軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

12 おかしいと気づく者

「おかしい」

大きくため息を吐いて、俺は現状の異常さを嘆いた。

「なんで、こんなに難易度がバグってる? FBOをプレイしてた時だってこんなファンブル起きたことないぞ」

初手から外れを引くのはまだわかる。

次も外れを引くのはまだ納得できる。

3回連続で外れを引くのは運が悪いと納得できる。

「さすがに14階層連続で外れはないだろ! クソが!!」

されど、ここまですべて外れという、このまま外れ階層をコンプリートする勢いでファンブルを繰り返していれば、さすがの温厚な俺もキレてしまう。

怒りを少しでも吐き出すために振るった槍は、計算通りの耐久限界でへし折れて柄だけが手元に残る。

「なんで!」

その残った柄も有効利用しようと、襲い掛かってきたうねうねとうねる触手を縫い留めるために、触手ごと地面に突き立てた。

「こんなに!」

一瞬無手になるが、マジックエッジを纏わせた足で襲い掛かってきた複数の触手を蹴り払っている間に、ストックが乏しくなってきた片手剣を腰から抜き、剣戟で触手の対応をする。

「厄介な!」

多勢に無勢、質ではなく量で圧殺に来ている敵の名は、テンタクルス。

丸い球体状の胴体に一つの目と大きな口を備え、胴体から伸び縮みする触手を10から30の振り幅で持ち合わせるモンスターだ。

赤紫色の体から、粘ついているのがわかるような体液を滴らせて、背中から怖気を感じるような不快音を響かせ、この薄暗い洞窟エリアを縦横無尽に移動する。

「モンスターがいるエリアばかり当たるんだよ!!」

そしてさらに厄介なのが、俺のやり口を学習したと言わんばかりに、武器がドロップしないモンスターエリアばかり当たるようになっている。

「ちっ」

マジックエッジで武器を保護しているが、それでも衝撃などはカバーできないから消耗はする。

おまけにテンタクルスの触手は再生するから、与えるダメージが蓄積しにくい。

「飛び道具が少ないっていうのによ!」

適当な石ころを拾って、眼球めがけて投げて怯んだところに、触手を避けて胴体めがけて突撃して切り刻んで仕留めるのが常道。

「ちっ、魔石だけか」

このテンタクルスの厄介なのは、ソロで活動するのではなく常に3体以上でまとまって行動することと、戦闘を開始すると同時に周囲の戦っていない個体を呼び出すという『リンクモンスター』としての面倒さを兼ね備えている点だ。

