軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

◇38.告白

夜。

毎晩の恒例となった、寝る前のハーブティーの時間。

夕食の席で「いつもの茶ぁしばく時間に大事な話がある」と事前に知らせていたためか、魔王は緊張しているようだった。青と白の縞々の寝間着という緩い装いではあるが、まるで最終決戦の場に臨む戦士の如き鋭い雰囲気でソファに座っている。

私の方も重い気持ちで隣に腰掛けている。なお、こちらの寝間着はピンクと白の縞々で、魔王とは色違いのお揃いである。手ぶらで魔界に来た私が支給された寝間着がこれだったのだ。きっと魔界にはこういう縞々の寝間着しかないのだろう。

普通なら大事な話をする時に、お互い寝間着だなんて相応しくない。だけど今からする話に限っては、優雅で煌びやかなドレスよりも、何も気取れず何も取り繕えないこの寝間着姿の方が、ずっと相応しいと思えた。

何より、魔王と大事な話をするのなら、ふたりで寝る前にハーブティーを飲んで過ごす、この時間にしたかった。

「今日の茶ぁ、いつもと香りが少しちゃいますね」

「うむ、気付いてくれたか。これは特製おやすみブレンド・改だ。余のブレンドは常に進化を続けている」

「なるへそ。向上心に余念がねえな」

「ゆくゆくは一口飲めば瞬時に昏睡できるほどの効果を持ったおやすみブレンドに辿り着きたいと考えている」

「それはヤベエ部類の睡眠薬になるので志半ばで諦めるのがええと思います」

「そ、そうか。何事も中庸が肝心ということか。さすがはトレイシアだ」

私が猫舌であることを知って以来、魔王はハーブティーが程よい温度になるまで、一緒に待つようになった。熱々を飲めるのなら熱々で楽しんだ方が美味しいだろうに、今日も二人分のハーブティーをカップに注いでも、自分の分にはまだ手を付けていない。一緒に飲むお茶の方が美味しいなどと真顔で言えるのがこの魔王なのだ。

そして、猫舌に優しい温度に冷めるまでを他愛のない話で過ごす夜は、これで最後になるかもしれない。

「魔王様」

私の声が固くなったことで、本題に入る気だと分かったのだろう。魔王も居住まいを正し、「うむ」と応じた。

「大事な話があるのだったな」

「へい。わては魔王様に、告白したい」

「えっ!? 告白!? あ、あれか、校舎裏に呼び出して」

「いやあの甘酸っぺえ方じゃねえんだわ。懺悔の方なんだわ」

「そ、そうか。えっ懺悔?」

神妙に頷いたり仰け反ったり小首を傾げたり、魔王の挙動が忙しない。あと告白=校舎裏に呼び出すという発想になるあたり、おそらく魔王が人間文化の勉強のために最近読んでいる恋愛小説は学園ものと推測される。

そこのところを掘り下げて、一緒に本の話題で盛り上がりたい気持ちをぐっと我慢する。ここで楽しい方に逃げたら、いつまでも苦しいままだ。

「わて、魔王様に嘘を吐いてます」

和やかな会話へ戻せる最後の機会を自分でふいにして、切り出した。

「わて、最も高貴な姫なる、嘘です」

魔王の反応を確認する勇気はない。隣に座る彼の顔を見る代わりに、ほこほこと湯気を立てる二人分のカップを見つめる。

「第一王女じゃござんせん。一番下っ端の第六王女です。父はちゃんと王族ですが、母は世間的にほぼほぼ庶民です。ゆえ、我が国で最も高貴な姫なる看板、偽りありです」

人間側から魔族の王に、敬意と友好の意思を表して、最も大きな国の最も尊い姫を妃として魔界に送る。その和平の前提が嘘だったことを明かす。

「嘘は地位だけじゃねえです。身分どころか、キャラ設定も偽りました。わて、本当は優しくなく、聡明でもなく、純真でもなく、心清らかどころか野心の塊なる」

本当にそんな姫だったなら、魔王と同じくらいに真っ直ぐな心根の姫だったなら、どんなにお似合いだっただろう。

「魔族と人間の架け橋になるぞ的な殊勝な心がけじゃねえ。首尾良く魔界の王妃に収まれば左団扇で安泰な暮らしゲッツなる、利己的な目的でやってきました」

私がペローネたちと女子会を企てた程度で喜ぶほどに、魔王は人間と魔族が仲良くなればいいと心から思っている。対する私は、こんなにも不誠実な動機でここにいる。

「最初のアレも嘘。魔王様と平和大好きで合意して握手した時のも、全部演技です。わては争いは嫌いですが、それは博愛ではなく、資源の無駄的な観点からです。ゆえ、魔王様みたいな平和大好きな慈愛深さからではないのです。魔王様に好かれようと思って、平和大好きアピールかましただけ」

黙ったままでいる魔王が、身じろいだことが気配で分かった。それは、ショックだろう。本心と本音が表に直結しているような魔王からすれば、初手から演技で接してきた私など、信じられないほどの大嘘つきに違いない。

「好かれるために、いい子ちゃんムーブかましてました。好かれると得するから。わての行動原理は全部それ。わては一から百まで打算で生きてる、可愛げのねえ人間なのです」

言いたいことは、言い切った。

反応を知るのは怖いが、確認しないのも怖い。俯いていた顔をちらっと上げて、様子を窺うと。

「……?」

魔王は、きょとんとしていた。