軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

◇35.ラグドくんの事情

「へい。その通りでござんず。初見の竜がカッコよすぎて衝撃の余り、実家のわんちゃんに当てはめることにて精神的衝撃を和らげんとすなる正常性バイアスがバイブス上げた結果、誤認しやした」

「へ、へええ……カッコよすぎて……へえええええ」

私の回答の何かが琴線に触れたらしいラグドくんは、にまにまと頬を緩めて「じゃ、じゃあ仕方ないかな」と言った。

「人間の無知を寛容に受け止めてやるのが、できる竜だから」

腕を組んでふんぞり返ってはいるが、やっぱり顔は嬉しそうに緩み切っているので威厳は全くない。可愛さしかない。私への怒りは完全に鎮火した模様である。

「とても紳士ですぞ、ラグド殿」「そ、そう?」と褒めたり照れたりしているお爺さんと孫の組み合わせを眺めつつ、ここはラグドくんを煽りまくった私の方が先に詫びを入れるべきだな、と口を開く。

「ごめんください、ラグドっち。まだアラフォーの貴様に対し、安売り言葉に爆買い言葉、大人げなかったざんす。……わて、生まれてこの方、マジでレスバ合戦する相手おらんかったゆえ、つい調子に乗りました。猛省」

「アラフォ……? マジ……レス……?」

聞き慣れない単語が多かったのか、ラグドくんは困惑気味だった。だが、しおしおした私の様子から謝罪の気持ちは伝わったようで、チラチラとモリスさんの方を見て助けを求めている。モリスさんから温かい眼差しで無言の頷きを返されたラグドくんは、おずおずと私を見上げた。

「……あのさあ、トレイシアはさあ、その、えっと、魔王様の嫁なんだろ」

「いえ、まだ婚約者でおま」

「こん……? こんにゃくしゃって何?」

「嫁(仮)のことなる」

「ふ、ふーん。まあ知ってたけど。そうそう、こんにゃくしゃね。それで、トレイシアが魔王様のこんにゃくしゃだから、だから……」

ラグドくんは俯いた。いや違う、角度が微妙なので分かりにくいが、私に頭を下げているのだ。

「その、トレイシア。俺の方こそ、やりすぎてごめん。ほんとにさあ、食う気はなくてさあ、ちょっと驚かすだけのつもりだったんだ」

「ラグドっち……」

「うぎゃー竜に食べられるーって泣いて喚いて土下座して命乞いすればいいんだって思っ……」

「ちょっとどころか最終局面まで行ってねえかそれ」

「それで魔界のこと嫌になって、実家に帰ればいいんだって思って……」

「……」

なるほど。ラグドくんの急襲の目的は、私に今月のいい話スピーチをさせようとしたペローネたちと同じだったのか。魔王の婚約者である気に入らない人間を、魔界から追い出したくて。

ラグドくんにペローネと同じものを感じたのは間違いではなかった。全く、私は魔界の連中のこういうところが好きで仕方ない。

私みたいに非力な小娘なんて簡単にどうこうできる力を持っているというのに、気に食わない人間に対する発想が「始末」ではなく「実家に帰らせる」しか出てこない辺り、本当に生ぬるくて、根っこの部分が善良でしかなくて、さすがあの魔王が魔王をやっている魔界の住人なだけあると、部外者の私が勝手に誇らしくなる。

「ラグドっちは、わてが魔王様の嫁(仮)なる、気に食わぬ?」

「……うん。人間は皆、魔族のこと嫌いだって、お父さんが言ってた。ちょっと散歩しに人里に降りただけで大軍送り付けられたって」

「確かに人間は竜が人里に来たら軽率に軍事っちゃう感はある」

「だから、人間のお姫様が魔王様と結婚するって聞いて、腹立った。魔王様は強くてカッコよくて俺に風船くれて最強でカッコよくてすごく優しいから、人間のお姫様にだって優しくする。でもお姫様の方は、魔王様に嫌な態度を取るに違いないって思って、皆もそう言ってて」

「うむ。それは魔族界隈の反応としては当然なる」

「でも、トレイシアは魔王様のことめっちゃ好きじゃん。すっげぇ惚気てたじゃん」

「……お、おん」

「だから皆、人間だけどトレイシアは認めるって。『あんな儚げ清楚系美少女の小娘なんぞ赤っ恥掻かせて追い返してやるわよおほほ!』って息巻いてたペロー姉だって、今はもう『あの子にペンラの振り方を教えてやらきゃいけないわね……二刀流はマストよね……』って、トレイシアのこと仲間扱いしてて」

淀みなく話していたラグドくんが、徐々に涙声になり始めた。

「でも俺は、トレイシアのこと認めたくない」

「……やっぱり、人間ゆえ?」

「うん。……ううん。ほんとはそれが理由じゃない。魔王様のお姫様がトレイシアじゃなくても、人間でも、魔族でも、誰だって気に食わない。だってぇ……」

ついにぐすぐすと泣きながら、それでもラグドくんは続けた。