軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

22 手遅れ

さて、知ってしまったからには動かないといけない。

「まだいますよね!?」

「あ、トレードが来た」

「え、なぜミモザ様がここに?」

どうするかなと悩んでいると、全力疾走して司教が帰ってきた。

ミモザと一緒に出迎えると彼は目を瞬かせて首をかしげてしまう。

「もう!授業を放り出したのはトレードだよ!私はトレードを探しに来たの!」

「あ、それは申し訳ありません。急用ができてしまいまして」

少女に向かって頭を下げる司教という光景から、結界の巫女の地位の高さを感じさせるが、そのミモザが言ったことにハッとなり、さらにぺこぺこと頭を下げ始める。

その急用が俺なのだから、ちょっと申し訳なさを感じる。

「ミモザ、トレード司教の言う急用っていうのは俺のこと」

「リベルタの?」

「そう、試練を突破したからその案内にトレード司教が対応してくれたんだ」

「そうなの?」

なので、ここで助け船を出した。

俺の責任ではないけど、原因の一端ではある。

「そうですね。ですが、授業中のミモザ様を放置したのも事実です。本当にすみませんでした」

「うん」

ギクシャクしているわけではないが、これでひとまず大丈夫だろう。

そう思った時また駆け足で走ってくる足音が聞こえる。

「トレード司教!大変です!」

「何事ですか」

足音から騎士甲冑を着こんでいるのはわかった。

なので、神殿騎士の一人が登場したことには驚かなかった。

「アレイヤでテロです!邪神教会が襲撃してきました!」

「なんですと!?」

「っ!」

しかし、その後の言葉に俺は目を見開く。

あまりにも展開が早い。

いや、俺たちが来るよりも先に準備を済ませていたのか?

それとも別の事件が発生した?

知りえない事件が起きた可能性と、俺の知っている事件が起きたという二つの可能性に悩みつつも、まずは落ち着けと深呼吸して神殿騎士とトレード司教の会話に耳を傾ける。

ミモザは何かが起きたことは理解しているが、細かいことは理解していない。

しかし、良くないことが起きているのは理解しているのか、きゅっと服の裾を握って不安を抑えている。

「被害は?」

「詳細は不明、しかし複数の邪神教会のテロリストがアレイヤの街中に入り込んだと報告があり、散発的に破壊活動をしているとのことです・・・・・すでに市民を人質にとって立て籠もったり、建物を破壊して回って活動している者が居たりと被害が広がっています。大神殿からはこちらにも襲撃がある可能性があるので警戒を厳にせよとの命令が下りました」

どちらにせよ、後手に回ったのは事実。

この状態で俺にできることは限られた。

「そうするほかありませんか、巫女様には神山の結界の維持をしてもらいます。騎士団は非番の者も緊急招集を」

「はっ!登山者はいかがいたしましょうか?参拝客など被害にあうかもしれません」

「・・・・・神殿の大広間の方に収容しましょう。出入り口を厳重に警備し、避難者の保護を!」

「承知しました!」

地位もない俺は、ただの試練を突破しただけの存在。

神殿と無関係とまではいわないが、関係の薄い俺がここで口出しすることはできない。

おまけに装備は試練で手に入れた物だけと、相性の悪い物ばかり。

だけど。

「それは、止めといた方が良いですよ」

トレードたちの真っ当な行動に対して警告しないと面倒なことになる予感して、頭を掻きながら申し訳ないと前置きして話に参加する。

「間違いなく登山者の中に邪神教会の仲間がいます。下で暴れまわっている輩たちも本命でしょうけど、大本命はこっちだと思いますよ」

報告に来た神殿騎士からの、『何だお前は』という視線をトレード司教が手でとどめた。

知識からの推測、それはある意味で諸刃の剣。

知識を持っているがゆえに先入観を持ち、その知識を前提に物事を進めてしまう。

だからこそ、推測ということをするとき先入観で目を曇らせないように気を付けないといけない。

「リベルタ殿、その可能性は低いかと。軽くとはいえこの山に登るためには契約を結ぶ必要があります。その際にこの神殿に害することを禁ずる項目があります。それを破れば神の怒りに触れ神罰が下されます」

1つ1つ、見落としがないかそれを確認するために思考をフル回転させ、彼らの常識を崩す必要がある。

「正規ルートならそうでしょうね。だけど、この大きな神山すべてをカバーできますか?」

「神山は全て結界で覆われています。非正規のルートで入り込もうとすれば結界で弾かれます」

結界を妄信し、神の契約により安全を確信している。

確かに、その二つは強固な守りを生み出している。

それは事実だ。

だが、絶対ではない。

「本当に完璧なんですね?」

「・・・・・知恵の女神の使徒であるあなただからこそ、この神山の守りに対しての提言を聞いているのです。疑うだけでしたら申し訳ありません。時間が惜しいですのでリベルタ殿も避難してください」

実際に過去に神殿を打ち破られた実績がある。

その過去の事件が今この場で起きている。

「では、この可能性が可能かどうか判断してください」

被害を減らすのには、押し問答をしている暇はない。

幸いにして、知恵の女神の使徒という立場は神殿関係者には有効で、神が課した試練を突破し、大量の神の欠片を持ち帰った実績が話を聞くに値するという価値を俺に与えた。

「この神山の結界は非常に優秀だ。万物を全てはじき返すような頑固な結界ではなく。大気や雨など自然環境で生活するために必要な物は通し、モンスターや邪神教会などの悪意を持った存在を選別し弾くことができる。ここまでで間違いは?」

