軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

19 狂敵

「リベルタ!!」

エスメラルダ嬢の喜びの声を聞いているが、本当にギリギリだった!!

背後からの奇襲、それをエスメラルダ嬢の表情で読まれたっぽいけどそれを咎めている時間はない。

首狩りから着地、そして公爵閣下とエスメラルダ嬢から引き離すために連続で突きを放つ。

首狩りを無理矢理躱したから狂楽の道化師の体勢は崩れている。

立て直す時間を与えてはいけない。

だけど相手の実力は俺の知る狂楽の道化師だった。

短剣ではじき、いくつかかすり傷を与えたが公爵閣下を庇うように移動した隙を狙って片手で飛び下がり、立ち上がり体勢を整えた。

「ご無事ですか!?」

「い、命はな。だが」

「公爵閣下を後ろに下げてください!!」

「わ、わかりましたわ!」

二人を庇いながら戦えるか?

いや、戦わないといけないんだ。

エスメラルダ嬢が走ってきて、しゃがみ込む。

「痛みますわよ」

「かまわん、抜け」

手の甲に突き刺さった短剣の柄に手を掛けたのだろう。

僅かなうめき声、そして我慢している声。

「うっ」

「お父様、下がります」

そして抜いた音と、体を引きずる音。

ゆっくりと結界の傍まで下がっているのがわかった。

「?????どこから入ってきたのですか?ここは閉鎖しておいたはずなんですが」

いきなり現れ攻撃してきた俺の登場に首をかしげる狂楽の道化師。

顔が変わっているが、その武器、その立ち姿から来る雰囲気。

何度も相対しているからこそわかる歪んだ不気味さ。

それが本物であると肌越しに伝えてくる。

「ちょっと抜け道を使ってな。こういう時って小さい体で良かったって本当に思うよ」

いや、マジで焦った。

公爵閣下を追いかけたら途中の道が結界で塞がれていた。

その強度はかなり高く、壊すのにも解除するのにも時間がかかる代物。

どうにかできないかと思ってあたりを探していたら、ふと抜け穴を思い出した。

結界は通路を塞ぐように展開されていたが、ここは闘技場、戦う者が集う場所だ。

負けた悔しさで壁に八つ当たりする奴がいてもおかしくはない。

過去に壁に攻撃した衝撃で一部の壁が崩れ、補修した場所があったのではとゲームのイベントを思い出してそこへ全力疾走した。

元々、イベントでキーになる貴族に無理矢理会うためだけの隠し通路的な要素で、一度使うと完全に補修されるような抜け穴だ。

そこが方向的に公爵閣下がいる通路とかち合っているのはわかっていたが、結界の中に入り込めるかどうかは賭けだった。

「うーん、抜け道ですかぁ。それは知りませんでしたよぉ。困った困った!!」

抜け道は、這うように体を引きずってどうにか通り抜けることができるような狭さで、大人は通れない上に、一ヵ所子供の俺でも通り抜けられるか不安な場所があって最悪壁の中で身動きが取れなくなるかもと冷や汗を掻いた。

二次災害をやり過ごした先にいるのがこの狂人なのは嫌だけど、こればっかりは仕方ない。

「それにしても君の体どうなってるんです?あの狐のお嬢さんと比べれば威力は弱いですけど・・・・・見てください君の槍と打ち合っただけでこんなにも刃こぼれをしてしまいましたよ!!」

