軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

◇36.一緒に喧嘩する友達

「この前、魔王様、風船たくさん持って歩いてて……また俺にくれるんだと思って嬉しくなって、でも魔王様はそのまま城門の方に行っちゃって。モリじいに訊いたら、お姫様を迎えるために門を飾り付けるんだって。風船、この前は俺にくれたのに……!」

わんわんと本気泣きを始めたラグドくんに、私とモリスさんは同時にハンカチを差し出した。ラグドくんは左右から渡されたハンカチを素直に受け取る。

「魔王様がこんにゃくしゃに構って俺のこと忘れるのやだあああああ」

ペローネが言っていた「過激派」の言葉を思い出す。ラグドくんは魔王様過激派。その意味がやっと分かった。

彼はとてもとても、魔王のことが大好きなのだ。突然現れた婚約者に嫉妬して、泣いてしまうくらいに。

「ラグドっち。ご安心召せ。あの魔王様やぞ。女に現抜かして民をないがしろにするタマや思うか。マジでラグドっちのこと忘れると思うか。あの魔王様やぞ」

「思わないけどさああああ」

「せやろ。今度一緒に風船もらいに行こうぜ?」

「別に同行してやってもいいけどさあああ」

それからラグドくんは泣いて泣いて泣きまくり、ハンカチ二枚を絞れるほどに濡らした頃に、ようやく泣き止んだ。

「……トレイシアは、ほんとに魔王様のこと好き?」

ぽつん、と呟くように入る問い。きっとこれは、ラグドくんが私を受け入れるための重要事項なのだろう。魔王様が婚約者を構うことを泣くほど厭ったはずなのに、最終確認がこの問いになるあたり、彼が本当に魔王様を大事に思っているのだと分かった。

ラグドくんの本気に応えるべく、私も迷いなく、ありのままの気持ちを口にする。

「ガチです」

私の回答に、ラグドくんはまだ鼻をすんすん言わせつつ、それでも強いてどうでもよさそうに「ふーん。あっそう」と相槌を打ち。

それからそっぽを向いて、こう付け加えた。

「それなら、まあ、俺もトレイシアのこと認めてやっていいよ」

大泣きの余韻が残る顔で、なお尊大に言い放ってみせるラグドくんは、とても可愛らしかった。彼と言い魔王様と言い、可愛さを相棒に生きていた私を可愛さで唸らせるとは、魔界の連中には本当に敵わない。

「まあ認めてやっただけで、仲良くする気は全っ然ないけど。俺はペロー姉たちと違って単純じゃないから。トレイシアのこととか、どうでもいいと思ってるから、ほんと」

「ほーん。わてはラグドっち好きやけど」

「えっ」

「ラグドっちと仲良しこよしたいけど」

「えっ!」

「今日から友達、駄目です?」

手を差し出した。友好の握手である。ラグドくんはチラッと私の手を見て、それから私の顔を見た。にこっと微笑みを返す。

「……う、うあ……」

ラグドくんは真っ赤になって、ぷるぷると震えて。

「だ、誰が握手なんてするもんか、こんなブスと」

私が差し出した手を、ぺちんと叩き落した。

私は慈愛に満ちた顔をモリスさんに向けた。

「こいつ腹パンしてええか?」

「おおお落ち着いてくだされトレイシア様」

「てめえまたブスっつったな二度目はねえと言ったはずだ」

友好の意思を軽やかに放棄しドスの利いた声で凄む私、「ひっ」と息を呑んで肩を跳ね上げるラグドくん、「あのぉトレイシア様、たぶん言ってませんぞぉー……」と恐る恐る事実を述べるモリスさん。

「ほっ、本性出しやがったな! やっぱすっげぇ性格悪いじゃねえか! 詐欺だ! どうせそのお姫様みたいな顔も化粧が九割で胸だって詰め物なんだろ! やーい貧乳!」

「よし、歯ぁ食いしばれ」

「おおおお落ち着いてくだされトレイシア様」

「やいこのチビッ子黒竜てめえ誰が貧乳だこれから成長するところだ」

「なあモリじい! トレイシアの奴、全っ然お淑やかじゃねえじゃん! 溢れてるの気品じゃなくて殺気じゃん! 野生動物より野蛮じゃん!」

「ラグド殿、確かにトレイシア様には少々勇ましいところもございますが、決して野蛮などでは」

「てめぇなど荒縄で縛り上げて酢を振りかけて藪に放置でおま!」

「今こいつ藪蚊責めの手順を淀みなく述べたぞモリじい」

「……ご、拷問の知識をちょっとした御冗談に使うお茶目さもお持ちの、普段は淑女の鑑のような」

「やっぱり詐欺だ! やいトレイシア! やっぱりお前なんか認めないからな!」

「詐欺ちゃうわい! そりゃあ少しはコルセットで寄せて上げてオリハルコン、け、決して詐欺という程では」

「おおおおお二方とも落ち着いてくだされぇー……」

「トレイシアのあんぽんたん!」

「ラグドっちのツンデレ野郎!」

きゃんきゃんと言い争う私たちを、モリスさんが必死に宥める。

ああ、侍女たちに送る手紙に書くことが増えてしまった。

魔界では一緒にお茶をする友達も、口喧嘩をする友達もできました。毎日とても楽しいです、と。