軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

29 EX次代の神 12

普段はなんだかんだ言って賑やかな空の庭園。

各々好き勝手に過ごしていれば、それ相応の騒がしさは出てくる。

そこに異世界の書物である漫画を組み込めばさらに賑やかさは増すのだが、どういうわけかこの日だけは妙に静かだった。

「これ、どういうこと?」

それは一通の手紙。

いや、通知書が原因だ。

アカムが代表して見て、その小柄な肉体の背後から覗き込むように残りの四柱が見ている。

驚くことにそこには知恵の女神ケフェリの姿もあった。

「どうもこうもないのである。見ての通りと言うしかないのである」

興味深いというより、見なくてはいけない書類として、皆で見ている。

そんな雰囲気の中、ゴルドスがひょいッとアカムの手から書類を取り、改めて見て眉間に皺を寄せる。

「いや、でもぉ。どうしていきなりこうなったのでしょう?」

「理由は書かれていますが・・・・・詳細は書かれていませんね」

五柱がそろって困り顔で、一枚の紙を覗き込む姿はただ事ではない。

「以下の二柱は、世界の秩序を乱した罪として神の力を封じ下界への追放刑に処す」

紙の内容は、罪人ならぬ罪神が罰せられたという内容。

そして、その罰せられた相手というのが。

「ケフェリにとっては良かったと言うべきでしょうか?」

「まぁ、そうだよね。これであの怨念のこもった手紙が送りつけられる心配がなくなるわけだし」

光の女神ライナと大地の女神ジュリ。

「暴れすぎたか?」

「さすがに、それは・・・・・ないとは言えませんね」

「荒れていましたから、あり得ないとは言えませんねぇ」

目下この庭園にいる神々にとっては最近の頭痛の種であった、二柱の女神が神界の歴史を遡っても中々ない刑に処されるという、ケフェリが思わず言葉をこぼすほど、とんでもないことが起きていたのだ。

病的なブラコン共故に、いずれ何かしでかすとはこの場にいる神々は共通で思っていた。

「人形を送り付けたことで気でも触れたか?」

その中で神の怒りを鎮めるには人身御供と言わんばかりに、ブラコンの対象であるグルフォア当神に作らせた等身大の人形を送り付けたケフェリは、この大事件の原因を考え、その心当たりを呟く。

「ない、とは言えないよね」

「うむ、荒れていたゆえに、それがとどめになり暴れて神界の神々に被害を出したという流れならありえない話ではないのである」

アカムとゴルドスも、ケフェリの提示した可能性を否定しなかった。

あの女神たちならやりかねない。

培ってきた印象というのは中々ぬぐえないが、中々ひどい評価である。

神界にとっては大事件である故に、本来であればもっと正確な情報が入ってきてもおかしくはないのに、紙一枚で済ませるような内容しか情報はなく。

その情報に対して内容が重大すぎる。

「一体何が」

この庭園にいると、例外を除き他の神々に接触することができない。

公平性を期すためだというのはわかっているが、こういう時は不便だ。

そう思っているときに、羽ばたく音が響き、この庭園に来訪者が現れた。

『ああ、君たちのところにも届いたんだね』

「グルフォア」

もう一柱の当事者。

双頭の鷹の姿で参上した混沌の神グルフォア、騒動を引き起こした姉妹の弟神。

「ずいぶんと晴れやかだね」

『そう見える?』

登場してみれば、てっきり動揺したり気落ちしているかと思っていた五柱の予想は裏切られ、鷹の顔だというのに晴れやかな笑顔を浮かべるという離れ業を披露してみせたグルフォア。

