軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

1 始動

新しい環境というのは気持ちを新鮮にして、心身をリフレッシュさせてくれる。

それと同時に緊張して固くなり、これまでできていたことができなくなるようなことも起きる。

精霊界という新しい環境は、俺たちに新しい刺激を与えてくれる。

だがそれは。

『みんな頑張れ!!』

『『『『『ウオオオオオオオオオオオ!!!!』』』』』

アミナの声援に応え、汗を流しながら雄叫びを上げる筋肉集団。こんな精霊たちの姿を見るような刺激ではなかった筈だと俺は思う。

セイヤーという掛け声と共に筋肉を隆起させ、綱を引っ張る精霊たち。

それを見て歓声を上げる精霊たち。

本日も精霊界は晴天なり。

絶好の運動会日和というわけだ。

「盛り上がってるわね」

「そうだな。徹夜で調整した甲斐があった」

「お疲れ様ですリベルタ様」

ライブの前のプレイベントとして催した、綱引きと、大玉転がしに借りもの競争という、たった三つの競技しかない運動会だが、それでもしっかりと盛り上がっているようで何より。

ゲーム時代でも見ることができなかった、精霊たちの筋肉祭り。

地水火風の基本属性だけではなく、まさかの雷氷光闇の上位属性の精霊たちの筋肉自慢も綱引きに参加している。

見ていて確かに迫力がある。

MCをアミナに任せてみれば、案の定かなりの盛り上がりを見せてどの精霊たちもアミナに格好のいい姿を見せようと気合を入れている。

不壊属性を付与した綱が引きちぎれるのではと思うくらいに、対戦する精霊たちは歯を食いしばり、筋肉の膨れ上がる皮膚の表面に血管を浮き出させ、各属性の能力を封印した肉体のポテンシャルだけで引っ張り合っている。

その光景を、運営と書かれた前世の運動会でも見たような仮設テントの下で眺める俺の隣では、ついさっきまでアミナのMCのサポートをしていたネルが戻ってきて会場の熱気に対して感想をつぶやく。俺は徹夜によって回らない脳みそを回すために果汁百パーセントのオレンジジュースで糖分を補給しつつ相槌を打つ。

「眠そうだけど大丈夫なの?」

「この時ばかりはレベルを上げておいた体が無理できるって証明してしまったことを後悔しているよ。これで寝不足が原因で身長が伸びなかったら精霊たちを呪える自信がある」

「大丈夫よ、身長が低くてもリベルタはリベルタよ」

「男としてはある程度の身長は切実に欲しいんです。高身長に憧れるんです!」

体力面に関して言えばネルが心配してくれるほどつらくはない。

ネックなのは頭を使いすぎて完全に糖分不足に陥っているということだ。

最近まで精霊王とファンクラブの入会手続きと運営のための組織作りとシステム構築をしていたし、さらに言えば今後も増えるであろう入会者への対応をしてもらうためのマニュアルも作っていた。

一番ネックだったのは精霊たちに名前がないこと。名前がないのにどうやって互いに認識しているんだよとツッコミを入れたいが、この世界の精霊は相手の魂の波動で認識しているからそこまで困らないらしい。

だけど、人間の俺はそんなことができるわけではないので、しっかりとファンクラブ会員証でナンバリングさせてもらいましたよ。

一桁ナンバーは俺たちのパーティーで一から五まで占有、最初のファンと言うことでネルが一番、俺が二番で、イングリットが三番、クローディアが四番で、エスメラルダ嬢が五番という形だ。

