軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

25 付喪神

『そもそも、そのスーツあなたが着ないと意味ない物よ』

「このスーツって実は専用装備なのか?」

人の心に訴え、好感度を上げるアイテムなんて使い方次第でとんでもないヤバい物になるのが目に見えている。

これを神々しい衣装とかにして、神の使いなんて名乗れば誰でも宗教団体を立ち上げられるわけで、悪用される可能性を懸念していた。

混ぜるな危険のスキルの組み合わせ。FBOでは好感度上昇くらいにしか活用方法がなかったからうっかりしていたが、現実だととんでもない使い途が生まれるスキルも当然あるわけだ。

『いいえ、専用装備ではないわよ。着ようと思えば装備自体は誰でもできるわ。でも、万全の効果を発動できないわよ』

「?スキルはスキルだろ?誰でも使えると思うのだが」

今回はそこら辺をしっかりと把握していなかったことに対して反省しつつ、今後の対策をするためにそこら辺を確認しようとしたのだが、次女さんは心配いらないと言った。

スキルというのは手に入れば誰にでも使えるのが前提だ。

入手難易度の差はあれど、手に入れて使えないというのはまずありえない。

だから、次女さんの言っている俺の心配は杞憂だという発言はさすがに納得できない。

これがせめて、専用装備という、特定の人物にしか装備できない代物であれば問題ないかもしれないが、専用装備化もしていないのだ。

もし、このスーツが悪用されたらとんでもないことが起きる。

『使えるわよ。だけど、あなたがしたような効果は出ないわ』

「???獲得すれば誰にでも一定の効果を発揮するのがスキルだろ?なんで?」

その心配を解消しようと質問を重ねれば重ねるほど、次女さんの説明を理解できない。

『結論だけで言えば、スキル同士で相性が悪いからよ』

「????」

そして答えを言われてもさらに理解できなくなった。

首を傾げ、そして顎の下に手を添えて考えるがなお理解ができない。

どういうこと?と余計に首をかしげることになった。

スキル同士の相性がいいから相乗効果で人誑しなんてことが誰でもできるような装備ができたのだろう?

なのに相性が悪いってどういうこっちゃ?

『ああ、もう、無自覚なのね。いい?スキルを発動する時ってあなたはどういう風に考える?』

未だ正解には届かず、じれったくなった次女さんが少し前のめりに体を乗り出して、聞いてくる。

その際に解けた金色の髪が揺れ、ほのかに花のような香りが漂う。

勝気な印象の瞳が、俺の目を覗き込み質問してくるが、ちょっと別方向に意識を持っていかれそうになり、俺はそれに意識を持っていかれないよう気を付けてその質問を考える。

「そりゃ、スキル発動を意識するさ。使うって考えないと普通発動しないでしょ」

『そうね、それが普通ね。それじゃぁ、何の効果が付与されているかわからないそんなマジックアイテムを発動しようとするとしたらどう?』

「何の効果かわからないんだろ?そりゃ、とりあえず魔力を流すしかないんじゃないか?」

全く質問の意図が掴めない。

ごく当たり前の質問。

『それだと、スキルは発動しないわよ』

その質問に答えた結果、再び矛盾を抱えてしまった。

「え?」

付与効果を知らないマジックアイテム、この場合はスーツのことを指すのだろう。

次女さん曰く、なにもスキルを認識していない状況で魔力を流してもスキルは発動しない。

だけど、俺は発動させている。

ここでまた矛盾が生じている。

スキルを発動するには、スキルの種類を認識し発動するというプロセスが必要だ。

だけど、俺がスーツを着た際にはスキルの種類を認識していない。

すなわちプロセスが欠けているのだ。

それなのに発動している。

さっきから次女さんの言っていることはおかしいことばかりだ。

「ちょっとまって、混乱してきた。話をまとめると、このスーツのスキルは俺だから発動できた。だけど、専用装備ではないから誰にでも装備はできる。だけど、俺以外の人は装備しても万全の効果は発揮できない。その理由はスキル同士の相性が悪いから」