アカムが呆れた表情を浮かべるのも無理はない。

「ああ、自分の姉が罪を犯したというのに喜んでいるように見えるよ」

神というのは身勝手だ。

多大なる力を持っている故に、謙虚という言葉から一番遠い存在だとも言える。

しかし、それでも身内が何かしでかしたのなら罪悪感の一つは抱いてもいいだろうと思うのだが、グルフォアからはそれが一切感じられない。

『まぁ、僕は今回の事情を知っているからね』

「なに?」

その事をアカムが指摘すれば、グルフォアは隠すことなくその気持ちの理由を語った。

この五柱には紙一枚でしか知らされていない、二柱の追放劇の事情をグルフォアは知っている。

「説明はあるのですね?」

彼の神もこの場にいる五柱と一緒で、他の神々との接触は最小限に抑えられているはず。

ならば情報源は限られる。

メーテルの鋭い眼光にグルフォアはひるまず、鷹の顔で頷く。

『ああ、もちろん』

そして、翼を頭の上に持っていく仕草は、どこから話すかと頭を整理しているようにも見える。

『まず、うちの姉たちが犯した罪は、今回の主神選抜のルールを逸脱した。下界干渉違反だ』

「「「「ああ」」」」

「ふん、だろうな」

どこから語るかと悩んだ末にグルフォアが教えたのは、罪の内容だ。

情報源がどこかと教えてくれるかと思っていた五柱だったが、その情報も知らなかったゆえに静かに聞いたが、聞いた直後に犯した罪の内容に納得した。

ケフェリに至っては予想通りだったと呆れてため息を吐く始末。

『観測の神ハーゼの力を借りて、外宇宙の神の力を利用し、様々な神の監視網を潜り抜けて僕の支援をしようと企てたようなんだけど』

あの女神たちの行動理念はこの混沌の神を助けること。だからこそ、犯した罪の種類には驚きはしない。

『その観測の神ハーゼが実は罠だったんだよ』

「「「「「は?」」」」」

しかし、その後に告げられた内容に、さすがの神々も驚きで目を見開いた。

彼ら、彼女らの脳裏に浮かぶ観測の神ハーゼは、一人派閥の過激派の神。

外宇宙というこの世界の理の外の力を手に入れ、世界に混乱をもたらすことを是とする鼻つまみ者。

頭のネジを十本くらい外した、夢想家。

それくらいとんでもない存在のはずだ。

『そういう反応になるよね。これは混沌の神である僕だから知れる事実だから』

しかし、その神が罠だと言う。

一体何の冗談なのだと思うが、グルフォアはここから語るのは事実だと前置きを置いた。

神同士は嘘を見抜くことが出来る。

そしてグルフォア以外の神々はその言葉が嘘ではないと感じ取った。

『力があり、そして過去にやらかした経緯がある。さらには嫌われ者で、他の神々から距離を置かれている。これだけの条件が揃っている危険な神。暴れまわっていないから放置されていると皆考えた。実際、古の神たちからこの話を聞くまでは僕もそういう印象だった』

裏がある。

それは観測の神ハーゼが何かを企てているのではなく、観測の神ハーゼを中心として何かがあるというニュアンスの言葉。

『普通なら、神ハーゼには誰も近づかない。近づけば、周囲から冷めた目線を向けられる。それゆえに孤立しているが、逆を返せば他の神々の目を上手く掻い潜ればその力を借りられるという発想になる。それこそ後ろ暗い依頼を持ち込むには彼の神ほど都合のいい存在はいない』

