軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

6 やりすぎた

「リベルタ」

「どうした、ネル?」

「やりすぎよ」

「はっきりと申し上げますと、過剰戦力かと」

「そうとしか、見えませんね」

「敵に同情する気はありませんが、我が方が圧倒的に有利ですわね」

アミナの聖歌をBGMに戦場を見る。

いや、これを戦場と言っていいのか?

作戦は順調、極めて順調だと言っていい。

なにせ、現在進行形でボルドリンデの根城は阿鼻叫喚の地獄絵図と化しているからだ。

『置いてけぇ!!その首置いてけぇ!!!』

『死ねぇ!!潔く死ねぇ!!』

『逃げるやつはくそじゃ!!首を置いて死ねぇ!!!』

うん、スパルタ式のパワーレベリングで調子に乗ってしまったか、我ながらこの連中を強くし過ぎた。

最初は懸命に立ち向かっていた盗賊たちだが、こちらの見事な連携で圧倒されて戦いの大勢が決まってしまえば、逃げたくなる気持ちもわからなくはない。

『敵将の首打ち取ったぞおおおおおお!!』

『『『『『『おおおおおお!!!』』』』』』

赤備えを着こんだゲンジロウたちが刀一本で敵陣地に踏み込んで数で優る敵を圧倒し、少しでも歯向かってきた敵は「悪即斬」と言わんばかりに群がり蹂躙する。

蹂躙劇と言い換えた方がいいかもと俺も内心では思っている。

その惨状を見て、堀に飛び込み、遺跡からの脱出を計ろうにも。

『賊を逃がすな!!弓隊、放てぇ!!!』

その遺跡を包囲したエーデルガルド公爵家の私兵たちによって、逃げ出す賊は悉く打ち取られている。

『降参する!!降参だ!!』

『そう言って助けを乞うた無辜の民たちをお前たちはどうした!?この期に及んで命乞いなど聞くわけが無かろう!!死ね!死んで地獄で神に懺悔せい!!』

捕虜は取らない。

それは国王陛下と公爵閣下が、あらかじめ決めている。

賊は残しても百害あって一利なし。

それがこの世界の常識。

「さてと、正面入り口は制圧できたようだし、俺たちも出るよ」

「わかったわ」

「承知しました」

「目標はボルドリンデの確保、または処断でよろしいですね?」

「ええ、お父様からは生死は問わないと言われておりますわ」

その戦場に気を引き締め、俺たちも突入を開始する。

現状、無双ゲームと化している戦場に、俺たちが介入すればさらに蹂躙速度が加速するだけだが。

いかに精強なゲンジロウたちであっても、千単位の賊を倒し切るのは時間がかかる。

『こいつらがどうなってもいいのか!?』

中には、誘拐して牢屋に閉じ込めていた民を人質にとって対抗しようとしている賊も現れ始めるが。

『ふべろ!?』

『ハハハハハハハ!!悪があるところに我ら有り!!エンターテイナー!ジャック見参!!』

『もちろん!ミネルヴァちゃんも登場!!』

そんなのに対策を打っていないわけがなく、人質解放のために潜入工作に長けたエンターテイナーを混乱に乗じて突入させている。

派手な登場でポージングをしているが、しっかりと人質を取ろうとした賊の顔面を蹴り飛ばして、首を向いてはいけない方向に向けさせている。

こういう誘拐や略取系の犯罪はエンターテイナーたちにとってはNGだから、ジュデスも容赦ない。

ミネルヴァと名乗ったシャリアも軽快に賊たちに短剣を振るってその命を刈り取っている。

『人質は我らに任せよ!!』

『おお!お主たちが御屋形様の影の者か!!かたじけない!!』

『これで遠慮なく戦えるぞ!!者ども!!蹂躙せよ!!』

『『『『『『『おおおおおおお!!!!』』』』』』

事前にエンターテイナーに関しては伝えてあるから、ゲンジロウたちも混乱せず共同戦線を張ることができる。

うーん、今の俺の勢力って実は結構やばい奴らで固められているのか?

