軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

28 証拠隠滅

さて見捨てるのを躊躇っていた、正直言って俺の頭痛の種だった囚われていた人々は脱出させることができた。

となれば次は、これが突発的な事故で脱走ではないと思わせる裏工作が必要だ。

俺はマジックバッグから一つのアイテムを取り出す。

「出してて良かった、ダンジョンの鍵ってね」

取り出したのは、精霊界で集めたダンジョンの鍵たち。

そしてついでに出した大きな布。

サンライトシルクではなく、本当に丈夫なだけの風呂敷だ。

現在進行形でシャリアがジャカランと戦っている。

最初に見た様子からして、すぐにどうこうということにはならなさそうだが、シャリアはそう長くはもたない。

となれば迅速に行動を開始しないといけない。

鍵束の中から取り出すのは、一つの薄い青色の鍵。

それを牢屋の前の空間に差し込みダンジョンを形成する。

ダンジョンは無事形成。

俺はそのダンジョンの中に入った瞬間に、迷わずサイドステップで横っ飛びする。

入り口に落ちてくるのは天井付近に引っ付いていただろう水色の粘体。

そう、いろいろな作品で雑魚筆頭、しかし作品によっては凶悪モンスターとして語られる存在。

スライムだ。

FBOでは後者の部類に該当するモンスターで、最下級であってもクラス4、しかもレベルは後半、ほぼクラス5付近のレベルを持っている。条件次第では這竜や、沼竜、飛竜など最下級の竜すら屠る存在だ。

今も殺意高めでぬめぬめと体をうねらせて俺に飛びかかろうとするが、俺はそれよりも先に前に出て持っていた風呂敷でスライムを覆って。

「ちょっとダンジョンの外にご案内!!」

スライムをダンジョンの外に放り出す。

外に出たモンスターは帰巣本能のようなものが存在するのか、うねうねと体を動かし、ダンジョンの中に戻ろうとするが、それよりも先にマジックバッグから取り出したアイテムを外に放り、その動きを止める。

「聖水で侵入を防止して、まぁもって30分くらいか」

聖なる結界を出してくれる液体こと聖水。

物理的な防御力はないが、モンスターが忌避して近寄らなくなる効果がある。

光の精霊石が大量にあるからこそ、クラス4のモンスターが近づかないくらいの高性能な聖水を作ることができる。外に出すのがこの1匹だけじゃ足りないと思いダンジョンを見渡すと、ドーム状の洞窟が視界に入る。

その壁面には巣穴らしき穴がいくつも開いており、そこからヌルリと新しいスライムが姿を現す。

このダンジョンは、クラス4の中で最小と言われるダンジョンだ。

スライムが出現する穴は人が通れるとは思えないほど小さく、その穴以外にこのドーム状の空間には生き物が通れそうな通路はない。

「さてと、もう2匹くらい外に出してからさっさとダンジョンを攻略するか」

このダンジョンは少し特殊なダンジョンだ。

槍を構えず風呂敷を携えた俺は巣穴から出てくるスライムめがけてダッシュ。飛びつき、風呂敷で包んで外に放り出す。

このダンジョンは一定の数を倒すことによってボスが出現するというシステムだ。

100体のスライムを倒せばボスが出現することになっているが、スライムというのは倒しにくいということでFBOでは悪名高いモンスターだ。

物理耐性が高く、再生能力もあり、さらに装備耐久値を減らす強酸性の粘体を持っている。魔法攻撃に対しても強くはないが、それなりの耐性を持っている。

ある意味ではクローディアみたいな近接戦闘職や、ゴーレムのような防御力は高いが鈍重な戦力にとっては天敵となるモンスターだ。

殴れば衝撃を拡散し、そのまま腕を捕らえて体の中に引きずり込み強酸でダメージを与え、剣や槍で攻撃すれば切られたそばから体を再生しながら武器を吸収して溶解してしまう。

