軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

24 潜入

もうすぐ夕暮れというタイミングで、俺は騎獣が用意できたと言われ、中庭に公爵閣下と連れ立って出ると、そこには確かに用意された騎獣がいた。

「いやぁ、飛び切り速い奴とは申し上げましたけどね」

「うむ、私が持っている騎獣の中で最速のやつを用意した」

王都から北の領都まで、普通の馬なら一週間ほど。直線距離にしておおよそ500キロあるかないかといった感じだ。

当然、それだと夜会に間に合わないので、帰りは転移のペンデュラムで馬ごと帰ってくることを想定していたのだが、公爵閣下が自慢気に用意してくれた騎獣に俺は苦笑するほかない。

「飛竜って。公爵閣下、俺が乗れないかもってお考えにならないんですかね?」

俺がダンジョンで散々狩りつくしたモンスターが、飼育員のテイマーに顔を撫でられながら大人しく鞍と手綱を付けられている。

確かに、こいつなら馬の十倍以上の速度で移動できる。

しかし、飛行系ユニットの操縦はかなり難しい。冷静に考えてみよう。羽ばたいて飛ぶ生き物に跨って空を飛ぶとか、重心のバランスが崩壊して不安定になる。

それを補うのが騎乗する人のテクニックになるのだが、空中という不安定な状態でバランスを取るのは高等テクニックを要求される。

「乗れないのか?」

「乗れますけど」

「なら問題ないな」

それを習得していることは、例えるならパイロットのような特別扱いを受けるほどの、すごいことなのだ。

それがわかっている上で、俺が飛竜を操ることができると確信して当然のように用意してくるあたり、公爵閣下もえぐいことをしてくるな。

騎乗スキルがあれば補正がかかって乗りやすくはなるのだが、一応レベルを上げて各ステータスが高ければ、プレイヤースキルでも普通に乗ることはできる。

「領都に潜入するときはどうするんですか。さすがに飛竜を連れて入れませんよね」 「適当な山の上に待機させてやればいい。呼べば来るように訓練してある」 「それならいいんですけど」

近寄ると、じっと俺を見つめた後にすっと鼻先を近づけてくるので、優しくなでてやると、ダンジョンで恐ろしい雄たけび上げていた同じ生き物とは思えないほど可愛い鳴き声を発する。

「ちなみに、名前はドラコだ」

「ドラ子?」

「少し発音が違うな、ドラコだ」

「あ、はい」

この世界の人たちのネーミングセンスはどうなっているんだ。

前もどこかの騎獣貸しのテイマーと同じような会話をしたような気がするが、気にしない方がいいのか?

