軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

■21.全魔族集会 魔王専用席にて

翌日。

本日は魔王城で月に一度開かれる、全魔族集会の日である。

集会は城の敷地にある音楽堂で開く。魔界の集会というと、魔王たる余が演説をするイメージを持たれるかもしれないが、余は基本的に聞き役だ。魔族たちが伸び伸びと発言できる場になればと設けた集会なので、余からの発言は年末年始の挨拶くらいであり、あとは部下たちの采配に任せている。

集会では魔王軍幹部が決めた『今月の魔王城の標語』を周知したり、部下たちが持ち回りで『今月のいいお話』を発表したりする。毎月なかなか盛り上がるため、魔族たちには人気のイベントだ。

このことを本日の朝食の席で話したら、トレイシアは「ぜひご拝聴してみてぇです」と興味を示してくれ、本日の集会には彼女も参加することになった。

魔界中の魔族が集う場と聞いても臆さずに参加の意思を表明するトレイシアは、つくづく魔族へ抵抗感がないのだなと思う。人間は魔族と聞けば恐れるし、実際、エスタル王国の屈強そうな兵士たちですら、余たったひとりを見て大変怯えた様子だったというのに。

それで思わず朝食の手を止め、「トレイシアはまことに肝が据わっているのだなあ」と感嘆を漏らしたら、「なぜ急にわてのレバーの話をすなる……?」と怯えさせてしまい、「いや肝単体の話ではなく、えっと、あれだ、トレイシアの心臓には毛が生えているという話で」「乙女にムダ毛の話題を持ち出しあそばす……?」と不機嫌にさせてしまうという一幕もあったが、ともかく彼女に余の誇る魔界の者たちを見てもらえるのは嬉しい。

かくしてトレイシアと一緒に集会に参加する約束をした余は、そわそわした気持ちのまま朝の政務を終え、足早に音楽堂に向かった。

魔王用の最上段のボックス席に腰かけ、彼女の到着を待つ。ちょっと早く来過ぎちゃったかな、トレイシアまだかな、可愛いクッションを置いてみたんだけど喜んでくれるかな、と彼女の到着を心待ちにしていたら、モリスがもこもこと騒がしく飛び込んできた。

「大変ですぞ、魔王様!」

「なんだモリス、もこもこしいぞ」

「黒髪ロングイケメン魔王しか勝たん勢が、魔王様への強火感情から決起しました!」

「すまんモリス、9割がた何を言っているのか分からない」

トレイシア語並みの意味深長な単語(単語……?)が飛び出してきて戸惑う余に、モリスが宰相らしい落ち着き払った顔で説明に応じる。

「黒髪ロングイケメン魔王しか勝たん勢。平たく言うと、魔王様を篤く尊崇する魔族たちです。今や魔界の6割を占める一大勢力ですぞ」

「余の知らない勢力が魔界の過半数占めてた」

いつの間にそんな勢力が……と愕然としたが、まあ、説明を聞く限りは魔界を乱すどころか余の味方にしか思えない者たちなので安心した。

「決起というから何事かと思えば、驚かせるなモリス。余を大変に敬っている者たちなのだろう? であれば、何の問題もないのではないか?」

呑気に問う余に、モリスが深刻そうに俯く。

「彼らは魔王様を敬う一方で、人間を――というか、トレイシア様を嫌っておるのです」

「なっ、トレイシアを? どういうことなのだ?」

魔族たちにはトレイシアが魔界に慣れるまでそっとしておくように命じてあったし、トレイシアの方も今のところ、モリス以外の魔族と積極的に関わっていた様子はない。まだ交流もないのに、どのあたりにトレイシアが嫌われる要素があるのだろうか。

モリスの説明によると、余を特に篤く敬う彼らは、

『好きでもない人間なんぞと結婚させられるなんて魔王様がお可哀そう』

『婚約破棄させて魔王様を自由にして差し上げねば』

『魔王様の恩情で和平で手を打ってもらったのに図々しくも嫁を寄こす人間め』

『人間は魔族が嫌いなくせにその女だってどうせ魔界に嫌々来たんだろう』

『魔王様と結婚とか羨まし、じゃなかった、嫌々で結婚とか! 絶対に許さない!』

『弱っちい人間なんかを魔王様の隣に立たせてなるものか!』

『単に推しの結婚が嫌だから人間の婚約者を追い出したいとか別にそんなんじゃないんだからねっ!』

と思っており、そのモヤモヤした感情の矛先が、余の婚約者たるトレイシアに向けられたのだという。

忸怩たる思いだった。余とトレイシアがお互いに歩み寄る姿勢だったために、つい失念してしまっていたが、魔族と人間は最近まで争っていた仲なのだ。わだかまりありまくりの仲なのだ。

人間が魔族を怖がるという点ばかりを気にして――トレイシアのことばかりを気にして、魔族が人間をどう思っているかをあまり問題視していなかった余は、なんと視野が狭い魔王なのだろう。

平和の象徴たらんと婚約したとはいえ、人間を嫌う魔族たちにとって、トレイシアは敵判定……。

「もしや彼らが決起した結果、トレイシアの身に危険が……!?」

初めて婚約者を迎えるにあたり女性の心理を理解すべく、人間界で流行している恋愛小説を何冊か読んだ余は、周囲に敵判定された婚約者がどんな目に遭うのか、まざまざと想像できた。

行く手に画鋲を撒かれたり、赤ワインをぶっかけられたり、夜会でドレスの色を被せてこられたり、お前を愛することはないと言われたり……。

よもやトレイシアもそんな目に遭っているのではと不安に駆られる余に、モリスが「いえ!」と焦った顔で言う。

「黒髪ロングイケメン魔王しか勝たん勢は、翻訳魔道具が未だに使えないことと、トレイシア様が魔族語に慣れていないことに目を付け……トレイシア様に大恥を掻かせてすごすご実家に帰らせるべく、今から始まる『今月のいいお話』に、急遽代打として登壇させるつもりなのです!」

「なんだと!?」

思わずモリスを掴み揺さぶった。

「現場を見ていたのならなぜ止めないのだ、このもこもこめ!」

「と、止めようとしましたぞ。ですが、トレイシア様に言われたのです」

モリスから返ってきた予想外の答えに、余は目を丸くした。

「トレイシアが?」

「はい。『心配ご無用。ぜひスピーチしたく存じ上げ』と」