軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

14 悪魔

ネルの嗅覚が嗅ぎ取った異臭。

その正体は毒ではないと判断したが、警戒して進むということで、ややゆっくりとした行軍となった先。

この先にアジダハーカの封印があるであろう神殿めいた空間にそいつはいた。

「なに、これ」

「これは……」

その異形の巨体の姿にネルが一歩あとずさり、クローディアが眉間に皺を寄せる。

「堕ちるところまで堕ちたか、ボルドリンデ」

俺はと言えば、ゲームの映像では感じ取ることができない生々しい匂いに加え、ドロッとした液体を吐き出す存在に嫌悪感を感じる。

「これだけは出してほしくなかった」という願望を裏切られた思いと、ここまでして目的を達したいのかと、ボルドリンデの狂った野心に理解が追い付かない現状に対処すべく、槍を構える。

足元にある魔法陣はその存在をその場にとどめる物、それが俺たちが来たことによってゆっくりと消え去り、その怪物が解放される。

下半身が赤黒いゲル状になり、上半身が多頭多腕の巨体の怪物。

「悪魔、ですか」

その正体に心当たりのあるクローディアは、油断なく身構え戦闘態勢をとった。

「これが、悪魔?拙者の知る悪魔の姿とは違うでござるな」

あからさまな敵意、そして俺たちの姿を見て数秒の沈黙の後に。

『■■■■■■■■!?』

狂ったように咆哮を上げて暴れ出し、俺たちに襲い掛かってきた。

「戦闘パターンBで散開!」

細かい指示を出している暇はない。

あらかじめ決めておいた行動パターンで、各々が動く。

行動パターンBは、下手に攻撃を受けないようにヒットアンドアウェイを基本とした戦術。

メインアタッカーとして後衛のエスメラルダ嬢を主軸にした編成だ。

「こっちよ!」

前衛が注意を惹きつけ、後衛にヘイトを溜めないように気を配る戦術で、ネルが真っ先にその身体能力を駆使してハルバードで下半身に切りかかるも。

「効かない!?」

「効いてる!だがダメージが通りにくいんだ!」

普段であればどんなモンスターでも吹き飛ばし、破裂させるネルの剛撃が、その液状の体をわずかに削るだけで済まされてしまった。

『■■■■■■■■!!』

俺もマジックエッジで補強した鎌槍で切りかかるが、この異形の怪物には効果が薄い。

悪魔。

それはFBOでプレイヤーが最も戦うのを毛嫌いするモンスターだ。

邪神教会の秘奥の術で、複数の生命を合成して生み出される人造モンスター。

その姿は様々で、いわゆる「the悪魔」みたいな見た目であったり、こういう異形の姿をしていたりする。

そう言った様々な姿かたちをしていても、クローディアや俺がどうしてこの怪物が悪魔だと判断できたかと言えば、悪魔だけが持つ絶対の特徴があるからだ。

それが、異形の全身に走る特殊な文様だ。

色は異なるが、体中に入れ墨のように施された魔術的な文様。

この文様こそが、悪魔を作る際に秘奥の術で施され、プレイヤーたちでも解析し再現できなかった技術だ。

その秘奥の技を用いて邪神教会の一部、幹部級の術者が生み出す存在。

それが悪魔。

その性能は素材となった生き物によって差が出るが、基本的には素材になった生き物よりも高性能になりやすい。

「背面から蛇状の触手!数は四つ!ゲンジロウたちは背面に回り込み対処!」

「承知!」

理由の一つとして挙げられるのは、まずキメラのように生き物同士を掛け合わせるパターンが多いから、単純に加算で能力が増えるということ。二つ目に、本来持ち得ないような能力であっても、アイテムを混ぜ込むことで増やすことができるということ。

