軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

28 EX 悪魔から見た怪物

有り得ない有り得ない有り得ない。

そんな言葉が嫉妬の悪魔の頭の中で無意味に繰り返される。

「どうするぅ?嫉妬ぉ」

嫉妬の悪魔。

眼の下にクマを作り、わかめのような青い髪を掻き乱し、不健康そうな青白い肌をした顔で苦悶の表情を作る。

今回の作戦では、原初神教の重鎮であるギルギン・アルダゴンさまから全体指揮を任されている。

堕生の盃の人柱にされる前は、とある貴族の私兵を指揮していた経験もあった。

とあることをきっかけに邪神教会の信徒となり、教会の巧みな導きにより原初神教の狂信者となり、邪神の下僕として実力をつけ堕生の盃の人柱となり、悪魔の魂へと変化した。

「嫉妬よ、今さら引けぬわ!このままあの神殿に突撃し、ワシの力で異教徒どもを八つ裂きにしてくれるわ!」

堕生の盃で人の肉体を捨てることにより得た、大罪の悪魔の超常の力に全能感を感じていたのはついさっきまで。

「ええー、これ逃げた方が良くない?だって、強欲も、色欲も、傲慢も暴食もやられちゃったよ?」

「ふん!それは奴らが不甲斐ないだけだ!この憤怒様がいればあのような小童に後れを取ることはないぞ!」

傲慢のところに送り付けていたのは、嫉妬の眷属。

眷属の視界を画像のように共有するというFBOではなかった機能を使って、傲慢と人間との戦闘をこの三体で見ていた。

その状況で、怠惰の悪魔は撤退、憤怒の悪魔は作戦の続行を主張。

「えー、無理だよぉ。やめようよー、めんどうだよー」

「ええい!軟弱者め!怠惰!お前はもっとやる気を出せ!」

互いに意見を曲げる気はなく、まとまる気配もない。

「ええい!うるさいですね!もう少し静かにできないのですか!!今、私がどうするか考えているんですよ!!」

そもそも教会から指示されたまとめ役のはずの嫉妬の悪魔が、まとめようとしていないのでまとまらない上に、互いに反目し合う大罪の悪魔同士の仲介役となるはずの色欲がすでに沈み、我が強くわがままな悪魔が三人残ってしまったのだ。

