軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

17 アングラー

「きょ、強烈だったわね」

「う、うん。まさかあんな人が五人もいるなんて……」

ミスターエッグの野望という、ゴーレム下半身パーツを収集できるクエストを完了し、目的の物を確保したらそれで終了というわけではない。

ゴーレムは全部で五つの部位に分かれ、頭部、胴体、腕、脚部、コアのそれぞれのパーツを組み合わせることで完成する。

いや、正確に言えば、腕はなくても性能は下がるが起動はする。

ゴーレムの形状については獣型や阿修羅型、さらには船型などのゴーレムだって作れるから、形に定型はない。

オーソドックスなゴーレムのパーツの構成が五つというだけの話で、今俺たちはミスターエッグとの出会いから二週間がたっているのだが、その間にそれらを集めるために、かなり濃い日常を送っていた。

「まさかモチが癒しになる日が来るとは思わなかったわ」

「ネルはどの人がきつかった?僕は三人目の人が……」

「私は四人目ね。まさか、一番初めのミスターエッグがそれでも一番まともだなんて誰が思うのよ」

午前中はモチ巡回して熟練度上げと米化粧水の材料集め。

その間に偶然鍵を増やせてからは、俺とネルで二つのダンジョンを一気に攻略して周回ペースを上げている。

ゴーレム回収クエストの前までは、もう飽きたとやる気が湧かなかったモチ巡回も、ミスターエッグ以上の濃い面々と会うにつれて、アミナとネルが言う通りモチが癒しと化していた。

脚部担当ミスターエッグ。

こいつは酒乱という点と不衛生ということがなければまだまともという、相対的評価に落ち着くほどほかの面々が濃かった。

「二人目の人は見た目でだまされたわよね」

「うん、ぽっちゃりとして優しそうな人だと思ったのに」

胴体担当ドクトルポム。

彼がいる場所はお菓子屋がメイン。

菓子屋と言っても、俺の前世にあったようなケーキ屋とかではなく喫茶店みたいな感じの店で甘味を売っている場所だ。

彼はここを周回して、甘味を求め渡り歩いている。

「まさかお菓子が切れたら発狂するなんて誰がわかるのよ」

「うん、それも子供の僕たちがお菓子を奪ったとか言いがかりつけてきたよね。自分で食べきったのに」

「……正直、怖かったわ」

「僕も、あの人の目が夢に出てきそうだったもん」

こいつはミスターエッグと逆だ。

普段は菓子片手に渡り歩き、温和な性格で近所の付き合いも表向きは良い。

あごが二重になっていたり、おなかでトランポリンができるかもと思うくらいにふくよかで不健康具合はベクトルが違うだけでミスターエッグに負けず劣らず。

しかし、一度甘味が途切れ一定時間が過ぎると豹変する。

このクエストの流れは至ってシンプル、ひとまずドクトルポムを見つけてあとは観察。

この世界での甘味って俺の前世の記憶と比べてかなり高い。

だから彼もゴーレムを作っては売って甘味を買うというサイクルで生計を立てているが、ゴーレムを売った収入よりも甘味の支出の方が多かったりする。

すなわち時間経過で自滅する。

そして甘味が摂取できないと定期的に発狂して。

「でも、発狂しているときの方が良いゴーレムが作れるとか理不尽よね」

「本当にそれだよ」

そのタイミングで暴れ出して言語知能が低下して、感情的になっている彼を大量のお菓子で釣りゴーレムを譲ってもらうのが流れだ。

うん、戦闘がない分ミスターエッグの方がマシだよね。

あの巨体をなんであんな軽やかに動かせるんだろう。

ドクトルポムに怪我をさせず、どうにか倒すことができれば発狂しつつも話は聞いてくれるからお菓子を報酬にゴーレムパーツ、胴体部分を得ることができるのだ。

クエスト名、『お菓子狂いのポム』の名は伊達ではないとわかるくらいにお菓子に対して執着を見せた。

「おーい、そっちの方を押さえてくれ!!」

「はーい」

「あ、ネルそっちのハンマー取ってくれ」

「これ?」

「ああ」

テレサさんに呆れられながらも庭の一角にゴーレムのパーツを集め、まず最初にクモのような足、多脚パーツの上にドクトルポムがモデルみたいな少しでっぷりとしたお腹の胴体を置く。

