軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

6 交換条件

グヌヌヌと光の上位精霊を睨む風の上位精霊。

そんな風の上位精霊を鬱陶しそうにしているのが光の上位精霊。

一触即発とまではいかないが、ふとしたきっかけで殴り合いが始まってもおかしくない雰囲気だ。

「だいたいお前たちはいつもいつも!」

「今そんなことを聞く気はない」

「そんなことだとぉ!!!」

なんだろう、こんなやり取りを見ていると精霊が善性だという根拠が薄れてくる。

完全にわがままを押し通そうとしている光の精霊を前に俺は溜息を吐く。

「あのぉ、騒ぐなら他所でやってくれません?」

このまま言い合いをして、戦闘にでも発展されたら目も当てられない。

「じゃぁ、ライブして」

「光!!」

「……はぁ、じゃあ交換条件で」

風の上位精霊と協力して追い出すことも考えたが、普通に考えて上位精霊同士の戦闘が周囲の被害ゼロで終わる未来が見えない。

勝つこと自体はできるだろうけど、勝った後のことを考えると妥協するほかなかった。

アミナに目線を送ると、仕方ないと苦笑して頷いてくれた。

交渉は任せるということだろう。

となれば、この場を納めるために知恵を出す。

「交換条件?」

俺の言葉に心の底から嫌だと言わんばかりに眉間に皺を寄せる光の精霊だが。

「嫌なら風さんと協力してこの場から叩きだしますよ。ここは公爵閣下から借りた家ですから壊れたら大問題です。俺は壊れた理由は隠しませんよ。無理やり押しかけてきた精霊が暴れて壊したって。そうなったら来年以降のお祭りもできなくなりますがご了承のほど」

「……」

さらに俺の言葉を聞いて苦虫を噛み潰したかのような表情になった。

メリットとデメリットを天秤にかけているのだろう。

「まったく、千年以上生きている光の精霊が何を悩んでいるのだ」

「千年以上?」

「ああ、こんな見た目だが我よりも古き精霊なのだ。それゆえに無邪気さが無くなり頭が固いのだ」

あー、千年以上も生きていたらそりゃ子供と交渉なんてする気も起きないよな。

むしろ数百年単位で生きている風の上位精霊の無邪気さが貴重な気がしてきた。

「……条件を言え」

「あ、折れたな」

「黙れ風。それでなんだ?お前と契約でもすればいいのか」

「それは結構です」

苦渋の決断でも下したかのような表情で俺に条件を聞いてくる。

精霊への条件、彼らからしたら自身の力を当てにして契約でも望んでくると思ったのだろう。

しかし、俺は若干食い気味で左手を前に出し左右に振って即答で断った。

「ククックク、即答だな」

こんな使いづらそうな精霊との契約なんぞ御免被る。

「っ!?」

こめかみに怒りマークをこしらえた光の上位精霊が風の上位精霊を睨みつけるが、話を続けろと笑いをこらえながら手を振られるので今度は俺を睨みつけてきた。

「なら、なんだ」

「スクロールを二本、そしてあなたのところの精霊回廊を掃除させてほしいです。これを了承してくれたらライブはしましょう」

「……」

自身の力に自信があった光の精霊は口元をひくつかせて俺に交換条件を確認してきた。

その隣に必死に笑いをこらえている風の上位精霊がいるから、怒っているのはわかるがシュールな光景にしか見えなくなっている。

「持っているのでしょう?精霊術のスクロールと召喚術のスクロール」

これはゲームのクエストからの逆算なのだが、精霊術と召喚術を獲得するためのクエストはどちらも精霊が関わっている。

そしてゲームでそのクエストの発注先がこの光の精霊とは別の光の上位精霊だったのだ。

となれば、クエストを受注せずに別の条件で報酬を獲得できないかと考えた。

「契約をする気のない人間に価値がある物ではないぞ」

「あ、使うのは俺ではなくアミナですのでその点はご安心を」

どうあがいても、この南の大陸では受注のできないクエストで、しかも攻略要求クラスが6と中々高めなので、アミナの育成プランにおいてはこのまま歌関連のスキルを獲得して精霊関連の育成は後回しにしようと思っていた。