「・・・・・そういうことか」

そしてグルフォアの言葉でケフェリは、そんな立ち位置を数百年、あるいは千年単位で続けてきた神の存在理由を理解した。

「古の神も『グル』ということか?」

観測の神ハーゼは、この主神選抜におけるルール違反を犯そうとする神に対する囮だ。

神はルールを作る側の存在。故に裁くためには決定的な証拠が必要になる。

それこそ、どんな手段を使ってでも相手から絶対に証拠を掴む。

そのために意図的に孤立させた神の立場を用意したということだ。

『正解だ』

ニッコリと笑うグルフォアは間違いなく、神だ。

手段を選ばぬが故に神。

「お前、わざと姉たちの行動を放置したな?こうなることを見越して」

神は感情で動く。

けれど、時には冷酷に動く。

『僕は混沌の神だ。ありとあらゆるものを混ぜ、ありとあらゆる存在が共存する存在。優しさもあれば、厳しさもある。残酷さもあれば慈愛もある』

この世界には大勢の神々がいる。

いかに強大な力を持っている神々であっても、その身勝手な行動によって世界の治安が崩されることを望む神は少ない。

相手がたとえ肉親であっても、それは例外になりえない。

『僕は邪神になる前に警告したよ。無茶はしないでって。警告を無視して突き進んだ結果なら、姉さんたちの自業自得だ。滅ぼされなかっただけ感謝するしかないよ』

「お前ほど、邪神という名が似合う神も珍しいな」

『そうかい?それなら嬉しいよ』

人間のように法では神は縛れない。

だから、必要なのは見せしめだ。

事情を知らぬ二柱は、知らぬ方法で罪が暴かれ、そして刑を執行された。

知恵を司る女神であるケフェリからすれば、知らぬというのは一番恐ろしいことだ。

混沌にはなにが眠っているか。それを知るには、自身が混沌を覗き込まないといけない。

だが、混沌を覗き込んだ時、また混沌もこちらを覗き返している。

「でもさぁ。あの我がまま女神たちをこっちの世界じゃなくて下界の方に放り込んでいいの?絶対に何かやらかすでしょ?それなら、こっちで千年なり二千年なり封印しておいた方がいいんじゃない?」

少し不穏な空気が流れそうなタイミングで、アカムが呆れ顔で話題を変えた。

下界追放、神々の間では重い部類に入る刑罰だ。

神の権能を一切合切封じられ、非力な人として過ごす。

この刑の恐ろしいのは、落とされた神は不老不死になるのではなく、何回もその肉体で輪廻転生する。

一度の生涯を終えれば元通りではなく、また別の肉体で非力な人間の人生を歩みなおす。

そうやってこの世界のルールを崩そうとした罪を償うという刑罰だ。

しかし、それは神の都合だ。

いかに非力であっても、神の魂を宿した人間だ。

厳重に封印し、記憶も封印し、まっさらな人間として生まれ変わらせても、何らかの拍子でその力がこぼれる可能性はある。

『神の肉体は、この世界を運営するための柱として使われる。そして魂を分離させることによって、労働刑と精神刑を両立しているんだ。それが古から続く我々神に与える罰さ』

そんなデメリットがあってもやはり、神に一番効果的な罰であることは変わりない。

「ふーん、それで、あの女神たちはどこに落とされたの?」

『さぁ?』

「さぁって、貴方は知らないのですか?」

『刑を執行したのは、古の方々だ。僕はそれ以上のことはわからないよ。唯一わかるのは、もうすでに世界に落とされたということだね』

「「「「!?」」」」」

しかし、そんな罰でもこの世界からしたらとんだイレギュラーだ。

五柱はグルフォアの言葉を聞いて、ギョッとした表情で世界の盤面を覗き込んだ。

「この世界に、あの女神たちが?」

「いや、生まれ変わって真人間になっている可能性もあるのである」

「本当に、そうなっているでしょうか?」

「あの女神様ですよぉ?」

「・・・・・南には落ちているなよ」

すでに世界に放たれた。

あとはどうなるかは、神もわからない。

トラブルにつながるか、あるいは何もおこらず、世界に埋もれるか、それすらもわからない。

『さて、さて、ケフェリ。これを返しておくよ。ついでに何か作っていくから、次の作品をお願いできるかな?』

そんな緊迫した空気の最中に、双頭の鷹が器用に返却してきた漫画はなんと皮肉の利いた作品か。

俗にいう「ざまぁ」系の作品。

追放し、これで解決と油断していた勢力が、追放された側に反逆されるという作品。

このタイミングで見たくなかったとケフェリたちは思った。

「監視の目を強めるか」

「そうだね」

「ええ、少し漫画を読むのを自重しますか」

「で、あるな」

「そうですねぇ」

『あれ?』

空気が一気に冷え込んで、緊張感が空の庭園に満たされる。

流石の神々も手痛いしっぺ返しを貰うのは嫌なのであった。