軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

19 穴場

ゲームとかをしていると効率よくモンスターを倒せる、いわゆる穴場と呼ばれるエリアがあったという経験がないだろうか。

FBOにはオフラインモードもオンラインモードでもそういった場所がいくつかある。

例えば埴輪ことプチクレイゴーレムのエリアも良い狩場と言えばそうなのだが、埴輪のエリアはFBOプレイヤーの間では割とメジャーな場所なんだよな。

知る人ぞ知る穴場というほどの場所ではない。

「ええと、王都から西に山三つ越えて、あっちが北でこっちに山があるから」

俺は今絶賛、その穴場を探している。

ゲームと違って、地形が見覚えない箇所が多くてなかなか目的地が把握できない。

「ええ、もう少しで日が暮れるっていうのに」

ネルたちに大口叩いて出てきたというのに肝心の目的地が見つからないという。

「くそ、ゲーム時代のマップ機能が神機能だったと実感したくはなかった」

「めー?」

「ああ、大丈夫迷ってはいない。いざとなれば転移のペンデュラムで帰れるし」

ちょっとした開けた場所で位置の確認をして困っていると、文字通り道草を食っているシカコに心配されるように鳴かれるが、そこまで切羽詰まっていない。

「こうなれば……登るか」

記憶上のマップと現在地を突き合わせてどうにか目的地を割り出そうにも周囲の木々が邪魔でろくに場所が把握できない。

こうなればタイムロス覚悟で一番高い山まで登って辺りを見回した方が早いかと結論付け、シカコに乗り山の上に進路を取る。

「こういっちゃなんだが、お前で良かったよ。馬だったらこんな急坂上るの大変だろう?」

「め~」

ここで移動の脚を馬ではなくタックルディアにしたのが功を奏した。

進む道は獣道、まともに舗装されている訳がないから、地面はもちろん凸凹している。

馬車なんて通れる筈もなく、人が通った形跡なんて存在せず、歩いたとしてもかなり苦労するのがわかる道をシカコは平然と進む。

元々、タックルディアはこういった山岳地帯に生息するモンスターだ。

足場の悪いエリアを割と平然と進んでいく印象はあったが、ここまで悪路補正が高いとは思わなかった。

すいすいと山を登っていくのは、前に進むよりもこういった立体的なエリアを進むことに適した肉体構造だからだろうか?

乗っている俺はバランスをしっかりと取らないといけないが、それ以外は特に問題はない。

人の手が入っていない山は、やはりモンスターの方が進みやすいのかどんどん視界が高くなってくる。

そして山の中腹くらいに登って少し開けた場所……というか、崖っぷちのすこし平らな場所にたどり着いた。

「シカコさんや、見晴らしのいいところに案内してくれたのは良いけどここは見晴らしがよすぎやしないかい?」

「めー」

そろそろ日が暮れそうなタイミング。

けっこういい高さまで来て、そこでようやく目的地らしき場所を発見することができた。

初日で発見できたのは幸先がいいのか、まだめぐるべき場所があるから、もう少し早めに見つけたかったと愚痴るべきか。

崖の上、さらにシカコという下駄を履きなかなかの高さになった視点で景色を見回していると遠目にだが、湖というか水場を見つけることができた。

ちょうど周囲が崖になっているところに隠れるようにある、小さいとは言い難いが大きいとも言い難い中途半端な水場。

「見つけられたけど、これ、下りないとダメだよな?」

方角的には一回この山を下りる必要がある。

しかし、崖っぷちから下を見てみれば、断崖とまではいかないがなかなか急こう配な山肌が眼下に広がっていた。

「シカコさんや、本当にどうやって登ってきたの?」

「メー」

「って、それに乗ってきたから普通に登ってたの見ていたよねぇ」

シカコには何言っているのだ?と首を傾げられたが、正直できるとわかっていてもこの坂を下りるにはなかなか勇気がいる。

ステータス的にもまだまだ余裕があるわけじゃないから、事故は避けたい。

「そろそろ日が暮れそうだし、今日はここで野営をするか。それにここならモンスターに襲われる心配もないよな」

日も傾きかけて、これからは視界が悪くなる一方だし、山に慣れているシカコとはいえ足を踏み外して真っ逆さまとなればただでは済まない。

ここら辺には集落とか人のいる場所はないから、モンスターがいない安全な場所としてこの山肌に生えたようなちょっとした広場は水場がないという欠点を除いて野営地としては適しているかもしれない。