それこそ、魔法も混ぜ込むことができる。

この悪魔の姿かたちから推測して、混ぜられたのは、人間、蛇竜の眷属、スライム、そしてボルドリンデの闇魔法。

「!ブレス来るぞ!イングリット!」

「お守りします」

悪魔の多頭の一つが息を大きく吸い込むような動作をして、直感的に物理ダメージではなく状態異常系の何かが来ると判断し、イングリットのエアクリーンを発動させる。

「毒霧?いや、これは腐食か!」

全てを腐らせる腐食のブレス。

エアクリーンで防げたのは、腐食させる物質が霧状のものであったからだ。

もしこれが、液体だったらと考えるとゾッとする。

そして腐食した際に発生した紫色の煙、おそらくあれが異臭の原因だろう。

エアクリーンで防げなかった壁や天井が腐り、このまま何度もブレスを吐き出され続けると、腐り落ちてこの空間自体が崩壊しかねない。

「心臓を探せ!悪魔の弱点は心臓しかない!それ以外は再生して元通りになる!クローディアさんはエスメラルダさんの護衛に専念してください!格闘戦と腐食の相性が悪すぎる!それ以外は武器にマジックエッジで補強を!」

時間制限付きの戦闘かよと舌打ちして槍を突き立て心臓を探るも手ごたえがなく、逆に槍が吸い込まれて持っていかれそうになって無理矢理引き抜く。

悪魔の嫌なところは、基本的に弱点である心臓を攻撃すれば大ダメージを与えられるが、それ以外だとダメージが激減するという厄介なダメージプロトコルを持つことだ。

これは耐性云々の話ではない。

この生物は、心臓以外にダメージがほとんど通らないという生き物なのだ。

「ゴールドスマッシュで吹き飛ばす?」

「もしくは拙者たちで切り刻むのも有りかと」

ほぼダメージを受けないという性質を除けば、攻撃そのものは対処しやすい。

しなるように放たれる腕の攻撃は、関節が行方不明になっていると思えるくらいに伸び、多頭の口から放たれる腐食のブレス、背中から伸びる蛇状の触手にも同じような腐食効果がありそう。

多頭ゆえに複数の相手を常に捕らえ、各々が管理する腕で対処するから、多数の敵を相手にする戦闘にも向いている。

このあたりから、格付けとしてはクラス6、高くてもクラス7の前半くらい。

もし仮に、エーデルガルド家の騎士たちがこの怪物と当たっていたら損害は計り知れない。

そんなモンスターを用意しているボルドリンデの執念。

「いや、もっと簡単に倒す方法がある」

しかし、残念無念ってね。

そんな面倒な存在がいて、廃人たちが簡単攻略法を確立しないとでも思ったか。

異形の悪魔の周囲を回りながら、俺はじっくりと観察する。

悪魔を攻略する際に重要なのは、しっかりと種別分けすることだ。

それもツリーチャートを使って分別するのがいい。

まず第一段階で区別するのは、実体型か非実体型かの二択。

前者は今の異形型のように物理的な肉体を持っている存在のことを指す。

後者はゴースト系の物理的実体を持たないアストラル的存在を指す。

後者に関しては見た目はあまり関係ない。人型もいれば、獣型もいるし、こういう異形型の悪魔もいる。

総じて、物理的なダメージが通らず、魔法系のスキルでないとダメージを与えられないのが特徴だ。

さて、俺、ネル、ゲンジロウたち赤備えの攻撃による物理ダメージがわずかでも通るということで、こいつは実体型というのがわかる。

次に分けるのは生物系か非生物系、あるいは混合系の三択。

この選択肢は文字通りの分け方になる。

生物系は生物のみを素材にした悪魔、非生物系はゴーレムのような無機物を素材にし魂を憑依させた悪魔、そして混合系はどちらの要素をも含んだ存在を指す。

この悪魔の場合は生物系、それも粘体であるスライムを取り込んだことによって、弱点の心臓を常に移動させ生存能力を高め、さらにスライム由来の腐食攻撃を強化したタイプの悪魔。

