軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

6 惚気

ガトウという仲間を得て、さらに新しいスカウト候補に目途が立ち、西に行ったら今度は東。

レベルリセットからある程度のガトウの育成を施し、クラス4まで育てさらにスキルを与えていたらあっさりと二週間の時が過ぎた。

これはある意味で都合が良かった。

隠居して独り暮らしだったガトウとは違い、今度会いに行くのは大きい工房を構える工房主だ。

流石にアポなし訪問はまずいし、ガトウとのつながりも十年くらい前だ。

一応、ガトウに手紙を書いてもらい使者が持参、そこから返信用の要員をしばらく町の中に待機させて受け取って帰る。

片道はエンターテイナーのジュデスともう1人サポートを付けて送り出し、帰りは転移のペンデュラムで帰ってきてもらった。

馬を使うことも考えたが、それだと帰りが遅くなるから位置登録だけしてもらいサポート要員に宿で待機してもらって、先日手紙の返信が来た。

その間にガトウにパーシーのことと奥さんのことを聞いたが、結構面白話になっていた。

「ここが大恋愛の末にできた工房かぁ」

パーシーの奥さんことフェルトさんは元々普通の宿屋の娘だったそうだ。

その宿にたまたま魔道具の材料を仕入れに来たパーシーが泊りに来たことが出会いのきっかけ。

「まるで家電量販店だな」

そしてその時偶然にも宿の厨房の竈が故障して、暖かい料理を出せないという状況に遭遇した。パーシーは暖かい料理を食べたいという理由だけで、あっさりと竈を修理した上に魔道具化させてしまった。

その手際の良さで、フェルトさんの心にワンヒット。

さらに、料金はいらない代わりに暖かい料理を頼むと言ってツーヒット。

さらにさらに、フェルトさんが店主兼料理人の父親に代わって作った料理を、パーシーは美味いと言ってお代わりまでしてスリーヒット。

この段階でもかなりの好印象にも関わらず、この町は東の鉱物資源の流通が多く品質も確保できているということで、この町に腰を据えると言ってくれた。

ここで活動すると決めて、拠点となる工房の物件を探している間は、ここの料理の味が好きだという理由でパーシーはその宿屋に滞在。店主である親父さんの味付けの時は普通だが、フェルトさんの時は美味しいと言ってお代わりをする。

これによって満塁ホームランを決められてしまったようだ。

ガトウはパーシーとの酒の席で、男同士の話ということでこっそりと聞いたそうだが、その時はただ好みの味があの宿屋にしかなかっただけだとパーシーは言っていたと教えてくれた。

「この規模の店は、FBOではなかったな」

すなわち、完全に下心無し。いやおなかが減っていたから美味しい料理を作って欲しいという下心は有れど、それをきっかけに何かしようという魂胆がパーシーにはなかったゆえに、この町でも美人の看板娘と有名だった女性の心を射止めてしまったようだ。