それを配慮してくれてシカコがここまで連れてきてくれたかは定かではないが、ちょっとした急斜面ならすいすいと登れるモンスターでもあまり来なさそうな安全地帯を見つけられたのは幸い。

少なくともゴブリンとかオークみたいな二足歩行系のモンスターはこないだろうし、四足歩行系のモンスターであってもわざわざ何もないここに来る理由がない。

「となればさっそく、野営の準備をしますかね」

日が暮れる前にいろいろとしないといけないのは経験済み。

「と言っても俺にはこれがあるから、襲撃の心配はないんだけどねぇ」

とりあえずシカコから降りて山側まで歩く。

取り出したるはダンジョンの鍵なりって、いつも使っているモチダンジョンだ。

それを山肌にぶすりと刺して、クイッと回してダンジョン生成。

「ほら、シカコこっちおいでー」

「めー」

そしてそのまま中に入る。

ノンアクティブモンスターであるモチのダンジョンには、安全地帯という名の水場がある。

シカコの手綱を引いてそのままダンジョンの中に入る。

明るい洞窟、跳ね回る白いモチ。

温度は一定だし、危険なモンスターもいないのでシカコも警戒せず俺の指示に従って進んでくれる。

「ひとまずはシカコはここにいてね。俺はボス倒してくるから」

安全地帯の水場にシカコの手綱を縛って、俺はサクッとカガミモチ討伐。

レベル的にも慣れ的にも、漫画の一コマくらいの演出時間でボスを討伐し、最低保証の木箱が出て自分の運の低さに嘆きつつボス部屋から安全地帯の場所に戻る。

「これでモンスターが入ってくる心配はないからなぁ」

「めー?」

なにしてきたのと首をかしげるシカコの首筋を撫でつつ、俺は俺で野営の準備にはいる。

と言っても、持ってきた非常食の簡単なスープと硬いパンでパパっと夕食を済ませるだけだ。

ダンジョンの中にはモチしかいないし、ここは安全地帯だから俺が招き入れない限りモンスターは入ってこない。

しかもここ、なぜか換気されているから火を起こしても問題ない。

「これ、ゲームの時はネタアイテムだったのにこういう時に使うんだな」

ダンジョンの中に枯れ木があるわけもないが、一応剣と魔法のファンタジー世界。

お金を払えば使い捨ての携帯コンロみたいな道具も売っていたりする。

ゲーム時代では使い道が皆無過ぎて誰も使わなかったが、実際冒険に出てみるとかなり便利なアイテムだ。

見た目は理科の実験に使いそうなアルコールランプと三つ足の台座のような外見だが、一人用の鍋を乗せるくらいのことはできる。

「……やっぱり出汁が足りないよなぁ。どこかに出汁の素売ってないかなぁ」

湯が沸き、そこにナイフで干し肉を削り入れ、そしてジャガイモのような物を入れて、そこに塩を少々。

完成したスープとも言えないような代物を啜りつつ黒パンにかじりつく。

コンソメスープの素とか、某メーカーの出汁の素、さらにはカレールーとかのお湯に放り込めばひとまず食べれます的な食品が本当に恋しい。

「いっそ自作するか?」

スキル枠に本気で料理スキルをぶち込むのが脳裏によぎる。

欲求を容認してスキル構成を変える。

それも一瞬ありかと思うくらいにこの世界の食糧事情が日本人の舌には厳しすぎる。

「絶対、メイドを仲間にしよう」

パーティー構成の枠は今のままで行くと、斥候役兼アタッカーの俺、アタッカー兼商人のネル、タンク兼バッファーのアミナ。

足りないのはヒーラーとデバッファー。

パーティー構成人数は六人だから、そこにメイドを入れるのもあり寄りのありだ。

「問題はそのメイドになってくれる人に心当たりがないことなんだけどな」

いくつかの剣と魔法のファンタジーの物語だと奴隷がいて、金で買い入れ自由にするとかいうシチュエーションがあるけど、ゲームでそんな設定なかったし、こっちに来てからも奴隷を見たこともない。

