軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

27 クレルモン伯爵の嘆き3

「さて、準備は整いました。これから、クレルモン伯爵討伐作戦を開始します」

桶に浸していた道具を引っ張り上げ、そして準備を終えた俺はこうやって作戦開始の号令を出した。

さっきからジッとこっちを見ている幽霊の前で号令を出すのもなんだか変な感じだけど。

「デントさんアミナ準備はいい?」

「ああ」

「いつでもいいよ!」

網の両端を持ったデントさんとアミナ。

デントさんは手で持って、アミナは足で構えている。

網はダンジョンの入り口の前に床に敷いている。

「ネル、準備はいい?」

「いつでもいいよ!!」

俺の隣にはかぎ爪を持ったネルがいる。

「それじゃ、作戦開始ぃいいいいいいいい!!」

そして俺はモチを持ち上げて全力で投球体勢になった。

見よ!

これがゲームで鍛えたIの字投法だ!!

足を垂直に上げて、股関節の柔軟性の限界に挑戦し、そのまま前に倒れこむように踏み込む。

そしてタイミングを合わせて投げつける。

野球というより、ドッジボールに近い。

そして投げつけられたモチは、ダンジョンの外に放り出され勢いを殺さずそのまま伯爵の飛び出ている顔面にめがけて飛ぶ。

伯爵は相変わらず、こっちを凝視し続ける。

まるでその程度の攻撃は当たらないと言わんばかりだ。

その様子にニヤッと俺が笑った直後だ。

『へご!?』

「ストライク!!」

モチは幽体を透過せず、見事に顔面に当たってみせた。

幽霊が顔を吹き飛ばされるという奇妙な光景。

何故だと驚き、自分にダメージを与えられ危ないと判断した伯爵はそのままゴミの中に逃げ込んだ。

「本当にあたるんだな」

「ダメージはほぼないですけどね」

幽霊に直撃したモチ。

これにはしっかりとカラクリがある。

モンスターには全てに属性が存在する。

ゲーム時代は、地水火風の元素四属性に加えて、光と闇、雷と氷という対属性の合計八種があった。

モンスターはこの八種類の属性のいずれか、あるいは複数を絶対持っている。

そしてモチはなんと珍しい光属性だ。

幽霊は闇属性であることが多く、伯爵も例外ではなく闇属性。

光と闇は互いに二倍ダメージを与えるように設定されていて、光は幽霊の透過効果を無効化する。

とある 猛者(プレイヤー) はレベルゼロ、装備無し、攻撃手段はモチのみという死のドッジボールを達成してそれを動画に挙げてバズッた。

時間はかかるけど、しっかりとダメージを与えられる程度の威力は持っているんだ。

「さて、伯爵が出てくる前に次の段階に行きましょう。ネル!頼む!」

「いいわよ!!えい!!」

そして鍵によって生み出されたダンジョンはその元となったダンジョンのモンスターの属性に染まる。

すなわち、一番弱いけど、このダンジョンって光属性の魔力を持ったダンジョンなんだよね。

そんなダンジョンの中にある水に塩を加え、そこに浸したかぎ爪が放物線を描き玄関口に放置されていたゴミに引っ掛かる。

「引っかかったわよ!!」

「良し!引きずり込め!!」

引っかかったのはぼろくなっている小さな布切れ、ハンカチなのか、それとも放置されすぎてぼろくなった服なのかもわからない。

少なくとも俺から見てもゴミにしか見えない。

ズルズルとかぎ爪に引っ掛かり、引きずられるゴミ。

『私の宝を奪う者は誰だぁああああああああああ!!!!!』

そのタイミングで館の中から響く怨嗟の叫び声。

「構わず引きずり込め!!」

「わかってるわ!!」

その叫び声が聞こえた瞬間にネルの巻き取る速度が上がる。

「急げ!!時間がないぞ!!」

ダンジョンに引きずり込むのが先かそれとも

『私の宝をカエセエエエエエエエエエエエ!!!!!』

宝(ゴミ) を奪われて、発狂モードになった伯爵が飛び出し奪い返すのが先か。

ダンジョンに引きずり込むよりも先にかぎ爪に伯爵の手が伸びた。

『アアア!?ひかりぃいいい!?』

しかし、触れた瞬間バチンと静電気に触れたような発光がわずかに起きて一瞬だけ伯爵が怯んだ。

