパーティの救世主だとは思っていないし、思いたくもない。

だが、あの頃は全てがうまくいっていたのは確かなのだ。

歯車がくるいかけた今だからこそ、一度原点に立ち返る必要がある。

前のようにゼノスをうまく利用して、落ちた名声に輝きを取り戻すのだ。

不死鳥は、再び蘇る。

アストンは腹から低い笑い声を出した。

「仕方ねえな。感謝しろよ、ゼノス。この俺様がじきじきにてめえを迎えに行ってやるんだからよ」