この段階で連携をするというのは無理がある。

「ああ?なんだその言い草、少しばかりワシよりも先に変化したからと言って先輩気取りか?殺すぞ。」

「うっとうしいなぁ、もう、僕だけでもいいから帰っていい?」

互いに険呑な雰囲気を醸し出し、一触即発の状態で互いを牽制しあっているときにそれは来る。

「みぃつけたぁ」

ガサリと茂みが揺れて、そこから現れたのは1人の少年。

「ほう、お前は」

左手に持つ古ぼけたモーニングスター。

上半身裸で、毛皮を腰に巻き、the蛮族スタイル。

頭にバンダナを巻くのではなく、骨の兜でもかぶっていれば完璧だったのだが、そこは少し違う疲れた顔の人間の少年。

強欲、色欲、傲慢、暴食の四体の悪魔を屠って見せた人間だ。

邪神教会にとって、原初神の敵として絶対に殺さなければならない、女神の使徒と呼ばれる存在。

そんな存在が、戦闘という行為を愛する憤怒の悪魔の前に現れればどうなるか。

竜のような鱗に体を覆われ、鋭利な角を後頭部に生やしている姿は一見すれば竜人。

しかし、その存在は悪魔。

「強そうだな!」

「憤怒、待て!」

人を見れば殺したくなる、残虐性を増した憤怒の悪魔は嫉妬の悪魔の制止の声を無視してその暴力を振るう。

憤怒の悪魔は、パーティーのポジションで言えば前衛アタッカーだ。

傲慢の悪魔の後衛アタッカーと対を成す、物理前衛アタッカー。

暴食ほどではないが、タフネスがあり、スピードもあるが、何より竜の因子を持っている故に、通常攻撃が常に必殺の一撃になる。

「ちっ、怠惰!私に合わせろ!」

「面倒」

「殺すぞ!」

「治すからいいもん」

その戦闘能力は、嫉妬の悪魔でも認めるほど。

表では認めたくないと態度を見せるが、内心ではワンチャンス憤怒の悪魔ならこの人間を殺せるのではと思っていたりもしていた。

「なに!?」

そんな憤怒の悪魔と人間の少年の激突に合わせて、嫉妬の悪魔は自分のスキルを発動させようとしたが、目の前の光景に目を見開き。

「怠惰!」

「ええ、めんどい」

即座に少年の狙いを見抜き、その狙いを外すべく行動を起こすが。

「遅い」

憤怒の悪魔と交戦すると見せかけて、回避、そしてすれ違い、そのまま後衛にめがけて走り寄ってくる。

人間の狙いは怠惰の悪魔。

眷属越しでは測りきれなかったリベルタという人間の加速速度。

ふわふわと眠気を見せていた、怠惰の悪魔の真正面に立ちそのまま武器を振るう容赦のなさ。

「かは!?」

顔面攻撃を防ぐために腕を交差し、顔を守った怠惰の悪魔の防御をすり抜け、モーニングスターは腹部に直撃する。

それと同時に響く、骨が砕ける音。

「めんどくさいなぁ」

その痛みに顔をしかめても、命には届いていない。

なので、即座に怠惰の悪魔は自身の治療にかかる。

人間の肉体を捨てて手に入れた悪魔の身体のポテンシャルで、耐久値は常人よりもはるかに高い。

それに加え、怠惰の悪魔の魔力に傾倒したステータスにより、回復スキルをふんだんに使うことができる。

一撃の即死攻撃でもしない限り、怠惰の悪魔は不沈艦と化す。

「仲間の回復ができる怠惰を狙う、その判断は間違っていませんが、貴方の攻撃力では怠惰の回復力を上回れないようですねぇ!!」

耐えた、そして回復ができている。

その光景を見て、嫉妬の悪魔の中で勝利の方程式が組み立てられ始める。

「俺を無視したな!?殺す!」

さらにここで憤怒の悪魔のスイッチが入った。

憤怒の悪魔の固有スキルにある『憤怒の悪魔の怒り』は、怒りを起点にしてステータスを上げることができるスキル。

欠点として、怒りを触発させた相手に集中して視野が狭くなることだが、狂化と比べれば思考は冷静だし、頭も回る。

人間の少年は、何故かパーティーの継戦能力の鍵を握る回復役と知っていて怠惰を最初に潰そうと画策していたが、耐久性と回復能力までは予想できていなかったようだ。

これは勝った、と嫉妬の悪魔の中で方程式が確立する。

怠惰を囮にして、憤怒に攻撃をさせる。

そこに嫉妬が持つスキルで、デバフを付与すればこの人間に勝ち目はないと嫉妬は判断した。

「お前は最後だよ」

だが、この人間を計るには悪魔たちの力量が足りなかった。

「え」

嫉妬の読み通りであれば、仕留めきれなかった怠惰の悪魔を倒すことを諦め、憤怒の悪魔の迎撃に移るのが定石。

しかし、人間の行動は嫉妬の読みを逸脱していた。

見ずに憤怒の悪魔の攻撃を回避し、徹底して怠惰の悪魔の命を削ることに集中した。

背中に目でもついているのではと思うくらいに、スムーズに自分の攻撃と、憤怒の悪魔の攻撃をかみ合わせて怠惰の悪魔を滅多打ちにしている。

「ちょ、ま、これ、やば」

その攻撃速度は怠惰の悪魔の回復能力を上回り、どんどん命を削っていく。

「オノレ!ワシを無視するか!」

「憤怒!離れなさい!私のスキルが使えない」

「邪魔をするな嫉妬!こやつはワシが殺す!」

少年の動きは計算しつくされ、怠惰を殺すためだけに動くのではなく、三体の悪魔の位置を把握して常に憤怒を盾にすることで嫉妬の悪魔のデバフ攻撃も防いでいる。

