軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

20 EX 土豚公爵の右腕 1

時は少しだけ遡る。

これは、マーチアス公爵の私兵団の遣いが公爵の親書をリベルタ領の領境の城門に送り届けた直後の話。

北の領地の風はこの季節であっても涼しく、そして夜になれば肌寒い。

なので、陣地には天幕が張られ、見張りの兵士は温かくするためにマントを羽織っている。

街道脇の開けた場所に陣取る一団。

東の公爵、マーチアス公爵の私兵団だ。

現在は北の領地で盗賊やモンスターの被害にあっている村々を巡り、治安回復と復興作業の支援をしている。

規律が取れた軍隊。

全員が真面目に職務に励み、軍隊としての秩序が敷かれている。

その秩序を保っている意識の根本が恐怖という面だけに目を瞑れば、理想の軍隊とも見て取れる。

実際、強盗紛いの行動といった民間人から嫌われるような行動はしていない。復興支援に訪れた際には住民たちに怯えられるが、立ち去るころには手を振って見送られる程度には好感を抱かれている。

「オルトス将軍、先方から返事が来ました」

「受け取ろう」

「はっ!」

その私兵団の精鋭の騎馬隊に囲まれ、一際豪華な天幕の中で書類整理をしていた一人の男の元に、兵士の一人が近寄る。

潤沢な金属資源を持つ東の領地の兵は、全員に鋼の鎧を配布することができ、それを維持することができる。

しかも、鋼の鎧は寒冷地では凍傷を引き起こすため不向きであるはずにもかかわらず、彼らは寒さで凍えるということがない。

暖を取る魔道具が1人1個配布されているからこそ、体温低下を引き起こす鋼の鎧を着込めているのだ。

そんな兵士の一人から手紙を受け取ったバミューダ・オルトスは、後ろに束ねている少し細い髪を払い、その手で蜜蝋で封がされている手紙を開封する。

「ほうほう、向こうは歓迎してくれるのか。このまま陣地を敷いて中央地点での会合になると踏んでいたが」

その中身を確認して眉をピクリと反応させて、笑顔になる。

「これで閣下に報告する際に気を揉まなくて済むな。そうは思わないか?」

「はっ、小官はその質問にお答えすることができません」

「そうか、まぁいい。三時間後に兵を動かす。その間に陣を引き払え、今日は屋根のある場所で寝られるかもしれんぞ」

「了解しました!」

少なくとも偵察兵には越えることが出来ず、空の報告を持ち帰った、城壁の中には入れるということ。

もちろん監視がつくだろうし、警戒もされている。

だが、門をくぐれるという情報は間違いなく有益な情報になるとバミューダは踏んだ。

手早く天幕を出て命令を実行する兵士には目もくれず、偵察兵に先導され高所から見た城壁の様相をバミューダは思い起こす。

「・・・・・足りないな」

高所から見てもなお高いと思わせる高さ、張りぼてとは絶対に思わせない堅牢な質感、地の果てまで続いているかと思わせるほどの幅。

王都ほどの城壁と報告を受けた際は過剰な表現だと思っていたが、まさかの過小評価だった事実は、バミューダに脳内の情報を一気に更新させる決意をさせるほどの衝撃を与えた。