「北の領地に入る関所にこれを見せれば入れる。だが、相手に我々の工作がばれるわけにはいかんからな。これは念のための物だと思ってくれ」

「承知しました」

さらに潜入するために、安全に飛行できる昼間ではなく、かなり危ない夜間飛行を追加してくるとか鬼か。いや、獅子公爵閣下だった。

差し出された道具袋を受け取れば、そこには今回の経費と通行証が入っている。

「ついでに、問題の遺跡の方も調査してきますよ。飛竜なら文字通り一っ飛びですし」

「頼む」

それを受け取って、そのまま鞍に跨るために飛竜の背中に飛び乗る。安全ベルトなんて物はない。

足で飛竜の体を挟み、それで準備完了。

「それじゃぁ、行ってきます」

「ああ」

手綱を引き、ドラコに飛び上がるように合図を送ると一鳴きし、大きく翼を広げる。極秘のミッションゆえに、見送りは最小限。

公爵閣下と部下たちに見送られながらドラコは羽ばたき、公爵閣下の館から飛び発つ。

「っと」

久しぶりの空中浮遊。

鈍っている感覚を研ぎ澄まし、ドラコの呼吸に合わせて体を動かし、空中でバランスを取りつつ進路を指示する。

頭の中の地図と、風景から方向を算定し照らし合わせて針路を決める。

そしてどんどん高度を上げていく。

夕焼けに映える地平線を左に見て、ひたすら北上する。

雲の中を通り過ぎ、高高度に達したと思えば、そこから飛竜は風に乗り滑空するように空を飛ぶ。

地表は遠くに見え、町や村も小さく見えるだけ。

ここからは星の位置と山の形で位置を把握しながら飛ぶしかない。

用意されたゴーグルと帽子で寒くはないが、顔に当たる風が強く、姿勢を維持しないと後ろに吹き飛ばされそうだ。

「・・・・・」

日がゆっくりと沈み茜色に染まる雲海の上を飛ぶというのはなかなか綺麗だな。これがプライベートであればもっと楽しめるのであるが、生憎と今は仕事中だ。

ただ、飛行ユニットを手に入れるのは今後のことを考えると良いかもしれないと考えたりはする。

段々と日は暮れ、そして夜になり、辺りを照らすのは月明かりだけになる。

星の位置を頼りに時々針路を修正しながら、下から見えないように雲に隠れて関所を飛び越え、さらに北上していく。

「あの山を越えたら見えてくるな」

飛行時間にして約3時間ほど。あと一つ山を越えれば目的地が見えるはず。

「ドラコ、あの山の頂上に着陸するよ」

ゲームで見覚えのある景色に安堵しつつ、このまま領都に入り込むわけにはいかないので、ここまで飛んでくれたドラコに指示を出し、着陸態勢になる。

俺に聞こえる程度の鳴き声で返事をしてくれ、ゆっくりと降下し始め、山の頂上付近に開けた土地があったのでそのまま降下する。

「んー、空を飛ぶっていうのも悪くはないが、地面に足がついている方がやっぱりいいよなぁ」

そして着陸できたら、ドラコから降りて凝り固まった体を伸ばす。

「さてと、アレが北の領都。ホクシか」

日が暮れて、そこそこの時間が経っているのにもかかわらず、遠目にも領都の灯りが見える。

「・・・・・うーん、こりゃ、思ったよりもきついかもなぁ」

しかしその灯りはまばら。領の中央となる都であれば、この時間帯ならまだまだ賑やかなエリアがあってもおかしくはないはず。歓楽街とかがその最たる例に入りそうな気がするのだが、山の上からの遠目でも領都全体が暗く見える。

もう間もなく寝静まるのかと思うくらいに暗い。

それすなわち、この街に活気がないということか、あるいは夜中に移動することを禁止しているかの二択になる。

「とりあえず、ドラコはちょっと離れて隠れていてくれ。何かあったら呼ぶから」

領都の中に入ってみないとどういう状況かはわからないが、ひとまずドラコにはここから離脱してもらう。

じっと俺を少し見てから、『わかった』と頷き、夜の空に飛び立っていくのを見送り。

「さてと、久しぶりにスニーキングミッションと参りますか」

俺も行動を開始する。

領都の周りは開けていて、普通であれば侵入することは難しい。

城壁もあり、そこには櫓が設置され、見張りが配置されている。

普通に考えれば、いかに夜だと言えど堂々と正面から行けば見つかるのは必至。

山をクラス8まで育成したステータスでのごり押しで、一気に駆け下りる。

高速で移動しながらでも、その足音はサイレントウォークで消し、まるで突風が過ぎ去ったかのように木々が揺れるだけの光景を作り出しながら山のふもとにまで下り、そのまま森を抜ける。