「取ったわ!!」

「良し走れ!!」

その間にネルはゴミを回収。

そして回れ右して全力でダンジョンの奥に走り出した。

『!?返せ!私の宝を!!我が至宝を!!奪うやつは、ユルサァアアアアアアン!!』

その姿を見た伯爵は一瞬呆けたと思ったが、すぐに怒りに顔を染めてネルを追いかけようとした。

「嬢ちゃん!!」

「はい!!」

ダンジョンに飛び込む、ネル以外一切目に入っていない。

猪突猛進と言わんばかりにまっすぐ来る伯爵は、デントさんとアミナによっていきなり上げられた網を回避することはできない。

『アガガガガガガガ!?なぜェェェェェ!?カエセ!カエセ!ワガタカラ!!』

感電したかのような悲鳴を上げ、そしてすり抜けられるはずの網がすり抜けることができない。

勢いのまま網に埋もれる伯爵。

「よいしょっと!!」

「ほらよっと!!」

そしてアミナがダンジョンの中を飛び、その下をデントさんがくぐり、伯爵は網に包まれるような形になる。

『アギャギャギャギャ!!!』

「デントさん!!」

「おうさ!!」

たっぷりと光属性の水を含んだ網に覆われて、全身に痛みでも感じているんだろう。

もがいているが、動きが止まった。

「幽霊は軽くていいね!!俺でも持てる!!」

網に覆われ、掴めるようになった伯爵をデントさんが持ち上げて。

「風呂の時間だ!!伯爵様よ!!」

そのまま桶の中に叩き込んだ。

『ギャアアアアアアアアアアア!?光!?ヒカリイヤダァアアアアアアアアアア!??』

「坊主!!」

「準備万端!!」

近くに置いてあった蓋を持ち上げて、そのまま桶に蓋をする。

「リベルタ君!!」

「あいよ!!」

そしてアミナが足で閂の棒を俺に差し出してくれ、それを受け取り一本差し込み。

「はい!」

「ありがとよ嬢ちゃん!!」

『アケロアケロアケロアケロアケロ!!!タカラヲ!カエセカエセカエセ!!!』

ドンドンドンドンと叩き暴れる伯爵。

クラス四相当のモンスターだから、最後にもう一本十字にデントさんが閂をかけても持って数分。

「アミナ先に行け!!」

「わかった!!」

「ぼさっとするな坊主!!走るぞ!!」

上にのしかかっていた俺に声をかけてデントさんも走り出し俺もその背中に続く。

「早く早く!!」

ダンジョンの中を飛び先行するアミナが時々背後を振り返って俺たちを急かす。

「かぁ!!飛べる嬢ちゃんがうらやましいぜ!!坊主!大丈夫か!?」

「だい、じょうぶです!!」

レベルがないからこの体は純粋な子供分の体力しかない。

全力で走ってもデントさんやアミナには到底及ばない。

だけど、何度も走って最高の順路は頭に入って、体力が持つのは理解している。

『タカラヲウバウモノ!!ドコダァアアアアアアア!!!』

「もう封印が解けちまったのか!?」

「二分の一に賭けるしかないですよ!!」

想定よりも桶が壊れるのが早い!?あの桶屋不良品を売りやがったな!?

計算だったらボス部屋に到着して戦う頃に壊れるはずなのに!?

分かれ道の正解を通り、あとは最後の直線。

「あ!来た!!早く!!」

「嬢ちゃん扉を開けろ!!」

そこでデントさんが猛加速。

腰の短剣を抜き去り、風のように駆けていく。

飛んでいるアミナを抜き去り、扉を開くネルの脇を疾風のごとく通り抜け。

「雑魚に時間かけてる暇なんかないんだよ!!」

そしてボス部屋に突入して、鎮座するカガミモチに襲い掛かった。

ボスとはいえ最弱のボス、俺たちと違ってレベルを持ち、しっかりと戦闘経験を積んだデントさんは俺が部屋の扉に到着するよりも先にオレンジ色のモチから順番に倒し、最後に残ったモチに襲い掛かっていた。

「リベルタ!!後ろ!!」

「二分の一外せよ!?」

その直後だった。

『ミツケタァアアアアアアアアア!!!タカラヲカエセ!!』

背中から感じるおぞましい気配。

振り返る時間も惜しい。

ネルとアミナもボス部屋に入り込む。

そして俺がボス部屋に入り込む直前。

『ニガサァアアアアアアアン!!』

「やばっ!?」

計算ミスった。

想像していたよりも、俺の体が遅かった!?

