軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

2 レベリング

これは、デントさんに外に連れていってもらう少し前の話。

「ねぇ、リベルタ。なんでレベル上げしちゃいけないの?」

「そうだよ。スキルだって上げられるだけ上げているし、このままゼロのままっていうのはおかしいよ」

クレルモン伯爵の嘆きをクリアし、俺たちの懐はかなり温かい。

加えて、手に入れたアイテムの使い道。

さらには二週間後にデントさんたちと遠征する予定もあるから、今日もまた馬小屋に集まって、旅の支度をしている。

今回は馬車で移動するから、少し多めに荷物を持っていってもいい。

ポーションに、野営用のテント、食材に、調理器具と旅で用意する物は多く、ジンクさんにアドバイスを受けながらこうやって俺たちだけで旅の準備をしている。

手を黙々と動かしていていれば、自然と口は暇になる。

そして口が暇になれば、自然と何かしゃべりたくなるもの。

「よし、休憩がてらなんでレベルを上げないかっていう理由と、レベリングに関して説明しようか」

今回は、せっかく大変なクエストを経験したというのにいまだレベルゼロ状態が納得がいかない少女二人の疑問を解消するべく、いつの日かネルに勉強で使った木の枝を取り出して床に文字を書く。

もちろん書くのはなぜか書けてしまうこの世界の文字。

文字と言っても、書いているのはアラビア数字っぽいやつだ。

「この世界の強さは基本的に、レベルの高さで決まる。だけどこれも絶対じゃない。多少のレベル差なら装備とかスキルで十分に挽回できる」

「知ってるわ。だってレベルゼロの私たちでも毎日ダンジョンのボスを倒せるんだもん」

「一番弱いボスだけどねぇ」

1/10と書いた。

これはクラス1のレベル10という意味で書いたわけで。

「そうだな。じゃぁ、ここで一つ問題だ。クラス1でレベルが十の男が二人いる。どちらもスキルは剣術だけで、さらにスキルレベルも一緒だ。さらに装備も訓練用の木剣と木盾だけだ。けれどなぜかこの二人が戦うと片方が多く勝ってしまう。なぜ?」

トントンとその部分を木の枝の先端でつつきながら、少女二人に問いかけると二人は首をかしげる。

「同じレベルなのよね?」

「ああ」

「スキルも同じで装備も同じ、っていうことは強さがだいたい同じってことだよね?」

「見た感じでは同じくらいになるようには調整されているな」

「身長差がある?」

「体格はほぼ同じ、双子と言ってもいいくらい同じだ」

「片方の気が弱いとか?」

「どっちも好戦的とする」

そして一つ一つ交互に質問され、その都度条件を付け加えるように答えていく。

ヒントをコツコツと出し続けて、最初にパッと思いついたのはアミナだった。

「あ!わかった!!片方は基礎ステータスが体力寄りで、もう片方が半分ずつ振っているんだ!!だから片方が負けることが多い!!」

ひらめいたと言わんばかりの満点の笑み。

これが正解だと言わんばかりにどうだと胸を張るが、この問題はもともとかなり意地悪な問題だ。

生憎と正解は別にあって、ネルがそれだったかと悔しがる顔をわき目に。

「着眼点はいいが、残念外れだ」

「「ええ!?」」

ネルもアミナも、違うの!?と驚いている。

「二人は間違いなく、基礎ステータスを体力に全振りしている。さらに付け加えれば片方の木剣が特別な装備でもなければ、こっそりと助けている仲間もいない。スキルだけじゃない、別の特別な修行を積んだわけでもなければ、その闘った場所に片方だけがわかる罠があるわけでもない。もちろん弱みを握って脅しているとかもない」

「「??????」」

そして考え得る可能性をしらみつぶしに潰していくと、最終的に少女二人の頭の上には疑問符しか浮かばなくなった。

「むー、わからない!!」

「僕も、降参するから、答え教えてよ」

じっくり一分ほど考えたけど、ネルは悔しがり、アミナは考え疲れたと困り顔で降参してきた。

「答えは、片方は特別な方法でレベリングして多くステータスにポイントを振れるようになっていたんだ」

「ええ、なにそれ」

「ずるだよそれ、わかるわけないよ」

そんな二人に与えた答えがこれだから、当然ブーイングは出る。

「そもそもおかしいわ!レベルを上げたらもらえるポイントは一よ!!たまに神様からのご褒美で多くもらえることもあるけど、それは強いボスを倒したときとかそういう時にしかもらえないはずだもん!!」

