軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

11 西の英雄

「おー、思う存分やってるなぁ」

1週間という時間を費した甲斐があったと思う報告書が、今俺の手元にある。

「リベルタ、何読んでるの?」

「ああ、先週まで育ててた手勢の報告書だ」

「ふーん」

流石の俺でも、十数人をいっぺんにクラス5まで完全育成するのは骨が折れる。

なので送り出した後一日だけ休養を貰っていたが、その休息中に連絡役をしていたエンターテイナーのメンバーから報告書が届き、それを読んでいるところだ。

「悪名高い貴族の財産を奪って、ある大商人の違法薬物保管の証拠を暴露か・・・・・」

それを背後から覗き込むようにネルが見てくるが、俺は気にせずページをめくる。

「この調子でいけば、ホクシ内にいる悪徳貴族や商人を裁くために中央から査察団を送り込めるな」

「順調にいけばでしょ?」

「まぁな。さっそく一つ問題が出てきているからな」

手早くめくるページを素早く読み込むネルの視線は、淀みがない。

クラス8まで強化された動体視力もあるが、元々商人を目指しているから、書類仕事に対しては必要なものだという認識がある。

ゆえに苦手意識がないのだ。

情報は商人の武器という認識もあるだろうな。

「西の英雄様のことね」

「ああ。今朝方到着して今は陛下や公爵閣下と会談中だ」

アジダハーカと戦うにあたって戦力の増強は必要だ。

俺がジュデスたちを鍛えている間、ネルたちには公爵閣下の私兵と契約を進めて戦力化するための下地を整えてもらった。

契約内容に関しては公爵閣下とすり合わせ、反乱が起きないよう、そして犯罪が起きないように、さらに育成方法が漏洩しないようにと細心の注意を払う必要があった。

おまけに、クローディアを通して神殿から騎士を派遣してもらえないかの交渉も並行でやっている。

どうあがいても現在の戦力では、アジダハーカを撃破することはできても被害がヤバいことになる。

人的被害もそうだが、土地汚染の方がヤバい。

アジダハーカは他の大陸の封印モンスターたちと較べて、活動を始めると断トツで環境汚染を広げるタイプのモンスターだ。

ゲームの際も討伐までの進行をミスると、アジダハーカの広げる汚染でしばらくその土地に人が住めなくなり、復興クエストが発行されるくらいには復興に時間がかかる。

そうなってしまうと、復興クエストに時間とリソースを費やさせられて他の諸々のクエストがロストする可能性が出てくるわけで、俺たちプレイヤーはその被害を最小限に抑える方法を模索したわけだ。

その際に最低限必要な戦力の算出方法と立ち回り方法が確立された。

しかもたった一つのやり方では面白くないと、様々なプレイヤーが費用対効果を意識して作るから『初心者でもできるアジダハーカ攻略!!』なんて動画が乱立したものだ。

「リベルタが指導するのよね?」

「さて、どうなるかねぇ。話を聞いている限り、神様は俺をご指名のようだけど、表向きこの国に英雄はいないことになってる」

その動画の中の一つでも紹介されていたが、精霊界に行けたことによって安全性と確実性を担保した方法を俺たちが選択できたのは大きい。

準備こそ大変だが、それができればアジダハーカに対しての勝率はグッと上がる。

公爵閣下の私兵と、神殿からの援軍があれば盤石となると思っていた。

「そう言えばそうだったわね」

しかし、そこに追加の戦力とはいえ不確定要素が入るとなると、攻略手順をどうするべきか再度考え直さないといけない。

「おまけに西の英雄殿の名前がなぁ」

「たしか、クラリスだったかしら?」

「そう、狂楽の道化師が最後に残した名前だ」

さらに、一番最初に来たのがゲームでも俺の知らない人物であり、かつ、あの狂楽の道化師が最後に言い残した名前の人物だと推定されると、余計に警戒心が湧き立つ。

「あー、戦力の受け取りを拒否できない現状の切迫具合が嘆かわしい」

かといって、その警戒心に従って戦力を遠慮するなんてことは選択肢の中では愚策中の愚策だ。

必要最低限の戦力で攻略しようとはしているが、追加戦力がいらないというわけではないのだ。

ゲーム時代のようにクエストクリア後の治安悪化とかそういう心配がないのなら、そこら辺の冒険者を引っ張ってきて、効率厨もニッコリなスパルタ方式で必要な戦力を大量増産すればいい。

