軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

■最終話.君しか勝たん

余とトレイシアがお互いに各種告白を披露した夜から、一週間ほどたった頃。

「トレイシアよ。我々は両想いということでいいだろうか」

「せや」

「限りなく方向性が一致していると」

「せや」

「今後も解散の危機はないと」

「だからせや言っとるやろがい! 先週から確認し過ぎ薬局!」

トレイシアの余に対する態度が、少しだけ変わった。

「すまない。両想いになったことが嬉しくてつい……」

「可愛いなちきしょう! わてより可愛いムーブ禁止なる!」

今までのトレイシアは、いかなる時も柔らかく微笑んで、楚々とした仕草で相槌を打ち、口を開けば穏やかな調子で話す、愛らしい小鳥のような姫だった。

だがしかし、告白合戦の夜以来、トレイシアは呆れたり怒ったり白い目をしたり遠い目をしたり、感情の起伏を表に出すようになった。今も「わてのレゾンデートルを脅かしよってからに」と、ぷりぷり怒っている。大変に可愛い。

当時は比較対象がなかったので分からなかったが、今の彼女の様子は、あの頃のトレイシアと比べて格段に生き生きとしていた。これが本人の言う「演技」をしていない、素の彼女なのだろう。

「そう……今のトレイシアは籠の中で囀る小鳥と言うより、平飼い方式で野を駆け巡る元気な鶏」

「今すげえ失礼なこと言わんかったか」

「うむ。新たなトレイシアの魅力を発見し惚れ惚れとしていたところだ」

「惚っ、こ、このド天然タラシ野郎もはや重課金したい……」

トレイシアはちょっとよく分からないことを呻きながら、両手で顔を覆って俯いた。見えている耳が真っ赤である。愛らしい。元気いっぱいになったなあとは思うが、小鳥時代のトレイシアも、鶏時代に突入したトレイシアも、余としては正直に言って大した違いはなかった。

結論、トレイシアと過ごす時間は、相変わらず楽しい。

「そうだ、今日は大事な相談があってな。実はトレイシア用に芋ジャージを発注しようと思っているのだが」

「え? あんなダセェ部屋着、わては着ませんけど……」

「え!? そ、そんな。余の芋ジャージ姿をあれほど褒めてくれたではないか」

トレイシアが隠し事を打ち明けてくれたのに、余が本来の姿をさらけ出さないのはフェアではないと思い、あの夜以降、余は芋ジャージの普段着としての運用を再開していた。

余の真の姿を初めて見たトレイシアは、ふるふると震えながら「野暮ったさしかねえ芋ジャと玲瓏たる魔王様の取り合わせの妙が最の高にしてアクスタ案件……」と、ちょっとよく分からなかったけれどともかく熱い賛辞を送ってくれたものである。

「魔王様は何着ても優勝なるゆえ。今も尊みが深みです」

「そ、そうか。優勝か。そんなに褒められると気恥ずかしいものがあるな」

「お照れなさるな、事実なる。なお、わては信念を持って動きづらけれど華やかなる姫スタイルしとるゆえ、楽なる芋ジャは辞退の自負、ドレスは淑女のバトルスーツ。常在戦場の心構えで生きておま」

ふふんと勝ち気な笑みで胸を張るトレイシア。やはり彼女には、砂糖菓子のような甘く儚い雰囲気の容姿と裏腹な、まるで無敵の戦士の如きこの勇ましい表情が、不思議とよく似合った。否、何も不思議ではない。

「なぜならトレイシアは勇猛な闘鶏」

「今すげえ失礼なこと言わんかったか」

「うむ。トレイシアの無限大の魅力に惚れ惚れとしていたところだ」

「ぐっ、真顔でこの野郎……魅力的なのは魔王様の方ですからぁ……っ」

「しかし、そうか……トレイシアは芋ジャージは着ないのか……。いや、いいのだ。余が勝手に発注を決めたのだから。お揃い部屋着コーデ……したくて……」

「わ、分かったゆえ。着るゆえ。稀には着るゆえ。せやから悲しみのターコイズブルー発光はおやめなすって」

「そうか。言質が取れて余は嬉しいぞ」

「真っ白なタイプの腹黒野郎めドちくしょう!」

トレイシアに怒られたり慰められたり怒られたりの平和な朝を噛み締めつつ、大事な話に入るべく、余は深呼吸をし、切り出した。

「それでだな。芋ジャージの発注に際し、トレイシアにどうしても聞かねばならないことがあってな」

こちらの緊張を察したトレイシアが、同じく緊張の面持ちで居住まいを正す。

「へ、へい」

「前々からずっと聞こうと思っていて、ずっと機会を逃し続けていたことがある。今更こんなことを聞く男とは、こ、こ、婚約破棄案件かもしれないが……」

「うん、落ち着け、どんなビックリ告白を受けようとも破棄はせぬから大丈夫やで、なんでも聞いてみそ」

優しく促され、余は覚悟を決め、言った。

「トレイシアの好きな色を教えてくれ」

「……」

深刻な雰囲気で固唾を飲んでいたトレイシアは、余が切り出した質問に目を丸くし、それから楽しそうに笑い、すっ……とペンライトを取り出した。余の角と瞳と同じ、紫色の。

「もちろん、魔王様カラーが、だーい好き♡」

ペンライトを振りながら返ってきた答えに、余は角を派手に光り散らした。

~『翻訳破棄』おしまい!~