軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

21 勇者

勇者といえば、小説でもゲームでも、あるいは漫画やアニメでも、ファンタジー系のストーリーなら王道の主人公だ。ところがあまりにもコンテンツが増え過ぎて陳腐化してしまい、一部には擦られ続け、もはや勇者だと位置づけた途端に萎えると言われてしまうくらいにおなじみの職業でもある。

しかも、イリス嬢が求めているのは王道中の王道、「光の勇者」と呼ばれるようなヒーロー的な存在だ。

「できますね」

「できますの!?」

「ええ、まぁ」

そのスタイル自体はFBOにも存在する。

実際に装備からキャラデザ、さらにスキルビルドに至るまですべてそれっぽく完全に再現し、どこからどう見てもそうだと断言できるような王道の勇者スタイルを作っている。

挙句にはテンプレートで、各属性の勇者からざまぁ系勇者、成り上がり勇者、勇者(笑)といったネタ勇者ビルドまで作られるくらいにはプレイヤーに親しまれている。

「ただ、伝説の勇者の剣とか鎧とか、そこら辺の伝承の装備はさすがに今すぐには用意できませんね」

「いえ、さすがにそこまで求めてません」

「そうですか?」

しかし、さすがに魔王を討伐したとかそんな伝承をもった武器だけは今の俺たちじゃすぐには用意できない。

勇者と言えば「伝説の」という形容詞が付き物の、物語に出てくる武器と密に接している存在。

であれば、イリス嬢が手にしているような物語で重要な役割を果たす伝説の武器も欲しいのかと思い聞いてみれば、「そこはいらない」と来た。

「いつもこうなのですか」と視線で周囲に問うイリス嬢に、他の面々は動揺した様子はなく、静かにお茶やお菓子を楽しんでいる。

すなわち、この会話の流れこそが「リベルタ」ということになる。

イリス嬢の想像では、俺に勇者になるためのアドバイスを貰える程度の発想で、まさか伝説の勇者の武器を用意するとは思っていなかったようだ。

「その仰り方だと、伝説の武器も用意できるように聞こえますが」

「できますね」

「できるのですか!?」

こだわりの強いプレイヤーの中には、なんちゃって伝説の武器じゃなくて、本物の伝承を添えた伝説の武器を作る人もいる。

そしてゲームのクエストの中にも、伝説の武器と呼ばれるものを手に入れられる機会がある。

所謂、運営が用意できるNPC製作の最強武器というやつだ。

「伝説の武器を自作するのと、あらかじめ存在する伝説の武器を取りに行くとだと、どちらが好みですか?一応どちらでも楽しい伝説の武器ストーリー的な物を味わえますけど」

「え?え?伝説の武器を作る?取りに行く?」

推しキャラが求めているのならと、大盤振る舞いで情報を開示していくと、イリス嬢は目を白黒させた。

「リベルタ、イリスが混乱していますわ。情報の供給過多はダメですわよ」

「あ、すみません」

脳が理解を拒んでいるというよりは、常識が理解を拒否していると言った感じか。

最近は俺の常識外れの対応には、この世界で一番付き合いの長いネルとアミナどころか、イングリット、クローディア、そしてエスメラルダ嬢に公爵閣下までもが慣れた反応ばかり返すので、俺もそれが普通だと受け入れていた。

だからこそ、このイリス嬢の反応は新鮮だ。

「お姉さま、その、リベルタはいつもこうなのですか?」

「そうですわね。イリス、もしリベルタとこれから接することが多くなるとすれば、これくらいで驚いていては身も心も保ちませんわよ。コツは、何が出てきてもリベルタだからと思うことですわ」