人間と蛇竜の眷属を取り込んでいるから、完全な粘体になっていないと思われる。

であれば、その長所を短所に変えてやればいい。

「エスメラルダさん!足元狙い!アイススパイク!」

「わかりましたわ!」

端的に指示を出せば、エスメラルダ嬢は素早く反応してくれる。

こういう粘体系の敵は、その粘体さえ封じてやれば怖さは軽減される。

「アイススパイク!」

粘体系のモンスターは基本的に俊敏に動くことができない。

一度加速が乗れば、ステータス相応の早さを発揮することができるが、こうやって地面からいきなり攻撃するのには反応できない。

「連続で下半身を凍らせて!」

「承りましたわ!遠慮なく、ガンガン行きますわよ!」

元から自身の防御力を信じて、多少の攻撃は受けても問題ないという思考で行動しているから、そもそも回避するという意識が薄い。

防御系スキルで固めているモンスターやヴィラン系NPCはその傾向が強い。

逆に俊敏系のスキルを保持して回避することを念頭にしている相手には、こういう戦術はとりづらい。

「動きが鈍いな!下半身に心臓はない!ゲンジロウ!」

「承知!」

氷系の魔法スキルには凍結効果が付与されているスキルが多い。

アイススパイクは、地面から生やす系のスキルゆえにその効果が強く設定されている。

動きが速い敵には当てるのに少しコツがいるが、こういう動き出しが遅い敵には当てやすい。

「居合」

アイススパイクで下半身が凍り付く。だけど、抵抗力の関係で効果が強いスパイク近辺から一定の範囲、下半身腰部くらいまでしか凍り付かせることはできなかった。

だけど、体の半分、全長10メートル近くある巨体の下半分を凍り付かせることができたのはかなりの効果と言える。

イングリットとは違い、ガチの刀を使ったスキル構築をしているゲンジロウの一刀。

「カァ!!!!」

思いっきり目を見開き、気合を吐き出したゲンジロウの攻撃によって、悪魔の下半身と上半身が分断され。

「ネル!上半身を吹き飛ばして!」

「パワースイング!」

再生され、くっつく前に、ネルによって上半身を吹き飛ばす。

「エスメラルダさん!」

「アイススパイク!」

後はこれを繰り返す。

ネルが吹き飛ばしたことによって、悪魔は左側から地面に落ちるように倒れ込む。失った下半身の元に戻るよりも先に、地面から生えてきたアイススパイクで今度は左半身が氷漬けにされる。

こういう時って、妙にクジ運が悪いんだよな。

未だ藻掻き反抗しようとする右半身。

すなわちそこに心臓があるということで。

「一刀両断!」

ゲンジロウは自分が何をすればいいか即座に判断し、居合切りを終えてから、即座にネルが吹き飛ばした方向に追尾し、左肩付近から斜めに切り離しにかかる。

「もう一回!パワースイング!!」

そしてネルもどうやって倒せばいいかわかってきたので、ゲンジロウが切りやすく、エスメラルダ嬢の視界に入り魔法を当てやすい方に切り離した右半身を転がした。

「ネルさん!良い位置ですわ!」

その先に待ち構えるようにアイススパイクが展開され、吹き飛ばされた勢いも相まって深々と氷のスパイクに突き刺さる。

そして。

「ここか!」

体が凍りながらも必死に、最後まで藻掻く一つの頭が見えた。

「心臓打ち」

その部分に心臓特化の一撃を叩き込めば、ビクンと明確にダメージが入ったモーションを見せ、そして動きが止まり。

「成仏してくれ」

黒い灰になって消えていく。

その消えゆく姿を見て他のモンスターと違って、なんだか寂しい気持ちになる。

俺はこの悪魔が生まれる方法を知っている。

そして人の形が残っている悪魔は、絶対に人が素材になっている。

FBOをゲームとして見ていた時も、この設定をえげつないと俺たちは思っていた。

だからこそ、倒しにくいということも含め、苦手なモンスターだと認識していた。

少数ではあるが、人間の意識を持ち、NPCとして仲間になるネームドの悪魔もいたが、そんなのは例外だ。

大半が人としての意識を奪われ、かろうじて残った意識でも変貌してしまった己の姿を認識して絶望し、「終わらせてくれ」と願う。

元に戻ることは不可能。いや、もしかしたら方法があるのかもしれないが、ゲーム上では発見されず、俺も知らない。

人を殺せばこの世界には遺体が残る。

だけど、この悪魔は黒い灰となって消える。

それはすなわち、人からモンスターになってしまったという証拠。

人として死ねず、悪魔として討伐され跡形もなく消え去る結末というのは、俺個人としては悲しいと思ってしまう。

だからこそ、片手を上げて拝み、ボルドリンデの野心の犠牲となった忠臣たちの来世が安寧なものになることを願う。

「・・・・・行こう」

そしてこんなことをこれ以上起こさせないために、この先にいるボルドリンデと決着を付けに行くのであった。