軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

Ep.1 転生しました

「あれ?」

突然、頭の中でパチン!と何かが弾ける音がした。

きょろきょろと周囲を見回すとペールピンクの壁紙を基調とし、シンプルだけれど、どこか女の子らしさを感じる部屋である。

そっと手元に視線を落とせば、お姫様と騎士の恋物語の本を両手で開いていた。

ここは私の部屋だ。

当然知っているはずなのに、何故か違和感が残る。

頭の中がぼーっとして、処理速度の遅いパソコンが必死に読み込んでいるかのように、ぐるぐると回っている。

ぱそこん……何だっけ?……あれ?もしかして私、転生してる?

ようやく読み込みを終えたかのように、目の前がぱっと開けたように感じた。

「ベアトリス様、お待たせいたしました。」

扉をコンコンと叩く音がすると、専属侍女のアンが優しく微笑みながら入ってきた。

手には銀色のトレイを持っていて、果実水らしきものが乗っている。

「さあ、ご本は一度お終いにして休憩にいたしましょう」

私は素直にこくんと頷き、開いたままだった本を閉じると、アンがそれを受け取った。

三人掛け程度の広いソファの座面に、私はちょこんと座る。

先ほどからアンに呼ばれている『ベアトリス』というのが、今世の私の名前だ。

⸺⸺ベアトリス・アッシュローズ。

アッシュローズ公爵家の長女で、現在5歳。

家族はお父様とお母様、そして4歳年上のお兄様がいる。

家族仲は、たぶん良好だと思う。

そんなことを考えている間に、アンがグラスに果実水を注ぎ、落とさないように、しっかりと握らせるように手渡してくれた。

「アン、ありがとう」

受け取ったグラスの中で、氷をカランと涼しげに音を鳴らしながら、よく冷えた果実水に口を付ける。

自分でも気づかないほど喉が渇いていたのか、一気に飲み干して「ぷはぁ」と息を吐き出すと、アンは「ふふっ」とにこにこしながら、空になったグラスを回収してくれた。

「さぁ、そろそろお昼寝いたしましょう」

アンの言葉に、またもこくんと頷いてソファから「よいしょ」と滑り降りた。

お昼寝の為に寝間着っぽいものに着替えてから手を引かれ、今度はベッドの中へ潜り込んだ。

アンにバレないように寝たふりをしながら、先ほど思い出したことを頭の中で整理する。

私がこの世界に生まれる前、日本という国で貧乏でも、お金持ちでもない、ごく平均的な家庭に生まれ、世間一般的に普通に育ち、これまた普通に就職をした。

その間、特に特筆すべきドラマなどはまったくない。

何で、死んじゃったのかは……うん、思い出せない。

そんな前世の私には妹がいた。

妹は乙女ゲームや小説、アニメ……とにかく転生やら、転移やらが大好きで、好きな小説や漫画がアニメ化されると「お姉ちゃん!この人はね!!」と、語る語る……。

……ごめん、お姉ちゃんには話の違いが分からないよ……と思いつつ、とりあえず話は聞いていた。

理解はしきれていなかったけれど。

そんな妹の転生もの語りによれば、まず転生者には三パターンある。

①ヒロイン転生

②悪役令嬢転生

③モブ転生

その中で一番多いのは、大体②である。

①は転移ものが多かった気がする……たぶん。

そして、②の悪役令嬢転生だった場合はヒロインに婚約者を取られたうえ、更にバッドエンドルートがある。

そのバッドエンドルートも、これまた大体三パターンなのだ。

①国外追放

②修道院送り

③処刑

……悪役令嬢転生パターン、辛すぎません?

①のヒロイン転生だったら『どの男の人と恋愛しよう♡』パターンが多いのに、悪役令嬢だけ生死が関わるとか嫌がらせもすぎる……。

さて、私はどのパターンなのか……。

残念ながら、現状分かりません。

妹の話はよく聞いていたし、見せられてもいたけれど。

ベアトリスの環境だけ見て判断するなら、公爵令嬢だし②の悪役令嬢転生の可能性が高いのかもしれない……。

とは言っても、まだ5歳の私に何かできるわけでも、判断できることがあるわけでもない。

……うん、仕方ない。

精神は前世の分もあるから、大人かもしれないけれど、この体は幼児だ。

今、私の体は睡眠を欲している……。

そう、頭の中で誰かに言い訳しながら眠りに落ちた。

ただ単に、考えるのが面倒になって放棄しただけとも言えるけれど。

⸺⸺⸺

「ベアトリス様、お目覚めください」

体を揺すられながら、アンの優しい声で目を覚ました。

重い瞼を開けて起き上がり、周りを見渡しても、やはりいつもと変わらない 自分(ベアトリス) の部屋。

そして前世の記憶を思い出したことも、しっかりと覚えている……。

うん、やはり夢ではなかった。

「ベアトリス様?どうかなさいましたか?」

私が部屋を見渡していることに気付いたアンが、眉を下げて心配そうにこちらを見つめていた。

「……ううん、なんでもない」

アンに手伝ってもらって着替えを終えると、お母様がいる部屋に向かった。

「あら、ベティ。起きたのね」

アンが扉を叩き、私が来たことを伝えてから部屋の中へ入ると、そこにはソファに座るお母様とお兄様の姿があった。

「おいで、ベティ」

どうやら、お兄様はお母様とティータイムを楽しんでいたようでカップを持ちながら、こちらを見てにっこりと微笑んでいる。

お母様そっくりの顔立ちとサラサラで明るいブロンドヘア、そして私よりも青みがかったお父様譲りのライラック色の瞳。

……うーん、お兄様も攻略対象の可能性が高いのかな?

「……ベティ、何でそんなに僕の顔を見ているの?」

じぃーっと顔を見つめながらそんな事を考えていると、お兄様が困惑しているような表情を浮かべていた。

「……おにいさま、ベティのこと、すき?」

攻略対象だった場合、家族である兄に嫌われているのは痛い!

とりあえず、確認の意味も込めて聞いてみる。

「当たり前じゃないか!!ベティ以上に可愛い女の子はいないよ!」

声を上げて席から立ち上がると、お兄様は私のことをぎゅうぎゅうと抱き締めた。

お、おふ……く、苦しい……

腕がだらんと落ち、私の顔色が青ざめてきた事に気付いた使用人たちが焦り、お兄様を引き離そうとした。

「もう、ウィリアム。そこまでにしなさい。ベティが死んでしまうわよ?」

「わああ!ベティ、ごめん!!しっかりして!」

はっとしたお兄様がようやく私の様子に気付き、今度は焦りながら肩を掴んで激しく揺さぶられた。

う、うっぷ……。

そこからも救出されて、ようやくソファに座ることができた……。

お兄様は、どうやらシスコンの気があるらしい。

お母様の隣でお菓子を食べながら、二人の会話を黙って聞き、情報収集をする。

どうしても記憶を思い出してから、前世の感覚に引っ張られている気がする。

下手に話すとボロが出そうだけれど、普段からあまり話す方ではないから、会話に参加しなくても不審に思われなくて助かった。