このタイミングで向こうの方からクエスト報酬を手に入れられる機会を与えてくれるのは都合がよかった。

「おい、娘」

「なに?」

そしてアミナが使うと聞いて、眉間から皺が無くなった光の上位精霊はアミナと向き合って声をかけた。

その高圧的な言葉にアミナは身構え。

「私と契約するか?」

「嫌!」

質問に俺よりも食い気味に即答で断るのであった。

両手の翼でバツ印を作るほどの全力拒否。

「……」

「クハハハハハハハハハ!!!!」

唖然とする光の上位精霊。

そして我慢の限界を超えた風の上位精霊はその場で腹を抱えて笑い始めた。

「……おい、小僧。なぜ娘は断る」

「自分の胸に手を置いてよく考えればわかるかと」

俺に断られたときは別にいいと思っていたが、アミナに断られたのはショックだったのか、光の上位精霊は油の切れたブリキ人形のようにぎこちない動きで俺の方を見て聞いてきたが、理由はその態度だろとツッコミたい気持ちを抑えている。

しかし、俺の口元は引きつっている。

その理由は笑いをこらえるためだ。

自信満々に契約できると確信して問いかけたのを、意中の相手にバッサリと斬り捨てられてしまえば、見ている俺たちにはもはやコントだ。

「……ちなみに光の、言っておくがアミナ殿と契約したいと言っている精霊はお前が想像しているよりも多くいるぞ。私も立候補したが断られてな。なにそこまで落ち込むでない」

その断られ方に風の上位精霊が同情するように肩を叩いているが、風の上位精霊に対してはアミナは申し訳なさそうに断っている。

それに対して光の上位精霊が即答で断られている光景を見て、揶揄う気持ちが勝っているのだろう。

「そう思うのであればそのにやけ面をひっこめろ!」

「おっと、我としたことが」

表情と言葉があっていない。

隠す気もない風の上位精霊の手を払いのけた。

ここまでされても帰らないということは、本当にアミナのライブを見たいということなのだろう。

「して、どうするのだ光の。確かにお前ならリベルタの希望を叶えることはできるだろうさ」

精霊術のスクロールは特定のモンスターからしかドロップしないレアものだ。

そのモンスターも東西南北の大陸には存在しないから、自然と中央大陸に行かないと手に入らないということになる。

では、もしもこの南の大陸でそれらを手に入れるチャンスがあるとすれば、こうして精霊当人から直接手に入れるしかない。

だけど、どの精霊も持っているわけではなく、持っているのは上位精霊、そして光と闇に精霊の王族のみが持っている。

それ以外の属性の精霊は持っていない。

「……確かにその通りだ」

召喚術に関しては一応南の大陸でも落とすモンスターは存在する。

だから取りに行くことも考えていたからちょうどいいんだよな。

あとはこの光の精霊様がうなずくかどうかだ。

ここで精霊術と召喚術が取れるのはでかい。

「……」

「……」

「……」

「……」

「……」

「長いぞ!?」

どれくらい悩むのか、葛藤して沈黙を選ぶ光の上位精霊。

このまま沈黙でこちらの根負けを待っているのではと思うくらいに黙り込む光の上位精霊に風の上位精霊がツッコミを入れた。

「スクロールの一つや二つ、気前よく払ってやらんか!?」

「……わかった。その条件を飲もう」

「商談成立と言うことで」

どうにかして安く済ませたい魂胆が見えていたが、それでも最後に光の上位精霊が条件を飲んでくれたことにより、アミナの強化が確定した。

こうなってくると、他のスキルも取っていきたいところ。

握手はせず、ムスッとした顔でこの後の打ち合わせに移る。

「いつできる?明日か?」

「そんなに早くできませんよ。風さん」

「さっきからその呼び名は何だ?ここには風の精霊が我しかしないのはわかっておるが……」

「だって名前がないじゃないですか」

「ふむ、リベルタが契約し名付けてくれればその苦労もないがね?」

打ち合わせの席に仲介役の風の上位精霊がいるのは正直助かる。

中立よりも俺たち寄りのスタンスで会話をしてくれるから余裕を持って対応ができる。

いざという時は武力的にも頼りになる。

「いずれそういう人が現れますよ」

「そう思って長い時を過ごしているのだがな」

「少なくとも俺ではありませんよ。アミナもですが」

何度も契約を望むような声を聞くがそれは完全にスルーの方針で。

仕方ないと割り切りつつも、少ししつこい風の上位精霊の言葉に俺は首を振る。

俺のスキルビルドじゃ精霊術は入らないんだよね。

アミナも契約するなら低位精霊、それも生まれたての精霊から厳選して育成するのがベストだ。

そう思うと、風の上位精霊との契約は無理なのだ。

「この話をしてたら日が暮れそうなので話を戻しますが、風さんにはあの温泉地の整備をお願いしたいんです」

「なぜだ?前みたいに神殿でやればいいのではないか?」

「あれをするのに公爵閣下の助力をもらって色々と手回ししたんですよ。それに定期的に王都内に精霊を呼び集められると思われると俺たちにも精霊たちにも面倒なことが起きますよ?」

