軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

30 月下のレイド戦 2

「来たぞ!!」

迎撃地点の高台には順調に移動でき、そして慌ただしくも兵士たちの配置も完了し、ここら一帯に戦闘を前にした緊張感が漂う。

篝火で迎撃地点周辺は明るくなっているが、それでも薄暮時の視界は不十分と言わざるを得ない。

日はもうすぐ落ち切る。

そうなれば戦場一帯を照らしてくれるのは月あかりのみ。

不幸中の幸いで今日は新月ではない。

されど満月でもない。

雲もあり、月が遮られれば暗さはなお増す。

そんな環境で、見張りの兵士が大声を上げ、敵襲を知らせる。

「すごい数」

アミナのつぶやきに、俺も頷き同意する。

一面見渡すほどにうじゃうじゃと、動き回る影。

跳ね跳び、カタカタと羽ばたく音がここまで聞こえるホッピングソルジャーの大集団。

身長150センチほどの、人と蟲を無理矢理合成したようなグロテスクな姿をしたモンスター、ホッピングソルジャーのスタンピードの襲来。

「アミナ」

「うん」

先導役が生きている今はまだ、敵がまとまり一直線にこちらに向かって行動してくれている。

それを維持するために、高台の頂上のステージ上でアミナは一歩前に出て、マイクスタンド型の杖をぎゅっと握る。

精霊たちとやった楽しいライブではない。

ここは戦場、戦うために歌う彼女の表情は硬い。

そんな彼女の背中をパンと軽く叩くと。

「わっ!?」

びっくりして、俺の方を振り向いた。

「お前はいつも通り楽しんで歌えばいいんだ、それだけでいい。それ以外のことは全部俺たちに任せろ」

敵の大集団を前に困惑し、そして不安に押し潰されそうな彼女に向かって俺はニカッと笑う。

「そうよ!あんなの全部私が倒してあげるわ!!」

「ふむ、それも一興かもしれませんね。なかなか良い鍛錬になるやもしれません」

「害虫駆除でしたら私でもお力になれます。アミナ様、心置きなく歌ってください」

不安なのはこの場にいる兵士も一緒だ。

だけど、その不安を吹っ飛ばせるのはアミナしかいない。

そんな彼女の歌が硬くなってしまっては本来の力を発揮できない。

歌唱系スキルはガチの実力勝負。

少しでも安心感を与えるように笑ってみせたが、それに乗る形でパーティーの皆も少しだけ柔らかくふざけて場の空気を変えてくれた。

「みんな、うん!わかった!」

アミナの肩の力が抜けた。

そして浮かぶ笑顔はいつものアミナの輝くような笑顔。

雰囲気の変わったアミナに、もう大丈夫という安心感が俺たちの間に広がる。

「それじゃ、景気づけに頼むわ」

「うん」

さっきの一歩目は硬かった。

だけど、今の一歩はあの時の精霊たちと楽しんでいたライブの時のように堂々とした一歩だ。

「僕が」

そして、アミナはスキルを発動する。

「センターだ!!」

センターライト。

スポットライトのようにアミナ自身を照らし、注目度をあげるスキルであるが、スキルレベルが上がれば上がるほどその輝きは幻想的になり、綺麗に彼女自身を光で彩る。

今の彼女は月光に照らされる一人の歌姫。

高台の頂上のステージで一人輝く彼女の姿にモンスターたちの視線が向く。

多数のモンスターの視線。

精霊たちの喜びの視線とは正反対の、敵意のある視線。

その視線を浴びても、アミナはひるまず、頑張ってと兵士たちを応援するように歌いだす。

「♪~」

透き通った美しい歌声で、この戦場にいるすべての兵士に届けと喝采の歌が響き渡る。

歌唱豪術のスキル補正、至高の歌姫によるジョブ補正、駆け出しアイドルの称号補正。

至高と駆け出しというジョブと称号のアンバランスさはあれど、ともにアミナの歌唱スキルを高めてくれる補正効果の相乗効果でしっかりと兵士たちにアミナの歌声は伝播する。

「おお、力が湧いてくる!!」

「勇気が湧いてくる。これならいける、いけるぞ!!」

援護が入るとは全体に周知していた。

だけど想像以上の効果を発揮して、兵士たちの気持ちが高揚する。

目の前の敵の数は想像を超えた。

であれば、こっちも想像を超えるようなことをすればいいだけのこと。

