軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

10 大事の前の大事

トラブルに愛されるというのは、退屈とは縁遠い場所にいるということで、ある意味では恵まれているとは思う。

しかし、物事には限度がある。

ボルドリンデを捕まえないといけないし、その後にアジダハーカと戦わないといけない。

それからすると、グルンドという存在は後のことを考えなければ無視しても良いとは思う。

だけど、倒せるのなら倒しておきたいというのも本音。

その機会が訪れたのなら挑みたいとは思っていたけど、よりによってなんでこのタイミングなんだと声を大にして言いたい。

だけど、それを言ったらロキの機嫌が斜めになるというのがわかっているので、思うだけで留める。

「ま、勝てばいいだけのことだし」

『負けた?朕が?こんなにあっさりと?』

「はい、俺の勝ちです」

代わりに、俺が「確実」に勝てる戦場に引きずり込んで勝ちを拾わせてもらった。

決着まではわずか数分、詰め将棋のように追い詰めて最後に黒い人形の心臓に槍を突きたてて勝負は決した。

神様というのは傲慢で、プライドがやたらと高い。

なので、まずは神側に勝てると思わせないと勝負が成立しない。

いかにして、神に己が有利だと認識させる勝敗条件を設定するかが重要だ。

今回の件で言うのなら、肉体は同格だが、中身の性能に差があると錯覚させた。

基本的に言えば、神というのはスペックでは人間をはるかに上回る。

グラフに表示したら、すべての数値で上回っていると言っても過言ではない。

だから対等を条件に勝負を挑んだら負けることは無いと思い込んでいる神は受けてくれるが、ここで少しでも人間側が有利になるような条件がねじ込まれると、神は機嫌を悪くし一方的に神が有利な条件を提示してくる。

なので下手に出て、「こっちが不利ですよ」と匂わせて、勝負内容を決定できればあとは勝ちを拾うだけ。

ミラーマッチで負けるほどの半端な腕をもっていては、廃人界隈ではカモにされるだけだ。ましてや、ゲーマーとしてのキャリアでは完全に俺が上なんだから、相手が神様であっても負けるはずがない。

それに俺は神という生き物の戦い方を知っている。

神というのは合理的だ。

急がば回れなんてことわざなど知らぬと、勝利を最短ルートで求めてくる。

そこは合理性の塊と言っていいほど、隙などなく、淡々と詰将棋のような攻撃で圧倒してくる。

遊び心というものもなくはないが、勝って当然と思っている傲慢な態度が見える戦い筋と言えばいいのだろうか。

打ち合いから入り、俺の動きを数合打ち合って把握したと言わんばかりに、俺が苦手だと思うような攻撃に移り、そして徐々に打ち崩すような動きにシフトした。

俺に何もさせず、挑んだことを後悔せよと圧倒することを選ぶ戦術。

そんな戦いを仕掛けてきて、俺は安心した。

やはり、この存在も俺の知る神の範疇なのだと。

格ゲーの廃人たちの格言にこんな言葉がある。

〝一つのキャラを極めても最強にはなれない〟

ようは、いかに一つのキャラを使い込んでも、他のキャラの癖とか強み弱みを把握しないと勝てないよ、というわけだ。

それがVR界隈の格闘ゲームともなると、まぁ、何でもありの世界になってしまい、「混沌」と表現するしかないほどいろいろな技術が生み出される。

今回の俺の戦術は、化かし合いの格闘ゲームで身に着けた偽装戦術だ。

相手に「この人物はこの癖があり、こんな行動パターンがある」と思わせる。VR格闘ゲームでは初歩の初歩と言えるような技だ。

上級者の対人戦は騙し合いがセオリー。

分かったつもりの神様なんて、俺たち廃人ゲーマーの蠱毒のような泥沼の戦いを知っている者たちからしたら、ビギナーを狩るようなものだ。

癖を信じた攻撃を刈り取るように片手を奪い、驚いて立て直そうとするところを着地狩りで足首を切り取り。片手片足を失ってしまえば、槍という武器を扱うにはステータスが足を引っ張る。