「イングリット何か欲しい物がある?」

「いえ、精霊様方が用意してくださった魔道具がありますので。ですがどれも造りが丁寧で良い品です」

「確かに」

そこからのフェルトさんの猛攻は止まらない。

パーシーが工房を作ってからは彼の胃袋を掴むために通い妻のようにやってきては料理をして、さらには経営の勉強も独学でして、さらに魔道具の知識もパーシーから習ったと。

ガッツと根気、そして愛情。

この三つを兼ね備えたからこそ、FBOでは魔道具と結婚した男と言われたパーシーを落としたというわけか。

そんな俺の知らぬパーシーが経営している工房の品は、冒険などの戦闘で使える魔道具も置いてあるが、どっちかと言えば生活に密着した物の方が多い。

カセットコンロのような魔道具、水道の蛇口のような魔道具、天井に吊り下げる照明魔道具、はては扇風機のような物まであるではないか。

「いらっしゃいませ、どのような魔道具をお求めで?」

とりあえず家にあれば便利、みたいな魔道具を多種多様に揃えている。

これはFBOではなかった品揃えだ。

作ることはできた。

だがNPCが販売していなかったのだ。

「いえ、ワシは古い友人でね。ここの工房主に会いに来たのだよ」

そんな工房に来たのは手紙の送り主であるガトウと俺、そしてイングリット、護衛のゲンジロウと追加の三名。

なかなかの大所帯であったが店員は気にせず、積極的に接客している。

メイドを引き連れている面々、さらに護衛付きということで特別待遇でもしているのかと思いきや、普通の人も来店して店員が相談に乗っているのが見える。

店員の教育が行き届いた良い雰囲気の店だ。

「これが招待状だ」

「拝見します」

頭も固くない。

柔軟に対応している店員の態度も良い。

ガトウから受け取った手紙の中身を一読し、何度か頷くと。

「確認しました。はい、ガトウ様とお連れ様ですね。どうぞ、応接室にお通しします」

「ありがとう」

俺たちを工房の奥の応接室に案内して、さらにお茶まで出してくれる。

俺とガトウが横並びで座り、そして背後に護衛とイングリットが並ぶ。

「やぁやぁ!ガトウさん!随分と久しぶりだね!懐かしい君が元気そうで僕は嬉しいよ!」

さほど待たされることなく、現れたのは作業着姿の男だ。

明るい茶色の癖っ毛を揺らした眼鏡をかけた男。

愛嬌の中にちょっとしたマッドな雰囲気を感じさせる暗い瞳。

初対面だと少し近寄りがたい雰囲気を醸し出している。

作業着には汚れた個所が散見されているが、それでもガトウは気にせず立ち上がりその職人の手を固く握りしめた。

「君も元気そうで、何よりだ。奥方は元気かね?」

「ああ!毎日僕のために美味しい料理を振る舞ってくれているよ!」

「胃を掴まれたあの日から変わらぬということだね」

「ああ!むしろ外での会食の方が苦痛に感じてしまうくらいだよ!いかに美味な料理であっても、物足りなさがついて回るからね」

「ホホホホ!良き仲だ」

十年以上会っていなかったのに、まるで最近まで会っていたかのような対応。

作業着というのは来客に対してはまずいような気もするが、逆を返せば作業を放り出してまで会いたかったという証左にもなる。

「それでそれで?僕に紹介したい人がいるって言うのは彼のことかな?なんだかんだ言ってしっかりと良い人を見つけたようじゃないか。こんな立派な息子を紹介してくれるなんて僕は嬉しいよ!」