ダメージは負っても軽傷ならすぐに回復し、攻撃した相手には大ダメージを与えるという厄介なモンスターだ。

「ほいっと」

そんな厄介なモンスターであってもさすがにステータス差があると、強酸にも有効なマジックエッジの槍を振るえばあっという間に消滅していく。

豪槍とはこのことか。倒しにくい筈のスライムが次々に現れそして消えていく。

数の暴力によって圧倒し、侵入者を包囲殲滅するのがスライムの戦いかたなのだが、こうも淡々と処理されてしまえば対処の仕様がない。

秒間一体、手早く倒したゆえにドロップ品は全放置。

この世界ならひと財産になりえるような魔石が転がるが、それすら無視して出てくるスライムを片っ端から倒して回る。

「お」

そんなことをしてたらあっという間にスライムダンジョンに変化は訪れる。

5分どころかカップ麺ができるよりも早く、ダンジョンの穴という穴からスライムが飛び出してくる。

その変化に思ったよりも早かったなと感嘆が漏れる。これではこのままスライムの山に埋もれてしまうかと思いきや、そのスライムたちは俺を無視して次々と合体してゆく。つまりボスモンスターの超巨大な粘体が姿を現すための演出というわけだ。

こいつ相手には首狩りも心臓打ちも役に立たない。

ただ、合体したボスモンスターとはいえ所詮はクラス5。

「ふぅ、合計で5分っていったところか」

流石にステータス差がありすぎる。

ボススライムをマジックエッジで補強した槍の超高速の通常攻撃で削りきって、いい汗かいたと額の汗を拭う。

宝箱を開けて、中から出た魔石と瓶の中に入った液体を回収すると、そのまま出入口から外に出る。

このダンジョンはドーム一つだけと小さいが故に魔法陣が出ないから、入ったゲートから出るしかなく脱出が少し面倒だ。

外に出た瞬間にダンジョンのゲートは消え去ったから正式にクリアしたことになっている。そしてダンジョンの外に放り出したはずのスライムがいたと思うが、案の定というか。

アクティブモンスターの前に気絶した人間を放置するな。

俺が聖水で結界を張ったのは外に放り出したスライムたちが中に帰ってこないようにするためだ。当然だが、ここにいた人間に対しての保護などしていない。

外に放り出したスライム3匹が、鍵をかけていたはずの牢屋の中でモゾモゾとうごめいている。

小さな隙間からでも入り込めるのがスライムの特徴、そして奴らは何でも捕食する。

こんな地下闘技場で働いているのだから、当然だけど後ろめたいことの1つや2つやっているだろう。

そんな彼らの末路がスライムの腹の中。

こうなるのがわかっていたからこそ、ジュデスたちを先に逃がしたのだ。

そしてこれでジュデスたちも含めて全員スライムに食われたと思うだろう。

どこから入ったかは、通風孔がいくつか破損していることから、そこから入ったのだろうと思わせる。

北の領地では絶対に出現しないモンスターゆえに、どこか外部の者の仕業だとでも思うだろう。

ピクリと一体のスライムが動きを止めて俺に気づき、こっちに向かって来ようとするが、俺はあえて倒さずそのまま牢屋の前を離れる。

そうすることで食事を終えたスライムが粘液を滴らせその痕跡を残しながら牢屋の外に出る。

スライムが部屋の外に出たころには、走り去る俺を見失い地下通路をさまようことになるが、そのあとのことなど俺は知らん。

ジャカランとかにぶち当たってくれれば一番いいのだが、今はシャリアと戦っているはず。

いずれ聞こえ始めた歓声に引かれてスライムたちもやってくる。たどり着く前にシャリアを連れて脱出せねばなと、闘技場の入り口にたどり着くと同時に大歓声が上がる。

「はぁはぁはぁ」

「どうした?威勢が良かったのは最初だけかよ」

そこには、体中痣だらけにしたシャリアの姿があった。怒りに血が上っていたジャカランは、何度も殴りつけボロボロになっていくシャリアを見て留飲を下げ、いたぶることを楽しんでいる。

