軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

◇39.お揃い大好き魔王

いや顔は無表情なのだけれど、分かりやすく小首を傾げている。しかもご丁寧なことに、水晶のような角の中に「?」の形の光まで浮かんでいる。果たして野生でやっていけるのか心配になるくらいに感情が筒抜け過ぎて、こちらがきょとん顔になった。

「あの、魔王様、わての話聞いてたか?」

「うむ。トレイシアがこれまで見せてきたトレイシア的要素は全て演技である、本当は可愛げのない人間である、という主張だった」

「へ、へい。その通りでおま」

「それを素直に話してしまう時点で、充分に素直可愛いのでは……?」

「すなおかわいいっ!?」

予想外の受け取り方をされて、今度は私が仰け反った。

呑気にも程がある解釈だが、魔王は本気でそう思っているらしい。言いたいことは言い切ったけれど、全く伝わっていないじゃないか。補足しなければ。

「今話したのは、魔王様ならたとえ嘘を知っても和平協定を反故にすなるまではせぬ、と踏んだゆえなる。わての命を奪うまではせぬと高を括ったゆえなる。自国の利と我が身の安全を確信した上でゲロったのです。それでも貴様は素直可愛いなどと申すか」

「うむ、自国への配慮を考えた上で行動するトレイシアの聡明さに尊敬を禁じ得ない」

「前向きだな貴様」

なんだか直近でも似たような流れがあった気がする。そう、モリスさんとだ。あのやりとりで勇気を得て、魔王もきっと受け入れてくれるはずだと思ったからこそ、今まさに告白に踏み切ったわけだけれど、しかし、想定した反応と違い過ぎる。

普通はもっとこう、婚約者の全てが演技だと知ったら、衝撃とか葛藤とか色々あるのではないのか。なぜ魔王はこうも普段通りなのだ。

「平和大好きという言葉は嘘とのことだが、争いが嫌いは平和が好きと同義だろう。余と志を同じくすることに変わりはない。あと資源の無駄使いは余も嫌いだ。つまり方向性はほぼ同じ。うむ、なんと喜ばしい発見だろうか。方向性の違いから解散する婚約者が多数いると聞いて心配していたが、余とトレイシアには縁遠い話と知って嬉しいぞ」

「それ婚約者じゃなくて音楽ユニットの話じゃねえのか」

さっき魔王が身じろいだ理由はショックだったからではなくて、まさかの「わあい、君も無駄使い嫌い派なんだ、同じで嬉しいな!」という喜び由来だったのか……と、あまりに予想の斜め上を行く反応に愕然としている間に、魔王は何を思ったか、キリッとした雰囲気になった。

「なにやらトレイシアは余に愛想が尽きて欲しいように感じるのだが、気のせいだろうか」

「っ」

動揺した。いっそ全部話して愛想を尽かされれば少しは罪悪感が減るかもと、後ろ向きな覚悟をうっすらしていたことを、見透かされたようで。

「つ……尽きて欲しいも何も、今の話を聞いたら全自動で尽くのが普通やろがい」

「なぜ?」

「なぜ!?」

雰囲気だけは王者の風格だが、実態はまるで聞き分けのない子どもである。釈然としない思いをそのまま顔に出したら、魔王は「うむ」と鷹揚に頷いた。

「もちろんトレイシアの魅力は素直可愛い・聡明という点以外にもある。それらを詳らかにせよ、と言いたいのだな?」

「いや、一言も言っとらんが」

「それでは要望に応えて」

「人の話を聞こうぜ?」

魔王は人の制止を軽やかに無視し、勝手に魅力を語り始めた。

「トレイシアは聞き上手だ。これは演技ではなく事実だと思うのだが」

「そいつぁ笑止でござい。それは相手の心を開くために話を聞く姿勢でいようという打算的行動なる」

「そうか、余の心を開こうとしてくれていたのか。確かに初めての婚約者という状況に緊張して、当初の余の心は堅かったかもしれない。ありがとうトレイシア、おかげで今や余の心の扉は全開だ。どうかフリーパス入場してくれ」

「ちょっと何を言っているのか分からないが激しく前向きなことだけはひしひしと伝わる」

「トレイシアは笑顔も素敵だ。あの笑顔の愛らしさは本物だと思うのだが」

「作り笑いに決まっておろうが。鏡の前で最も純真無垢に見える笑顔を研究したわい」

「何……!? トレイシアも笑顔の練習をしていたのか……!」

笑顔も演技だと聞いたらさすがに落ち込むかと思ったのに、それどころか魔王の角は嬉しそうにパアッと発光した。

「同じだ。実は余も近頃、笑顔の練習に励んでいるのだ」

さっきから「同じ」であることをいちいち喜ぶお揃い大好き魔王のせいで、話が全く進まない。いや、進むとかそういう話じゃなくて、ちゃんと真剣に話を聞いて欲しくて、いやいや、この魔王が人の話を真剣に聞かないわけがなくて、魔王は真剣に私の話を聞いた上で、ただ本心でこう言っていて。

驚きで頭が真っ白になる。

完璧なお姫様の演技をしていない、全く可愛げのない素の自分が、こんな風に受け入れられるなんて思っていなかったから。

「魔王様は、なにゆえ、そないに……だって、わて、偽りの愛されキャラやで? 外面作って接してきたんやで? 詐欺めく姑息な奴なりと思わんのか?」

呆然と問うと、魔王は少し考え込むように目を閉じて、やがて開いて、さっと俯いた。

「余もトレイシアに告白しよう。懺悔の方だ」