30分もしないうちに森の縁まで到着し、そこで一時停止。

「見張りは・・・・・少し多いか?」

森から城壁までの距離はおおよそ500メートル。

ここが侵入経路としては最適の場所だ。

山に面したの方の警戒は人間ではなくモンスターに意識が振られているので、その分配置されている兵士も多い。

その分だけ意識の隙ができやすい場所とも言える。

大勢の兵士がいるからこそ、誰かが見ていると思い、そして自分の見ている範囲になにかが出なければ問題ないと認識している。

「あそこから、あそこに行って、途中で影法師だして・・・・・」

兵士の動きを見て頭の中で、トレース。そして計算して、シミュレーションし。

「余裕があるのは3秒だけか・・・・・」

500メートルを3秒、普通に考えれば到底無理な話だが。

「うん、何とかなる」

今のステータスならそれもできる。じっと、城壁の上を見て隙を探る。

刻一刻と時間が過ぎ、どんどん夜も更けていく。

そしてその時は来る。

1人の兵士が欠伸をする。そしてそれを上官らしき人物が見て、咎めるように視線を向けた。

2人の視線が互いを見て、その視線がカバーしていたエリアに空白が出来上がる。

その瞬間に走り出す。

2人の会話はせいぜい数秒。

『たるんでいる』と言い、『すみません』と謝罪するせいぜいがこれくらいの内容だろう。

そこから雑談をしてくれればこちらとしてはありがたいが、そうそうそんなことは起きない。

訓練を施され、仕事にも真面目な兵士は、注意をすればそのまま視線を元の位置に戻す。

300メートルを走り切ったタイミングで視線がこっちに復帰し始める。

そこで一段、さらに加速しつつ、俺の右後方に影法師を発動させる。

出現させる時間はほんの一秒。

「おい!あそこに誰かいるぞ!!」

「なんだと!どこだ!!」

「ほらあそこって、あれ?」

ちょうど兵士が視線を戻す位置に見えるように影法師を発動すると、その注目を引き付けるスキルも相まって2人分の視線がその一点に集中させられる。

暗闇に浮かぶ人影に、注意された兵士が声を上げ、それに上官が反応する。

その声に反応して一気に他の兵士たちも反応するが、そのころにはすでに城壁の真下までたどり着いている。

灯台下暗しとはよく言ったもので、暗がりの中に隠れ息をひそめる俺の姿を見つけられる奴は誰もいない。

そしてそのままじっと壁を背にして息をひそめること数秒。

「何もいないじゃないか」

「おっかしいなぁ、確かにあそこに人がいたと」

「さっきのあくびといい、たるんでいるから見間違えるんだ」

「すみません」

あくびという気の抜けから、いるはずのない物を見たという報告。

二段構えの失態の隙をついて『もっとしっかりしろ』という上官からの注意を影で聞きながら、ゆっくりと城壁の突起に手をかけ登り始める。

角度的に覗き込まなければ見つからない死角から登り、そして気配探知で相手の位置を把握。

「影纏い」

そして影を纏い黒く染まった後に、城壁の縁で待機し、隙を伺う。

相手の配置から死角を計算、そしてどのタイミングで行けばいいかを待つこと数分。

クラス8のステータスであれば一晩中へばりついていることはできる。しかし、ずっと壁に張り付いているのは嫌だ。

だからこそ集中し、気配探知と聴覚で相手の動きを把握し、遠くからの足音を拾う。

「交代に来ました」

「うむ、御苦労」

「何か異常は?」

「部下の注意力が散漫だった。それくらいだな」

異常なしの報告の中に笑い声が入り混じり、そしていくつか雑談をしている。まだかと焦る気持ちを抑え、タイミングを待つとそれは来た。

そして来る別れ際。さっきまで見張りをしていた兵士たちが背を向けて出口へと歩き出し、その背中を交代の兵士が見送る。

そのタイミングで一瞬だけ、城壁を横断するための死角が生まれる。素早く城壁から登りあがり、視線を浴びることなく、そして音もなく城壁の上を市街側の端まで走り切り、城壁から飛び降りる。そのまま城壁の下の道路に着陸するのではなく、空歩を使って空中を走り民家の屋根に飛び移り、陰に飛び込む。

「良し、誰にもバレずに侵入できたな」

堂々と入ればいいかもしれないが、誰かに見られるというリスクを今回は背負いたくなかった。

なにせこれから接触するのは、ボルドリンデ公爵の配下の貴族の中では、正義感がありすぎて毛嫌いされている貴族の家だ。

そこに近づく人物が警戒されないわけがない。

白昼堂々正面から会えるのなら、それが一番だけど、それができないのなら裏からこっそりと接触するほかない。

それにこの街には色々と監視の目がある。

一見すれば、浮浪者に見えそうな人物が路上で横になっていても、それがボルドリンデ公爵の目となり耳となっていたりする。

この領都は奴の庭。

細心の注意を払い、俺は闇の中を進むのであった。