念のために持ってきた魔導兵器群でも、あの城壁を突破することはできないと確信させる。

一部ではなく全軍で総攻撃をしたとしても、城壁の上についていたバリスタや城壁の厚さを考えるのなら、突破するのは難しいではなく「無謀」という言葉が脳裏をよぎる。

「飛竜部隊の拡張も必須になるか。これはこれは、閣下にさらにおねだりをするために成果を上げないといけないな」

ここまで足を運び実物を見れただけでも大きな成果であるが、自身の上司がこの程度の報告で満足するとは思っていない。

報告の仕方次第では、減点は避けられる。

しかし、その避け方は次回以降使えなくなる。

バミューダの考え的には、減点よりも加点が欲しい。

外で兵士たちが大声を上げて天幕の撤収に取り掛かっている。

三時間後出発と言ってあるから、猶予は三時間あるということ。現場指揮者がこの場を離れるのはよろしくはない。

「もう少し手土産を積むか」

なので、できる手を打つために配下を動かす。

しかし、バミューダはリベルタという人物の人となりを知らない。

今回、親書に無難な宝石を添えて送ったが、それも正解とは限らない。

もし仮にリベルタという人間が武芸一辺倒の人間であるのなら、宝石はむしろマイナス評価になる。

しかし、関係悪化を避け、今回の一方的な突然の訪いも無難に終わらせようと考えているのなら、これ以上の繋がりを得られないという可能性も考慮に入れる。

女、財宝、地位、そのどれも考えるが、情報部から上がってきた情報と現状の立場を考慮すれば、一般的に欲しがるような物をリベルタが欲しがるイメージをバミューダは抱けなかった。

「・・・・・」

現状、こんな砦じみた物を作っているあたりで、無欲ではないのは確か。

しかしバミューダから見たリベルタの欲の方向性がわからない。

バミューダも数多くの人間を見てきた。

その中には人としておぞましいような欲を抱く輩も多かった。

性癖という側面や、野望という願望、収集癖という分野でも風変わりな物を欲しがる人物もいた。

「会ってみなければわかりませんか」

しかし、現状では情報が少なすぎて攻略し難い存在という認識に結論づいた。

リベルタという存在は、数年前まで完全にノーマークだった。

噂に立ったころにはすでにエーデルガルド公爵家の庇護下にいて手が出しづらく、情報も入りにくくなっていた。

さらに、様子見するしかない間にボルドリンデ公爵の反乱の鎮圧とアジダハーカとか言う国難級のモンスターの討伐という大功績を挙げて、国王からこの辺境の土地を与えられた上に国からの独立を認めさせ、こんなとんでもない施設を作り上げてしまっては、予測なんてできるはずがない。

マーチアス公爵が情報を欲しがるわけだと納得し、この状況で一番得になる方向性を考えた。

そこでふと、バミューダは普通なら一笑で切り捨てるようなものを考えた。

今の上司を切り捨て、この摩訶不思議な方法で砦を作り上げたリベルタという少年の元にはせ参じるという誘惑を。

あり得ないと切り捨てることは容易だとバミューダは思ったが、もし仮に彼が自分の理想的な人物であったと仮定した場合、マーチアス公爵以上の魅力を秘めているのではと考えた。