「そいつは、すまんな!!」

会話している間に何か仕込むことは重々承知している。

ある程度エスメラルダ嬢たちが下がったのを確認すると俺は打って出た。

「もう!もう少し話してもいいじゃないですかぁ!!私、君のことすごく気になるんですよ?」

「生憎とお前が時間を稼ぐと厄介ごとしか起こさないのは重々承知しているんでね!!」

「ほう?その言いぶりだと私のことを知っているのですね?」

「ああ!嫌って言うほどな!!」

「それはそれは興味深い!!できるだけ情報を抑えているはずでしたけど、それでも私のことを知れる情報網をお持ちとは!!君にも聞くことが多くなりそうですね!!」

短剣の間合いと槍の間合い。

攻撃範囲的には俺の方が有利と思うかもしれないが、ここは通路。

道幅は五メートルほど、槍を振り回すことはできるが、立ち位置を変えるとそれもし辛くなる。

どちらかと言えば、相手の短剣の方がこの場では適していると言っていい。

槍の振り回しは使いにくい、となれば突きが主体となる。

「速い!速い!速い!!こんな槍の使い手を相手にするのは初めてです!!小人族の戦士でここまで強い方は初めてですよ!!」

「ならさっさと死んでくれないかねぇ!!」

「生憎とまだ私は楽しみたいんです!!ここで死ぬわけにはいかないんですよ!!」

悔しいことに、若干ステータスで負けている。

技で誤魔化せる程度の差かもしれないが、一瞬でも気を抜けば負ける。

それがわかる。

だが、手応えで分かる。

こいつはまだ完成していない。

原作の強さを持っていたらやばかったかもしれないが、まだゲームの過去イベントで俺の知るあいつと戦ったという経験と奪ったスキルがない。

だったら。

「その楽しみは永遠に来ない!今ここで、終わらせる!!」

「うーん!!研ぎ澄まされた殺意!!感じますよ!!あなたが私に抱く殺意が!!はて?いったいどこで?こんな殺意を抱いてくださるのならそれ相応の絶望があるはずなんですけど!!」

さらに攻め手を増やし、力技でゴリ押す。

公爵閣下を縫い付けるためにメインウェポンの短剣を片方手放したのが効いている。

抜いた予備の短剣は、そこまでの業物ではない。

こっちは耐久値が不壊の無限耐久値武器、ゴリ押しで武器破壊を狙える。

「恨み!?ああ!あるさ!!心の底がどす黒くなるほどの恨みがなぁ!!」

「うーん!小人族は数多く屠ったが本当にあなたには心当たりがないんですよ!?どこかで家族でも私に殺されました?」

「さてな!!俺が言えることはただ一つ、お前の罪はあの世で数えろ!!」

俺の恨みはゲーム時代に積み重なったある意味八つ当たりだ。

だが、そんなことは相手には理解できない。

しかし、俺の恨みは狂楽の道化師にもわかるほど研ぎ澄まされた殺意なのか。

ある意味で家族を殺されたさ。

俺の分身とも言えるアバターをな!!

何度も、何度も、何度もだ!!

努力を何度踏みにじられたか、考えるだけではらわたが煮えくり返る。

「地獄は老後の楽しみにしているんですよ!!ですのでまだまだ行きませんね!!」

俺の突きに合わせて、踏み込もうとしたのなら引き技を放つ。

鎌槍の鎌の部分にマジックエッジを形成。

「その技は見ましたよ!」

背後から首にめがけて刃が迫るが、それよりも先に奴の短剣が俺に当たる方が早いと思ったのだろう。

「じゃぁ、これはどうだ?」

だけどな、対人戦の経験にかけては奴にも引けをとらない俺が、そこら辺を計算できないとでも思ったか?

奴の攻撃は掠るだけでもリスクがある。

だが、回避は紙一重を要求される。

薄皮一枚すら許さない相手の攻撃を回避するのではなく受け流す。

「肘から刃ですか!!面白い!!」

引き技に合わせて、肘の向きを相手の短剣に合わせてそこからマジックエッジを生やす。

それによって魔法の刃は奴の攻撃を逸らし、一歩引く猶予を与える。

肘の刃を消し、そして回し蹴りのつま先に刃を出現させる。

「目潰しですか!?うーん!動きが容赦ない!!」

目元を切り裂くような軌道を回避し、そして返す刃でその足を狙ってくるが、俺の足技はな。

二羽目の燕が控えているんだよ!!