だけど現状それをやってしまえば個々にとんでもない戦力を与えてしまうことになって、あっという間にこの大陸が戦国乱世になってしまう未来が見える。

悲しきは、俺の知識の汎用性の高さということか。

この大陸全土で一斉にレベリングして全員のレベルが均等になるようにすればその心配もないのだろうが、そんなことゲーム時代でも無理だった。

となれば、知識を小出しにして一部の戦力を安定して使えるようにするほかない。

FBOのゲームシステムのパラメーターの中に信頼度はなかったが好感度はあった。

その好感度が高いとNPCたちは言うことを聞いてくれるようになって連携がとりやすくなる、そんなシステムだ。

現実となったこの世界にそんなシステムがあるはずもなく、信用と信頼を基に人を見極めるしかないという、クソゲーシステムに差し替えられている。

「受け入れないって断れないの?」

「戦力がカツカツだから、一定の戦力になるのなら欲しいというのが本音。そこに信用も信頼もないけど、神託の英雄ともなれば運用次第では使える戦力だからなぁ。あと、国家間の問題と、何より神様という後ろ楯がある時点で、人の顔色をうかがうあの国王陛下が断れるわけがない。どうあがいても俺たちが巻き込まれることは確定している」

そんなクソゲーシステムの状態で、新戦力を組み込むのってかなり大変なんだよな。

クローディアに神殿から最高位級の神官を引っ張ってきてもらって打ち合わせをし、サポートにエスメラルダ嬢を付けているから向こう側も公爵家が本気だというのをわかってくれているので、割と順調に神殿から戦力が集まっている。