そこまでは良かった。

精霊たちも俺たちのことは認めてくれているので、そこら辺に関しては納得というか、アミナがそう希望を出したら拒否できる精霊はいなかった。

ちなみにアミナはファンクラブクランだというのに、歌姫というポジションでクラン入りしている。

自分のファンクラブに所属しているアイドルとはこれいかにと思いつつ。

問題だったのはそれ以降の番号だ。

所謂初期から応援している精霊、もっと具体的に言えば風の上位精霊たちが一桁ナンバーを欲して名乗りを上げてきたのだ。

それに対して、最初に並んだのだから早い者順だという輩がバッチバチに火花を散らして、それを収めるのに精霊王に仲介を頼んだ。

ナンバリングではなく特別名誉顧問という肩書を持った精霊王は、精霊たちの嫉妬の眼差しを受けつつ、大岡裁きのごとく的確に処理をしてくれた。

優先すべきはアミナを悲しませないこと。平和的に解決しようと言うことで残りの一桁ナンバーを得るためにこの運動会は開催されている。

「そういう物でしょうか?私としては腕にすっぽりと収まるリベルタ様もよろしいかと」

「よろしくないよ!?男として周りの女性よりも小さいのはつらいんだぞ!?それと最近イングリットは俺を抱きしめることにはまってないかな!?」

「抱きしめていただいても結構ですよ?」

「何があったんだ?」

「いえ、静かに主を支えるだけではだめだと思った次第です」

一応、強い精霊が独占しないように、六から九まで四つの番号は強さじゃなくて会場を盛り上げた精霊に送るということになっていて、それを決めるのはMCをやっているアミナが決めるということになっている。

会員番号一桁が欲しければ競技に参加して催しを盛り上げてくれというわけで、そのことを事前に言っておいたから下から上まで精霊たちは運動会を大盛り上がりさせてくれている。

そんな熱気に当てられたからか、それとも前にエスメラルダ嬢が俺を抱きしめていたからか、イングリットが俺へ接触することが多くなった。

いや、他の面々も何やら距離感が近いような気がするのだが・・・・・

「そ、そうか?」

「はい」

何かあったかなぁと思いつつ、深く触れない方がいいような気がして、いつも通り背後に控えてくれているイングリットの顔を見たがいつも通り無表情。

そんなやり取りをしているところに、ネルが俺の隣に腰を下ろしてきた。

拳一つ分の微妙な距離を置いて隣に座りつつ一緒に運動会を見る。

なんだか不思議な感覚だな。

「そう言えば、イベントの準備ばかりしてたけど強くなる方の準備は大丈夫なの?そっちがリベルタの本命なんでしょ?」

「全員がクラス4になってカンストしたからな。次の段階に進むのは先に装備の新調をしてからだ。次は前にも話したスターリーシルクを狙う。そのあとはそれぞれのユニークスキルを取って、レベルアップするって段取りになっているよ。精霊王と相談して今回の運動会で多少は精霊たちも満足できたということで、ライブは衣装ができてからっていう約束にしてくれた。そのあとのスパンも短くならないようにお願いしたし」

「具体的には?」

「二カ月から三か月に一回ペースだなぁ。そこら辺は俺たちの育成状況と応相談って感じだ」

「大丈夫そうなの?」

「今回でかなりの数の精霊の協力を得られているから、ぶっちゃけ人手に関してはかなり楽になった。消耗品のポーションとか自力で作らないといけないと思ってたからな。低位の精霊たちが薬草とか色々と錬金素材を集めてくれるのはかなり助かるし、闇の上位精霊ほどではないけどそこそこ錬金術を修めている精霊たちが消耗品作りに協力してくれるのもでかい」

そんなイベントばかりに集中していた俺のここ最近の働きを心配してくれるネルの言葉に苦笑しつつ大丈夫だと頷く。

最近忙しすぎて忘れていると思われがちだが、しっかりとそっち方面でも段取りは組んでいる。

「何より、闇の上位精霊のコネを使って他の職人系の精霊たちとコネクションを持てたのはでかい!!さすが長命種の精霊!!鍛冶系の精霊や服飾系の精霊もいれば細工師の精霊もいた!もう宝の山状態だ!!」

むしろそっち方面に関しては、なんでこんなに人材揃ってるの!?状態で順調すぎるといっても過言ではない。

やはり娯楽という方面で物作りをやろうとする精霊は多かった。

ゲーム時代はクエスト関連でちらほらと見つけていたけど、ゲーム後半で精霊界に来れるようになるころにはそれよりも優秀なNPCないし自キャラが育っていたからそこまで注目は集まらなかったが、普通に通常NPCの平均値を大きく上回る技術集団が揃っている。