「……それはダメだ。余計な人間と関わる気はない」

「と言うことで、今回は屋台は無しでアミナのライブだけの開催でお願いします」

そこは諦めてもらいつつ、今回はジョブの厳選も必要ないので普通にライブするだけだ。

「むぅ、くじ引きだけでも用意できんか?アレを楽しみにしている精霊たちも多いのだ」

「くじ引きですか」

それだけでは物足りないと風の上位精霊に言われ、物販みたいなことはできるかと考え。

「まぁ、それくらいなら。商品の用意に時間がかかりますけど」

「おい、ならそんなものはいらんだろ」

「何を言う!!あの屋台は素晴らしい物だ!!アミナ殿のグッズも買える上に、限定商品の絵が買えるかもしれないのだ!あの絵の素晴らしさはお前も知っているだろ!」

「あの絵が買えるのか?」

「確率勝負になるが、手に入れられる可能性はできる」

「おい、人間」

「リベルタです」

ここにもガチャ沼に嵌った精霊がいるのか。

さすが現実世界でも中毒性抜群のビジネス。

「あの絵は多く用意しろ。そうだな最低百、いや二百は用意しろ」

「無理です」

「なぜだ!?」

「全部手書きなんですよ。そんな人数の画家が集まるわけ無いじゃないですか」

しかし、アミナの絵はそこまで人気なのか。

ブロマイドって結構売れるのね。

これでクリスタルの像とか用意したらどういう反応をするんだろ?

彫刻家に依頼すれば用意できるかな?

「リベルタ、私からも頼む。あの絵はみな欲しがっていてな。百とは言わないが前回よりは多めに用意してくれ、タオルと団扇にサイリュームも多めに頼む」

「どれだけ集まるんですか」

「下手をすれば他の大陸の精霊も精霊回廊を通ってやってくるかもしれん」

「マジですか?」

「それだけ精霊の間ではあの祭りは良い物だったのだ。もしかしたら精霊王もお見えになるかもしれん」

新しい商売の匂いを感じ、それでも生産量に限界はあると思っていると、風の上位精霊にも頼まれてしまった。

画家とは公爵閣下のおかげで繋がりを持てたからいいが、タオルと団扇、そしてサイリュームも用意するとなると……

「できうるだけ用意はします。だけど、それでも全員にいきわたるほどの物は用意できませんよ?」

「それでいい。前回購入した者には遠慮してもらう。それで少しでも行き渡ればいいのだ」

「絵の用意と、新しい商品を用意するのに時間を貰いますからね。少なくとも二カ月は見てもらわないと」

「二カ月か……よし分かった。会場の方は我らに任せてくれ。あの温泉地を少し整地し前の神殿よりも多くの精霊を収容できるようにしておくぞ」

こりゃ大量発注になるなぁ。

そして今度は光の上位精霊だけではなく、雷や氷、そして闇と全属性の精霊の精霊石が手に入るかもしれない。

そうなると……錬金術の道具も色々とアップグレードすることができるようになるしゴーレムの制作も視野に入ってくる。

「ほどほどにお願いしますね?」

「それについては約束はできん。この話を持ち帰れば大勢の精霊が協力を申し出るだろうしな」

「……」

そのためには期待に応えないといけない。

「アミナ、大丈夫か?」

「うーん」

だけど、一番大変なのはアミナだ。

ここまで話を進めておいてなんだが、最終的にはアミナがやると言わなければこれは実現しない。

任せられたとはいえ、無理なことは無理と言っておきたい。

「うん、いいよ」

ちらりと光の上位精霊を見たが、その隣にいる風の上位精霊の方も見て、アミナのファンがもっと歌を聞きたいという気持ちを察して彼女は頷いた。

「おお!感謝するぞ!」

「それと報酬の件に関してですが、前金として精霊術のスクロールを頂きたいです。残りの報酬に関してはライブ後ということで」

「それでいいな?」

「……それであの絵は手に入るのだな?」

「用意はします、機会も用意します。ですが手に入れられるかは運次第ですね」

そうして、交渉はまとまり、光の上位精霊がそっと異空間に手を差し込み精霊術のスクロールを取り出す。こうして俺たちが探し求めていた物を手に入れるのであった。