軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

1 改変

何かを変える。

それはどんな物事に対しても、施すのに労力がかかることは共通している。

通学路を変えれば、移動時間や移動距離が変わる。

職種を変えれば、人間関係が変わるし、仕事の内容も変わる。

行きつけの店を変えれば、食べる料理も変わる。

大なり小なり、変わる際に発生する労力。

「武人と聞いていましたが、一体どのような人なのでしょうか」

「初手で模擬戦を挑むのはダメですからね?」

「わかっています。なので、アミナとネルを待機させていなくても大丈夫ですよ?」

「だったら、その戦う気満々な状態を解除してくださいよ」

俺たちプレイヤーが薩摩侍と呼んでいた、FBOに登場する最強のヴィランキャラである三狂の最後の一角、ゲンジロウ・シズマの運命を変えた。その結果、この先どんな出来事が起こるかは予測できない。

しかしそれでも、原作ストーリーで知るヴィランに堕ちる前の彼の人格、そして実力は魅力的だと思ってスカウトした。

元の実力はFBOの記憶頼りではあるが、コンによって実力はあるという裏取りは済んでいる。

故にスカウトに踏み切ったわけだが・・・・・

うっかり、クローディアに俺の知る原作のゲンジロウの実力を語ってしまったゆえに会ってみたいと言われ、その時の表情が何やら楽しそうな様子。

まさかと思い念のため、身体能力で勝てるネルと味方を強くできるアミナを待機させてゲンジロウ一行を出迎えている。

「・・・・・いいではないですか。東の大陸の侍と戦える機会はそうないのです」

「いや、クローディアさん勘弁してください。いかに僕のところの名うての侍でもさすがにレベル差がありすぎますわ」

その出迎えのために一緒にコンも来ている。

その顔に冷や汗を流している理由は、間違いなくクローディアの実力を知っているからだ。

彼も晴れて訓練に参加し、順調に強くなっているからこそ、クローディア監督の訓練にも参加している。

そうなると普通にレベリングしていた輩がどれだけ弱いか、そして俺のノウハウでレベリングされる戦士とどれほど差があるかを理解しているのだろう。

俺も、さすがに今のゲンジロウがクローディアに勝てるとは欠片も思わない。

戦って善戦できるかも怪しいな。

「・・・・・」

「わかりました。優先して強くしますんで今はそれで勘弁してください」

「頼みます」

こと戦闘に関してはクローディアのバトルジャンキー度が上がるのはどこかで対策せねば。

「あ!来たよ!!」

と思っていた矢先、上空を旋回しながら目的の人たちが来るのを待っていたアミナの声が聞こえたので、正面に向き合うと、この大陸では珍しい着流しの着物姿の集団が歩いてやってきた。