おまけにその集団の大半がアミナの歌に興味津々ときたから、めでたくファンクラブ会員になってくれているという嬉しい誤算もついてきている。

面接で会話した感じ、どっかのゴーレム狂いのエンジニア連中みたいに変な癖があるわけでもなさそう。

俺たちに協力して貰うためにお金じゃなくて娯楽という楽しみを対価として供給する必要があるって言うだけで、しっかりと対価を支払えば快く協力してくれるのが精霊のいいところだ。

まぁ、長い年月を生き過ぎて楽しめる娯楽というのがそうそうないのが困りものだが。

そこをクリアできるアミナの歌への愛情が素晴らしいと、もはや彼女に足を向けて眠れないまである。

さすがに素材が無ければ作れないと言われているが、それでも長い年月で鍛え上げた技能スキルとそのスキルに見合った設備を持っている集団と出会えるとか、精霊界最高かよと言いたい。

「嬉しそうね」

「そりゃ嬉しいさ!!装備ってクラス5を超えたあたりからエンチャントとか気を使わないといけなくなるから、優秀な技術者はのどから手が出るほど欲しい。戦闘系の人材は探せばいるけど、本当に生産系で優秀でフリーな人っていないんだよ。それが精霊界で全部クリアできるんだからな!!」

今後は装備に関してもかなり気を遣って行かないといけない。そろそろ追加で不壊のエンチャントスクロールも探し始めないといけないし、竜殺しみたいな特化武器も作りはじめないといけない。

防具に関しても八属性全てに対抗できるような装備や、状態異常に対応した装備も作りはじめないといけない。

アクセサリーとかでスキル攻撃力アップ系の物にも着手したい。

これを全部やるとなると、素材収集と装備の製作に膨大な時間を要するようになる。

それをクラスアップするごとに行わないといけないのだから、レベルの上がり方が悪くなる今後のことを考えると、精霊界での育成期間は下手すれば二年じゃ足りないと言わざるを得ない。

ゲーム時代もこのころにクランを作り始めたのは、ソロで活動するよりも集団で活動した方がレベリング効率がいいからだ。

自動でポーションを作ってくれたり、

装備が手入れされる環境が用意できるだけで効率がだいぶ変わる。

オートメーション化というのは、効率を求める限りはどの世界に行こうが必要になるということだ。

今回はアミナというチートのおかげでだいぶスムーズに組織を構成できたが、ゲーム時代だったらNPCをスカウトしてコツコツとクランを拡大していって、できることを増やしていくという、とにかく本当に時間の掛かる流れだ。

当然だけど、クランには誰彼かまわず勧誘して入ってもらえるわけではない。そのNPCが入ってもいいと思う環境あるいは条件を用意しないといけないからその準備にまた時間がかかるという。

やり込みゲーといえば聞こえはいいけど、マゾ要素が多分に含まれているのがFBOというゲームだ。

だからこそ、こうやって必要な人材が一気に流入してくれるという幸運は、前世では考えられなかったことだ。

多くても一パーティーくらいで、何百何千なんて数が入ってくることなどまずありえない。

しかも一つの世界の頂点とも謂うべき存在が間に入って、それらを順調に捌いてくれることなど本来なら絶対にありえないのだ。

「精霊だけどね」

「この際種族なんて関係ない。人族だろうが獣人族だろうが妖精族だろうが、鱗族だろうが精霊だろうがな!!優秀な存在は是が非でも確保する!!」

ある意味FBOでは後方をいかにして固められるかが究極の強さを求めるための最重要項目だと言っていい。

後方を固めず、その場その場で対応していたらとんでもない時間がかかるからな。

この差は大きい、このクランは大事にしていこうと思いつつ、いいスタートダッシュを決められたと実感するのであった。