軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

23 蛇竜の素材

正々堂々という言葉は、FBOではごく一部でしか使用されない。

なにせ相手は電子データの塊。

卑怯と罵られることも、鬼畜と罵倒されることも、外道と恐れられることも、NPCやモンスター相手にはない。

だからこそFBOでは、対人と呼ばれるプレイヤー戦だけは正々堂々という、公平な戦場のルールがプレイヤー同士で規定された。

まぁ、FBOは元々ソロコンテンツの方が充実していたゲームではある。

それでも人同士のマナーということで、NPCやモンスター相手に開発された嵌め技は人相手には封印するのが常識ではあった。

だが、そのプレイヤー相手と言う枠を一歩でも外れれば。

『はい、アジダハーカ討伐完了』

先ほどまで繰り広げられていた卑怯、鬼畜、外道と言われかねない一方的な蹂躙劇が閉幕する。

最後の最後に残った首を狩り取り、全ての首を失ったアジダハーカは徐々に黒い灰になっていく。

ボス戦がこうもあっさりと終わっていいんですかと言われ、撮れ高はどこに行ったと言われるかもしれない。

だけど、冷静に考えて欲しい。

日本で社会人をやっていた時に、ゲーム攻略系の動画投稿サイトにはこうすれば簡単に高難易度な敵が倒せますとか、裏技!みたいな感じでバグ技を紹介している動画が溢れていた。

そしてそれを使うか使わないかの選択はプレイヤーたちにゆだねられていたではないか。

『なんていうか、偽物の方が大変だったわね』

『反撃もあったしな。ゼニの節約もできただろ?』

『そうね。一千万は使うかなって思ってたけど、九百万で済んだわ』

そんな動画で覚えた裏技を使って、さらに戦力となる人の数を揃えてもなお、二体分のアジダハーカのHPを削り切れたのは、結界塔の稼働限界時間ギリギリだった。

ただひたすら殴り続けるだけの簡単な作業にお膳立てしても、レベルも装備も推奨レベルに到達していないとやはり討伐時間はギリギリになる。

ここまでやっても、結界塔がエネルギー切れを起こすとか、火炎放射器が使えなくなるとか、岩盤が打ち砕かれるとか、万が一の可能性は常にあるのだから、アジダハーカに対して慢心を抱けない。

フルフェイスマスク越しにネルたちと笑い合い、巨体ゆえに黒い灰になって完全に消え去るのに時間がかかるアジダハーカを見ている。

『やはり、天拳の脱力感は慣れませんね』

『私も、少しポーションを飲み過ぎましたわ』

「みんなぁ!!!」

『アミナ様こちらです』

戦闘が終わり、各々近くにいた面々で肩を叩いたり、ハイタッチしたり、雄たけびを上げたりと興奮真っ盛り。

その流れにそって、パーティーメンバーも集合する。

『イングリットさん、サポート感謝します』

『いえ、お役に立てましたら何よりです』

話す内容はと言えば、アジダハーカとの戦闘の流れについてだ。

クローディアは初手で天拳を使用したゆえに、途中のステータスダウンが発生する。

天拳は戦いの最後のとどめに使うべきスキルだし、その方が安全ではあるが、今回はとにかく瞬間火力を上げたかった。

途中でスタミナ切れを起こすのはわかっていたが、それでも全力全開を先に出しておかないと後ではカバーがしづらいという判断だ。

DPS(ダメージ・パー・セカンド) と呼ばれる、一秒間に与えるダメージ総量。

必要なDPSが高かったのは間違いなく、アジダハーカのHPを削りきれることを決めたのは、この蒲焼コンボが完全にハマった瞬間からの全力攻撃の僅か十分だっただろう。

魔力残量なんて考えない。

ただひたすらスキルを使って大技を連発し、魔力が足りなくなったらポーションで回復。

フルフェイスマスクにはそれ専用の開閉口がある。

リキャストタイムがあって通常攻撃しかできない場合はただひたすら攻撃と、この作戦で一番きつかったのはとにかく開戦のスタートダッシュで全員が攻撃の手を止めず、その時点でできる最高効率のDPSを稼ぎ続けることだった。

