軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

9 そのころ

嵐の森、吹雪の山、そして次に待っていたのは灼熱の砂漠。

「夜が来ないとか、マジで俺を殺しに来ているかって思ったわ」

殺意高めの神の試練。

FBOでもここまで運が下振れするのは珍しいと言わんばかりの、その数々の難所を乗り越えて、どうにかこうにか一日目の安全地帯まで潜り込んだ俺は。

「まぁ、何とかするけど」

むしゃむしゃと、第七層目のサバンナエリアで獲得した巨大な牛こと、ブルズホーンの肉に塩をかけて焼いて食べる。第五層は絶海の孤島スタートで、次の階層への転移陣のある隣の島に渡るという鬼畜ステージで、大群で泳ぎ回るサメではなくシャチ型モンスターであるハウンドオルカ相手に、因幡の白兎よろしく誘き寄せては足場にして、空歩との組み合わせで跳んで渡るというアクロバットみたいなことをしてクリアした。

そのついでに海水で塩を作って塩分の確保をして、次の第六層の火山地帯では手に入れた火山石で熱源を確保。その場で作った土器の中には今もしっかりと熱を持った火山石がたくさん入っていて、第七層までなんとか持ち込んだ土器の上に平らな石を置いてフライパン代わりにしてブルズホーンのドロップした肉を料理しているわけだ。

焼けた石の上で、ジュウジュウと美味しそうな音をたてて良い匂いの煙を上げながらダンジョン産のモンスターのドロップした肉を焼いている。

「うーん、塩味だけでこの旨さ。さすがクラス4のモンスターだな。食べ応えがある。ただまぁ、栄養バランスを考えると果物とか野菜が欲しいところ。もしくは付け合わせでジャガイモとニンジンが欲しいな」

その上に塩を目分量で一振り、二振りと、一昔前に流行った独特な手のポーズで肉にかけて一口頬張る。

サバイバル生活ということでもちろん、食料も現地調達。

最低限の水と食料はあるが、それを頼りにこの試練を突破することは土台無理だし、充分な食事がないと力もわかない。

なので、攻略に必要な物を集めつつしっかりと食料も確保したのだ。

おかげで、サバイバル生活とはなんぞやと疑問がわくくらいに、豪勢な食事になっている。

「うーん、ブルズホーンのドロップで毛皮マントが出てくれたから寝るのは問題ないし、火山石を大量にゲットしたから火を起こすのも問題ない。あとは水回りが手に入ればひとまずは生活には困らないな」