育成も今週中には始められるとのこと。

公爵家の私兵については、元々公爵閣下が俺に指導して欲しいと願っている段階で選抜は済んでいて、公爵閣下が認める兵士が揃っていた。

なのでこっちに関してはイリス嬢にイングリットとアミナを付けて、現在進行形で育成中。

現在はクラス1を全員突破し、スキル育成真っ最中といったところだ。

さすがに総勢1000人を一気に育てるとなると、ダンジョンも足りなければスキルスクロールも足りない。

ステータスは盛るが、スキルに関してはスロットに空きができるほどギリギリのスケジュールになる。

こっちの育成も、あらかじめ公爵家側で人選してくれていたおかげと、文官チームを育成した実績が認められているからか順調に進んでいる。

「大変ね」

「ネルほどじゃない」

そしてこの育成で一番重要と言えるポジションにいるのがネルだ。

1000人単位のスクロールを確保するのはそう簡単ではない。

スキルショップには公爵家の権限と王家の権限をフル活用して買い占めを強行。

指定したスキルを確保するために連日品薄が続出しているくらいだ。

それでも足りるわけがない。

買い取り価格に王家と公爵閣下の試算で上乗せしているが、それでも集まる数が急激に上がるわけではない。

スキルが不足すると、当然だけど育成も停滞する。

FBOの完全育成プランはレベリングとスキル育成がセットなのだ。

スキルが不足すれば当然だけど、レベリングも止めざるを得ない。

昇段のオーブも必須だ。

アイテムとレベリングが切っても切れないのがこの世界の最強への道。

それを助けてくれるのがネルという豪運チートを持ったキャラだ。

運営のデバッグキャラではないのかと疑うほどの豪運。

その正体は大神という存在の力が一部流入しているということなのだが、その真相は俺にもわからん。

「私は、格下のダンジョンを周回しているだけよ?」

「招福招来を発動させて、高速周回できるだけでだいぶすごいことなんだよ」

クラス8のステータスを駆使しての、格下ダンジョンの高速周回。

通常運転でも、スクロールをポンポンドロップさせるネルがいるからこそできる荒業だな。

でなければ千単位のレベリングなんて何の苦行かとツッコミを入れる。

久しぶりの休みということで、公爵閣下の敷地内にある屋敷でそんなやり取りをしていると、玄関のドアノッカーが鳴る音が聞こえた。

「来客の予定なんてあったか?」

「ないわね」

イングリットが出かけている時点で、来客の対応はここにいる俺かネルということになる。

居留守を使うことも一瞬考えたが、公爵閣下には屋敷にいることは伝えているので、もしかしたら何か用事があって使いを出したのかもと思い、

ソファーから立ち上がって、ネルと一緒に玄関に向かう。

「ん?なんでこんなに多いんだ?」

気配探知で玄関の人数を把握すると、想像していた数倍、いや十数倍の人数が玄関の外にいる。

敵意は感じないから襲撃とかではない。

もう一度鳴るドアノッカーに反応して玄関を開けていいかと悩む。

「どなたですか?」

とりあえず玄関越しに、来客相手を確認する。

『私だ』

そして、来客者はエーデルガルド公爵だと判明。

普段であれば先触れを出して、事前連絡をしてくれる人なんだが何故急に来たか?

本人の問題でないとなれば、その背後にいる気配の集団が問題というわけか。

「わかりました。今開けます」

人質にされているような雰囲気でもない。

むしろここでエーデルガルド公爵を人質にするような輩であるのなら、協力関係など築けないということで戦力外判断ができる。

そう思い扉を開けると、困り顔のエーデルガルド公爵とドアノッカーを叩いたであろうロータスさんがいた。

そして背後には護衛の騎士たちとなぜか国王陛下もいて、さらには。

「・・・・・」

俺をじっと見るエルフの女性もいた。

もっと正確にいうのなら、おそらく中身がエルフであろうと思われる、統一されたフルプレートアーマーに身を包んだ、護衛の騎士に囲まれている女性だ。

どういう一行か瞬時に察した俺は、ため息を吐くのを堪えた。

何度かエルフの女性と公爵閣下の顔を見比べた後、

「自己紹介すればいいですか?」

「そうだな、その方が話が早いか」

どういう意図でこの場に西の英雄を連れてきたかわからないが、おそらく西の英雄殿がすぐに神託の内容に深く関わるであろう人物と接触したいと願ったのだろう。

そして神の言葉であれば国王陛下も公爵閣下も断る術を持っていない。

できればこっちのスケジュールも考えて行動してほしいなぁと心の中でため息を吐きつつ、表情に出さず俺は前に出る。

俺の背後に公爵閣下とロータスさんが立ち、そしてひとまず国王陛下の前まで移動すると。

「クラリス殿、彼が我が国の英雄だ」

いつの間にか英雄認定した国王陛下によって俺が紹介される。

ああそういう流れなんですねと、紹介された俺は最近披露することの多い左胸に手を置き頭を下げるという貴族の挨拶をしつつ。

「ご紹介に預かりましたリベルタです」

無難な挨拶をする。

エルフらしい見目麗しい女性だが、眼鏡をしているのは珍しい。

思わず「委員長!」と呼びたくなるようなきっちりとまとめ上げられた薄緑色の髪に、理知的な雰囲気を漂わせる容姿。

身長は俺よりも高い。

少し見上げるような視線になるのは仕方ない。

「ご丁寧なご挨拶、痛み入ります。精霊国家フェリアの大議会席次十三席、クラリス・ノーランドです。調停の女神メーテル様のご神託により、あなたに弟子入りするために参上しました。わが師よ、どうか私を導いてください」

だがそんな視線があっさりと下がることになった。

彼女は跪き、そして頭を垂れ、俺を師と仰いできた。

(これ、どうすればいいの?)と視線で公爵閣下に助けを求めたが、顔を横に振られるだけであった。