軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

20 東の英雄

さてさて、西の英雄を育成したり、ボルドリンデ公爵への策謀を巡らせたり、自分のためのことをしたりと忙しい毎日を送っているリベルタさんであるが。

先日、東の英雄一行が南の大陸に上陸し王都に向かっているとエーデルガルド公爵閣下から伝えられた。

数日内には王都に着き、そして俺とクラリスとの会談の場を用意するそうだ。

英雄たちの相手を国王陛下に任せるのは不安とのことで、俺と共にエーデルガルド公爵は王都に残った。そして先日ロータスさんに率いられてホクシに向かう査察団一行を送り出した。

そしてそれよりも先に、クローディアさんからは遠征訓練と称してアンドレーさんに率いられた神殿騎士団一行が旅立ったとも聞いていた。

これでひとまずボルドリンデ公爵の動きは封じることができたかなと思っていた矢先に、東の英雄殿の来訪は正直キツイ。

一息つく暇くらいはくれよと嘆きつつ、既に会談の約束がされているのなら出向くのが礼儀。

俺とクラリスは正装に身を包み、登城する。

もちろん俺とクラリスの馬車は別だ。

今回はイングリットが一緒に来てくれているので、貴族関連の相手は問題ない。

溜まった仕事に追われつつも、東の英雄殿と下手に敵対して現状で余計なトラブルを抱え込みたくないと考えていた俺は、第一印象こそ大事と準備には手を抜かなかったのだが、早くもその初心を覆したい気持ちに苛まれている。