引き寄せた槍の柄を軸にして、軸足を蹴り上げ、宙に体を舞わせる。

回避された蹴り足を追いかけるように、軸足が蹴りを放つ。

「私の首が切れそうでしたね!!」

「躱すな!!」

「嫌です!!」

この技を初見で躱すとか、やっぱり腐っても全プレイヤーが認めるヤバイ奴だな。

飛燕脚は首の皮を切った程度の結果に収まった。

これで俺のマジックエッジの刃に毒でも仕込めれば麻痺くらいは与えられたかもしれないがそんな効果は俺の攻撃にはない。

「ほいっと!!」

蹴りを放った俺の体はそのまま流れるように見えるが、ここは空歩で姿勢を整える。

俺の動きは奇怪に見えただろう。

蹴りの姿勢から、まるでそこに床があるかのように屈み、そして槍を突きの構えにしているのだから。

「そこに壁なんてありましたっけ!?」

「ねぇよ!!」

空歩というスキルを知らないのか、それとも持っているとは思わなかったのか。

かなり変則な軌道修正に、防御するしかない狂楽の道化師は短剣で槍の突きを受けた。

その際に感じる短剣が折れる感触。

「これ結構高いんですよ!?」

「そうかい!」

クレームなんぞ聞きたくもない。

俺は何度もお前にアイテムをロストさせられた。

その回数や価値と比べたらお前の失った短剣など安い物だろう。

残った短剣で俺の槍をしのぎ続け、後退するやつを追い立てる。

「正直、この長さは好みじゃないんですよねぇ」

「だったら拾うな!」

途中、兵士たちの遺体があった場所まで来た。

そこで剣を拾い、長短、長さの合わない二刀流に変化したがバランスが悪いようには一切感じさせない綺麗な二刀流を披露してくる。

剣の方は最悪掠ってもいいかもしれないが、隠すように振るわれる短剣が厄介すぎる。

「それにしても、あなたの足音どうなっているんです?もしかしてゴースト?え、もしかして私、恨まれすぎて幽霊にも復讐されてしまう感じなんですか?」

「そうかもな!!」

こっちはサイレントウォークを使って足音を消して、相手の感知能力に違和感を持たせていたが、その部分にも感づいたか。

「んー!まぁ切れるようなのでゴーストではないでしょうし?今は良いですね!!でもこれが終わりましたら教会に行ってお祓いしますか!!」

「本当にふざけている奴だな!!」

そうなってくると影法師を使う機会はたった一度しかないだろう。

一度使えば、こいつに不意打ちは二度と効かない。

剣と槍が火花を散らし、首はさっきから警戒されて、中々狙うことができない。

手首は素早く動き続け、首よりも難しい。

足首もさっきから移動を繰り返しているから余計に難しい。

ステータスがもう少し高ければ何とかするんだけど、絶妙に足りない。

攻め切れるための要素が足りない。

そんな折に、せき込むような音と同時に。

「ん~?」

僅かに狂楽の道化師の動きが一瞬だけ鈍った。

それは気の所為ではなく、確実にほんの僅かだけ。

奴の視線が一瞬だけ下を向いた。

それを見逃さず、スキルを発動。

ぬるりと奴の背後に生み出される影。

「伏兵ですかぁ!?」

攻撃モーションをさせた俺の影。

動く気配を感じ取らせ、その動きに殺気を感じたのだろうか。

それを防ごうと短剣を背後に振りぬいたが。

「影?」

そこには何もない。

ただ殺気だけを醸し出す俺の影がいて、あっさりと斬り割かれ、その存在は霧散した。

だけど、その明確な動きの無駄を俺は見逃さない。

「首狩り!」

首はさすがに狙えない。

だが、今この瞬間に軸足となっている左足は無防備になった。

「っ!?」

背後に意識がいってしまった狂楽の道化師は俺の攻撃には反応できない。

ザシュっと骨を切り裂く音。

狙い通り、左足首に刃を通し左足の支えを刈り取った。

そして軸足となった足をその場に残して狂楽の道化師の体が流れる。

俺はそのまま体を反転、石突で狂楽の道化師の脇腹を突き、その時に骨を砕く感触を感じる。

「カハっ。容赦、ないですねぇ」

吹き飛び、転がりつつも距離を取るのに利用して即座に片足で起き上がった狂楽の道化師は、初めて余裕を消した歪んだ笑みを浮かべた。

「お前に容赦とか、阿呆でもしないぞ」

油断なく槍を構えた俺は、ここからどうやって仕留めるか考えるのであった。