軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

11 フェーダ族

先に言っておくが、フェーダ族は一見して分かる密偵とか情報収集に向いているような見た目と能力を持っているが、俺にはスカウトする気が一切ない。

「それで?なんでこの街に忍び込もうとしたわけ?」

その理由は、単純明快。

この一族は仲間にならない、勧誘ができないNPCであり、族長至上主義の一族だからだ。

大体そういう一族って、変わり者とか里から抜け出したいとかそういう野望を持ったはぐれキャラがいたりして、物語ではそこから一族の雰囲気が変わるなんて展開がお約束だ。

だが、フェーダ族にはそんなキャラは一切いない。

俺は椅子に座るフェーダ族のリーダーらしき男の前に立ち、見下ろすように質問を投げかける。だが、男はぷいと顔を逸らして何も言わない。

「・・・・・」

「まぁ、俺が質問して答えてくれるならゲンジロウたちの質問にも答えているよねぇ」

なにせ、徹底して外部へのヘイトを子供の教育に使うような一族だ。

身内以外は全部敵と幼少期から刷り込む狂気的な一族だ。

世間一般の常識など、こいつらには関係ない。

部族の掟こそ絶対、族長の言葉こそ真理という偏見の塊だ。

幸いにしてこいつらは貴族も邪神教会も敵と認識しているから、野盗関連の輩ではないというのは確かだ。

戦闘能力はそこまで高くない。闇夜に乗じてやってくるというのは厄介だけど、見ての通り戦うという選択肢がない一族だ。

「御屋形様、ここは一つ口を割らせるには力技も致し方ないかと」

「ダメダメ、この一族はそういう痛みにはめっぽう強いからやるだけ無駄。疲れるだけだよ」

そんな閉鎖的な一族が、山から出て他所の集落に潜入する理由に関して、心当たりがないわけではない。

闇夜に乗じて城壁を登りフライハイトへの侵入を謀り、捕まっても無言を貫き、身勝手な都合を押し通そうとしているフェーダ族の男たちに、ゲンジロウを含めて御庭番衆の苛立ちが募っているがひとまずは落ち着けと宥めておく。

「さてと。それじゃぁ、質問の仕方を変えるけど、君たち闇の上位精霊に会いに来たんでしょ?」

「!?」

「ついでに言えば、あんたらのところの占い師辺りが、闇の上位精霊がここにいるって言ってアンタらをここに送り出してきたといったところか」

答えないのはわかっていた。

なら、無駄な尋問に時間を費やして睡眠時間を減らすよりも、さっさと答えを言って状況を動かした方がいい。

「真っ黒な顔だけど、驚いているのはわかるよ。その動揺で大当たりってのがわかったところで」

フェーダ族は、自分たちの祖先が精霊たちの末裔、もっと詳細に言えば闇の精霊の末裔だと信じ込んでいる。

漆黒の肉体は、闇の精霊の血が流れているからという部族の伝承。

他人からそんなことはないと否定されても、頑ななまでに受け入れない信仰心。

「ここからうだうだと、説得するのが面倒だからもう当人を呼び出します」

「「「「「!?」」」」」

「すまないが、闇さんを呼んできてもらっていいか?」

『いいよ!!』

そんな相手にコミュニケーション取るのは面倒極まりない。

まともな会話ができないような相手、そしてどうせこの後の展開も読めるので、さっさと側で待機してくれていた闇の精霊に頼み、今も時計作りに没頭している可能性がある闇さんを呼び出してもらう。

