軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

1 暗殺者

暗くてじめじめした、昔の西洋ホラー映画で出てくるようなボロボロの廃墟の中で俺は頭を抱え、そして嘆いていた。

「くはぁ!!!なんで俺のは出ないんだよ!!」

頭を抱えている理由は、自分のステータスにある。

ジョブ項目に表示されているのは暗殺者の文字、そしてその頭に二つ名らしき俊敏なるという言葉が付けられている。

この俊敏なるは、移動速度アップ系のスキルを補正してくれる二つ名で利便性はかなり高い。

良い二つ名と言えるが、求めているものではないんだよ。

「NOだよ!!この二つ名じゃないんだよ!!」

ジョブ項目に重ならないように、右上に表示されている獲得しますかイエスorノーの選択肢を、もう何度目かわからない力強い勢いでノーを指先で勢いよくタップする。

「もうヤダ!!ジョブ獲得に走ってもう三か月だぞ!!ネルとアミナどころか、イングリットもジョブ獲得を終えて絶賛クラス4のレベリングの最中だというのに、俺だけクラス3のまま!!」

さすがに一回や二回じゃ出ないのは覚悟していたし、二つ名の獲得なんてこんなものかと楽観的に考えていた、イナゴ将軍とレイド戦をした三か月前の俺をぶん殴りたい。

俺のラックはお前が想像する十倍悪いぞと警告したい。

ひとしきり感情を爆発させ、精神の安定を図ったが、その反動でズシンと気分も落ち込んだ。

「はぁ、ジョブ獲得する場所がじめじめして暗いし、敵は陰険だし、空気はよどんでるし、基本的にソロで攻略しないといけないから気が滅入るし」

その原因はわかっている、人間お日様の光を浴びないと元気が出ないからだ。

周囲が常にホラーチックな景色なのも精神的によろしくない環境なのだ。

そりゃ気も滅入る。

レイド戦が終わって、色々と事後処理が終わったあと、俺は自分のジョブ獲得に動き出した。

窮地は脱したということで、しばらくは忙しくなるからクエストは受けられないという公爵閣下への申し出も、褒賞として組み込んでもらって何とか出来た。

とぼとぼと、もはや目を閉じていても進むことができると確信できる暗闇に沈む廃墟の街並みを進む。

俺が獲得を目指す暗殺者のジョブを与えてくれる神は、闇を司る神シャード。

この神様は一見すれば、悪神、敵側の神様のように見えるかもしれないがそんなことはない。

闇は世界を構成するにあたって対を成す光と共に重要な要素であり、想像では邪悪で攻撃的な側面ばかりを強調されてしまうが、その正反対の神聖と安寧を司る神でもある。

そんな闇の神を祀る神官はいないが、神殿はしっかりと存在する。

ここは古代文明が残した地下都市というわけだ。

そして何を隠そうここは。

「はにゃ?」

「まさかお前に癒しを感じる日が来るとは思わなかったよ」

はにわたちが生息する遺跡の地下なのだ。

なのでその遺跡の上に生息するはにわがここにも生息するというわけだ。

地下都市の遺跡とはいえ街中という空間、そして神の領域として認識されている故か、アクティブモンスターはいない。

ここにいるはにわも、俺が攻撃しなければ一切襲いかかってこない個体だ。

テクテクと不思議な足音を響かせて、はにわが歩き去って行く姿を見て、何も考えずに生きていられることをうらやましく思いつつ、はぁと大きくため息を吐いて再び足を進めた。

