軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

24 方針

米が手に入るかもしれないとなってから三日後。

休暇明けのその日、我がパーティーに転機が訪れる。

「と、いうことで皆知っている人ですけど、うちのパーティーに魔法使いとして加入したエスメラルダ様です」

「リベルタ、仲間となったのなら敬称は不要だと言ったではないですか」

「……エスメラルダさんです」

「もう」

流れと言うか、外堀を埋められたと言うべきか。

こういう運命だったと言うべきか。何にせよ魔法使いをパーティーに迎えることができたのは大きい。

リビングに集まり、挨拶をするエスメラルダ嬢に向けて拍手が起きる。

その反応から、よくある話の新人と古参の不和と言うものの心配はなさそう。

「よろしく!!」

元気いっぱいに挨拶するアミナを筆頭に、反対する人はいない。

「リベルタ、エスメラルダさんが入るのはいいけど例の秘密に関してはどうするの?イングリットさんみたいに契約するの?」

懸念点として挙がるのは俺たちの強さの秘訣であるレベリングの方法とスキルスロットの件だ。

ネルの心配は確かにわかるし、その点に関して言えば。

「すでに契約済みですわ!!」

「はい、公爵閣下公認で秘匿契約を結びました」

すでに対処済みと答えることができる。

公爵閣下とロータスさん、そしてエスメラルダ嬢の三人とひざを突き合わせての秘匿契約の書類作成。

俺が伏せたいのは、レベリングの方法とスキルスロットの解放条件、そしてEXBPの取得方法だ。

何か秘密があるとは勘づかれているだろうが、その詳細を伏せて契約条文を作るのは中々大変だった。しかしもろもろ借りのある俺の秘密をツッコむことはせず、エスメラルダ嬢の危険に関わる条文だけ精査され、互いに納得して契約に至った。

唯一気になったのは、エスメラルダ嬢が結婚し子供ができた際に、母親として子供に対しては指導できるようにした点。

公爵閣下的に、孫世代での覚醒を狙っているのではと思われる内容だ。

さすがにそのころになったら俺もレベリングを完了し、ステータス的には完成していると思われるから了承したが、この世界の変革がその時期に定まったのではないかと少し不安になる。

堂々と胸を張るエスメラルダ嬢が情報漏洩の心配はないと言えば、ネルも納得する。

「ということで、今後の方針を話し合いたい」

エスメラルダ嬢のパーティー加入は意外とあっさり全員に認められ、そして加入が決まれば次に行うのは今後のパーティーの育成方針の相談だ。

「現状、俺たちパーティーはレベルとステータスが均一ではない。なので、ここで一つパーティーレベルの均一化を図ろうと思う」

現状俺のレベルはクラス3カンスト。

アミナ、ネル、イングリットがクラス4カンスト。

クローディアはクラス6であるが、EXBP分の二割が未達。

「エスメラルダさんの今のレベルは?」

「クラス4のレベル18ですわ」

俺のレベルは追いつこうと思えば、近日中に追いつくことはできる。

なので今一番育成しないといけないのはエスメラルダ嬢とクローディアになる。

「了解、ありがとう。まず最初に言わないといけないのは、クラス4までのレベリングはチュートリアルだ。本番はクラス5のレベリングからになる」

レベルリセットからジョブの選定と称号の獲得、そしてスキルの獲得と今後やることは山ほどある。

その過程で思い出してほしいのは、EXBPを獲得する条件もジョブの獲得や称号の獲得といった物も、これまではチュートリアル的に展開されてきたということ。

「ここから先は、本番の育成環境に足を突っ込む。EXBPの獲得条件はより過酷に、スキル育成やレベリングも敵が強くなり効率が低下する」

経験値テーブル自体もクラス4までは順調に進めるように設定されているように感じる。

だが、クラスが5に上がった途端に、ここからが本番だと経験値テーブルが跳ね上がり、そして敵の強さも跳ね上がる。

「俺がわざわざ低クラスでレベリングとスキル育成を念入りにやった理由は、ここからのレベリングの効率を上げるためだ。下準備なしに、この先の育成を行うことはできない」

正直、普通のゲームとかだったらバランスが崩れるだろうと思うくらいにFBOではここからレベリングの難易度がおかしくなる。

「クラス5のレベリングになると、基本的に沼竜や這竜、そして飛竜といった敵が水準となる。考えてみてくれ、フィールドボスの強さが基本になるんだ」

「そう考えると、すごいことだよね。だって僕たちがそれだけ強くなったって言うことだよね?」

「そうね。これから先強くなるには今まで以上に強い敵に勝たないといけないってことよね」

敵のステータスも今まで以上に高くなり、そしてスキルも増える。

それに比例して得られる経験値も増えるが、今までみたいに経験値ボーナスを得られることはない。

クラス5でレベリングをしているときに格上ボーナスを狙うとしたら、クラス6ないしクラス7の敵を狙わないといけない。

このレベルまで来ると一クラス上の敵は文字通り格上。EXBPを確保している状態でも苦戦は必至になるような敵ばかりになる。

格上の敵を一体倒すのに数十分かかってしまえば、同格の敵を効率的に倒した方がお得だと思えるくらいに敵が強い。

首狩りアサシンを目指したのは最悪ソロでも即死攻撃でレベリングを効率化するためのビルドでもあったからだけど、パーティーレベリングができるのだったらそっちの方が安全かつ効率的にレベリングはできる。

