軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

17 冒険者

武器持ちのオークというか武器を持つモンスターはそこまで珍しくはない。

ゴブリンだって武器を持つし、デュラハンはデフォルトで剣を持っている。

ミノタウロスという牛鬼も武器を持っている。

武器を持つモンスターの特徴はただ一点、手で物が持てるという点に尽きる。

このイノシシとゴリラを足して二で割ったようなモンスターのオークも、武器は持てても剣技なんて高等な物は持っていない。

デュラハンのように剣技を使うモンスターも確かに存在するが、このオークにはない。

ただ力任せに、近寄ってきた俺に向かってこん棒を振るうだけ。

だがその剛力任せのフルスイングは風を押しつぶすような勢いで振るわれ、その音を聞くだけでも同レベル帯の冒険者など何度も屠ってきたと思わせるほどの威力がある。

実際俺もゲーム時代に何度も痛い目に遭ってきた。

集中力が切れたタイミングや、そもそもレベル帯として適正じゃない状況、さらにはこうやって複数の敵を一人でさばいているときなんかは一つの失敗でフルボッコだったよ。

相手の方が腕も長くて背も高い、おまけに歩幅も広いとくればいかに槍を持っている俺でも先手は取れない。

オークの下から掬い上げるような横のフルスイング。

俺は踏み込むと見せかけ、その直前で静止。

ピタリと止まった瞬間に俺の鼻先を掠めて過ぎ去るこん棒。

いかに剛力自慢のオークであっても、燕返しのようにくるりとこん棒を返すことはできない。

体勢を崩してはいないが、それでも振りぬいた攻撃は容易に戻ってくることはない。

後続のオークが来るまで残り六秒。

体感計測だが、何度も繰り返してきた行為は体に染みついていて早々に忘れることはない。

次の攻撃が来る前にこっちの攻撃を加える。

静止から再度もう一歩踏み込む姿勢に、その際に槍を突く。

狙いはこん棒を持った腕の脇の下。

オークはありとあらゆる個所に脂肪をため込んでいて、その下に筋肉があるという訳の分からない生き物だ。

正面から攻撃をしても毛皮と脂肪に守られて全く怯まないほどノックバック耐性が高い。

だけど、そんなオークでも関節部位の脂肪と毛皮は薄い。

『グオ!?』

こん棒を振り返そうとしているタイミングで脇の下の急所にいきなり突き出された俺の一撃に痛みを感じて動きが止まる。

「前に出ます」

俺の動きに呼応してイングリットが俺の脇から飛び出した。

彼女の狙いはこん棒を振りぬいた際に前に踏み込まれた足。

体重を乗せて、重心を支えている足。

そこをまるで枯れ葉を掃き捨てるかのようにイングリットは払いのけた。

いきなり失われた重心にオークは目を見開く。

ゆっくりと崩れる体勢。

だけどまだだ。

傷を堪え、崩れた姿勢であっても無理やりフルスイングをするためにオークはこん棒を振りぬこうとしている。

「残念、それはできない」

その攻撃パターンは知っている。

ならその対処方法も知っている。

鎌槍には引き技というのがある。

槍の刃の根元に生えた横の刃、それを使っての技。

文字通り、鎌のように使う。

マジックエッジをその横の刃に纏わせれば、大きな鎌のような魔法の刃が生まれ。

踏み込む姿勢から一転、今度は引くために体重移動を行い、その刃で斬り割くべく鎌槍を引いた。

その刃の軌道上にこん棒を振りぬこうとしていたオークの腕があり、その刃は吸い込まれるようにオークの肘関節に入り込み。

槍の刃先の僅かな感触とともにオークの前腕はこん棒と共に斬り飛ばされ、オークは急に軽くなった腕によってさらに体勢を崩す羽目となった。

そのオークに襲い掛かる影。

ネルが地面を蹴り、そして跳びあがった。