そう、これがシャリアの知らない現実。

物理的に無類に強いと言われる、暴神の暴力。

周囲からの歓声が、ジャカランをさらに高揚させ、そして肯定されることによって全能感に満ちているのだろう。

楽しい、心の底から楽しんでいるという気持ちを感じていると、わざわざ察する必要もないくらいにわかりやすい表情をしている。

シャリアはボロボロになりながらも立ち上がり、構えを取るが、右腕は折れている。

左足もひびが入っているのだろう。

勝ち目がない、もう決着がつくと周囲の観客がわかっている段階で、俺は一歩駆け出し、そして軽い跳躍の後に槍の刃先で鉄格子を切り裂き。

「「「?」」」

「なんだ、お前」

リングの上に乱入する。

「どうも、ジャカラン=サン。ニンジャです」

シャリアを庇うようにジャカランに立ちはだかる。

顔は覆面で、恰好は怪しさ満点。

そしてせっかくジャカランと観客が嗜虐的で残忍な遊戯を楽しんでいた空間は、俺の登場で場を白けさせる。

「おい!貴様!何をやって」

警備員が戸惑いながら俺をつまみ出そうと出入り口から入ってきて、剣を抜いて構えようとするが、俺はノールックで棒手裏剣を投げる。それは警備員の顔の真横を高速で通り過ぎ、頬に赤い線を作り出す。

「・・・・・」

その動作を見て、ジャカランが黙った。

こいつは力に溺れて、暴れることに快感を覚えているが、基本的には小心者だ。

勝てる戦いしか戦わない。

今までは肉食獣的直感で弱者を見分けてその自身の肉体スペックで圧倒していただけに過ぎない。

それを俺はよく知っている。

明らかに危ない人物が飛び込んできた。

それを感じ取ってへたり込んだ警備員と、どよめく観客たち。

俺の背後では戸惑っているシャリアがいて、この場の空気は混沌としている。

そんな空気に流れを作るために、あえて槍を地面に突き立てる。

闇さんの知り合いの精霊鍛冶師に作ってもらった逸品。地味な見た目だが性能は折り紙付き。

軽々と、そして深々と硬い地面に突き刺さった槍をその場において俺は一歩前に出て左手を前に出し。

人差し指をクイクイと動かし、かかってこいとジャカランを挑発してやる。

「っ!」

ここでは殺さない。だけど、この惨劇を今後少しでも止めさせるためには痛い目にあってもらう。

俺の挑発に額に血管を浮き出させるほどの怒りを見せる。

だが、襲いかかってはこない。

本能的にジャカランはここから逃げられないのがわかっている。

まず第一に人の眼。

それこそさっきまで大歓声を上げていたこの北の貴族や豪商たちが彼に向ける視線。これは後々の評価につながる。

小心者であるがゆえに他人からの評価、特に馬鹿にされ下に見られることを蛇蝎のごとく嫌う。

第二に、このステージだ。

鉄格子に囲われ、出入り口は二つだけだ。今は俺が槍で切り裂いた新しい通路もあるからそこから逃げようと思えば逃げれるけど、そっちには観客がいる。

そして第三に、俺の挑発だ。

俺の方が強いと匂わせ、そして鼻で笑うように嘲る目線で挑発をかければ、奴が額に血管を浮き出させるほど苛立つのは必至だ。

以上三点の理由から、ジャカランは動くに動けないのだが。

「どうやら、英雄殿は挑戦者から挑まれる方が好みのようでござるな」

やれやれと、呆れたように肩をすくめてとぼけて見せ、そして俺はあえて左右に手を広げながらゆっくりと歩み寄ってやる。

さぁ、殴ってくれと言わんばかりに堂々と歩き、そしてジャカランの拳のインパクトの位置として最適な場所にたどり着いた瞬間。

「ウラァアアアアアアア!!!!」

獣のような咆哮とともにジャカランは拳を振り上げ全力で攻撃してくる。

それを俺は、ほぼそこから動かず最低限の動きで回避し。

「んぐ!?」

体が勢いのまま寄ってくるジャカランを突き放すように腹に一撃加える。

カウンター気味に入った腹部への一撃。

ジャカランの顔に痛みという名の刺激によって戸惑いの表情が浮かぶ。

暴神のスキルによって強化された肉体で今までダメージらしいダメージを感じたことがなかったのだろう。

僅かに生じる恐怖の感情を振り払うように、何度も何度も大振りの拳で殴りかかってくるが、俺はその度に一発には一発で返して、ひたすらジャカランの腹部の同じ個所を殴り続ける。

手加減はしている。本来であればすぐに片付けるべきなのだが、何度も何度も腹に手加減した攻撃を加え続ける。

一体お前は何なんだと、恐怖を隠し切れなくなったジャカラン。

そんな彼に向かって俺は距離を詰めるようにもう一歩踏み込むのであった。