「そういうことだ。ここから先はパーティーで効率的に敵を倒してレベリングする方針で行くために、エスメラルダさんとクローディアさんのレベリングを行う」

クラス4のネル、アミナ、イングリットとさらに俺がレベリングで追いつけば二人の育成は序盤の俺たちよりは早く終わる。

「だけど、僕たちライブを控えているよね?」

「それもやる」

「お父様から聞いていましたけど、文官の育成もやると伺いましたが」

「それもやります」

「私たちのジョブスキル獲得もあるわよね?」

「それもやる」

「……少々過密スケジュールのようですが大丈夫でしょうか?」

「成せばなる」

だけど、このご時世レベリングだけに専念できるような環境でもない。

光の大精霊と約束したライブもある。

公爵閣下と約束した文官の育成もある。

さらにアミナのラストソング、ネルの招福招来の獲得や、俺のジョブスキル獲得もある。

正直どこから手を着ければいいかわからないレベルの渋滞状況。

「まず第一にやるべきことは俺のレベリングだ。俺がクラス4のレベリングをカンストできれば実働できるメンバーが四人になる。そうすれば手数が増えて作業効率が上がる」

だけど、やることを一つ一つ片づけていけばいいだけのこと。

腕を組み、堂々と胸を張っているが内心はクエストをため込みすぎてどれから手を着けようか焦っている。

であれば、まずは自分が強くなってそこから動けばいいと判断する。

「次に日付が決まっているライブだ。景品と屋台の発注は済ませているから、曲の練習とリハーサルをしないといけないな。エスメラルダさんは何か楽器の経験は?」

次に片付けるのは、すでに前金を貰っているライブだ。

ここで、アミナの必須スキルの精霊術と召喚術を手に入れて一気にアミナを完成形の原型まで持っていく。

アミナが歌い、俺がリュート、ネルがカホン、イングリットがハープで、クローディアが笛だ。

できればこれら以外の楽器を演奏できればいいのだが。

「え、演奏は少々苦手で」

さっきまでの威勢はどこへやら、スーッと視線を逸らすエスメラルダ嬢。

イングリットができていたから、普通に貴族は楽器の一つや二つを習うものだと思っていたがこのリアクションは少し意外だ。

「演奏できないと、ダメですの?」

「ダメではないよ」

イメージ的に何か苦手分野はあるとは思っていたが、音楽関連とは思っていなかった。

しかし、困った。

ここでエスメラルダ嬢無しでライブをやると、仲間外れにしているような感じがでてしまう。

不安そうにするエスメラルダ嬢は言えば納得はしてくれるだろうが、アミナの称号経験値を集めるために今後もライブは継続的にやる必要がある。

ならば、ここでライブで何か役割を与えた方が良い。

歌えるのならアミナとダブルユニットでアイドルデビューするのもいいかと一瞬思ったが、目線の逸らし具合的に音楽系全般がダメなのかもしれない。

そうなると舞台に上げること自体が厳しいのかもしれない。

スキルを取るか?

いや、ライブのためだけに演奏系スキルを取るのはダメだ。

エスメラルダ嬢の育成方針は、この後相談して決めるがおおよその方向性は決めている。

そのスキル構成の中に音楽関連のスキルを入れる余裕はない。

演出などの裏方に回ってもらうというのも考えたが、それはそれで何かが違うような気がする。

「だけど、特訓はしようか」

となれば、自由時間を削って音楽の練習をするほかない。

「ええ?本当に私だめですのよ?お父様が幾人もの音楽家を呼んで指導していただきましたが」

「大丈夫!いろいろな物を試してみれば何とかなる!!」

最悪、ネルの隣にもう一個カホンを置いてリズム隊みたいなことをしてもらおう。

いずれは全ての演奏はアミナが契約した精霊たちに代わられるが、それでも一緒に何かをしたというのは思い出になる。

こういう一緒に何かをしたというのが意外とパーティーの連携にいい影響を与えるのだ。

バンドを組むときに互いを意識し、より良き演奏をというのは戦闘面での連携でも似た要素はある。

リズムを取り合えるというのは戦いでも通じるところがある。

「ひとまずは、リュートから行ってみよう!」

「早速ですの!?」

「次はネルのカホンな」

「じゃぁ、今のうちに楽器を出すわね」

「僕も歌の練習がしたい!!」

「私たちも楽器を準備しますか」

「かしこまりました」

思い立ったが吉日、今日は元々エスメラルダ嬢の加入を告知することがメインだったからこの後の予定は空けている。

歓迎会の食事はする予定だけど、それまでの間にお腹を空かせるのも悪くはない。

本当にやるの?と不安がるエスメラルダ嬢を横目に、倉庫の中から各々の楽器を取りに行く。

「なんですのこれ!!楽しいですわ!!!」

そして一時間後、エスメラルダ嬢が覚醒した。

リュート、笛、ハープは彼女の告白通り、才能がないと言われてもおかしくはないような出来栄えだった。

だが、貴族には縁がなく、唯一触れたことがなかった、ネルのカホンに関しては少し様子が違った。

軽快に叩いてリズムを作るというシンプルな楽器である故にやりやすかったようで、エスメラルダ嬢も苦手意識を抱かなかった。

それが大きかったようで、ならばいっそこれでどうだと誰も使っていなかった太鼓を持ち出してバチを渡してみたところ。

ドンドコドンドコと軽快かつ力強いリズムを刻む、お嬢様ドラマーが爆誕した。

それに負けじと、ネルが力強くカホンを叩いているから二つの音が混ざり、迫力のあるリズムが刻まれるようになった。

自慢のドリルヘアーを振り、体全体で躍動感を出すように太鼓を叩く姿に、優雅さと豪快さを混ぜた意外な彼女のスタイルを見て次のライブも成功するだろうと確信してしまった。

「うんうん!!いいねいいね!!僕、ワクワクしてきた!!」

新メンバーを加えて進化した俺たちのバンドの音楽のリズムに、アミナも気持ちが盛り上がり歌に力が入る。

そうなってくると自然と俺たちも演奏に力が入り始め。

その日の夕食は少しだけ遅くなるのであった。