動かし方が綺麗すぎるぞ神様。

逆転を狙って心臓を狙うのはいいけど、そんなもの追い詰められたビギナーが逆転を信じて一撃必殺を狙ってくるような流れと一緒だ。

正確に俺の心臓だけを狙ってくるのなら、どういう動きをするかはわかりやすい。

最後の腕を切り裂いて、バランスを崩す黒い人形は背後に流れ背を晒しそこから心臓を一撃で刺して終了。

それで冒頭の勝利宣言に戻るというわけだ。

『・・・・・』

グルンドの命運をかけた勝負にしては、いともあっさり決着がついた。

もしこの光景をグルンドに苦しめられたFBOプレイヤーが見たら、「ふざけるな!!」と怒るやつもいたかもしれない。

グルンド討伐クエストで惨敗した連中の中には、完全装備で確殺を誓ったプレイヤーもいれば、課金アイテムをふんだんに持ち込んで狩りに行ったプレイヤーもいる。

それが加護やスキルを一切封じればこうも簡単に殺せる条件を満たせるのだ。

怒り心頭になってもおかしくはない。

と、過去の旧友ら辺からクレームが来そうだなと思いつつ、コントローラーを持って茫然自失しているゲーマーのような表情をしているロキの顔を見つめる。

黒い人形では視線がないので動きを読むのは中々面倒だったけど、逆に言えばそれだけだからな。

「神ロキ、勝敗はつきましたよ」

『う、うむ、数百、いや千年ぶりくらいに敗北して気が動転してしまったようだ。見事だ、うむ、見事だ』

勝てると思った勝負に完膚なきまでに負けたことにより、動揺が隠せてないようだけど。

「約束、果たしてくださいね」

『うむ、そこは違わぬ。だが迷い人よ、もう一戦どうだ?』

「時間がありません」

『下の存在は朕が抑え込んでおく!なんなら追加で景品を付けようではないか!!』

数回ほど、深呼吸を繰り返したグルンドの中にいたロキは落ち着きを取り戻し、勝敗の結果を受け入れた。

しかし、負けたことには変わりがないので、汚名返上と再戦を要求してきた。

それに対して一瞬考え、余計な物を貰えば何をされるかわかったものではないので。

「では、質問に答えてくれるならもう一戦だけ受けてもいいですよ」

『うむ!答えられるものは答えよう』

「なんでゲンジロウはあなたの影響を受けなかったのですか?もしかしてあなたのようなものがゲンジロウに憑りついているとか」

『ああ、それか』

もう一つの原因不明の事象を把握するために質問することにした。

ロキの妨害が明確にあったが、ゲンジロウはスキル以外に影響を受けていなかった。

それに関して心当たりがあるなら聞きたかったので聞いてみれば、いともたやすくロキは頷く。

『その人間はそういう体質だ。ほれ、そこの狐娘と一緒よ。そこの狐娘は善運と悪運を引き寄せる体質だが、そこの人間は運命を定める体質を持っておる』

「運命を定める?」

『一度決めたらそれを成し遂げる。こうと決めれば何が何でもやり遂げる。意志の固さとも言うが、大概はその意志は外部の要因によって妨げられ挫折させられる。そこの人間は自分で決めたことに対して、朕のような神々の影響を受けにくい。うむ。過去の大神の流れだな』

「また、大神ですか」

『なんだ、意図して集めたわけではないのか。大神の因子が2人もおるからてっきり』

ネルとは違う、大神の因子。

ゲンジロウが狂っていた時は、確かにゲンジロウを妨害する策略はかなり効果が低かった印象がある。

邪神のため、そして家族を復活させるために猪突猛進で物事にあたっていたが。

まさかそんな理由があるとは思わなかった。

そして何やら不気味なところで、話を区切り、ニヤリとグルンドの顔で笑う。

「何かあるんですか?」

『いや?これは褒美には入っておらんと思ってな、これ以上は教えぬよ』

なんとも中途半端なところで情報を切られたな。

ジト目で睨みつけても、次の試合の準備をし始めているロキは聞く耳を持たない。

となれば。

『ぬがぁああああああ!ズルだ。ズルをしておるだろ!!』

「ズルも何も、あなたが俺のステータスを封印しているんでしょ?どこにズルの要素があるんですか?」

『そうだが!?そうなのだが!?』

その意地悪には、真っ向からボコボコにすることで憂さを晴らさせて貰う。

こっちの対人戦の引き出しは、一回や二回戦った程度じゃ底は見せないよ。

今回は虚をついての速攻で終わらせた。

槍を突くと見せかけて、相手に防御と回避行動を取らせる。

その隙に超近接戦の間合いに持ち込み、掴みかかり柔道の投げ技から腕ひしぎ逆十文字固めに移行し、関節に体重をがっつりとかけて壊してあたふたとしている間に次々に関節を壊し身動きを封じ、悠々と槍を拾いなおしてぶすりと一発。