この地下遺跡に入り込む出入り口は少し特殊な方法でしか入れないから、誰もこんなところに神殿があるとは思っていないのだろう。

人の気配のない空間、人が住むには暗すぎる空間、そして誰も管理していない空間。

そんな場所に灯る篝火に俺は近づいていくと、俺に気づき、ここで待機してくれている人が出迎えてくれた。

「今回もダメだった」

俺が戻ってきたのは、この地下都市で神の加護によってその機能を残している神殿、その庭先でキャンプをしているイングリットの元だ。

疲れた様子の俺の姿に、イングリットは何も言わずそっと立ち上がり。

「少し、お休みになってはいかがですか?本日は朝から四度目の挑戦。相手の強さは存じ上げませんが、この暗闇の中で動き続けてお疲れだと思いますし」

石でくみ上げた竈に入れているのは火の精霊石。

それがあれば熱源を常に確保できる。

「スープです。ここは少し冷えますので温まりますよ」

「ありがとう、動き回ってたから汗もかいたしな。それが冷えて少し寒かったところだ」

その上に設置されていた鍋から湯気の立つスープをよそい、木の器に入ったスープを差し出してくれる。

俺はそれを受け取り、ずずっとスープをすすると。

「はぁ、塩味が体にしみ込む」

じわっと体に温かさが戻り、そして消費したカロリーを補給した感覚が体中に広がる。

一緒に入っているしんなりとするまで煮込んだ玉ねぎと、噛めば簡単に崩れるニンジン、そして一番おいしいのは腸詰だ。

「本来であればお仕えする者として、リベルタ様のジョブ獲得クエストにご協力すべきなのですが」

イングリットの作ってくれる料理はおいしい。

人間腹が満たされれば気分はある程度回復する。

腹が満たされる頃にはもう一度挑戦しようという気持ちが湧く程度には心も回復する。

「仕方ないよ、俺のジョブはかなり特殊な部類に入るし、こうやって休憩所の管理と食事の用意とかしてくれているだけでもかなり助かるよ」

「後ほど湯もご用意いたします。それで体の汚れを落とされたらいかがでしょう?」

「んー、湯はもう一回挑戦してからにしようかな。どっちにしろ挑んだら汚れるし」

「ですが、本日はすでに四度も挑戦しておられます。一度の挑戦で二時間ほど、それもこの暗闇の中で戦い続けるなど」

俺が狙っているジョブ暗殺者の取得条件はクエストで出現する敵を相手に気づかれずすべて倒し切ること。

正に暗殺者になるためだけの試練だ。

敵は神自身が用意し、その数は毎度ランダム。

一応、一から六までと数に制限はかかっているし、強さはその数によって変わる。

一が一番強く、六が一番弱い。

だけど数が多いと発見され易いデメリットもあるから、個人的には一体の敵が一番楽だ。

「心配してくれてありがとう。あと一回、あと一回だけ挑戦したら今日は帰るからさ」

「……かしこまりました」

俺が欲しい暗殺者の二つ名の獲得条件はいくつかあって、一つはレベルが最低であること。

いまだクラス3のレベル1状態であるからそこは達成している。

「ごちそうさま。少し休んだらもう一回行ってくるよ」

「わかりました。では、私はこのキャンプ地の片づけをしておきますので」

「悪いね」

「いえ」

スープを食べきり、食器をイングリットに渡すと彼女は片づけを始める。

手伝おうとすると止められるんだよね。

二つ目は相手に気づかれず急所で仕留めること。

この条件もオークの森でレベリングした時の応用を使えば簡単にできる。

おまけにここは暗闇で障害物も多い、環境的に言えば暗殺に向いている。

三つ目は黒い装備を身に纏うこと。

今の俺の装備は沼竜の装備を脱いで、全身真っ黒黒。

歌舞伎の黒子かってツッコミを入れたくなるほど全身を黒で統一している。

相棒の鎌槍もこの日のために特注で真っ黒な鎌槍を作ったくらいだ。

四つ目、隠形術のスキルを所持し、レベルをカンストしていること。

隠形術はスニーキング系統のスキル効果を上げるパッシブスキル。

マタンゴが使っていたハイディングスキルもこいつがあれば効果が上がって、より自然に隠れることができる。

現状ステータスで隠形術のレベルはカンストさせている。

そして五つ目、これが一番大変なんだよね。

「イングリット、そろそろ行ってくるよ」

「はい、ご武運を」

腹が落ち着き、水を一口飲んだ俺はイングリットに声をかけて神殿の中に入る。

柱も壁も黒色で統一されている神殿内は、輪郭がほぼ見えない。

頼りになるのは視覚以外の五感。

ランプや灯りの魔道具を使えばいいと思うかもしれないが、闇の神シャードは光を嫌う。

灯りを持ち込み、祈る者を彼の神は認めない。

ゆえに歩数と方向感覚で神殿の奥の方にある闇の神シャードの神像の前にたどり着き、そして跪き祈りの姿勢に入る。

「試練を与えたまえ」

『闇に祈る者よ、汝はいかなる試練を望む』

「暗殺者の試練を」