先頭を歩く男を見て、俺は目を凝らす。

容姿は原作で俺の知るキャラよりも若干若いが、間違いなくゲンジロウ・シズマ。

俺が知る彼は、狂気に染まり、目が血走り常に何かを斬らないと発狂するのではと感じる空気を纏っていた。

しかし、今の彼はそういう空気は纏っていない。

威風堂々と仲間と歩み、武士としての誇りを胸に刻む一人の侍がそこにいた。

そして、その手には背に女性と子供を乗せる馬の手綱が握られている。

「遠路はるばるご苦労様。問題なくここまで来れたようで何より」

「ジンサイ様、この度はご配慮いただき誠に感謝いたします。拙者含め総勢六十三名無事にたどり着くことができました」

その姿を見て、狂っていないし家族を大事にしているのがわかる。

安堵の気持ちが湧く。ならば歓迎せねばと気合を入れ直す。

彼らが正面で立ち止まりコンが対応しているのを見守る。

「感謝するならこの方にお願いします。君の腕を見込んで是非ともと言ってくれた御仁、知恵の女神様の使徒、リベルタ殿や」

「初めまして、リベルタです」

「おお!あなたがそうであったか。初めてお目にかかります。拙者、ゲンジロウ・シズマと申します」

挨拶が終われば、あとは紹介という流れでコンが俺をゲンジロウに紹介する。

子供としか言いようのない人物の登場に、一瞬目を見開くが、その後の感情に侮りはなかった。

これまでの不遇から救ってくれたことに対する感謝の気持ちと言うべきか、己の実力を見込んでスカウトしてくれたことに対する感謝か。

彼が頭を下げれば、馬上より降りた奥さんらしき女性と子供も頭を下げ、居並ぶ配下の侍たちも頭を下げた。

「リベルタ様は、女神様の知恵によって拙者を見込んでくださったとの事。その期待に応えるべく誠心誠意忠節をもって御身に仕えさせていただきたい」

この礼儀正しさが、狂信に染まるとああなるのかと若干雑念を混ぜながら、その挨拶を受けて。

「あなたのその信頼に応えられるように、自分も尽力します。長旅でお疲れでしょう。住む場所の準備もできています。あなたたちはまだ大丈夫かもしれないけど、ご家族はまずは体を休めた方がいいでしょう。今後の話はそれからということで」

「お気遣い感謝します」

ここまでの長旅は、侍たちは平気かもしれないがその家族は大丈夫とは言い難い。

大人は疲れを隠そうとしているが、子供はそうもいかない。

ひとまずは公爵閣下が用意してくれた受け入れ態勢の整っている屋敷の方に案内する。

彼らのために用意したこの屋敷は、公爵閣下の館の敷地とは離れてはいるが、立地的にはそう遠くない場所にある。

「おお、こんな立派な屋敷をリベルタ様はお持ちになっておるのですか?」

「いや、この屋敷はこの国の公爵家の持ち物だよ。ゲンジロウたちに住んでもらうために用意したんだ。異国の地だし、最初はみんなで住める方がいいかなって」

「なんと!?拙者たちのために」

ゲンジロウと呼び捨てにしているのは、仕える人に敬称を付けられるのは違和感があるということで、この際だから敬語も取り払って話してくれと言われたからだ。

距離感的にはそれでいいのかと思いつつも、俺もそっちの方が気楽なので言われた通りにしたら満足気に頷かれたよ。

大貴族の持ち物だけあって、その屋敷は立派だ。

使用人が住むことも考慮されていて、部屋数も多いからゲンジロウたち一党を全員収容できた。

異国でこれから住むところに関して不安があるようだったが、仕えてくれるというのならこちらもしっかりと衣食住を用意しますとも。

でないと俺、外国からわざわざ呼び寄せておきながら野宿させるようなクズになってしまう。

「それだけ貴方に期待しているということです。慣れない環境かもしれないけど頑張ってください」

「はっ!そのご期待に応えられるように精進いたします」

流石にそれはまずいと思ったので、公爵閣下にお願いしてこの屋敷を用意してもらった。

貸しを多く作っておいて良かったよ全く。

クラリス、コン、バルバドスの三人の英雄とその一行の衣食住は国の方で対応してくれているけど、ゲンジロウたちは俺個人が呼び寄せたようなものだからな。

俺ができることはしっかりとやっておかないと。

「事前にジンサイから聞いていたから、家具と食料だけで使用人とか用意していなかったけど本当に大丈夫?慣れるまでは人を派遣することもできるけど」

「前に住んでいた場所でも、拙者たちで屋敷の手入れなどもやっておりましたから問題ありませぬ」

「侍が?」

「事前にお話ししている通り、拙者たちの扱いはそこまでよろしい物ではありませなんだ。何せ拙者たちは『角無し』でありますからな。刀の扱いは誰にも負けぬ自信はありますが、この事実ばかりはどうしようもないのです」