立て続けにきついエリアを攻略しているから、さすがの俺でも疲労は感じる。

だが、着々と装備を更新して、初期装備から比べ物にならないくらいには強化できた。

殺意高めといっても、俺にとっては何度も攻略してきて勝手知ったるエリアだ。

勝ち筋というのは理解しているし、安全マージンを取りつつ効率的に攻略することなんて朝飯前だ。

「ネルたちは大丈夫として、問題はシャリアの方かぁ」

アレイヤに来てすぐにまさかの邪神教会絡みのトラブルと出くわすことになったが、それはこっちには関係ない。

関わり合いを持たないように立ち回ればいいだけのことと割り切れる。

それよりも問題なのはこちらから関わり合いを持とうとしている方だ。

「ググル魔改造計画はシャリアが一番適任だとは思っているんだよなぁ」

ググルが持っているのはとある土地に生える苔だ。

その苔は一見地味に見えるのだけど、その苔を使わないとエリクサー生産ラインの地盤が作れないという非常に重要な素材なのだ。

その苔自体がエリクサーの素材になるのではなく、その苔がはぐくむ土が重要になるというわけだ。

ググルが売っているのは、その苔が育てた土によって生み出された高級な薬草で、ミドルクラスのポーションを作ることができる。

おかげさまでググルの一族はお金は潤沢にあるというわけだ。

その苔を生きたまま手に入れるにはググルと仲良くなる必要がある。

しかし、そのググルを攻略するには男ではだめなのだ。

「女性不信なのに、男嫌いって言うのがなぁ。地味に攻略難易度を上げているんだよね。ここまで行くと人間不信かって言いたくなる」

ぼそぼそと一人で呟きながら、食べ終えた後始末をする。

ダンジョン内にある安全地帯ならモンスターに襲われる心配はないから気が抜ける。かといってずっと無言でいるのはしんどい。

なので、こうやって頭の中で考えていることを口ずさむが、傍から見たら普通にヤバい奴だ。

だけど、食器とか片付けながら独り言って良く呟く人いるとは思うけど。

ググルという存在は、FBOでは厄介なNPCとして有名だ。

性能的に見るのなら中の下、戦闘面での才能もなければ商人としての才能もない。

ステータスや、スキルで最強にすることはできるが、性格面と思考面で最強に至れないという立ち位置のキャラだった。

なので、彼の評価は素材引換券という立場に収まっている。

ネタで、ググルで邪神を倒してみたなんてネタ動画が出るようなこともあった。

そんなググルの攻略をする際は、男性キャラではまず攻略不可能と言われている。

その理由はいたって単純、自分よりも他の男の方がモテるからだ。

ひがみと言えばそれまで、しかし、男としてのなけなしのプライドがそうさせてしまうのだ。

女性だと性欲全開、男だと敵対心という非常に面倒なキャラということ。

しかし、エリクサーを作れる環境を用意するにはググルと仲良くするしかない。

強奪とか、盗むとか、金を積んでとか色々と方法はあるかもしれない。

ただ手に入れるだけならそれもできるんだけど、『生きている』苔を手に入れるとなると、それでは難しい。

その苔、光明苔っていうんだけどすっごいデリケートな苔なんだよ。

夜になるとうっすらと光って、幻想的な光景を演出するイルミネーションにも使えそうな苔。

しかもこの苔のすごいところは、素材の中でもレアケースの複合属性持ちの素材なのだ。

光と水、そして土の三属性の効果を持っているとんでも素材。

鑑定スキルで確認したとき、こんな苔が!?となったけど地面環境を強化してくれるスペシャリストと知ってから、FBO錬金術師部では必須の相手上位にランクインしましたよ。

光と影のバランスが絶妙で、さらに清流にしか生育しない上にその環境から離れるとすぐに枯れてしまう。

ググルのストーリーを読むとその苔が生まれた経緯を教えてくれるが、この苔、実は突然変異らしくて、ググル一族の創設者である男が当時結婚していた、東から嫁いできたカエルの鱗人の嫁が発見したことが始まり。

薬学に詳しい、その嫁が夫を説得して栽培を開始、それが売れて大店の大商人にまで上り詰めたという。

カエル顔はその嫁さんの遺伝らしい。

薬学の一族の女性がいたからかろうじて生育に成功したと言っても過言ではないし、生育の仕方に関しては徹底した指導が施され、その生育の仕方を完璧にマスターしない限り当主にもなれないとFBOでのググルは語っていた。

そんな厄介な苔を十代にわたって守り続けているのがググルの一族なんだ。

そりゃ専売になるよ。

「あとは、シャリアがどうにかググルと仲良くなって身だしなみとかの指導をしていけば婚活イベントが発生する・・・・・といいなぁ」

そんなググルと接触するには、女性キャラユニットで交渉するか、男女という垣根を潜り抜けて女性的な美しさを体現したシャリアというユニットを使うのが一般的だった。

ここで注意なのは、女性ユニットを使った場合はググルはその女性に固執する。

仲良くなり、好感度を上げることが出来たと思ったググルはもうこれ以上の女性はいないと熱烈な交際アタックを敢行してくる。

そこで断ることはできるが、その際にはググルフラグが完全に折れる。

これ以上関わり合いになることもできないし、苔も手に入らない。

そして交際を了承するとその女性ユニットの側にずっとググルがいるようになる。

さらに、全力で愛するから主人公側からその女性ユニットの好感度は上昇しなくなるというシステムが構築されていた。

女性と仲良くなり、交際できるようになったググルは落ち着き、心のゆとりを持ててからは商人としてある程度頭角を示すようになる。

だから、本当に欲望のはけ口さえどうにかなればいいというわけだ。

ここで問題なのは、ググル攻略に女性ユニットを使った場合、シンプルにプレイヤーとしてその女性ユニットへ込める感情の折り合いと、そしてググルと交際し始めると戦闘ユニットとしては一切使えなくなるというデメリットがあることだ。