『承知した。汝に、闇に潜み命を狩る者の試練を与えよう』

五つ目の条件、それはこの暗闇に沈む地下都市に潜む相手を灯り無しで暗殺して見せることだ。

うん、俺の欲する二つ名を諦めるのなら灯りを使ってもいいんだけど、この条件を満たさないと手に入らないから俺の装備に灯り系の物は一切ない。

やっててよかった視覚制限の縛りプレイ。

でないと絶対別のジョブにしようってあきらめていたもの。

そして最後にこのクエストの二つ名獲得条件として制限時間以内にクリアしないと意味がないのだ。

ただでさえ相手の存在を見つけるのが大変なうえに、この地下都市は中々広い。

敵の配置位置もパターンはあるが、それでも複数の類似パターンが用意されているからこれだと決め打ちすることもできない。

神の声によって、この地下都市に敵が現れる。

もしこちらが先に見つかれば襲われ、そして襲われた段階で試練は失敗になる。

「さてと」

俺が欲しい称号の試練の制限時間は百分。

長いと思われるかもしれないが、これでも短いくらいだ。

敵を暗闇の中で相手に見つからないように先に見つけることがどれだけ難しいことか。

漆黒の闇の地下都市を足音を消して、走る。

理想は敵が一体のパターンだ。

だけど、そのパターンは確率的に一番低かったはず。

少なくとも、此の三か月間で一度も引いたことがない。

一番少なくても二体のパターン。

あの時は運が悪く、敵の配置が都市の正反対にいて見つけたころには制限時間が過ぎていた。

まずは敵を見つけるところから始める。

大まかに見つける方法は二つ。

音を鳴らさないように走り、そして数分走ったら立ち止まり耳を澄ませる。

「……」

こっちは足音を出さないが、向こうは足音を出すからだ。

両手を耳に添え、周囲の音に集中するがはにわの足音しかしない。

この試練で、邪魔者ははにわだ。

暗殺対象を見つけたかと思えば、実ははにわがジャミングしていたりして本当に面倒くさい。

音が一番の情報収集源なのに、そこに一番の妨害が入るのだ。

手を抜けば簡単になるが、欲しい物は手に入らない。

それがこのジョブクエストというわけだ。

運要素はモンスターの数と配置だけ、それ以外はガチの実力勝負と言うことになる。

数秒、立ち止まり音を収集したが、辺りにはいないと判断してこのエリアにいないのならと敵がいそうなエリアに駆け出す。

「……?」

しかし、一ヵ所目、二か所目と探っているのにも関わらず接敵するのははにわばかり。

ここまで探して接敵しない。

どこかで見落としたか。

視覚の情報を使えないだけあって、本当にどこに敵がいても、うっかり見落としたとしてもおかしくはない。

だが、ここまで接敵しないということがこれまであったかと思ったときまさかと思い、自分の脳内マップに描かれている現在位置から逆算し、目的地に向かって駆け出す。

走りながら、その可能性が正解であるのならこれで終わるかもしれないという希望が生まれてくる。

これで終わる、それが俺の集中力を高めさせた。

ゴールが見えるというモチベーションは、こんなにも身体の能力をあげてくれるのか。

とにかく身体の切れがいい。

漆黒の闇の中で、全体をまともに把握していないはずなのにすべてが手に取るようにわかるような全能感。

今なら何でもできそうな感覚。

それを感じつつ、目的地に入り込むのに一番都合のいい崩れた建物に忍び込んで、そのまま二階に上がりそして窓から屋根に上り見下ろせる位置に来る。

暗くて先を見通すことができないが、そこで静かにただ耳を澄ませる。

いてくれと願望を抱きつつ、そこに息をひそめじっと耳を澄ませていると、テクテクと軽い足音が聞こえてきた。

これははにわの音だ。

さすがにここ三カ月ずっと聞き続けたから、それはわかる。

そのハニワ以外に何か音がしないか。

そうこんな感じに体を引きずるような。

「・・・・・!?」

気づくのにタイムラグがあった。

それはきっと俺の心の中に、いるわけないよなぁという諦めの気持ちがあったからか。

あるいは聞こえなかったら次はどのルートで探そうと考えていたからか。

その音が聞こえた瞬間にキタァ!!と叫びそうになり、思わず両手で口元を覆ってしまった。

「……」

聞こえたよね、俺の聞き間違いじゃないよねと改めて耳を澄ませると。

ズルズルと体を引きずる音が聞こえて、やり込みすぎて幻聴を聞いたわけではないということを確信した。

音の大きさからして、少し離れている、いや移動している?

屋根を伝い、建物から建物に移動し音を追いかける。

音を鳴らすな、そして相手の音を拾い続けろと視覚制限の縛りプレイのような作業を進めていると、闇の中にうごめく奴がいた。

本当にいた。

ゆっくりと体を地面に這わせ、移動しているその姿は大蛇に似ている。

そう、這竜の幻影、それが一体の時のクエストエネミーだ。