「せーの!!セイヤ!!!」

そのハルバードの凶刃はネルの全体重を乗せられ、そのままオークの頭に叩きつけられた。

間違いなく即死。

それがわかるくらいに明確なクリティカルヒットだった。

「あ、スクロール」

「おう、ここでもか」

そしてとどめがネルだと起こるリアルラックによるドロップ。

思わず唸ってしまった。

武器持ちのオークが落とすスクロールは一種類だけ。

すなわち、初手でクリーンヒットというわけだ。

モチの鍵と言い、オークのスクロールと言い、一体全体彼女のラックはどんな構造をしているのか数値化して見てみたいものだ。

手早く回収。

「ネル!すぐに使え!」

「わかったわ」

そしてパワースイングのスクロールをネルに放り投げ、彼女に使わせる。

どっちにしろ使う予定があったから早い方が良い。

「!覚えたわ!!」

「次のを仕留めたら二列目の左のオークをパワースイングで吹き飛ばせ!!それでタイミングが整う!!」

オークの連戦の基本は一体ずつ順番にだ。

そのタイミングを整えるのに吹き飛ばし効果のあるパワースイングはちょうどいい。

スキルレベルが低いと吹き飛ばす距離の範囲は少ないが、それでも順番調整には使える。

今度はネルとイングリットが同時に前に出て、イングリットは最前列のオークを転ばせにかかり、ネルはその脇を通り抜けて、二体同時に来ようとしているオークの左側の個体を横叩きで吹き飛ばした。

横転し転がるように吹き飛ばされたオークが復帰するのは三列目のオークの後。

イングリットが転ばせた個体の首を俺の槍で串刺しにして動きを止め、ネルがイングリットとすれ違うような形でハルバードの一撃でとどめを刺す。

「アミナ、追い風の歌!」

「うん!」

喝采の歌の効果時間はスキルカンスト状態で歌い終えてから約五分。

追い風の歌も効果時間は同じ。

歌唱術の効果で現在は十パーセントの効果増量で効果時間も増えている。

すなわち、五分三十秒の効果時間だ。

この重複時間が長ければ長いほど、いろいろな歌の効果を重ね掛けしてそのキャラだけのアイドルメドレーを完成させる。

そんなわけで、最終的なスキルの歌唱神術になると最大効果時間延長は三百パーセント増量。

五分が二十分に化ける。

歌い方次第では、最大で十のバフ重複をすることができる。

さらに装備で延長し精霊術で演奏も追加することができるから、最終形態になればすべての所持歌唱スキルを同時に乗せることができるようになる。

今は喝采の歌と追い風の歌を重複するだけで精一杯になっているが、その最終形態になった時のパーティー全体の火力アップは末恐ろしいことになる。

今現在でも、目に見える形でオークを順当に倒せるようになっているし、歌唱スキルのおかげでオークが途切れることなくこっちに来ている。

さらに弱者の証の効果で経験値テーブルは、クラス2/レベル0の状態でキープされているから、オークを倒せばガンガンレベルが上がっていく状態になっている。

野良オークの強さは、クラス2/レベル10~15ほどだ。

経験値的には四人で分割するにしても、レベルを一つ上げるくらいは経験値は入ってくる。

今現在はオーク一体を倒す時間はおおよそ十秒かからないくらい。

このペース想定で行けば、レベル100まで行くのに千秒かからない。

十七分前後でレベリングは完了する。

この前の埴輪は倒すのに時間がかかりすぎていて一日かかったけど、逆にこうやって向こうから敵が来てくれた方がレベル上げはしやすかったりする。

まぁ、そもそもオーク自体がタフなモンスターだからソロで狩るのは初心者には向いていないし、弱者の証で経験値テーブルを下げなければ十レベルになる直前くらいからパーティーで狩るには経験値的にタフすぎて効率が悪くなるモンスターだ。