「なるほど」

「いや、俺が言うのもなんですけど、最近俺の扱いが雑じゃありませんか?」

「仕方ありませんわ。リベルタですもの」

「なるほど、そういう対応でよろしいのですね」

俺としても俺のゲーム知識に驚いてくれることが最近減ったのでなんだか物足りないなぁと思っていたから、こういうイリス嬢の反応は正直楽しい。

ただ、自分の扱いに関しては物申したいこともあるけど、過去の自分の行動を考えると仕方ないと思ってしまう自分もいる。

にこやかに微笑みあう二人の表情は、やはり姉妹か。

ああ、本当に少しいたずらを思いついたかのように楽しみ合う二人の表情を見て、原作の二人の過酷な運命を知る俺の口元が緩む。

この光景を見れただけで、俺は原作を壊してよかったと思う。

俺が好きだったゲームのイリス嬢はここにはいない。

今ここにいるのは、現実のイリス・エーデルガルドという、姉とのひと時を楽しんでいる一人の少女だ。

ああ、なるほどと納得すると同時に、ちょっとした優越感を抱きながら他のFBOプレイヤーたちにもこの光景を見て欲しいという感情が芽生える。

数多のIFを妄想してきた中での一つのルート、俺が導いた一つの可能性でしかない。

原作厨なら、中指を立てて「何やっているんだ」と怒鳴られるかもしれないが、きっとイリス推しのプレイヤーからすれば拍手の一つくらいは貰えるだろう。

ああ、クソ。 もったいない。 なんで俺はこの光景を見れる機会をいままで逃し続けたんだよ。

「それでリベルタ、一つ気になったのですが、伝説の武器を作るとおっしゃっておりましたけどどうするのです?」

「そうです!伝説と言えば、過去の偉人が使っていたと言われる武具がほとんどです。それを作るなんて」

「もしかして、伝説と同等の性能を作るという意味でしょうか?」

「なるほど!それでしたらわかります!」

そんな後悔を抱え込んでいると、姉妹二人で俺の言った意味を解釈し始めた。

ネルとアミナがそんな簡単な解釈なのかと首を傾げ、クローディアの口元が苦笑になっているあたりから、エスメラルダ嬢の解釈がまだ俺の思考に追いついていないことの証明になった。

「いえ、伝説を持った武器を作るって言う意味ですよ?」

「ええ!?」

「それは、本当にどのようにしますの?」

さて、尊いと思う気持ちにはいったん蓋をして、勇者の話に戻る。

勇者装備にはお約束の伝説の武器。

その伝説の武器を概念的に解析し、それを再現しようとしたプレイヤーがいた。

「まず、第一に伝説の武器という名称に一工夫を加え、伝説という概念を持った武器と名称を変えます」

「伝説という概念を持った武器ですか?」

「そうです」

伝説の武器とその名を聞くと、何かすごい能力を持った強い武器と考える人が多い。 そしてRPGとかで出てくるこの伝説を謳う系統の武器は、中盤の後半、あるいは後半の序盤あたりに手に入る最強あるいは全体では上位に食い込む武器として登場するケースが多い。

しかし、それは性能という点に着眼した場合の伝説の武器だ。

伝説の武器を再現したプレイヤー曰く、「そんなのプレイヤーメイドの強い武器と一緒」らしい。

「例えば10年前くらいに竜を屠った竜殺しの剣、この話が国中に知れ渡っていれば過去に竜を殺したという伝承をもった武器ですよね?」

「そうですね。あ!伝説の概念というのは!」

「そう言うことです。伝説の武器というのは性能ではなく、偉業を指した言葉。その武器がいかに強かったかという偉業でもいいですけど、どちらかと言えばその武器で何を成したかという方が重要になる武器です」

そしてこのプレイヤーはこうも言っていた。 「卵が先か、鶏が先か」という話で、伝説の武器を伝説の武器たらしめる要因は武器が強かったからではなく、それを使って伝説となるような偉業を成し遂げたからこそそう呼ばれるのだと。

「言わば、世界中で噂になるほどの知名度があればその武器は竹の槍であろうとも伝説の武器となるんですよ」

発想の転換と言えばそれまでだが、裏を返せばこれ以外で伝説の武器と定義づけられる方法があるのかと聞きたい。

なるほどと納得するイリス嬢、そしてそんな方法があるのかと感心するエスメラルダ嬢。

「何なら、精霊王から祝福を受けたとかとんでもない知名度の武器とか用意して、大々的に喧伝して保管して次世代に継げば、その武器は先代の公爵が受け取った精霊王に祝福された伝説の武器って言うことになります。戦わず、これだけで伝説の武器って作れるんですよ」