戦闘方式は、触手を使った捕縛と、鞭のようにしならせて攻撃するミドルレンジからの攻撃。

他にも、土魔法を使うからそれも警戒しないといけない。

正面から当たるには少々骨が折れるモンスターだ。

「・・・・・」

おまけにドロップも渋い。テンタクルス系のドロップ品は毒などの素材ばかりで、武具系のドロップはない。

最早魔石には見向きもせずに、早々に戦闘エリアからの脱出を図る。

この場に居座っていては追撃がきて、こっちがジリ貧になる。

装備している腰の鞄に手を伸ばし、ポーションの残数を確認するが、一番多かったころと比べれば5分の1まで数を減らしている。

4階層前から、ポーションの補給も厳しくなっている。

武器は道中で手に入れた万全の片手剣が3本、槍は少し使っているのが1本、万全の片手斧が1本ともうそろそろ壊れそうなのが1本。

投擲用の武器はすべて使い切り、防具のアップグレードは最近の層ではできていない。

マントの劣化具合からして、そろそろ中身の武具にも影響が出るのは必至で、時間の問題だ。

「地形変化が起きていないのが唯一の救いか。こりゃ、エンカウントは最小限にしないと詰むな。《影纏い》」

ダンジョンの階層選びに意図的なものを感じる。

俺を殺しに来ていると思えるほどの難易度、そしてその難易度を与えているというのに殺せていないことへの苛立ちすら感じる。

「さてさて、神様に恨みを買った覚えはないんだけどな」

潜伏にも使える《影纏い》でテンタクルスたちのヘイトを避け、戦闘を回避していく。

こうもダンジョンを造った奴の露骨な悪意を感じる配置をされたのなら、もはや補給はできないと判断して行動するのがマストだ。

今回の階層がリドル系統なのがまだ救いか。

「あった、えっとなになに」

この洞窟に隠されている碑文を読んで、その場で問題を解くのがこの階層のギミック。

「朝は4本、昼は2本、夜は3本の生き物? えーと、これ普通に考えたら人間なんだけど」

碑文に向けて答えを言えば、音声認識機能によって答えが受理される。

「答えは『ドルブンデ』っていうモンスター。こいつは時間帯で足の数が変わる移動する植物モンスターだ」

『正解だ。残り22問だ』

「これで8問、全部で30問って・・・・・マジで最悪の数値を引いたぞチクショウ」

そして答えられた碑文は、砂のように崩れ落ちて消え去る。

問題そのものはまだ答えられる範疇だが、隠されている碑文を探すのが本当に手間だ。

安全地帯が設置されているのが温情と言わんばかりに、水の補給は問題ない。けれど、食料の供給がストップされているのがえぐい。

このフロアで設置される問題の数の最大値は30問。そしてその問題数はこのフロアに踏み込んだ際に通知される。

30という数字を聞いたとき、どれだけ運がないんだよと嘆いた。

されどクリアしないと脱出もできないので、最高効率の最短距離で問題を解きまくっている。

答が外れたら、碑文からモンスターが飛び出て、そのモンスターを倒さないと問題に再解答できなくなるから気を抜けない。

「この先は確か」

《影纏い》のおかげでエンカウント率は下がり、足音にさえ気を配れば戦闘はほとんど回避できる。

洞窟内を疾走し、黒い存在となった俺は、テンタクルスの索敵包囲網である触手を踏まないように走り抜ける。頭の中の地図と碑文の位置を照らし合わせると――。

「どうあがいても、モンスターハウスを潰さないとクリアできないよな」

眉間に皺を寄せて、困り顔を披露せざるを得なかった。

碑文の配置エリアの中で、遠回りの経路で最低一カ所、最短経路であれば二カ所ほど、モンスターの数が著しく多い『モンスターハウス』と呼ばれるエリアを突破しなければならない。

「使うか」

こういう時のために、魔法を封印したアイテムを温存している。

あの時助けた火の精霊の母親からもらったアイテムの所持を確認して、脳裏に浮かぶ地図を頼りに全力で駆け抜ける。

《影纏い》を解除し、あえて触手を踏み抜く。

『キィイイイ!?』

敵の包囲網に引っ掛かり、途端にテンタクルスの警告音が辺り一帯に響く。

そうなれば、モゾモゾと動き出す気配があちらこちらから感じ取れる。

「そうだ! 敵はここにいるぞ!!」

俺は大声を上げて、さらに敵を引き寄せながらモンスターハウスに突っ込む。

そこは触手の地獄。隠れることもできないほどテンタクルスがあちこちに蔓延る。

初見の攻略者にとっては地獄絵図だが、慣れた俺なら即座に眼球を動かし全体のモンスター配置を把握できる。一歩目はサイドステップで右に跳ぶことを選んだ。

急がば回れ。このモンスターハウスの配置的に、真正面から走り抜けることは無理だと判断。

安全圏は右に4歩移動した先にある、足二つ分程度の隙間。

そこにまずは飛び込み、最初の警告音に反応したテンタクルスたちの触手攻撃を回避。

目と鼻の先を通り過ぎる、触手の包囲網。

その包囲網を潜り抜け、さらにその触手の本数から逆算して、動いていないテンタクルスの数を把握する。

一歩引け。

相手の触手が動いたことにより、安全圏の位置が変わる。

視界、音、そして肌から感じる空気の揺れ。

この体になってから、FBOでは使えなかった視覚と聴覚以外の五感もフルに使えば、さらに高精度でモンスターの動きを把握できるようになった。

今度は体のほんの数センチ隣を、別の触手を操るテンタクルスの攻撃が通り過ぎた。

「・・・・・」

眼球は忙しなく、テンタクルスの動きと触手を追う。

傍から見れば追い詰められているように見えるかもしれないが、触手の攻撃によって砕けた石を空中で確保。冷静に今度は前に3歩進んで攻撃を回避し、左側のテンタクルスに向けて石を投擲した。