露出狂のエンターテイナーに、首切り薩摩脳の御庭番衆。

随分とキャラが濃い面々が揃ったなぁ。

まぁ、露払いが簡単にできていいか。

遺跡の防衛の要である城門はすでにゲンジロウたちによって細切れにされ、俺たちと一緒に入ってきたエーデルガルド公爵家の私兵たちがさらに賊を討伐し始めるという光景が出来上がっている。

バリスタ?弓兵?

そんな物、超長距離仕様の長弓で相手の矢が届かない遠距離攻撃で仕留めたわ。

そこら中から賊たちの断末魔が聞こえる。

このペースで行けば・・・。

『モンスターが出たぞ!!』

『こっちもだ!!蛇のモンスターだ!!』

『いや、こいつら人だ!!今変身した!!』

「ん?」

制圧が完了するかと思いきや、何やら雲行きが怪しい叫び声が聞こえ始めている。

「モンスターが出たって言ってるわよ」

「おかしいですね。ここら一帯はモンスターの出現エリアから外れているはず」

ネルの耳がぴくぴくと動き、悲鳴の中に紛れる情報を拾い集め始める。

その情報を耳にしたクローディアが顎に手を添え、「おかしい」とつぶやく。

「変身する怪物って、まさか……」

俺も集中して耳を澄ませると、御庭番衆やエーデルガルド公爵家の私兵たちが戦い叫ぶ声が聞こえる、

声を拾い上げ情報を集めると。

「もう、そこまで面倒な物をばらまき始めていたか!!」

「リベルタ?」

俺は事実を確認するために、速足で戦闘音が過激になっている方向に進む。

背後にネルたちが続く気配を感じるから気にしない。

さっきまでは戦闘音なんて聞こえなかった。

聞こえていたのは一方的な蹂躙による斬撃音だけ。

だけど、そんな蹂躙劇が戦闘に変わったのだ。

それに関しては一つ心当たりがある。

「あー、やっぱり」

そして現場に到着した俺は、掌で目を覆うようにして空を仰ぎ見る。

本当にまぁ厄介なことになっちゃってからに。

「なにあれ」

着いてきたネルが、目の前に広がる光景を見て声を震わせている。

「ナーガですか?」

「違いますね。あれはナーガじゃない」

クローディアも見ている。赤黒い鱗に、蛇の下半身、胴体と腕は人で、顔は蛇。

半人半蛇というには蛇の割合が多い怪物が、御庭番衆やエーデルガルド公爵家の私兵たちと戦っていた。

一見すれば、クローディアが言うモンスターに似ている。

インド神話に出てくる蛇神をモデルにしたのか、それとも別のモデルがあるかは知らないが、FBOでは水属性のモンスターとして存在している。

表皮に淡い水色の鱗を持つ、半人半蛇のモンスター。

それがナーガなのだが。

目の前のモンスターは人為的に作られたモンスターだ。

蛇竜の因子というアイテムを使うと、人を蛇のモンスターに変えることができる。

これって、プレイヤーでも使用できて、一度使ったら固定のクラスとレベルになってスキルも変容するという仕様だ。

「蛇竜の眷属。奴らはそう呼ばれている」

使用したら最後、死ぬまでその姿が維持されるが、蛇竜の加護というスキルのおかげでステータスは強化される。

「斬られた傷が治っていませんか?」

「スキル『再生』を持っていますからね」

EXBPを完全取得するほどの強化とはいかないが、それでも同格のモンスターを上回るアイテムボーナスのステータスは得ることができる。

おまけに変容後に所持するスキルの半分は生き残ることに特化しているスキル構成になっているから、倒すのに苦労する。

再生のスキルレベルはクラス10のカンストレベル。

並大抵の強さじゃない赤備えの御庭番衆が、モンスターの腕を切りつけたが、その傷から白い湯気が立ち、瞬く間に回復していく様は厄介極まりない。

クローディアでも目を見開くほどの傷の逆再生ぶりを披露している。

「首が切り飛ばされても生き残ってますわ」

「スキル『堪える』を持ってますからね。一撃だけなら即死を耐えますよ」

おまけにこいつら即死攻撃に対しても耐性を持っているし、普通の人なら即死であるはずの攻撃を普通に耐えて見せる。

ゲンジロウが隙をついて首を搔っ切ったけど、残った体が動き出して暴れているうちに切り捨てたところからニョキニョキと首が生えてきているのを見たエスメラルダ嬢がドン引きしている。