手が届く距離、そこに伯爵が迫り俺に襲い掛かっていた。

モチをぶつけ、網で覆い、桶に閂をかけた俺はれっきとした敵として認定され。

そのまま襲われる。

「「リベルタ(君)!?」」

マジでヤバイ。

どうしようもない。

『ヒカリィイイイイイ!?』

そう思ったが、どうやら神は俺を見捨てていなかったようだ。

「俺の運も捨てたもんじゃないな!!」

まさかのボスがドロップした宝箱が虹色。

最高に発光しているその宝箱の光に伯爵の動きが止まった。

「ああ、虹!?」

「そんなこと言ってないで脱出するよ!!」

「嬢ちゃん!!坊主急げ!!」

開ける暇なんてない。

未練たらたらのネルの腕を足で掴んで脱出用の魔法陣にアミナは飛び込み、俺も宝箱を通り過ぎてヘッドスライディングの勢いで魔法陣に飛び込んだ。

『アッ!!タカラ!!』

最後に見えたのは懸命に宝箱にかけより光に遮られながら手を伸ばしてくる伯爵の形相だった。

「へぶっ!?」

そしてそんな怖い顔は、土の味で上書きされるのであった。

「いったぁああああああ」

変な姿勢で飛び込んだおかげで、受け身を取り損ねた。

ゴロゴロとその場でもがき、どうにか痛みを拡散する。

「元気そうじゃねぇか坊主」

「元気そうに見えます?」

「泣くな、男だろ。ほれ、これでも飲んどけ」

「むぐ」

俺自身痛みで涙目になっている自覚はある。

口から差し込まれたのは、ポーションか?

「にがいです」

「そりゃよかったな、生きてる証拠だ」

ゲーム時代は味なんてなかったから、こんな味なのかと感心しつつ、だんだんと痛みが無くなっていくのがわかった。

「ネルとアミナは……無事か」

痛みが引けば、体を起こし、ネルたちの無事を確認する。

「アレを無事って言っていいのか?ネルの嬢ちゃん、かなりへこんでるぞ?」

「虹の宝箱を見逃したのが悔しかったんですよ」

「気持ちはわかるけどよ、モチ程度の虹なら問題ないだろ」

ずーんと黒い影でも落としそうな勢いで落ち込んでいるネルとアミナの姿を見てへこみすぎないかとデントさんが心配しているけど、まぁ、箱の中身を知っていないからそういうことが言えるんだよな。

「伯爵は?」

そこは一旦触れないでひとまずは成果の確認だ。

「俺たちが安心してこうやって座ってられるのが何よりの証拠だ。それに、ほれ」

「なんですかこれ」

「ゴミ、そこから拾ってきた」

「ああ、じゃぁ大丈夫そうですね」

周りを見回してもあの恐ろしい形相を浮かべた伯爵の幽霊はいない。

そしてデントさんが古びた額縁の破片みたいなのを俺に放ってきたので慌ててキャッチ。

それはクレルモン伯爵にとっては間違いなく宝のゴミ。

俺やデントさんが手に取って、襲ってこなかったということは。

「しっかし、まさかこんな方法で倒しちまうとはな」

「経験値もドロップアイテムも放棄すること前提ですけどね」

「ここまでの成果が出せるんなら文句はねぇよ」

無事に伯爵は消滅させられたということ。

今回使ったのはダンジョン引き込み殺法というやつだ。

ダンジョンの鍵はどこにでも、それこそダンジョンの中にダンジョンを作れるくらい自由にダンジョンを生み出すことができる。

そしてそのダンジョンはプレイヤーだけじゃなく、モンスターも引き込むことができる。

これを利用したのがダンジョン引き込み殺法。

ダンジョンを攻略して、脱出するとそのダンジョンは無くなる。

弱者の証と合成した鍵も攻略して脱出したら中身はリセットされる。

これを応用して、倒したいモンスターを引き込み、ボスモンスターを討伐して脱出するとその引き込んだモンスターはどうなるか。

倒したことにはならないが、消滅させることはできる。

公式に質問し正式に回答を貰えたので、この世界でも通用するとは思っていた。

唯一の懸念点は、モンスターが出入り口から脱出されると困るが伯爵は俺たちを追いかけてきてくれるタイプだった。

なので最後の最後まで伯爵は追いかけてきてくれた。

モンスター判定の伯爵じゃ脱出できない魔法陣のあるボス部屋まで来てくれて、この殺法が使えたわけだ。

「そうですねぇ、これで安心してこの屋敷を探索できるってわけですよ」

「……ああ、そうだった。そうだよ、これからが本番じゃねぇか」

一番の山場はある意味で越えた。

ここからはクエスト報酬タイムだ。

ただし、頭に地獄のとつくけどな。

「どうすんだよこれ、伯爵が消えればゴミも消えるとかないのか?」

「ないですね」

伯爵が消えて、残ったのはただのゴミ屋敷。

そう、ゴミで溢れたお屋敷だ。

「ここから大掃除でどれくらいかかりますかね」

「討伐し終わったって報告していいか?」

「ダメです」

その中から目的の物を探し出すのはなかなか骨が折れそうだ。