闇さんを呼び出すと言ったとたんに、顔をキョロキョロとさせて慌てていますとリアクションで示すフェーダ族たち。

その様子は、推しのアイドルが今から来ますと言われて心の準備ができていませんと慌てているファンのよう。

精霊回廊を通って、闇さんを呼びに行って数分後。

醜態を晒していた彼らがいきなり行儀よくそわそわし始めた。その目の前で、大きな精霊回廊が開く。

『むぅ、良いところであったのに。どうかしたのか会長。こんな夜遅くに呼び出すなど珍しいな』

「「「「「!?」」」」」

ご本人登場。普段の軍服っぽい恰好ではなく、全身真っ黒のthe作業着っていう雰囲気の格好をして闇さんは登場した。

頭には拡大鏡をレンズにした片目のゴーグルを装着し、両手には手袋、さらに前掛けをして、ついさっきまで時計作りをしていましたと言わんばかりの格好。

「「「「「????」」」」」

その恰好を見てフェーダ族の熱は一瞬上がったが、一気に頭の上で疑問符が浮かんだような表情になった。

顔は真っ黒で表情は読みづらいが、非常にわかりやすい反応だ。

明らかにこれじゃないと言わんばかりの雰囲気。

「あー、実はカクカクシカジカデ」

『それで、伝わると思ったか?』

「いや、ちょっとふざけたい気分でして」

『まぁ、会長の苦労は知っているから、その程度の冗談くらいは付き合うがな』

おまけに、俺と闇さんの距離が妙に近い。

趣味に没頭している途中で呼び出されたというのに怒りもせず、むしろ冗談を聞いて笑って大変だなと俺の肩を叩いて労わってくれる。

フェーダ族にとって闇の上位精霊は神に近い、あるいは神に等しい存在と言える。

決してこんな人間と気安い関係の存在ではなく、もっと威厳のある気高い存在だと彼らは信じている。

「それで、実はこいつらがこの街に侵入してきて」

『ああ、さっき感じた気配はこやつらか。他の同胞たちが対処して捕まえていたから放置していたが』

そんな存在から、どうでもいい、もっと言えば興味がないという対応をされて、ショックを受けたように気配が沈む。もっとも、顔が真っ黒なので表情まではよくわからないが。

「実は、彼ら闇さんみたいな闇の上位精霊を祀っている部族でして」

『ああ、そういう輩か。どのタイプだ?過去に救われたか、血族と言い張るか、それとも盟友と名乗ったか』

「血族タイプですね」

『うむ、どれどれ』

彼らの信仰する闇の精霊とは何かが違うのに、勝手に話だけは進んでいく。

戸惑う彼らの事情など、俺には知ったことかと闇さんに知識からわかる事情を説明する。闇さんも長い年月を生きていればそういう輩がいるというのは理解しているのか、納得して牢屋の前に立ち、先頭にいる拘束されたフェーダ族の男の顔を覗き込む。

『?某たちの血族だと?その割には某たちの気配が微塵も感じられぬのだが』

「!ふざけたことをぬかすな!!」

そして、精霊なら感じ取れるはずの気配を感じ取ろうとしたが、闇さんはフェーダ族から一切その力を感じ取ることができず首をかしげて、彼らの信仰を真っ向から否定した。

これに対して、さすがに黙っていられなかったフェーダ族の男。

『ふざけてなどおらん。お前たちはまごうことなきただの人だ。精霊の血もモンスターの血筋も混じっておらず、純粋な人だ』

「そんなことはない!我らは誇り高き闇の精霊様の子孫なり!闇夜に溶け込むこの体こそ何よりの証拠!それを見抜けぬ偽物め!!お前が闇の精霊様を名乗るなど片腹が痛いわ!!」

俺以外の面々も、この闇さんが正真正銘闇の上位精霊だというのは知っている。

たまに一緒に同じ釜の飯を食う仲なのだから当然だ。

そして精霊たちが信仰され絶対視されるような特別な存在ではないのも同時に知っている。

友となり、肩を組み、笑い合えるそんな存在だとこの場の皆は理解している。

ただ、フェーダ族の男たちだけは理解できていない。

信仰する対象に向かって何を失礼なことを言っているのだと、周囲が呆れているのにも気づかず吠えるフェーダ族の男に、ただ事実を言っただけの闇さんも「何を言っているのだ」と困惑顔。