集団戦闘で最高効率を目指すのであれば、理屈で言えば指揮官が一人後方から戦況を俯瞰し、全員のスキル管理を実施し、秒単位で攻撃の指示を出すのが一番だ。

ただそれはゲームという環境に慣れている人がいて、なおかつ迅速に伝達できる通信手段があることが前提だ。

写し身の魔導人形のアジダハーカとの戦いと比べれば蒲焼きコンボに嵌めたアジダハーカ本体との戦いに派手なアクションは必要ないとは言っても、八本の首同士の距離はそれなりにある。

さらに言えば、戦闘員のスキルのリキャストタイム管理という考え方がこの世界には浸透していない。

スキルの集団管理なんて発想がそもそもない。

最高効率を出すという意味でこの世界の戦い方のレベルは、FBOの最前線プレイヤーと比べると稚拙と言わざるを得ない。

その状況下で、今回の参加者の中でも最高レベルのDPSを稼げる俺が、後方に下がり指揮を執るわけにもいかず。

こうやって各々の判断でスキルを使わせ、自己管理での攻撃でどうにかなったことに実は内心で安堵している。

安全が確認され、合唱していた舞台から飛んで来たアミナが空から合流し、その隣でポーションの飲み過ぎでおなかをさするエスメラルダ嬢を心配している。

「ホンマに、天災級のモンスターを倒せるとは・・・・・信じてましたが倒すとなんか夢みたいですな」

「たしかに、師匠なら大丈夫だと信じていましたが、それでも不安はぬぐい切れませんでしたからジンサイ殿の言い分も理解できますね」

「このような大物を倒したのは我も初めてだ!!」

他の大陸の英雄たちも無事のようで何より。一緒に天災級のモンスターであるアジダハーカと戦ったことで友情が芽生えているのもわかる。

結界も解けて温度も下がったのでマスクを取り外し、汗を拭い。

共に戦った仲間ということで東西南北の勢力が一堂に会している。

そうだよな、ゲームでもこうやって協力するとお疲れ様と交流を深めたものだ。

「御屋形様!!空洞の奥に人よりも巨大な宝箱が!!!」

権力争いの無いゲーム時代のやり取りのような風景を懐かしく思っていると、ゲンジロウがアジダハーカの体が消え去って空洞になった岩盤の奥に光り輝く物体があると教えてくれた。

「マジか!?」

ネルには最後の最後に招福招来を使ってもらっている。

さらにネルの豪運を加えればもちろんとんでもないことになるのはわかっていた。

フルフェイスマスクは脱ぎ去り、肩にかけるように持っている。洞穴のように空洞と化した中を覗き込めば、確かに奥の方に光り輝く宝箱が見える。

光り輝いているということは、すなわち虹の宝箱が一つはあるということ。

FBOでアジダハーカから虹の宝箱がでる可能性は通常のダンジョンよりは高いが絶対ではない。

そこで虹色の宝箱を出すためには、セーブデータを用いたリセマラのできないこの現実では、ネルが持っている招福招来に頼るしかない。

「2個も出てる!!」

アジダハーカから出現する宝箱は不完全復活なら5個で固定だ。

生贄を捧げまくって完全復活させれば1個増えるが、さすがにそこまで外道には堕ちたくはない。

銀以上が保証されているし、5個もあれば期待もできる。

運が悪いとオール銀なんて展開もある。

そしてアジダハーカの素材が入っているだけあってか宝箱は非常識だと言えるくらいにでかい。

どれくらいの大きさかと言えば、トレーラーが運ぶコンテナくらいの大きさだと言えばわかるだろうか。

アジダハーカの巨体を考えれば、相応の大きさである。

さて肝心の中身だが。

素材はアジダハーカの素材。八頭蛇竜素材シリーズしか入っていない。

魔石やスクロールもない。

それはどういう意味か。各大陸に1体しか配置されていないユニーク災害モンスターの素材はFBOでも使い方次第では使用者が最強の一角に食い込むことができる壊れ性能を誇っているのだ。