そんな彼らは、俺の心配など杞憂だったと言わんばかりに、屋敷の設備を瞬く間に把握し、そして使い方も理解して即座に入居し始めた。

途中彼らが東の大陸でないがしろにされていた理由を、冗談も交えちょんまげの頭をポンと叩いて、その手際の良さの理由と合わせ教えてくれた。

それを聞いたコンが苦笑しているあたり、東の大陸では根深い差別意識なのだろう。

FBOで俺も知ってはいたが、こうも現実を見せられると本当に困った常識なのだ。

いまも基本的には武士が中心となって動いているが、本来であれば彼らは荷物を運んだりすることはしない。

もっと下の立場の雑用係が、その手の仕事を一手に引き受け彼らのような武士は戦うことに専念する。

しかし、この場では武士たちは女性や子供とともにてきぱきと荷物を運び、部屋割りを決めている。

「元よりあちらで出世は見込めませんでした。次に仕える代替わりしたご子息にも期待はできませんでしたので、ジンサイ様からいただいたこの話は拙者たちにとっては渡りに船でしてな。仕える主を変えることで後ろ指をさされるかとも思いましたが、相手がジンサイ様と同様の神様の使徒と伝えれば、さすがにそういう話をされることもありませなんだ」

それを監督するゲンジロウは、『思わぬ出世でした!』とこれまでの苦労を気にせず快活に笑って見せた。

そんなゲンジロウの声を聞いて頷く侍が数名。

どれだけ地元での扱いが酷かったのかとコンを見ると彼は苦笑するほかなかった。

しかし、こういう差別的な思想はどの大陸に行ってもあることなので、そこはスルーするしかない。

この南の大陸だって、貴族の権力が強すぎて似たようなことはおきているわけだし。

「そうですか。とりあえず、俺の配下になる以上はそういうことはさせません。ただ、優遇に胡坐をかいてサボるようなことも許しませんけど」

「望むところです!!戦働きには期待してもらって結構ですぞ!!」

「了解です。明日から順次契約を交わしそこから鍛錬に入ります。申し訳ないですけど時間がありません。鍛錬はスパルタで行かせてもらいます」

「聞いたところによると大きな戦でありますな?」

「その通りです」

そんな権力者の一人だったボルドリンデ元公爵がやらかしてくれているので、さっさとその対応をせねばならない。

「そのためにまずあなたには仕事をしてもらいますよ」

「何なりと。して何をすればよろしいか?」

戦力は一人でも多く用意する必要がある。

アジダハーカとの戦いでは精霊たちを前線に配置することはできない。

となれば人の手で戦うほかないのだ。

「しっかりとご飯を食べて、今日は早めに寝る。体調を万全にすることが今日ゲンジロウたちがする仕事です。軽い運動とかはしていいけど、激しい運動は明日からね」

そんな人材を育成するためには、心技体全て揃わねばならない。

心と体が疲れている状態ではいざという時に力を発揮することはできない。

「・・・・・承知仕った」

なのでよく食べて、しっかりと休むように言って明日に備えさせたが、ゲンジロウは目を見開き、その後に口元に笑みを浮かべ。

「お米も味噌もコンに頼んで用意してもらってるから。あ、ちゃんと家族にも食べさせるように!子供や奥さんが食べられないようなことで戦場に出るときに後顧の憂いが残ったりしたら大変だからね」

「わかり申した」

しっかりと頷いてくれた。

そしてこれから食べられるのはゲンジロウだけではないっていうのがわかり、家族も安堵している。

良き働きには良き報酬をって言うやつだ。

命を賭けてくれるというのに、食事をケチるのはあり得ない。

「あ、それと後で鍛冶師も呼んでおくから防具とかの採寸も済ませておいてね」

「衣食住を用意していただきさらに武具の面倒まで見てもらえる。至れり尽くせりですな。明日、拙者たちに求められることを聞くのが怖くなってきました」

しかし、俺のこの対応が良すぎるということで、少し疑問に思うようにゲンジロウは首をかしげるが、俺からしたら戦闘メンバーの状態を一番いい状態にしようとしているだけなのだ。

「これで、何もできなかったら実力がないって言うことですわ。重い期待をかけることで君たちのことを試しているのかもしれませんな」

「なるほど、確かにこれほどの施しを受け、何もできないようでは無能と言われても仕方ありませんな」

そんな俺の思惑とは少しばかりずれているコンの言葉に、ゲンジロウたちは気合を入れる。

まぁ、やる気になってくれたのならそれでもいいかと訂正しないのであった。