その機会を活かす。

刻一刻と、何らかの被害が出て、この会話をしている間にも邪神教会は行動を続けている。

共通認識の確認をしている暇はないと思うかもしれないが、ここでこの確認を怠り、間違った発想を言う方が後で危険になる。

「ありません。細かいことは訂正している暇はありませんので概要としてその認識でよろしいかと」

「ありがとうございます。その点を踏まえて、この結界を悪意を保持したまま乗り越える手段があります」

そのことをわかっているのか、早くしろと急かすことなくトレード司教は頷き、肯定してくれる。

「なんと!?」

「馬鹿な!そんな手段があるはずが」

なので、俺は隠すことももったいぶることもせず、素直に伝える。

トレード司教は驚くが、頭の固そうな神殿騎士はそんなことは有りえないと俺の言葉を否定しようとする。

再び、トレード司教によって止められて口を閉じることになったが、目線で絶対の自信がある結界を否定されて目に怒りを灯している。

「教えていただけますかな?」

「ええ、1つは精霊回廊を使う手段です。物理的に強固であっても異空間を通って入ってくる精霊回廊でしたらそれは意味をなさない」

「たしかに、その通りですが、精霊は神と親しい関係を築き、悪意に敏感。協力するとは思えませんが」

「無理矢理にでも協力させる手段を邪神教会が持たないとでも?」

「・・・・・その通りですな。無理矢理従わせるくらいのことはしますな。ですが、精霊は横のつながりが強いはず、必ず精霊たちの報復があるはずです」

「ですけど、一度限りならその手段は使える。それこそ命を捨てて何をするかわからない集団であればその一度で十分」

その怒りも、俺の説明を聞いて目を見開きかき消される。

有り得ないことは有り得ない。

それがFBOでの常識。

精霊の協力を得ることは難しいが、手段の一つとして可能性はある。

俺が淡々と説明するのは、FBOでも仮説として提唱される過去の事件の犯行手口だ。

真相は闇の中、されど、推理小説を読み解くように推論は色々と創造される。

「・・・・・1つとおっしゃいましたが、まだ他にも存在するのですか?」

精霊回廊を使った方法は、可能性は三割くらいだと踏んでいる。

「あと2つほど、2つ目は可能性は低いですけど配慮しておいた方が良いというやつです」

次に語るのは、とあるプレイヤーが低レベルで神山の結界を突破する手段を探して発見した方法だ。

「スタンピードを複数引き起こして、神山の結界の許容限界を超えた物量で押しつぶすことです」

「そんなことをさせるわけが無かろう!我ら神殿騎士団がこの神山の周りどころか周囲一帯の土地を巡回している。ダンジョンの放置などありえん!」

いかに強力な神山の結界であっても、物量を前にしたら無と帰す。

これをやるには王都で引き起こされたスタンピードの5倍から10倍ほどのモンスターの数を用意する必要がある。

ダンジョンのスタンピードを引き起こすには、神山の周囲を常に警戒している神殿騎士の巡回の目を掻い潜る必要が出てくる。

「ええ、ですからこの強引な手段は可能性は1割にも満たないと思います。それにこんなことをすればアレイヤでの騒ぎの比じゃなくなってます。自分も可能性は低いと考えます。ですけど、今は神殿は襲撃の方に注意がいっている。そういう時に準備をする可能性もゼロではない」

「っ!」

伝令の騎士は自分たちの職務怠慢を疑われて怒ったのだろう。

その気持ちはわかる。

だけど、その感情で有り得ないと考えるのは、危険だと釘をさすように説明を続ける。

「落ち着きなさい。君がここでの職務に熱心なのはわかっています。ですが、リベルタ殿の言うこともまた有り得る可能性です」

職務に忠実故に真面目で正義感が強く融通が利かない。

こういう手合いが、一番邪神教会にとってカモなんだよね。

諭してくれる、トレード司教のような人がいるから問題になっていない。

「それで、リベルタ殿、貴方が考える3つ目の手段とは何でしょうか?」

「堕生の盃」

今はその価値観を修正している暇はない。

だから、俺がこの結界を突破し、悪意を維持し、この神殿を襲撃する方法はなにかと考えた中で一番可能性が高いと踏んだ手段。

「っ!?それは」

「その反応、トレード司教は知っていましたか」

FBOの中には胸糞と感じるようなフレーバーテキストを含んだアイテムが存在する。

トレード司教は知っていたようだが、隣の神殿騎士は知らないようだ。

不勉強なのか、それとも秘匿されているのか。

このアイテムは倫理観という物が機能しないといけないと判断され、プレイヤーメイドが許されないアイテムの1つ。

「見た目は簡単な水筒にも偽装できる、さらに中身を封印することで普通の物に紛れ込ませることができる。作るのに必要なのは666人分の人の命」

人を人の枠から外させる、アイテム。

「そしてその糧となった命を使う人柱。それによって生まれる人工悪魔」

堕生の盃というアイテムは、一人の邪教の悪魔を崇拝する強靭な精神を持つ人間を、大勢の人間の命を犠牲にすることで、液体化した悪魔の魂に加工する異常品。

「その盃の液体を口にした存在は、液体となった悪魔に体を乗っ取られ、その体が崩壊するまでその力を振るい続ける化け物になる」

犠牲になる人間の多さもさることながら、その悪魔の魂を背負いきれる強靭な精神を持った人間を探すことの方が難しいゆえに、量産することはできないが、いざという時のために作ることをやめない。

これを作るために、邪神教会は村一つを滅ぼす。

そんなサイドストーリーが存在する。

「そんな物を飲む輩が神山に入り込めるわけがないだろう!!」

「ええ、普通なら入ることはできませんよ。だけど、知らなかったら?普通に水だと言って売られていた物の中にそれが紛れていたら?」

その闇をこの若い神殿騎士は知らない。