その石は、天井に張り付いたテンタクルスの眼球に直撃。

クリティカルダメージにより、天井に張り付いていた体は地面に向けて落下し、ちょうど俺に向けられた別の個体の攻撃が、その落下してきた個体に直撃する。

触手同士が絡み合い、動きが取れなくなる。

その隙を使ってさらに前進し、今度はジャンプして足払いをかけてきた触手を回避する。

少しずつ、焦らず前進し、わずかな隙間に体を滑り込ませて触手を回避し続け、その間にもどんどん出入り口からテンタクルスが入ってくる。

外からもテンタクルスが流入して、どんどん狭まっていくモンスターハウスの空間。

集まれば集まるほど回避できる空間は少なくなるが、それでも焦らない。

そして出入り口までついにテンタクルスに埋め尽くされ、逃げ場が無くなった瞬間、俺は大きく息を吸い込み、そのまま呼吸を止めてあらかじめ見つけていた岩の隙間に身を投じる。

ついさっきまで俺がいた場所には、置き土産と言わんばかりに、魔法を発動直前のアイテムを放り込んでおいた。

そして発動直前に岩陰に入り込み、さらに《影纏い》を発動。

俺の移動に反応し、触手が一斉に岩の隙間を狙って攻撃を始めるが、回避行動をとらなかったお前たちが悪い。

密閉空間で発動する、爆発魔法。

マントで体を覆って、さらに《影纏い》で防御してなんとかダメージを抑えたが――。

「ふぅ、だいぶ削れたな」

その直撃を受けたテンタクルスはどうなったか。

あれだけいたテンタクルスたちは、一発の範囲魔法によって見事に消滅。

数が多い系統のモンスターは耐久値が紙装甲の場合が多く、触手の再生速度は凄まじいが本体のHPはそこまで高くない。

だからこうやって、まとめて薙ぎ払う系の魔法に弱いんだよね。

しっかりとドロップアイテムを落として消え去ったテンタクルスの群れ。モンスターハウスが復活するまでのリポップ時間は約1時間。

遠回りすると戻ってくる頃には復活している計算だけど。

「さてさて、温存してたアイテムをここで2個消費かぁ。できればこの後にまた補充できれば万々歳なんだけど、この調子だと難しいよねぇ」

最短経路で攻略する予定だから、リポップ前にはこの通路に戻ってこれる。

この先には碑文が7つはあるはず。

グダグダと文句を言いつつ、被った砂埃を払って再び駆け出す。

ここら一帯のテンタクルスはあのモンスターハウスに引き込んだから、リポップするまでの道中は安全だ。

「ゲドル山!」「あぶく鳥!」「グルグル・トーテム!」

といっても完全に排除したわけではないから、やはり隠密で行動してエンカウントは最小限に。回避しきれない敵は暗殺して碑文を探し、回答していく。

「バビニ湖!」「ポポル渓谷!」「トックト!」

しかし問題がすべてひねくれているな。

普通に答えたらはずれになるような、FBOでは『悪問』として認識されているものばかり出題される。

「うーん、やっぱり誰かに監視されている?」

試練だから審判役の誰かが見ているのはわかる。

だけど、挑戦者のやり方を見ながら難易度を調整するのはフェアなのだろうか?

もしかしたら、過去に攻略できてきた偉人たちはこの難易度をクリアしたのかもしれない。

そうだとしたら、プレイヤーとしてはなかなかの腕前だと賞賛したい。

しかし、その可能性は低いなと俺は思う。

意図的に難易度を変えられている感が、この試練に入ってからずっとある。

だれがどうやってこの試練に介入しているか、その点に関してはおおよそ見当はついている。

「・・・・・」

変な神様に目を付けられたかなぁ?

テンタクルスの触手攻撃を回避しながら、何をやらかしたかと記憶を掘り返すのであった。