「つまり、伝説の武器に強さは必要ないと?」

「強い武器が伝説になりやすいだけであって、必ず強い武器が伝説になるってわけじゃないですね」

伝説の武具の作り方を紐解けばそこまで特別なことはしていない。

何ならこの公爵家に先日贈った竜殺しの大弓なんて、孫の代まで保管しておけばそれだけで「伝説の竜殺しの大弓」とか語られそうな勢いだし。

「そういう感じで、勇者として伝説の武具を纏いたいならそういう方法がありますよって話です」

「なんというか、私の想像していた物とは大きく違うのはわかりました。私の中では、先祖がいざという時に隠し場所から出してくる、始祖の英雄が七難八苦の冒険の末に手に入れた武器というイメージの方が強いですから」

「そういう武器もありますよ?強くなったら取りに行きます?」

そしてすでにそういう意味合いを持った武器がこの世界にあるかないかと聞かれれば、あると答えるのが俺だ。 イリス嬢は物語みたいな勇者になりたいという願望があるようだから、どこかのインディでジョ〇ンズな冒険の先に手に入れたお宝のような武器の方がお好みに合うだろう。

そんな冒険譚になりそうな提案をすると、先ほどの困惑の表情から一転目をキラキラと輝かせる。

「地底の湖にある小さな島の祠に刺されている伝説の剣とかはありませんか?」

「ピンポイントなご指名ですね」

「イリスのお気に入りのお話の武器ですの。ですが、さすがのリベルタの知識でもおとぎ話と同じ武器など」

「ありますね」

「あるのですか!?」

「・・・・・ありますのね」

クローディアがイリス嬢の欲しい武器に、あるのかと首を傾げ、エスメラルダ嬢はなぜその武器が欲しいのかと理由を語る。

空想上の物語で、そんなものは存在しないとわかっていつつも、「リベルタならありそう」と半信半疑な視線を向けてくる二人に、俺は頷いた。

あると断言すると、エスメラルダ嬢は諦めたような顔で笑顔を作った。

「ええ、そういう光景の場所にある武器に心当たりは・・・・・3本ほど」

「3本もあるのですか!?」

「伝説とは?」

「あ、オンリーワンをお求めで?だったら、とある山の頂上にある神殿の奥にある噴水の中央に刺されている剣がお勧めですよ?性能良し、見た目良し、伝説の内容良しの三拍子揃った逸品です」

伝説がオンリーワンの武器ではないのは他のゲームとかでも結構ある話だと思う。

誰か専用の武器とか、そういう制限はあるだろうけど、それ以外で言えば本当に何本も武器があるというのはFBOだからというわけではなく、割とよくある話ではないだろうか。

エスメラルダ嬢からの「伝説の武器がそんな数あっていいのか。ありがたみが薄れるのでは」という疑問に対しては、そもそも長い歴史を持つこの世界で、たった一つの武器しか伝説の武器にならない方がおかしいだろう、と。

「その武器に私が選ばれるでしょうか?」

「条件さえ満たせばだれでも抜けますね。ただ、条件達成が面倒なので少し苦労しますが」

剣という縛りも無くせば、もっと多くの伝説の武器を探すことができるし、その伝説の武器は大半がクエスト達成で手に入れることができる。

選ばれし者が手に取れる伝説の武器の正体は、クエストを攻略する方法を一子相伝の口伝などで伝えているため、その一族でしか手に入れられないという勘違いに繋がっている。

身も蓋もないような言い方だがこれが真実。

「勇者は、思ったよりも簡単になれるのでしょうか?」

「イリス、リベルタを基準に考えてはいけません」

「そうですね。イリスさん、リベルタの基準は常人なら過酷という言葉が生ぬるく感じるような行動なので決してそれを常識と考えてはいけません」

「そうですね。リベルタの言うことだから」

「うん、リベルタ君が言うことだからね」

「はい、リベルタ様が言うことですから」

その真実を後々知るよりも、今教えた方がいいかなぁと、ゲーム時代のイリス嬢への対応でやってしまったせいか。

勇者になるのが簡単だと早とちりしてしまうイリス嬢であった。