多脚型は走破性と旋回性が高い。

重量型の胴体は機動性が落ちる代わりにパワーが上がる。

コンコンとハンマーで叩き、少しのずれを直し、そして。

「アミナ頼む」

「はーい!」

アミナの錬金術スキルはパッシブ系のスキルで、錬金術関連の成功率と製作物の効能を上昇させるスキルだ。

それ以外に、ゴーレムが持つ固有スキルを誘発させることもできる。

「それじゃ、足と胴体を合体!!」

ガシャンと何かが噛み合った。

そして足と胴体がくっつき、俺はしっかりと固定されているのを確認して。

「次は右腕行くか」

「はーい」

次のパーツの取り付けに入る。

ごつい足と鈍重そうな胴体と比べて、ネルが持ってきた腕は細身だ。

それをごそごそとつける位置を調節しながら、はめ込む。

バランスが悪いように見えるが、これからやりたいことを考えると、胴体と足に対して腕はパワーよりもテクニック重視のパーツの方が良いんだよね。

腕を提供してくれたクエストの名は、『煙を追え』

うん、酒、お菓子と来て次は煙と言えば大体の人はわかるだろう。

こいつは五人のゴーレム技師の中で唯一定位置がないキャラで、常に咥え煙草の歩き煙草をしてアイディアと煙草を求めて徘徊するという、喫煙排除ブームの日本にいたら嫌われる人物の見本になれるだろう人物だ。

ネルが言う四人目に見つけたのが、プロフェッサーカービンだ。

五人目を探している最中に、本当に偶然ネルが煙草の匂いを嗅ぎ付けてそれを追いかけて発見。

全身が煙に纏われているかと思うくらいに、たばこ臭く、そして彼の研究所は濃霧に覆われているのではと思うくらいに煙たい。

狐の獣人で鼻が利くネルからすれば地獄のような人物で、こいつもほかの錬金術師と一緒で一癖も二癖もある変人だ。

ミスターエッグは酒を貢げば、ドクトルポムはお菓子を貢げば。

では、こいつは煙草を貢げばいいかと思いきや、そう簡単な話ではない。

新しい香りのする葉っぱを求めていると言って、徘徊しているとゲーム時代ではクエストのヒントとして描かれており、プロフェッサーカービンからゴーレムのパーツを受け取るのは新種の煙草と引き換えで、ある意味では達成の難易度がゴーレム回収クエストの中で一番高い。

吸ったことのある煙草だと没収されて終わり、そして姿を消してまた探し直しという、見つけるのも面倒だし、交換条件を達成しても煙たい研究所から求めている腕を探すのも一苦労だ。

救いは煙草を吸っていればとりあえず優秀というだけ。

逆に煙草を取り上げると本当に無気力になってダウナー状態で何もしなくなる。

煙草に関して言えば、ゲームの知識でここら一帯でもとれる珍しい物は知っているから問題ないが、本当に見つけるのが大変でネルに嫌悪感を抱かせてしまったのが申し訳ないがゲームにはなかった匂いという要素で見つけてくれたのは彼女に感謝だ。