ネルの言葉はきっとこの世界での常識なんだろう。

ネルの言葉にうんうんと同調するように頷くアミナがいるから、それは間違いない。

「ところがどっこい、それは少し違うんだよ」

しかし、その常識を覆せるだけの知識を俺は持っている。

ネルの言う通り、神様がこの世界のシステムを作っているのなら、俺の知っている通りの代物のはず。

だったらレベルは安易に上げてはいけないんだ。

ネルが言う、たまに多くのポイントを貰えるのはたまたま条件を満たしていただけの話だ。

「ネルの言うご褒美というのは、奇跡的にもらえる物じゃなくて、条件を満たせば上限いっぱいまでもらえる特典なんだ」

「どういうこと?」

再びトントンと地面を枝でつつくと二人の視線はそっちに集まる。

「レベルを上げるとBP、ビルドポイントっていうのがもらえる。これはステータスとスキルどっちにも使える優れものだが、じつはこのBPは二種類あってな」

枝先でこの世界の文字でBPと書いて、その隣にさらに書き足し。

「EXBP、エクストラビルドポイント。さっき言った一定の追加条件を満たすと発生するBPだ」

EXBPと書いたらこれを叩く。

「これが神様からの努力のご褒美、クラスごとに設定されている条件を満たすことで追加でもらえる特典だ」

神様からのご褒美とはよく言ったものだ。

ゲーム開始初期は俺たちもネルと一緒でランダムに運が良ければ多いポイントを貰えると踏んでいたが、解析班が一定の条件でBPとは違うが、BPと同じか、それ以上の性能を誇るEXBPのことを発見したとの報告を発見したときは発狂した。

キャラクリエイトのやり直しはプレイヤーの心を折るんだよ。

それがわからんのか運営と引退組の怨嗟の声が炎上の火種になった回数は数知れず、それなのにもかかわらず、その隠し要素を是正しないプレイヤー離れを恐れない運営。

他に何か隠しているんじゃないかと戦々恐々としたのは今でも俺のトラウマだ。

「追加特典!!」

そんなトラウマを呼び起こされ、少し暗くなりそうな心の俺を元気づけてくれるのは、商人としてお得という言葉に反応してしまうネルだった。

さっきまでのブーイングはどこへ行ったのやら。

さらに追加でもらえるのなら、努力を惜しまない彼女はもしかしたら俺と一緒で廃人の素質があるのかもしれない。

キラキラと目を輝かせ、ぶんぶんと揺れる尻尾。

「お、落ち着いてネル。ほら、リベルタ君もこれから話してくれるからさ」

鼻息荒く、俺に詰め寄ろうとしてくるのをアミナが止めてくれる。

焦らしたら大変なことになりそうな気がして、さっさと話を進めることにする。

アミナが必死に早くと視線で急かしているから急ぐわけじゃないぞ。

「このEXBPの条件はクラスごとに設定されているんだ。そして条件の数はクラスのランクに比例していて、クラス1なら一個、クラス2なら二個って感じだ。その条件を達成してレベルを上げると普通のBPに加えて、EXBPがもらえる」