『槍同士の決闘と言ったではないか!?』

「言ってませんよ?クラスとレベルは指定しましたけど、武器の使用に関して自分は一切言及していません」

この後が忙しいのだ。

こっちも効率重視で倒して、何が悪い。

さっきは茫然自失としていたロキであったが、今度は台パンしようとしているゲーマーのような態度だな。

『・・・・・』

「一回という約束です。これ以上はこっちも時間がありませんので」

『むぅ、わかった。朕もそろそろ他の神の目をごまかすのも難しくなってきたな。今日はこれまでとするか』

しぶしぶという形で落ち着き、ロキはため息を吐いて、戦いは終了した。

その後、拍手が再び一回響き、

『ステータスの封印が解除されました』

そんなアナウンスが響き渡り、体に活力が戻る。

そしてグルンドの体から黒影が再び這い出てきて、それは一匹の小さな蛇へと姿を変えた。

「え、俺は、いったい」

蛇が出てきて数秒後、立ったまま意識が戻ったグルンドは周囲を見回し始めた。

『スキルは回収した。後は好きにせよ』

結界に守られているが、兵士に囲まれそして腕を失っている。

ついさっきまでの出来事と、現在を照らし合わせた結果、再び顔が青ざめるが、自分にあるスキルを思い出してどうにかなると踏んだグルンドは、ゆっくりと逃げる仕草に移る。

それを見て、興味を失ったロキはそれだけを俺に伝え、草むらに飛び込みあっという間に去って行く。

あれ以上関わると文字通り藪蛇になりかねないので、素直にそれを見送る。

そうして災いは過ぎ去った。

残ったのは、神が放棄した抜け殻だけ。

結界が消え去った瞬間に、グルンドは走り出した。

「ゲンジロウ」

「御意に!!」

その背を追いかけて、ゲンジロウが駆け出す。

片腕を失い、バランスを崩しながらも逃げる背中に迫るゲンジロウ。

振り返りもせず、そのまま走るグルンドに、ゲンジロウは刀を抜き、振り上げる。

そしてその刃は。

「な、んで?」

今度は躱されることなくグルンドの背中を切りつけた。

痛みに目を見開くグルンド。

体が倒れ込み、地面が赤く染まる。

賊であっても、その血は赤く。

「いやだ、死にたくない。ぼくは、まだ、やりたいことが」

その血だまりに体を這わせ、懸命に進むが、グルンドを守っていた神の加護は無くなった。

「その首貰い受ける」

そのすぐそばに立ったゲンジロウの顔を見上げ、「嫌だ」と首を振るグルンドに目掛け、ゲンジロウは刀を振り下ろし、そこでグルンドという人間の人生は幕を下ろした。

FBOでは倒せないと言われていた存在の結末にしては、あっけないなと思ってしまった。

「敵将グルンド!!討ち取ったり!!!」

グルンドの首を高く掲げるゲンジロウの鬨の声に、赤備えが雄たけびを上げ、さっきまでと違い統率力を失った蛇竜の眷属を今度は討ち取りにかかる。

結果として、この遺跡での賊のまとめ役であったグルンドの死は、相手側の戦意を挫く決定的なものとなった。

賊は抵抗ではなく逃走を選ぶが、すでに手遅れ。

エーデルガルド家の私兵たちが次から次へと賊を打ち滅ぼし、漏れ出てきた蛇竜の眷属はその数を順調に減らす。

「残ったのは、ボルドリンデの私兵だけですわね」

残って抵抗しているのは、遺跡の一部を砦と化し籠城しているボルドリンデの手の者だけ。

その砦の陥落も時間の問題だ。

「ええ、余計な時間がかかりましたので、ここからはさっさと終わらせましょう。本番も控えてますし」

そうして一つの騒動に区切りをつけたので、本丸に挑みかかるのであった。