こんなにサクサクと倒せて、レベルも上がるほうが本来ならおかしいのだ。

イングリットの状態崩し、アミナのバフ、ネルの高火力。

この三つが揃って初めて可能になる。

時折来る武器持ちも、少し手順を変えてやれば容易に討伐ができる。

さすがにスクロールの連続ドロップはなかったが、オークが落とすドロップ品は地面のあちらこちらに転がっている。

戦闘を継続し続けないといけないから、貴重なアイテムであるスクロール以外は放置している。

魔石に、毛皮。

さらにはこん棒がオークの主なドロップ品だ。

それが足元に散らばっているのはあまりよろしくないが、拾ってペースを乱す方が今の俺たちには問題だ。

邪魔になりそうなやつを足で脇に除けるだけで、あとはひたすらオークを倒し続ける。

そうしてレベルが九十台に入り、もう少しでレベル上げが終わる。

その時だった。

「援護する!!」

俺たちのパーティーにはいない若い男の声。

そしてオークに落ちる雷に、額に突き刺さる矢。

さらに、駆け出してオークを一刀のもとに斬り割く鎧の男が俺たちの前に躍り出た。

「君たちもう大丈夫だ!!後ろに下がって休んでくれ!!」

極めつきは、さわやかな笑顔で俺たちに語り掛けるイケメンの登場。

「え、邪魔」

善意全開で、俺たちを助けましたみたいな雰囲気を出しているけど、こいつらがやったのは完全に横殴り、モンスターを横取りする行為だ。

だからだろうか、俺は素で不機嫌な声でそのイケメンに向けて答えてしまった。

「何を言うんだ君は!!君が平気でも周りのお嬢さんたちは平気じゃない!!さっきから見てたが後ろにいる彼女にモンスターを呼ばせての連戦!正気の沙汰ではないぞ!!」

あー、傍から見たら連続で戦う危ない奴だと思われたか。

「正気って何よ!!私たちは本当に平気だったのよ!!順調に戦ってたのにいきなり横から邪魔して何様のつもり!?」

しかし、言い方にずいぶんと棘があるな。

まるで俺の我がままでネルたちを振り回したような言い方。

その言い方にカチンときたネルが真っ先に噛みついた。

「俺は黄昏の剣のリーダー、アレスだ!!Aランクの冒険者パーティーでいずれSランクになる。よろしくな狐のお嬢さん」

そんな態度を気にも留めず、笑顔を振りまく男こと冒険者のアレス。

Aランクと言えばゲームでも能力的には上の部類のNPCが存在する冒険者だ。

アレスという名前には心当たりはないが、タフなオークを一撃で倒せる面々を揃えているということはそれなりのステータスは誇っているのだろう。

「……」

だけど、その態度がネルには受け入れづらいらしく、尻尾が逆立ち、寒気を感じるように腕をさすって俺の背後に隠れてしまった。

「おや、恥ずかしがり屋なのかな?気にしないで出ておいで」

お前、眼科に行った方が良いぞ?

どこからどう見ても嫌がっているようにしか見えないぞ。

「ご主人様、いかがいたしますか?邪魔が入りましたので後日やり直すのが宜しいかと思いますが」

「そうしよう、みんな撤退だ。ドロップ品を回収してくれ」

俺の体を迂回して、ネルの顔を覗き込もうとする男の前にイングリットが立ちはだかり、ちらりと無表情の顔を向けた後、俺の方を見て今後の予定を聞いた。

「かしこまりました」

「待ちたまえ!話はまだ終わっていないぞ!そこの君もなぜ主の蛮行を止めなかった!!あんな危うい戦い方を続ければメイドである君の命が危なかったのだぞ!!」

「主人が決めた戦いを遂行できると私が判断しました。事実、私は多少の危険は許容範囲内の戦闘だと感じております」

そこに、割って入る男の前に再びイングリットが立ちはだかった。

「メイドである君を一番槍にした戦いが正しいと!?そんなの間違っている!!」

「それはあなたの勝手な判断です。むしろ、先ほどの戦いではこちらに救援が必要か確認もせずモンスターの殲滅を行いました。これは冒険者にとって完全なマナー違反です」

「君たちの命がかかっていたのだ!緊急事態とAランク冒険者である俺が判断した。事実、間違いではないと今も思っている」

「何を思って危険だと判断したかはわかりかねますが、こちらに怪我人はおりません。さらに体力的にも余裕があり、連携することによって順調にオークも倒しておりました。こちらには武器持ちと言われるオークの中でも強化個体の戦利品もありますのでそれらを複数倒した実績の証明もございます。なのでこちらの認識では危険はないと思っております。そして私たちの視点から見ればあなた方は完全に妨害者です」

その毅然とした態度にアレスは俺に詰め寄ることができないとわかると否や、イングリットの説得に入ったが彼女の無愛想はピクリとも動かない。

「後日、冒険者ギルドにはクレームを入れさせていただきます」

「だからあれは危なかったから助けに入っただけだ!」

ただ粛々と、現実を述べ続ける彼女の前にアレスはさっきまでの気障な態度は鳴りを潜め、自分の正当性を主張するアレスの顔は苦虫を噛み締めたような顔になり始めた。

「そちらの判断は冒険者ギルドにしていただきます。それではこちらは撤収準備に入りますので」

「だから待てと」

そして早々に話を切り上げようとしたタイミングでイングリットの腕を掴もうと手を伸ばしてきた。

「触れれば襲われたとも報告いたしますよ?」

しかし、それはぴたりと止まった。

「それでもよろしいですか?」

その一言が決定打となり、アレスという男は悔し気に黙るのであった。