しかし、それはあくまでFBOでの判断基準だ。

この世界であれば、恋愛感情という一番不安定な感情は現実に即して考えた方がいい。

となれば無理矢理結婚させたりしたら普通に不和が起きるのは間違いない。

なのでゲームみたいに差し出し戦法は使えない。

嫌悪感というのは人間の生理的本能故に、なかなかぬぐえないしな。

となってくると、確実な方法はググルの男としての魅力を底上げして、自力で交際相手を確保できるようにすることなのだが。

それがシャリアによるググル魔改造計画だ。

もともとFBOでシャリアというユニットは美容関係にかなり詳しい存在として認知されていた。

そして、その見た目からググルと接触させることができるのでは?と考えられていた。

その予想はズバリ的中、見た目が女性ということで敵意を抱かれずあっさりと交流を持てて、さらにはその美容知識から男性としての格を上げるよう指導もできた。

それを知れたことにより、当時のFBOプレイヤーでは革新が起きて、ただでさえ人気だったシャリアの株がググル攻略特効キャラとして認知されたことによりさらに上がることになった。

「一応、俺の持ってる中で使えそうな美容知識とかはシャリアには渡しておいたから大丈夫だとは思うけど」

基本的な展開としては、シャリアの方からググルに接近して商売の話で仲良くなるのが王道。

恋愛云々ではなく、商売として苔を譲ってくれないという話に持っていき、そのまま苔を手に入れられればそれはそれでいい。

しかし、彼も商売のタネとして使っているから早々に入手できるとは思っていないし、エリクサーを生成するとしたら苔の管理者としてググルは理想編成に入る。

「理想は、シャリアがググルにナンパされることが一番なんだよなぁ」

仲間に入れられるなら入れたいというのが本音。

けれど、ググルを攻略するのは長いスパンが必要で、嫁探しまで世話をしないと仲間に入らない。

その中で時短方法がシャリアがナンパされるという流れからの魔改造講座というわけだ。

シャリアがナンパされる確率は、低確率。

検証班が検査した結果だと、約5パーセント。

シャリアの服装とかで補正をかければ最大で11パーセントまで上げれる。

何度も挑戦できるから、高いと言えば高いが時短を考えるとナンパされれば儲けもの程度の考えだ。

「ナンパされてからの、交流、そこから性別暴露からの脳破壊してそこからググルを魔改造して相手を見つけさせてハッピーエンドの結婚っていうのがググルを仲間にする方法としてFBOでの主流だったけど・・・・・さすがにそこまでうまくいかないよなぁ」

理想の流れは伝えてあったけど、俺の現状の試練の難易度からお察しする通り運が悪い。

だから、ググルの方もそこまでうまくいっていないだろう。

最悪、出会ってない可能性があるかもしれないしな。

「まぁ、人の心配するよりも俺の心配した方がいいよな」

さて、そろそろ明日に備えて寝るとしよう。

明日からまた試練の攻略だ。

安全地帯の外は濃霧、そしてこのエリアは食虫植物のモンスターがはびこる樹海。

トラップモンスターばかりのエリアに睡眠不足で挑むとか阿呆だろ。

少し肌寒いけど、火山石のおかげで暖は取れる。

毛皮にくるまり横になり、目をつむる。

絶対にクリアしてやると心に誓って今日は眠る。

ただ、この時の俺は知らなかった。

ここで俺が苦労している分、その反動でかシャリアが最高効率でググルを攻略していることに。そしてここから先の試練の難易度がファンブルにファンブルを重ねたような試練になることに。