「どうも初めまして。東の大陸より参りました、商売の神ゴルドス様より英雄の任を承りましたコン・ジンサイと申します。西の英雄殿、南の英雄殿。以後よろしゅう頼んます」

顔がすべてではないのは百も承知している。

しかし例外はあると俺は言いたい。

彼の顔は整っていると言えば整っている。

後頭部より生える二本の珊瑚のような赤い角を持った狐顔の美青年。

時代劇に出て来る陰陽師のような恰好、そしてはんなりと言った感じのどことなく俺の故郷である日本の西の地域に近い言葉の発音。

「初めまして、ジンサイ殿。私は調停の女神メーテル様より英雄の任を賜ったクラリス・ノーランドと言います。こちらこそよろしく頼みます」

礼儀がないわけではない。

侮るような雰囲気を感じるわけでもない。

ただただ、こいつ裏切るのでは?と思わせる、その顔の単純に胡散臭い雰囲気が第一印象として俺の脳裏にこびりついてしまった。

少なくともネームドキャラではない。

というか、この世界に来てネームドと出会えてはいるが、その総勢はストーリーに登場するキャラの数パーセント未満。

そして事前に聞いていた情報から、東の英雄もネームドではないのはわかっていた。

ただ、やはり実際に会ってみないと何とも言えないので、そこら辺は配慮していたが、会ってみて間違いなく知らない人物だと確信した。

流れるように自己紹介が進み、次は俺の番。

「初めまして。知恵の女神ケフェリ様の使徒、リベルタです」

東の英雄こと、コンは俺に師事するために来ていると聞いている。

クラリスは事前に精霊たちから俺の人となりを聞いていたから、侮ることなく最初から礼節を持って接してきた。

彼はどういう反応をするか。

「あなたが、そうでしたか。ゴルドス様からは財を惜しまずあなたから教えを乞えとの神託をいただいてます」

クラリスのように跪くようなことはない。

だけど、いきなり侮るようなこともない。

探るような目つきを悟らせないようにしつつ、俺を観察しているのがわかる。

「聞けば、もうすでに西の英雄殿は彼に師事しているとか。どないですか?ノーランド殿、彼に師事した感想は」

この会談の場には公爵閣下が手を回したメイドさんや執事がいる。

それ故にここでの迂闊な発言は、即座に主へ伝わる環境になっている。

だからこそ、慎重に言葉選びをしているとも考えられる。

挨拶が済めば、それぞれの席に着き会談が始まる。

コンは手始めに、俺の弟子として先輩にあたるクラリスから情報を得ようとしているようだ。

財を惜しまず、教えを乞えと神に言われても相手を見極める必要はあるだろう。

「大変勉強になっています。この世に生まれてから今までで、ここまで充実した日々を過ごせたことはなかったと断言できるほどですね」

「ほー、そこまで言われるのですか。それなら、ホンマに期待できそうやなぁ」

教えを乞われる立場としては、試されているような言葉回しだが、今は彼も東の大陸の支配層から英雄として認定された立場ある存在。

国の権力の主流派と対立しているクラリスとは立場が違う。

日本の政治で例えるのなら、クラリスは少数野党の党首だ。

対するコンは、与党の次期総裁候補と言われるほど期待されている存在。

俺?俺は・・・・・政党結成を企てている最中の無所属議員だろうさ。

だから、俺に対して若干上から目線の言葉が混じる。

この会談は公爵閣下が主導して国王陛下の名の下に開催している。

そんな場でそういう反応ができるのは、この国と他国のパワーバランスを物語っている。

ピクリとクラリスの眉が反応した。

礼儀を重んじる彼女にとって、今の俺にあまり期待していなかったという意味ともとれるコンの発言はよろしくなかった様子。

「ですが、それはあくまで私の主観です。師匠の教えが、私と同様にあなたにも素晴らしいと感じられるかどうかは保証しかねますね」

おっと、静かに始まったと思われる会談の雲行きが怪しくなってきたぞ?

「いやいや、不快な思いをさせてしまったのならホンマにすんません。そういう意味で言ったつもりはないんです。ただまぁ、ノーランド殿が僕が考えていたよりもいい反応をしたのに驚いてしもうて」

クラリスの容赦のない、礼を失するのなら帰ったらどうかというジャブを、コンは軽く受け流し素直に謝罪。

「リベルタ殿、気を悪くしてしまったらすみません」

「いえ、気にしてませんよ」

これくらいの反応は貴族キャラを知る俺からしたら、可愛い物だと笑顔でスルーできる。

まぁスルーできるからと言って、気を悪くしていないかと聞かれればそんなことはないと答えるが、目くじらを立てるほどではない。

「それならよかった」

それにしても話せば話すほど胡散臭さが際立つな。

そうやって安堵している姿も、わざとらしいと言うより、裏がありそうに感じるのは俺だけだろうか。

クラリスは表情を変えず、今日も変わらず真面目な顔を維持している。

そこに嫌悪感という感情はさっきの一瞬だけ見せた以外には感じられない。

やはりこの胡散臭さは俺が個人的に感じているだけのものだろうか?