「何も言い返せぬのが何よりの証拠だ!!そんな薄汚い格好をした精霊様がいるか!!どうせ、薄汚い人間が化けているに違いない!!正体を現せ!!」

『ほう、某の正体を見たいと申すか』

しかし、その困惑を偽りと勘違いして鬼の首を取ったような表情で叫ぶフェーダ族の男を見て、さすがに容認できなくなったようで。

『ふむ、最近この姿ばかりで過ごしていたからな。ここらで一つ、もう一つの姿に戻るのも悪くはないか』

ニヤリと獰猛な笑みを浮かべ、闇さんの体から闇があふれ出る。

それを見て俺たちはすぐに闇さんから離れて距離を置く。

その闇を見て異変を察したフェーダ族の男たちは、どういうことだと戸惑い始める。

そんな彼らの戸惑う姿を見てもためらうことなく、闇さんの姿はドンドン肥大化していく。

拘置所内ということで、ここにはそこそこ広めのスペースは存在する。

そんな空間でさえ狭いと感じるほど、闇さんの体は大きくなり。

「や、闇の竜」

『さぁ、お望み通り某のもう一つの姿を見せたぞ』

そこには闇を纏った西洋竜がいた。

赤い瞳、黒い鱗、畳まれた黒い翼。

長い尾に鋭い牙と爪。

これが闇の上位精霊の人ではない姿。

異質具合で言えば、先ほどの作業着姿とは比べ物にならないほど迫力のある姿になった。

『お前たちの信仰する闇の精霊がどのような姿かは知らん。だが、某の存在を否定するのであるのなら』

グルルと唸り声を上げて、牙を見せつけるようにむき出しにし、鉄格子越しに睨めば、何やら水音が聞こえる。

『相応の覚悟があるのであろうな?』

信仰する対象を怒らせた。

その代価は、絶望という名の感情に包まれたフェーダ族の男たちの表情だ。

ぶるぶると恐怖に感情を支配された男たちはただ無言で、瞳に涙を浮かべて顔を横に振るしかない。

『ふん、つまらん』

それを見て興が削がれた闇さんは、元の人型の姿に戻る。

『一体こやつらは何がしたかったのだ?』

「この街に侵入してきた理由というのなら、闇さんへの勧誘ですよ。いや、勧誘というよりは元居た場所に帰ってきて欲しいという嘆願の方が近いですね」

『???どういうことだ?リベルタよ、説明してくれ』

人型に戻った闇さんの表情は呆れに染まる。

散々喚き散らしたから、その希望に沿って姿を現してやったというのに、今は勝手に絶望に染まっている。

闇さんが「何がしたいのだ」と疑問に思うのも無理はない。

「このフェーダ族の信じる彼らの起源は、フェーダ族の始祖である人間の男と闇の上位精霊の女性との恋の物語なんですよ」

『某は男だぞ』

「まぁ、そうですね。それで、なんやかんやあって一族は増えて、その間に精霊はどこかに去ってしまってというありきたりな伝承がありまして」

『・・・・・その伝承の存在が某だと思ってここに来たと?』

「有体に言えばそういうことかと」

そして理由を説明したら、余計に訳が分からないとため息を吐かれた。

理解も納得もできないという闇さんには申し訳ないが、さらに頭の痛い話が続くのだ。

「彼らの妄想では、ここには捕らわれた闇の上位精霊がいて、それを助けるために闇夜に溶け込み侵入してきた勇士たちという設定なんですよ」

『・・・・・なにがどうなって、そうなった?』

「長い年月を、世俗から離れて閉鎖された独自のコミュニティで過ごした民族の思想の結末です」

部族の始祖である、闇の上位精霊が彼らの元に戻ってくるのはフェーダ族の悲願。

そのチャンスが巡ってきたのなら、臆病でシャイな気持ちを押し殺して勇気を振り絞り外に出る覚悟くらいは出る。

常識がずれているから城壁を登り侵入し、常識が世間とは異なるから会えばどうにかなると楽観的な思考になる。

正直、フェーダ族のクエストは美味しい要素が皆無なので接触する意味がほぼゼロ。

信仰心が強すぎて合理的に動けないから、密偵にも向かない。

だからこそ、スカウト候補からは外していたのだ。

『それで?これらはどうするのだ?こやつらの言い分はともかく、侵入されたのは事実だ。無罪放免というわけにもいかないだろうに』

「そうなんですよね。放り出したら放り出したで、色々と曲解して問題になりそうですし、消したら消したで部族の方で燃え上がってまたやってきそうですし」

正直接触しないのが一番の対応策であったのだが、こうして姿を現し接触してきた。

ならどうにかするしかないと頭を悩ませているのが正直なところ。

「リベルタ君、いる?」

そんな微妙な雰囲気のところに、黒い格好をしたエンターテイナーたちが着る仕事着の中でも、オシャレに気遣った格好を纏ったシャリアが拘置所にきた。

その明るい声を聞いて、フェーダ族たちは顔を上げた。

そしてシャリアを見て。

「「「「「ヤーダ様」」」」」

「へ?」

目を見開き、歓喜の表情を浮かべるのであった。