特に、アジダハーカの素材で作った武器は俺とかなり相性がいい。

俺がFBOの現役時代に愛用していた武器はいくつかある。

その中でも五本指に入る使用頻度の高い武器がアジダハーカの素材を使った鎌槍だった。

宝箱の中に入っているアイテムの数は最低2個だが、それは宝箱のランクによって封入数が変わる。

銀は2個から5個、金は3個から7個、虹だと5個から10個と変わる。

招福招来の効果によって、残り3つの宝箱も金が確定している。

この段階で八頭蛇竜素材が19個最低保証となっているわけだ。

八頭蛇竜素材は鱗、爪、牙、毒袋、骨。ここまでは出やすい素材だ。

それぞれ頭に「八頭蛇竜の何々」と冠され、要はコモンと呼ばれる素材たちだ。

俺が愛用していた武器を作るとしたら、レア素材と言われる物が必要だ。

ユニーク災害級のモンスターの素材は全部で三段階のレアリティーで全十種類。

コモン素材と言われる物が5種、レア素材と言われる金以上の宝箱からしか出ない素材が3種、激レア素材と言われる虹の宝箱しか出ない素材が2種という割り振り。

アジダハーカのレア素材は、呪毒牙、逆鱗、そして壊血毒。

前者2つは武具などに使う素材だが、コモンの毒袋と壊血毒は薬品系統の素材となる。

アジダハーカのレア素材を使えば、一撃で命を奪うような攻撃でも呪いでも劇的に回復する、エリクサーの上の某ゲームの使うのがもったいないと言われるような回復アイテムを、さらに強化したような代物も作れる。

ただ、入手できる個数に限りがあるので、もったいないお化けが登場するのはお約束だ。

このレア素材の内、呪毒牙と逆鱗はできれば2つずつは確保してほしい。

「頼むぞネル!!」

金箱3つの虹箱2つ。

この構成を前にして俺が開けるわけがない。

「任せて!!」

我らが豪運狐娘こと、ネルの出番だ。

何だかんだ、宝箱を開けるのが好きなネルが、まずは前座ということで金の宝箱から開けていく。

「どんな素材が出るんやろうか?」

「師匠の下で研鑽を積んでいれば金の宝箱程度では驚きませんがこうも並ぶと、少し怖いですね」

「ワハハハ、2人とも見よ我の肌に鳥肌が立っておる」

「僕もですわ」

「私もです」

金箱がこうも並んでいるとさすがに恐怖に近い何かを感じているようで、英雄たちも固唾を飲んで見守る。

今回の討伐で得られた素材に関して言えば、俺たちが優先獲得権を得ている。

割合で行けば八割は貰えることになっている。

残り2割の内の半分をエーデルガルド家、残った1割を英雄たちで分ける。

神殿には別途金銭で寄付するということで話がついている。

王家に関しては、今回は完全にしりぬぐい役なので献上とかは心配するなと公爵閣下からありがたいお言葉をいただいている。

見たことのない伝説上のモンスターの素材。

それを見たい輩はここにはたくさんいる。

多くの人に見守られながら、ネルは一度深呼吸してから金宝箱の最初の1つ目を開ける。

「っ!」

そして開けた先の物を見てネルは目を見開いた。

禍々しい素材。

ついさっきまで戦っていたからこそ、生で感じるその異常性。

アジダハーカの肉体の一部がそこにあり、嬉々として開けていたネルが少し不安気に振り返った。

「大丈夫、専用の入れ物は用意してあるから」

ゲームでは感じられなかったその迫力に、これを分配して大丈夫か、後の配分を考え直した方がいいかと考えつつ。

その不安を払拭するように俺はネルの隣に立ち、宝箱の中を覗き込む。

いつもなら喜んで中身を教えてくれるネルが戸惑うのも無理がない。

宝箱の中に入っている素材は、鱗が3つ逆鱗が1つ、牙が2つとレア素材を含めて6つも入っているというネルの豪運が発揮されているのがわかる。

そんなネルの運だからこそ、多く出た素材から発せられるゲームではわからない、生身だからこそ感じる異様な空気に緊張してしまうのだろう。

実際、これらの素材全てが呪われている。

素手で触れれば皮膚経由で呪毒が感染し指先から爛れる。

なので俺は腰につけていたマジックバッグから回収用のアイテムを取り出す。

「浄化のスキルを付与したミスリルを掌に装着した手袋だ。そしてこっちは聖水に浸し浄化のスキルを付与したサンライトシルクで作った袋ってね」

このアイテムを保管するのも対策を施したアイテムが必要で、過去に素材だから大丈夫だと迂闊に触れてHPを全損させたプレイヤーがいたな。

この浄化スキルも、素材を浄化するのではなく保管するアイテムの呪いから周囲を守るためのスキルだ。

そんな道具を片手に1個1個が巨大な素材をサンタクロースが背負っていそうな巨大な袋で慎重に包むのであった。