「ということは、クラス1なら最大で百のBPがもらえるってことね!!」

「その通り!クラス1の最大レベルは五十。条件を達成しつつレベルを上げれば通常の二倍の百BPを獲得できるって寸法だ」

この隠し要素はお得感満載だ。

シンプルに言えば、普通に何も考えずレベルを上げるよりも二倍強くなれる。

クラスが上がればその差はドンドン広がる。

「これを逃さないために、俺は今までレベリングを避けていたんだ。ここらへんで条件を満たせる場所が少なくてな」

初期から頑張れば頑張るほど強くなれるシステム。

これを知っていたからこそ、俺は頑なにレベル上げを避けてきた。

スキルスロットを確保するという目的もあったが、こっちが本命だ。

「なるほど」

「へぇ、そうだったんだ。知らなかった」

「俺もこれを知るまで苦労したんだぞ」

数多のプレイヤーが解析に回ってようやく発覚した事実。

涙なしには語れない苦労がこの発見の裏には隠れているんだ。

腕組みしてしみじみと頷いても罰は当たらんだろ。

「それで!レベル上げのための条件っていうのは?」

しかし、その知るまでの苦労を知らないネルは身を乗り出してあっさりと聞いてくる。

ここでそこの苦労話をしてもいいんだけど、必要性は感じない。

「クラス1でのEXBP獲得条件は一つ、一レベルごとに絶対に三種以上のモンスターを倒してからレベルアップすることだ」

「三種以上っていうことは、モチ、ゴブリン、狸みたいに?」

「そう考えると結構面倒くさいよね。モンスターの縄張りって基本的にその種類のモンスターしかいないし」

だから、レベル上げに必要な条件をあっさりという。

「そうなんだよ。モンスター同士の縄張りって一応境界線があるんだけどそれって大概一面だけ接しているだけって感じだ。三つも都合よく重なっているエリアなんてそうそうない」

三種のモンスターの判定というのはネルが言ったもともとの種族が違うというのが確実だ。

そもそもモンスターが違うんだから、種類を分けていると判断しやすい。

「だから、この三種という区分判断も少しだけ余裕があるんだ。例を挙げればゴブリンとホブゴブリンは別種と認定されるんだ。進化系統や派生系統のモンスターの元はゴブリンだけど進化しているから別種と判断されている。そもそもゴブリンで一括りにしたらこの条件を達成するのが大変だからな」

「それだったら、ほかの人も見つけて良そうだよね」

「そうね、でもリベルタが教えてくれるまで私は聞いたことがないのよね」

しかし、それだとわざわざ一体のモンスターを倒して別のモンスターのエリアまで行く必要がでてくる。

俺たちプレイヤーの推察は、一体のモンスターに特化するのではなくて、いろいろなモンスターと戦って経験を積ませたいのではと考えた。

経験値効率を駄々下がりさせる愚策のようなシステム。

やりこみ勢からすれば、苦労のうちにも入らないかもしれないが、ライト勢からしたら敬遠されるシステムを何故導入したか。

俺はFBOの世界観が好きだったから続けてられたけど、知り合ったプレイヤーの中ではこういった面倒なシステムの多さに辟易として去っていたやつらも結構いた。

そいつらは口をそろえて、この面倒さがなければいいゲームだと言っていたな。

それはサ終するまで謎のままだった。

「ここで一つ注意しないといけないのが、その種類の区分なんだよ。さっき言ったホブゴブリンとゴブリンはわかりやすく見分けることができるけど、そもそもゴブリンはクラス1でホブゴブリンはクラス2のモンスターなんだ。だからクラスごとで区分されている別モンスターと認定されている。そして、よく勘違いされるのは、弓を持っているゴブリンをアーチャーと呼んだり、隠れて動くゴブリンを斥候とかと呼ぶけど、こいつらは別種族じゃなくて中身は全部同じゴブリンなんだ」

「そういうことね。ホブは進化しているけど、ゴブリンの見た目は違うように見えても一緒の種族、役割が違うだけってことね」

「種類って、生き物として違うってことになるのかな?」

「そうと考えると確実っていうやつだな。まぁ、この手の話で大抵は例外がいるけど」

それを知る機会が無くなってモヤモヤがないわけじゃないけど、こんな世界に送り込まれていることを考えるとあの苦労も報われるものってものだ。

「例外?」

「そう、例外。たぶんだけど神様からしたら救済措置的な奴なんだろうなぁ」

苦労をそのまま放置しているゲーマーはいない。

いかにして最高効率で最高の結果を引き出すか。

それを模索する人は必ず現れる。

「神様からの救済?」

「そう、難しくしすぎるとそれに挑戦する人が極端に少なくなるからって神様が少し都合のいいモンスターを用意してくれたんだよ」

「神様って試練が好きね」

「そうね。そもそもモンスターがいなければ人間はもっと生活圏を広げられるってお父さんが言ってたよ」

そんな開拓者たちによって、発見される例外。

「それじゃ、リベルタが行こうって言った場所がその例外のモンスターがいる場所なの?」

アミナが小首をかしげて聞いてきた場所こそ、南大陸スタートでクラス1でのレベリングの名所。

「ああ、そうだ」

その俗称は変形合体の埴輪だ。

俺たちはそこで強くなる。