いるかいないか確認することもできないし、いたとしても雇うのには俺の常識的に抵抗がある。

なので、こういうパーティーメンバーを探すのが地味に大変だったりする。

俺の知識は異常と言っていいほどこの世界には効果的で、さらに周知されていない。

となると迂闊に適当な人を入れるわけにもいかないわけで。

「そう考えると、最初に何も考えずネルとアミナが仲間になってくれたのは幸運だったか」

硬いパンをスープらしきもので柔らかくして飲み込む。

シカコは安全地帯の泉に顔を突っ込んでごくごくと水を飲んでいる。

「ま、そこはおいおいと」

そして、そんな食事はあっという間に終わるもので、あとは寝るだけとなったが。

「明日早起きすればいいか」

現代と違い、スマホとかサブスクとか時間つぶしになるようなものはないこの世界で起きていることに価値はない。

モチを倒して経験値稼ぎをするのもいいけど、明日のことを考えれば移動の疲れを取った方が良い。

それなら早起きして明るい時間を確保した方が良いかと、判断して素直に寝る準備に入る。

「シカコ~、寝るからこっち来い」

「めー」

そして寝具はちょっと粗い布を使ったマント一枚。

せめて柔らかく暖かい物でもとシカコを呼びつけ、そのちょうどいい位置に座らせてその柔らかい体に身を預ける。

周りが明るいから寝にくいと思いきや、そこは持ってきた手拭いを顔にかけてアイマスクの代わりにする。

「めー」

迷惑そうに鳴くシカコに、カバンからごそごそとあさって取り出したナッツを取り出し口元に持っていくと。

「め~」

仕方ないと折れてくれた。

こうして俺の睡眠のための枕になってくれたシカコとともにダンジョンの中で夜を明かし。

「……実は昨夜のこと恨んでた?」

ダンジョンからひとまずシカコを出し、そしてダンジョンを攻略して出てきた俺を背中に乗せたシカコは夜明け前の薄暗い山を結構なスピードで下ってくれた。

絶叫マシーンでもあそこまで怖い思いはしないだろとシートベルトと安全バーの大切さを痛感した俺はシカコにツッコミを入れつつ、森の中を進む。

「めー?」

寝相は悪くないつもりだったけど、さすがに寝ている間はわからない。

何かしでかしたのかもしれないな。

今日寝るときは一人で寝ようと心に誓って、昨日見つけた水場に向かう。

「あった、あった」

しばらく森を進むと開けた場所についた。

そこは静かな水辺。

モンスターや野生の動物たちが水を飲むのに使うには絶好な自然環境。

日の出が近いからか、水がキラキラと輝きだしてそれだけで一枚の絵画のようになり純粋に綺麗だと思える。

「シカコ、そっちの崖側の道に進んでくれ」

だけど、冷静に考えればここがおかしいと気づくことができる。

本来であれば森の中にはモンスターがいる。

それもこれだけ街道から逸れていれば、森に生息しているモンスターの縄張りになっているはずだ。

だが、実際はここに来るまで森の中ではモンスターらしいモンスターにあっていない。

最後に会ったのは、森に入った最初の頃だけ。

目的地である水場に近づけば近づくほど、モンスターとのエンカウントは減っていった。

FBOを始めた当初は、ここがモンスターの近寄らない安全地帯だと思って無警戒で近寄った。

始めた当初の、本当に装備も貧弱でなおかつモンスターとの連戦に疲れて休める場所を求めてさまよっているときだった。

何かあるかと森の中に入ったが運の尽き、追い立てられ方向を間違え、そしてモンスターが減ってきたことに安堵したときに当時の俺はここにたどり着いた。

遺跡でも何でもない、ただの水場。

そこに何かがあるかと言われれば、池があるとしか言いようのない場所だ。

ここにいったい何がと疑問を抱けと言うのが無理があるくらいの何の変哲もない場所。

その当時の記憶を思い出しながら、俺は水辺には近づかないように少し遠回りで池を囲む崖側の方に回り込み、その道を進む。

段々と日が昇り、池を太陽が照らしはじめたころ、俺は見晴らしのいい崖の上につくことができた。

そこで俺はシカコから降りて、ゆっくりと崖に近づき池を見下ろした。

「お、いるいる」

そしてそこには池に沈む黒い影、時折動いているその影がその存在が生きていることを証明する。

ここは、隠れたフィールドボスがいる場所。

しかも徘徊しない系統の穴場である。