話をまとめようと必死に頭を回しても余計に混乱を招くような話ばかり、これをどうやって矛盾なく説明できるというのだ。

「この矛盾しているような説明で今回の事態を理解しようとすると、スキルの種類を知らずに発動するには何かの条件が必要で、俺にはそれがあるって解釈したけど間違ってる?」

『いいえ、あっているわ』

まるで、糸が乱れ絡まり解けなくなった糸玉を前にしたような感覚。

「疑問点を1つずつ解消していくよ。まず、スキルの相性が悪いってどういうこと?」

『言葉通りの意味よ『威圧』『鼓舞』『士気向上』『魅力上昇』の四つのスキルは互いの長所を潰し合うスキルなの』

「まぁ、威圧しながら鼓舞するって、冷静に考えれば挑発行為になるしな。その状態で士気なんて上がらないし、魅力的にも映らないよな」

『でしょ?』

「でも、結果的には交渉を円滑に進めることができた。それがどういうことかと考えると・・・・・いや待て。次女さん、スキルの認識はシンプルにそのスキルを知っているか否かということか?」

その第一歩、その矛盾を解くための糸口。

『そうよ、スキルの認識はその装備に付与している物を理解しているか否かじゃない。スキルその物を知っていればいいのよ』

「確かに、俺はこの四つのスキルを知っている。だから魔力を流せば発動する条件を満たしているということか。ほぼ無意識で使えたということか」

1つ目の矛盾、気づけば簡単だった。

その装備に付与されているスキルを認識するのではなく、そもそもその付与されているスキルを知っているか否かという話だった。

パズルのピースが1つ手に入った。

「となると、スキルが食い合うような構成をどうするかというのは、シンプルにスキルの出力の微調整か?どれかのスキルに強弱をつけて発動させればいいってことか?」

そして1つでもピースが手に入れば、一歩目から二歩目と歩みを進めることができる。

スキルというのは発動すれば常に一定の効果を出せるようになっている。

だが、出力調整ができないわけではない。

最大出力こそ上限はあれど、下限はゼロまで調整の幅をしっかりと用意している。

程よい威圧ならアピールとなり、注目を集めることができる。

その状態で適度な鼓舞をすれば、自信を表現できる。

そしてその自信を見せることで士気を上げる存在は魅力的に見え、好感度が上がる。

これで2つの矛盾を解読できた。

「だけど、それだとスキルの内容を理解していないとバランスはとれない・・・・・となると。そこにもカラクリはあるはず、一定のスキルを無意識で出力が微調整できる方法」

『その方法もあなたに教えてもらったのよ?ほら、ライブの打ち上げの時に一緒にご飯を食べながら』

「ああ!?もしかして、アレか!?というか作れたの!?」

『作れたからこれがあるんじゃない。本当に苦労したのよ』

しかし、この2つの矛盾を解消しても、まだまだ矛盾だらけだ。

そもそもの話、装備に付与したスキルは意識的に調整するのがかなり難しい。アクティブスキル『威圧』『鼓舞』『士気向上』を同時に微調整しながら使わないといけないのだ。

それを意識しながら交渉するなんて、マルチタスクに慣れていてもかなりキツイ。

いうなれば、口では交渉をしながら、右手で書類にサインをして、左手で電卓を叩き、目線で読書をするようなことをしているわけだ。

これがすべて同じ出力で一気に使うのなら楽なのだけど、それだとカリスマは発動しない。

そうなってくると装備としてはクズ装備に成り下がる。

次女さんがただ付与するだけで完成しないという理由がここにある。

俺が、このスーツの効果に心当たりがなかったのも、複数スキルの組み合わせでカリスマを発動させるような効果をすぐに思いつくことができなかったから。