「ジンサイ殿は、自分がどのような指導を施しているか気になるのですか?」

「気にならないと言ったら噓になりますな。何せ、ゴルドス様が神託で僕に伝えてくるほどの内容です。これで気にせんってなったら僕はそいつの頭を疑いますわ」

へらへらと軽薄な笑みを浮かべるわけでもない。

少々リアクションが大げさなだけで、それも不快なわけじゃない。

「そうでしょうね」

「ええ。できたら少しでもええのでここで教えて欲しいんですが」

「そうですね。詳細を語ることは先に師事している彼女に対して不公平になってしまいますので、軽いあらましと彼女の真実か否かという判断だけでよろしければ」

ではいったい俺はどこで、そんな感覚を感じているのか。

「ええ、それで構いません。むしろそうやって公平を保とうとしてくれる方が言葉に信頼を寄せられます」

胡散臭いと思いつつも、嫌悪感は感じない。

何とも不思議な感覚を生じさせる。

そんな感覚を意識的に無視し、とりあえずクラリスに施している訓練の内容をかなりぼやかして説明に入る。

「そうですね、何をしているか。まずは、単純にモンスターと戦ってもらってますね」

「それは、当然のことですなぁ。強くなるにはモンスターを倒す。当たり前のことですわ」

「そう。だけど、俺の教えを守るとなんとスキルを常人よりも多く覚えられます」

「ほー、それはそれは、何とも魅力的なお話やな。ノーランド殿。それはホンマですか?」

「ええ、事実です。実際に私はここを訪れる前よりも格段に強くなっていると感じています」

あらかじめ、誤魔化して説明するけどいいよね?と話し、代わりにクラリスに確認することを許した。

契約していない相手を訓練所に入れることもできないし、教えることもできない。

かといって、いきなり契約を持ち出すのも良くはない。

なので、ここがギリギリの妥協点というやつだ。

正直面倒。だけど、おざなりに対応して面倒事が増えたらそっちの方が厄介だ。

最初にクラス0で取れるスキルスロットの話を七割くらいぼやかして話すとコンは目を見開いて驚いたとリアクションを見せる。

打てば響くと言うわけではないが、こうも反応されると相手の思惑が掴みにくい。

これも一種のポーカーフェイスと言わざるを得ない。

「あとは、ジンサイ殿の護衛の中にクラス3の人はいらっしゃいますかね?」

「もちろん、おります」

「もし仮に、こちらのクラリスのクラス2の護衛と模擬戦を行ったら十戦して八勝はできるように強くなる方法を教えましたね」

「・・・・・ほう」

浮き沈みの激しい、アクション。

本当の感情を覆い隠すかのような表情、あの胡散臭さもあえて出しているのかと思わせるような感情の変化を見ている者に感じさせる。

「僕の護衛も、家から連れてきた腕利きばかり。ちょっとその話は笑えませんわ」

「ですが、師匠の話を私は否定できません。私の配下とそちらの護衛を戦わせてみればおのずと証明されるのでは?」

「ノーランド殿はホンマに、リベルタ殿を信用なされているようで」

狂楽の道化師のように、必要だから演じているという感じでもない。

「事実、彼女の言う方法が自分の知恵の価値を証明するにあたって一番早いと自分は思いますけど」

「それなら、本当にやってみます?決闘の駒を使えば怪我をせずにすみますし」

「私は問題ありません」

元来の胡散臭さ、と言ったら失礼になるかもしれないが、その気質を武器として生きてきたようにも見えてしまう。

「では、やりますか」

「時は金なり。早速やりたいんですけどええですか?」

「この城にも訓練場はあります。そちらの人選が済み、そして互いのレベルを確認次第取り掛かれますよ」

一体全体どんな人生を送ってきたらそんな雰囲気を纏えるようになるのか、不思議だ。

今も、部下が戦うことをあっさりと了承し、誰を出すか背後に控えていた護衛と相談し始めている。

それに合わせ、クラリスも護衛に配下たちを連れてくるよう指示を出している。

クラリスが出場する配下を即決で選び、そのあとは優雅にお茶を飲み始めるのだから相当の自信があるとコンは思ったようだ。

一瞬だけ、クラリスを見たコンは、数分の相談の後に誰をだすか決めたようだ。

「ノーランド殿は相当自信があるようですね」

「はい、当然です」

互いにどの部下が戦うか決め、そしてあとは公爵閣下に訓練場を手配してもらえばいいだけ。

「ちなみに、参考にお聞きしたいんやけど、ノーランド殿から見てリベルタ殿ってどれくらい強いんです?教えを乞うと言うほどだから、相応の実力をお持ちだというのはわかるんですけど」

その時間つぶしの話題は俺の強さ。

教えを乞う相手の実力を知りたいと言うのは当然の疑問。

むしろこの質問こそが本命なのではという視線を感じつつも、質問されたのはクラリスだ。

彼女はそっと茶器をテーブルに置き。

「そうですね」

考え込むこと数秒、すぐに考えをまとめた彼女はまっすぐとコンを見て。

「今の我々では戦うという行為が成立しないくらいですね」

真剣な表情で俺の評価を口にするのであった。