「これで良し、アミナ、また頼む」

「まかせて」

左右のバランスがきっちりと取れていることを確認したらアミナに頼んで合体してもらう。

これで足と、胴、そして腕が取り付けられた。

「なんかアラクネっていうモンスターみたいだね」

「顔がないからデュラハンみたいでもあるわね」

多脚に人の上半身、さらに顔がない。

その組み合わせから考えると、確かにネルとアミナの言う見た目なのかもしれない。

「確かに」

俺からすればゲーム時代の一番効率のいい方法を取っているだけなのだ。

ただでさえプレイヤー同士の交流ができないので必要な品が多く、やれないことが多いのだ。

他に高レベルかつ潤沢なアイテムを保持しているような人物が協力しているのならもう俺は最高峰のステータスに手がかかっていてもおかしくはないんだよなぁ。

ゲームは一周目が一番きつい。

何もない状態で、なおかつ安全に行動しているからこうも手間がかかってしまう。

廃人にとって死ぬときのペナルティを知っているから余計にそこら辺の判断基準は高めに設定しちゃうんだよなぁ。

なんだかんだ言って、安全に効率的に物事を進めるのが一番なんだよな。

代償に飽きがひどいけど。

「さてと、次に入れるのはコアだな」

「あー、それが一番大変だったよね」

頭がゴーレムの足元に置いてあるからアラクネとデュラハンが合成されたモンスターっぽさが余計にある。

そんなゴーレムの心臓部と言えるものを木箱から取り出す。

ゴーレムコア。

人間で言う心臓に当たる。

これがないとゴーレムはただの木偶の坊になるわけで、ゴーレムの出力もこれで決まる。

体の自壊を気にしないのなら素体の耐久値以上のコアを入れればとんでもない出力のゴーレムは作ることはできるけど、それなら体の方も強くした方が強い。

なのでこれもクラス4のゴーレムコアだ。

アミナが一番大変だったと言っているが、それは彼女がおそらく今回の五人の中で一番苦手な人物が彼女だったからだろう。

五人のゴーレム錬金術師のうちの紅一点。

マダムプレーシア。

クエスト名『悲鳴の魔女』

妙齢というには、些か以上年を重ねた女性で、ゴーレムを作っているよりも竈の鍋で怪しい薬を作っている方が似合いそうな三白眼を持つ人だ。

そしてなぜこのクエストが悲鳴の魔女と呼ばれているか。

どこかのサスペンスドラマで殺人事件でも始まりそうなタイトルだけど、実際はそんな凄惨な事件はミリ単位でも起きない。

ここまで、酒が好き、お菓子が好き、煙草が好きと来てどの製作者も好きな物がきっかけになっている。

であれば、この女性も好きな物があるわけで、彼女が好きなのは歌だ。

しかも、某アニメのガキ大将のような感じの音痴。

当人からしたら歌っているつもりでも、聞き手からしたらデスメタルでもここまでひどいことにならないぞと言わんばかりの金切り声で叫び散らす。

さっきのプロフェッサーカービンが運ゲーだとすれば、こっちは音ゲーだ。

雑音を聞いた方がまだマシとも言えるような金切り音楽に合わせて楽器で演奏して彼女を気持ちよく歌わせる。

それがゴーレムコアを譲り受ける条件。

幸い、演奏自体は上手い方が得点が高くなるから頑張って金切り声に耐えて演奏しきればいい。

ただ、歌に誇りのあるアミナにとって、何度も何度もあの金切り声に合わせて演奏するのは精神的にきつかったみたい。

俺とネルは無心になって演奏していたからそこまで追い詰められることなく、コアが完成するまで演奏しきった。

このクエストはこの演奏の出来栄えでコアにおまけでスキルもつけてくれるから文句ひとつ言わず金切り声にさらされながら二十四曲演奏しきった。

うん、冷静に考えればかなりやばいクエストだったと言えるな。

クエスト終了後も耳鳴りが止まらなかったからポーションを飲んだよ。

そんなことを思いながら、そっと首の部分からボーリング玉ほどの大きさの桃色の球体を入れて、胴体の中央部にある台座に乗せる。

「それじゃぁ、繋げるよー」

「OK」

そして流れがわかればアミナもさっさとコアと胴体を接続する。

「あ」

「おー!」

そうすると今まで無機物だったゴーレムに命が吹き込まれる。

なんというか見た目は変わらないし、触っても金属特有の冷たさしか感じ取れないんだけど生き物特有の暖かさと言えばいいのだろうかそんな雰囲気を感じることができた。

ゲーム時代にはない感覚。

「あとは頭を乗せれば完成ね!!」

「早く乗せようよ!!」

もうすぐ完成ということで彼女たちも興奮して俺は最後に中央に十文字のくぼみがあるフルフェイスの鎧兜のような頭を抱える。

最後の頭のパーツ、ここまでの変人たちの大トリ。

大トリと言っても、ラスボス的な存在じゃなくて今までと同じ強烈な変人がいただけの話。

酒、菓子、煙草、歌とどれもが好むものを経てパーツを手に入れてきて、最後に何が来るかと言えば化粧品だ。

『美顔マニア』

これがクエストの名前で、なぜゴーレムヘッドの性能が一番いいかと言われればこのクエスト名が最早物語っていると言ってもいい。

彼、ゲーム時代も本名不明で自称、ビューティストと名乗っていた。

その彼は美しさを求める人物だった。

解析班はもしかしたらどこぞの貴族から追放された身ではないのかと解析したが真相は終ぞわからずじまい。

わかったことと言えば、ナルシストだったということだけ。

自分の顔こそが一番美しいと自覚し、鏡の前に立てば二時間も動かない。

台詞選択を間違えると延々と自分の顔の美について語られ続けて時間ロスにつながる。

生憎と、そこまでイケメンではないと俺は思うし、女性にもてるとかそういう次元の話ではなく本当に自分の顔だけを愛しているというわけで。

そんな興味の欠片もないような話をエンドレスで聞かされる。

選択肢とお土産さえ間違えなければ問題はない。

彼を見つけるにあたって、化粧品を取り扱っている店を巡れば会えるのだが、今回はなんとネルのお店で見つけてしまった。

噂になっている米化粧水を求めて来店したが、生憎と早朝に来ても売り切れてしまう商品だ。

手に入れられないことに癇癪を起こし、自分の美しさを語りどれだけ化粧水が自分に必要かと壊れたレコードのように延々と聞かせ、テレサさんを困らせるというクレーマーと化していた。

貴族街にどうやって入り込むかと悩んでいる矢先にそれを見つけてしまったのだからずいぶんと肩透かしを食らってしまった。

結局、俺たちが仲介することでクレームは解消。

ゴーレムヘッドを譲ってくれれば、商品を多めに渡すと言えばあっさりと目的のゴーレムヘッドを手に入れられたわけだ。

「よっこいしょっと」

なんだかんだ言って、苦労してできたゴーレムの最後のパーツである頭をのせて。

「アミナ!」

「うん!」

最後にアミナに頼んで。

「合体!!」

俺たちのゴーレムは完成するのであった。

俺たちFBOプレイヤーたちの中で変人シリーズと言われるゴーレムの中で戦闘能力は低いが、とある方面では利便性が高いと言われるゴーレム。

その名も。

『アングラー』