「首が生えてきておりますね」

「人じゃないからできる技だよなぁ。あの状態になったらクラス5のレベル後半のステータスを持っている状態になる。注意すべきは…」

冷静に蛇竜の眷属の姿を観察しているイングリットは、どうすれば殺せるのかを考えている様子。

「ああいった、首が増えている個体だな」

そんな彼女に教えるように、ちょうど近くにいたエーデルガルド公爵家の私兵たちが戦っている二本首の怪物を指さす。

赤黒い鱗で全身を覆われた、巨人族並みの巨体に首の根元から二本の蛇の顔が生えている怪物は、片方の口から毒の霧を吐き出しながら伸びる尻尾でエーデルガルド公爵家の私兵たちを牽制する。

ナーガなら頭は一つだし、属性は水。決して毒は吐きださないし、あんな鋭利な爪で切り裂こうともしない。

「ごくごくまれにああやって特殊個体が生まれるんだよね。そうなってくるとクラス6のタフなモンスターになる。最大で首が四本まで増えるから気を付けないと」

「四本首の強さはどれくらいですか?」

「さすがにクラス8まではいかないけど、クラス7の中盤くらいの強さにはなる。と言っても出る確率はかなり低いはずで……」

そんな蛇竜の眷属の特殊個体はすでに三体確認している。

幸い、御庭番衆やエーデルガルド公爵家の私兵たちで対応できているからこのままいけば問題ないかと思えば。

『今度は四本首がでたぞ!!こやつ強い!!』

『連携を乱すな!!魔法隊構え!!』

『ええい!!首を一本切り裂いた程度では死なぬか!!』

まるで俺のセリフがフラグだったかのように、一番厄介な個体が出現した。

「「「「・・・・・」」」」

「俺のせいじゃないからな!?」

それを聞いて女性陣から一斉に視線を向けられたが、流石にそれは心外だとクレームを入れつつも現場に急行する。

この戦に参加している戦士たちは四本首にも勝てるレベルに育ててはいるが、万が一のことを考えると俺たちパーティーが対応した方がいい。

「ハハハハハハハ!!御屋形様の刃であるこのゲンジロウ!!この程度の逆境で後れを取ると思うなよ!!」

「どうした怪物!!この程度か!?」

「何度でもその首叩き切ってやるわ!!!」

と思っていたのだけど、赤備えたちが群がるように四本首の蛇竜の眷属に切りかかって、自慢の再生能力を凌駕する勢いで攻勢を仕掛けている。

「む!曲者!!」

危なげなく戦う様子に、援護は不要だったかと思っているとゲンジロウが岩陰に向かって斬撃を飛ばした。

そこには誰もいないはずだったが、その斬撃を躱すように身を投げ出し姿を現した男がいた。

「まったく、こんな怪物たちが襲撃してくるなんて聞いてないよ」

魔法のローブに身を包んで隠れていたが、ゲンジロウの攻撃であぶり出された男。俺はその男のローブに見覚えがあれば、その声にも聞き覚えがあった。

「ゲンジロウ!!そいつを絶対に逃がすな!!確実に仕留めろ!!」

気づけば俺は叫び、鎌槍を片手に駆け出していた。

「!承知仕った!!御屋形様のご下命だ!!その首もらい受けるぞ!!」

「残念だけど、まだまだやりたいことがあるから遠慮するよ!!」

神隠しのローブという、激レアの隠密アイテムを所持し、盗賊のアジトに身を潜めている男。

FBOでは厄介ごとしか招き寄せないことで、プレイヤーからは蛇蝎のごとく嫌われている人物。

「グルンド!!ここで死ねぇ!!!」

仮に違うとしても、ここで賊とともにいるのであればこいつは有罪だ。

乱戦に紛れて逃げようとする背中を俺とゲンジロウで追いかける。

「君とは初対面のはずだったけどね!」

「お前の罪を考えろ!!」

「そう言われると、おじさんも言い訳できないよ。だから、ほら出番だよ」

身体能力の差で瞬く間に追いつき、刺し殺そうとしたが、用意周到なグルンドは木陰に潜ませていた蛇竜の眷属を呼び出し、俺の進路を妨害するのであった。