一通り笑いあった後に、俺の知る顔のパーシーは俺の方を見て、笑顔を浮かべて歩み寄り手を差し伸べる。

「いや、パーシー。彼はワシの息子じゃないよ」

「じゃぁ、孫かい?まさか隠し子がいたとは」

ぎゅっと握ってくれるのは好意の証、しっかりと交わされる握手。

一応俺の身長が伸びている成果もあってか、大人として対応がしっかりとされた気がする。

「彼はワシの雇い主だよ」

「雇い主?冒険者はもう引退したのではなかったのかい?」

俺の正体が子供や孫ではなく、ガトウの雇い主と聞いて、疑問符を頭の上で浮かべるような表情になったパーシー。

「ああ、引退はしたよ。ただ、もう一度夢を追いかけたくなってね。彼の元ならそれが叶うと信じた」

「なるほどなるほど、失礼した。僕はパーシー、この工房の主だ。名前を聞いても?」

「初めまして、ガトウさんの雇い主のリベルタです」

そしてガトウの説明を聞き、嘘や冗談ではないことがわかるとメインの客が俺だと理解し、しっかりと自己紹介をし直してくれた。

そんなやり取りをしていると、遅れる形で扉がノックされパーシーが許可を出すと、扉が開かれ落ち着いたベージュ色のドレスを着た女性が現れた。

「あなた、そんな恰好でお客様の前に出ては失礼ですよ。いくら久しぶりにガトウさんがお越しになるからと言って」

「やぁ、フェルト。そう言わないでくれ。彼には何度も素材の件で世話になり魔道具のアドバイスももらった恩人なのだ。気が逸ってしまうのを許してくれ」

メイドを引き連れ現れた、ハニーブラウンの髪を金銭的余裕のある家庭では珍しくショートヘアにしている女性。

優しく愛嬌の有る笑顔でパーシーに注意している。

少々小柄だが、それでも大人の女性としての落ち着いた雰囲気を纏っている彼女は、これから交渉する者として油断できないと思えた。

「もう、仕方ない人ですね。ガトウ様、お久しぶりです。前に会った時よりもご壮健そうで何よりです」

「やぁ、フェルトさん。君も元気そうだね。フレッグ君は元気かい?」

「ええ、今日も元気に工房に通っていますよ」

「ホホホ!それなら二代目もしっかりと育っているようだ。パーシーも安心できるだろ?」

「魔道具の才能はある。しかし、決定的に足りないものがあるのだよ!」

「ほう?それは?」

そんな雰囲気を醸し出すフェルトさんの隣にスッとパーシーは立ち、ニッと笑顔を見せる。

「僕みたいにこんな素晴らしいお嫁さんを貰うことだよ。あの子は魔道具の才は僕譲りだと断言できる。だが、フェルトの才能はあまり受け継いでくれなくてね。容姿はフェルトに似てくれて中々愛嬌のある顔だというのに、ガールフレンドの一人も紹介しない。そっちの方に関しては興味を持たないことが親として心配だよ」

その表情はFBOでは見たことない父親としてのパーシーの顔。

笑うことはあったが、それは自分の成果を褒めてもらうときの子供のような笑顔だった。

純粋で無邪気で、魔道具に向き合う彼らしい笑顔だった。

しかし、今俺が見ているのは父親としての笑顔だ。

こんな会話をするとは思わなかった俺は思わず虚を突かれ、ジッとパーシーの顔を見てしまった。

「おっと、君を妻に紹介しないとね。フェルト、彼はガトウさんの息子や孫ではなく、ガトウさんの雇い主のリベルタさんだ」

「まぁ、失礼しました。パーシーの妻フェルトです。この工房では経理などを担当させていただいて、依頼の交渉の窓口も請け負っていますわ」

「僕に依頼があるということはガトウさんの手紙に書いてあったからね、そういうことなら妻も同席させてもらうよ」

「はい、構いません。こちらとしては話を聞いてもらえるだけでもありがたいです」

それがないがしろにするなというクレームのように見えてしまったのか、少し申し訳なさそうな顔をしたパーシーはフェルトさんを紹介して再び席に座り直した。

今度は俺がパーシー夫妻と向き合う形になった。

ガトウというコネを使ったから時間を作ってくれただけで、本来であれば初見でいきなり夫妻が同席することはあり得なかっただろう。

良くて営業窓口の営業担当が姿を現して交渉の席が用意されるだけ。

「それで、今回はどのようなご用件で?」

世間話は先ほどの対話で終了。

ここからはビジネスの話。

この世界の風習で女性が率先して交渉の話を進めることは好ましくないと思う人が多いが、この工房ではこれが日常のようだ。

俺も前世で女性の営業と仕事の話をしたことはあるので特段違和感なく話を進める。

「まず、この提案は強制ではなく、任意、そして魅力を感じない限り無理をして受ける必要がない話であり、断られた場合でも自分たちはあなた方に、悪意を持って不利益をもたらすつもりはないことを誓います」

「なるほど、よほど難しい話ということですか」

前置きでこの話をしたのは、パーシーたちと敵対したくないという予防線だ。

こちらに敵対の意志はないことを明言するのは、この世界の交渉事では思ったよりも効果がある。

言った言わないの話は、噂が立つだけでかなりの影響力が出る。

それ故に、パーシー夫妻に、敵意がないと明言するのは今後の関係で少なくない影響を与えるわけだ。

「はい、自分が今回来たのは、この工房主であるパーシーさん含め工房職員全体の引き抜きです」

だが、そんな前置きを置いても、この言葉を吐き出すのには勇気がいる。

なにせ俺が言った言葉は、彼らが苦労して作った基盤を捨て去ってくれと言っているのと同意義。

さて、どういう反応が返ってくるやら。