聞けばまだ子供。天才的な才覚があるとしても、まだまだ思考は成熟しきっていないはず。

その思考を誘導して、自分が支え、道を切り開く。

やりがい、そして最終結果という面を考えると悪くない。

「いや、面白い」

そんな思考がよぎったが、さすがにそれをすぐに現実にするために行動するほど能天気でもなかった。

リベルタの人となりを把握してからでも遅くはない。

その思考は間違いなく、マーチアス公爵とリベルタを天秤にかけること。

それ自体が不敬であり、この世界の常識では考えられない思考であるが、バミューダにとっては忠誠心よりも合理性の方が優先される。

仕える主人とは彼にとってはあくまで目的を完遂させるためのコマでしかない。

公爵という絶大なる地位に寄り添い、目的を達しようと思ったが、今目の前に、もしかしたら強大な力を得られる可能性がある存在がいるのかもしれない。

「ふむ、ふむ」

あの城壁はその象徴だ。

どれだけの奴隷を駆使しようとも、どれだけの財を投入しようとも、東の公爵家だけではこの規模の城壁を作り上げることはできない。

いや、十年か二十年か、長い年月をかけ、大勢の人の命と金を積み上げることができれば可能かもしれない。

しかし、リベルタという少年は、わずか1年という「短い」を通り越して異常といわざるを得ない期間で城壁を作り上げた。

それも、ごくわずかな住人で、さらにどことも貿易せずに自力で達成したと思われる。

「スキルか? あるいは神の使徒というから、神から特別な何かを手に入れたか」

興味深いとほくそ笑むバミューダの表情には、狂気のようなものが混じり始める。

この後会うのが楽しみになっていく。

「いけないいけない。つい興奮が」

クツクツと笑いが込み上げてきた口を押さえ、感情を抑えようとしているが、込み上げる物が抑えられない。

「他の英雄の情報を得た時はどれも興味を抱かなかったというのに、なぜ、リベルタには興味が湧くのでしょうね」

その感情は、久しく感じなかったモノ。

興味による興奮。

なぜこれほどの興味を抱くのかは謎。

されど、この感情が嘘ではないのは、当の本人が一番よく理解している。

「いけないいけない。こんな笑顔、他人には見せることはできませんねぇ」

リベルタはFBOという物語でバミューダという人物を知っている。

しかし、それは物語で語られるバミューダという人物を知っているだけに過ぎない。

完全にこの人物のことを把握しているかと言えば、答えはNO。

氷山の一角、その中でも重要な要素を知っているだけで、全部を知っているわけではない。

本性のことは知っている。

狂気を孕んだ笑みを浮かべる理由も知っている。

その根底の感情も知っている。

だが、バミューダという男が抱え、自身でも理解していない願望までは、さすがのリベルタでも知る由がなかった。

描かれることのない物語を知るのは、神でも不可能。

「うん、良し」

表情を取り繕い、いつものバミューダに戻った。

しかし腹の中は相も変わらず、興奮に色めき立っている。

「失礼します!」

そんな折に、運が良いのか悪いのか一人の兵士が報告に来た。

「何かな?」

「はっ!この近くで怪しい男を捕らえました」

「生きているのか?」

「はい!奴は、あの開拓村の住人だと言っていますがいかがいたしましょうか」

「ふーん、あの開拓村の住人ですか」

それは不審者の捕縛の報告。

そして不審者は、自分を城壁の向こうの開拓村の住人だと言っている。

それが本当かは定かではない。

嘘か真か、それを判断する方法をバミューダは持っていない。

「なるほど、なるほど」

しかし、これをチャンスだとバミューダは思った。

「よろしい、いい機会だ。村のことを私自ら聞こう。軍の陣地に勝手に近づいたのはいただけないが、手荒な真似をして向こうの不興を買う必要もあるまい。いいか、手荒なことをするな。しっかりと丁寧に扱うのだよ」

「はっ!」

「ああ、そうそう。開拓村の住人だというのなら、私自ら挨拶に行った方がいいね。この後に向かうのだ。顔合わせくらいはしておいた方がいい」

嘘なら、不審者を捕まえたという報告で好感を稼ぐ。

真実なら、相手の失態ということで何か譲歩を引き出す。

捕虜という立場になった人間を見に行くかと、バミューダは立ち上がり天幕を出る。

周囲にはまだ作業している兵士たちがいるが、捕まった捕虜がいるエリアはすぐにわかる。

辺りをちらりとバミューダが見渡しただけで、一角に兵士が集まって、一人のみすぼらしい男が跪いているのが見えた。

槍を突きつけられ、縄で縛られ、ここまで連行してきた際に抵抗したからか顔にあざもある。

先ほどバミューダが言った「丁寧」という対応からかけ離れた処置。

それに対して怒りを表すかと思ったバミューダであったが、にっこりと笑みを浮かべ、その男に近づいていく。

「やぁやぁ、私の部下が手荒く扱ってしまったようで申し訳ない。聞けばこの先にある開拓村の住人だというではないか」

「そ、そうだ! こんな扱いしやがって、村のやつらが知ったらただじゃ済まないぞ!!」

笑顔で、それこそ優しそうな表情を浮かべ、労わりを感じ取れるような優しげなトーン。

好印象を与える表情を取り繕って、話しかける。

姿からして十中八九、盗賊崩れ。金で雇われたならず者がここまで来て、あの開拓村を調べに来たといったところか。

「そう、君はあの城壁の中に住んでいるんだね」

「ああそうさ! あの城壁にはたくさんのゴーレムがあるんだ!! 俺を傷つけたと知ったらそのゴーレムが押し寄せてくるぞ!」

「それは大変だ」

「へへへへ、だったらすぐに――」

「なら謝罪に行かないと。幸い、私たちはこれからあちらの門の方に向かう。一緒に行こうではないか」

「え」

「なに驚いているんだ? 君はあの村の住人なんだろう? 一緒に行こうではないか」

そんな彼が開拓村に連れていかれた際、どうなるか。

そしてあの開拓村の当主であるリベルタはどういう対応をするか。

楽しみだとバミューダは心の中でほくそ笑むのであった。