それを解消するにはマルチタスクの限界を突破していると言っても過言ではない思考操作を覚えるか。

その冗談なような過酷な作業を解消できる手段を発明するかということになる。

「付喪神、作れたのか」

『ええ、まだまだ入り口だけど作れたわ』

付喪神、神の名を冠する代物。

本来の意味で付喪神といえば、長い年月を経て道具に精霊や魂が宿り、妖怪や神になった存在を指すが、FBOではその意味は異なる。

これは人工AIだ。

ゴーレムの自動操作に至るために必要になる存在。

魔力だけで構成される実体のない存在だ。

生命ではない、しかし、思考はできるという思念体とでも言うべき存在。

「もしかして、ここ最近の服は全部?」

『そうよ、闇のやつとの合作ね。あなたから聞いたときは私たちのような存在かと思ったけど、本当に魔術公式だけで生命的な働きをする存在を作れるとは思わなかったわよ。私たちはまだ触りの部分だけど、闇が作ろうとしている奴の中ではそれ以上の物もあるわ。まだ、依り代が安定しないから定着できないのよ』

「あの説明で理解して、作り上げて見せるだけでもすごいがな」

感情もない、ただ決まったルーティーンを行うだけのレベルの低い付喪神であっても作り上げるのには相当な苦労があることは、FBOでも作った経験がある俺にはよくわかる。

あれは、才能に加えて努力と根気が求められる作業だ。

細かい魔術式を緻密な計算で立体的に構築するいわばパズルのような物。

それも答えのないパズルだ。

完成形という物が存在せず、求めれば求めるほど沼っていく存在だ。

付喪神を作るための設備とかは最低限ならこの精霊界で作るダンジョンでも手に入る。

さらに上位となると、中央大陸の方に行かないと手に入らないが、付喪神に慣れるまでなら問題ないだろう。

そんな代物だから、まさか精霊たちが作っているとは思っておらず、驚いてしまった。

「なるほど、付喪神が完成していたからこそあの効果か。なるほどな」

自動でスキル出力を調整し、任意の相手にスキルを発動させることができる人工AIこと付喪神。

これがあれば確かに、付喪神にセットされた対象の俺以外の人が使おうとしてもまともに発動しないわけか。

「でもこれって、実質専用装備ってことじゃないか?付喪神の認識に俺を登録しているってことだろ?」

『そうね。だけど、この付喪神ってスキルスロットを消費しないでしょ?専用化装備って、スロットを一つ消費して専用スキルを付与しないといけないじゃない』

技術的には人間の世界ではまず作ることができない。

いや、そもそも作ろうという発想が思いつかないだろうな。

知らない技術を生み出すのに一体どれだけの月日がかかるか。

知られていないというのは最大の隠蔽方法なのかもしれないな。

「そうだな、付喪神はその装備に一体と限定されるけど、スキルスロットは消費しないから、色々と応用が利くんだよな」

しかし、まさか付喪神が出来上がっているとは、これはかなり嬉しい誤算だ。

「となればだ」

この先、付喪神の使い道なんて腐るほどある。

それこそ、工事現場のオートメーション化も夢じゃない。

そんな夢が膨らむ場所に、投資をしようと思った俺はマジックバッグをあさり、とあるものを取り出す。

「次女さん、これを使ってくれ」

『それって、耳飾りね。随分と強い魔力を持っているけれど』

「刻減らしの耳飾り、クラス9のモンスターからでたレアドロップアイテムだ」

『えっ!』

使い道を迷っていた、刻減らしの耳飾り。

付喪神の研究を加速させる起爆剤として投入する。

精霊である彼女たちなら、悪用もしないだろうという信頼もある。

手にして眺めていた次女さんは、クラス9という言葉を聞いて、驚き落としかけて慌ててキャッチする。

そんな光景を見つつ、その効果を説明したらどんな反応をするかいたずら心が芽生えるのだった。