スキルの欠点で憤怒の悪魔の脳内は怒りに染まり、その攻撃はどんどん勢いは増すが単調になっていく。

嫉妬の悪魔は苛立ち、どうにか自分のスキルを使えるように立ち位置を変えようとするが。

「ウガアアアアア!!!」

「うるさいですよ!憤怒!」

嫉妬のことなど完全無視で頭に血が上った憤怒が邪魔でスキルを使うことができない。

「もう、無理」

その間も怠惰の命は削られ続け。

そしてついに、その命が尽きる一撃を顔面に浴びる。

ボールのように吹き飛び、地面を転がる怠惰。

まだ息はある。

だが、これ以上ダメージを負うとまずい。

一目でそれがわかるほど、怠惰の悪魔の命は風前の灯火。

これ以上はダメだと、嫉妬の悪魔は憤怒もまとめて、スキルを発動しようとした瞬間異変が起きる。

黒い影のようなものが浮き出て、嫉妬も憤怒もその物体に意識が吸い寄せられる。

「これで、おしまい」

その意識が逸れている間に、鈍い音がその場に響く。

「っ!」

一瞬目線を切っただけ、だけど人間にとってはその一瞬で仕留めきれる自信があったということ。

四肢を投げ出し、力なく横たわる怠惰の悪魔。

「キサマァアアアア!!」

その姿を見てさらに怒りを増し襲い掛かる憤怒の悪魔を、人間はチラ見して軽く躱す。

遊ばれている。

いや、計算で予見されている。

嫉妬の悪魔は、ここに来て目の前の男の技量がとんでもない領域にあると気づく。

強欲も、色欲も、傲慢も、暴食も、そしていま怠惰がやられ、それで気づく。

こいつは敵に回してはいけない存在だと。

怒りで頭に血が上り、まったくそれに気づいていない憤怒のことを嫉妬が羨むという異常事態が発生したほど、嫉妬の悪魔の背筋に怖気が走った。

「逃げるなよ」

憤怒の悪魔の攻撃は、嵐のよう。

腕を振るえば、暴風が発生し、蹴りを放てば大地が砕ける。

そんな暴力の世界に身を浸しているというのに、人間の動くその空間だけはまるで凪いでいるかのように緻密な動きが再現されている。

嫉妬の悪魔が恐怖で、一歩下がったことにも勘づき。

視線を簡単に向けてくるほど。

「ヒッ!?」

嫉妬の悪魔の背筋に寒気が走った。

この存在は何だと疑問が脳裏に走った。

こんな人間を嫉妬の悪魔は知らない。

だから、咄嗟に出た己の怯えの言葉にも気づかず、タラリと垂れた額の汗にも気づかず。

「来るなぁ!!」

憤怒の悪魔の攻撃を躱しながら迫ってくる人間に向かって嫉妬の悪魔は攻撃を放つ。

嫉妬の悪魔が使える固有スキルは『嫉妬の悪魔の封鎖』

他者の能力に嫉妬するがゆえに、他者のスキルを使えなくするための魔法スキル。

嫉妬の悪魔の手の先から飛び出る黒い鎖、それに縛られれば、パッシブスキルもアクティブスキルも使えなくなり。

「何をする嫉妬!?」

少し弱くはあるが、物理的な拘束能力も持っている。

その封鎖を使って、人間を縛り付けようと試みたが、結果は憤怒の悪魔を縛り付けるという結末。

「いや、違う!私はあいつを!!」

恐怖にかられ、冷静な判断を下せなかったという事実を認められず、姿を見失った相手を探そうと周りを見回しているが、どこにもいない。

「嫉妬!後ろだ!!」

「なんだと!?」

自分の視界に奴がいない。

だが、遠くから見ていた憤怒の悪魔だけが、静かに上から着地し背後に回っている人間の姿を見た。

憤怒の悪魔の言葉に驚き、そして反応して迎撃に移ろうとしたが、すでに手遅れだ。

「ぐぅ!?」

腰に向けて振りぬかれたモーニングスター。

骨を折る音を響かせ、激痛が走り、文字通り腰を折られた嫉妬の悪魔は身動きが取れなくなった。

「・・・・・化け物め」

「お前たちだけには言われたくはないな」

大罪の悪魔だというのに、力を得たというのに、その強大だと思っていた力はたった一人の少年によって無価値だと通告される。

それが許せなくて、嫉妬の悪魔は人間を睨みつけ、悪態をつく。

この程度の言葉で止まるとは思っていない。

嫉妬の悪魔の目に映るのは、淡々と悪魔を倒す人間の姿。

だけど、悪魔にとってその姿は人からかけ離れた存在に見えた。

振り下ろされる攻撃は正確無比。

確実に命を終わらせる攻撃を、効率的に繰り出す。

それは果たして人間なのか。

悪魔だからこそそう見えているのではと思うが、意識が途切れるまで、考え続けても答えは出ずに嫉妬の悪魔はその生涯に終止符を打つ。

「ウォオオオオオ!!!」

それによって、嫉妬の悪魔のスキルから解放された憤怒の悪魔が、渾身の力を持って、強大な力を持った人間に襲い掛かる。

「この武器、お前が一番効果的なんだよな」

しかし、なぜこんな好戦的な悪魔を最後まで残していたのかという疑問を解消する一撃を人間は憤怒の悪魔に向けて振るう。

「ば、かな」

たった一撃、それだけで憤怒の悪魔の命は一気に消えかかった。

この程度の攻撃、耐えてみせると覚悟を決めての相打ち狙い。

その想定をはるかに上回る攻撃。

「そりゃ、竜の因子を持ったお前にとって、竜殺しの武器を真正面から受け止めるなんて無理な話だよ」

その衝撃に崩されて、最後に残された憤怒の悪魔も大地に散るのであった。