「みんな!!いくよーーーーー!!!」

『『『『『『オーーーーーーーーーーー!!!!!』』』』』』

ライブのノリなのかもしれないが、全身にみなぎる力を与えるアミナの声に兵士たちは武器を掲げ戦意を高める雄たけびを上げた。

恐怖を制御下に置いた兵士は強い。

「弓隊構え!!引き付けろ!いまだ放てぇえええええ!!」

自身のやるべきことを把握し、最善を常に思考し続けることができる。

開幕の一撃は弓部隊からの一斉射、弧を描くように放たれた矢の雨はホッピングソルジャーの先頭集団を捉え、敵集団を大きく削った。

「魔法隊詠唱はじめ!!狙いは敵先頭集団後方!!」

そして冷静な思考を続ければ自然と視野も広がる。

弓矢で敵集団の勢いがわずかでも鈍れば、攻撃が当たると判断した魔法部隊。

弓の一斉射撃に続く形で魔法部隊も詠唱を始める。

「お前ら!!気合入れろ!!一匹たりとも奴らを俺たちの後ろに通すな!!」

「「「「「おう!!」」」」」」

であればその攻撃を完成させるために敵を一匹たりとも通さないという覚悟を帯びて、盾部隊の機敏な動きで、壁を作り出す。

「槍隊構え!!我らが矛の威力を存分に示せ!!」

「「「「「「おう!!!」」」」」」

その盾の背後から槍が伸びる。

闇夜に篝火に照らされて光る槍の刃はまっすぐに敵の方向を向く。

戦意を高ぶらせた彼らが敵とぶつかる光景、敵集団からの猛攻を受け止め切った。

そんな守備兵の奮戦する光景を見つつ、俺はネルたちに笑いながら伝える。

「この光景がアミナの最終形態、これをアミナは一人で作り出せるようになるんだよ」

「それはすさまじいですね」

「本当にできるようになったらすごいなんて言葉じゃ足りないわよ」

「……はい、ネル様のいう通りです」

今はまだ、彼女は歌うことしかできない。

だけど、スキルを一つ一つ育成して行けば、この光景を一人で作り出せるようになる。

その未来の姿を仮にでも見られて俺も少し高揚してきた。

「さてと、アミナも頑張っているところだし、ネル、俺たちも行くぞ」

「ええ!思う存分に暴れてやるわ!!」

「ご武運を」

「危なくなったらすぐに撤退するのですよ」

「了解です!」

俺は槍を持ち、そしてネルはハルバードを持って俺たちは高台から飛び降りた。

さて、レイド戦という物はただひたすら敵が押し寄せ、その攻勢を防ぐという流れを想像するかもしれない。

大まかに言えばそれで間違いない。

だけど、細かい部分で言えば、色々と各々のレイド戦で特色が出る。

「探すのは、異常暴食個体だ!!そいつを狩りつくすぞ!」

「わかったわ!」

ホッピングソルジャーの群れを迂回して、守備隊の弓矢の攻撃も、魔法の攻撃も届かない位置まで進出し、その異常個体を俺たちは探した。

ホッピングソルジャーのレイド戦での特徴は、通常個体が大量に存在する中に紛れ込む異常暴食個体だ。

この個体は、普通に対応しようと思った矢先に、ほとんど見分けのつかない姿なのにも関わらず通常個体の数倍のステータスを持って襲いかかってくるのだ。

これがNPCの陣形の崩壊を招く要因になり、初心者のレイド戦敗退に繋がる。

範囲魔法攻撃で倒せるのが一番いいのだが、それを耐えて前衛に食い込まれると倒すまでに前衛を食い破られて後衛にまで被害が出てしまうという厄介な敵。

見つける方法はただ一つ。

「いたわ!!あそこ!」

「良し!ツッコむぞ!!」

異常暴食個体は、共食いをする。

おぞましいと思うかもしれないが、空腹を我慢できない個体がホッピングソルジャーの中に少数ながら一定の割合で混ざってくる。

その個体は、他の個体と違って空腹限界のスパンが短い。

通常個体であれば、麦畑までの距離くらいなら我慢出来て、仲間に食らいつくなんてことはしない。

だが、その個体は間違いなく理性を失い、仲間を餌と見てその顎を大きく広げ背を向ける仲間に食らいつき、その場でむさぼり始めた。

藻掻き、暴れる仲間の体を仲間を食らったことで得た経験値で押さえつけ、力任せに食らいつき、仲間を灰へと変える。

歪な光景の禍々しさに、冷や汗が垂れるのを感じたが、俺は迷わずホッピングソルジャーの群れの中にネルと一緒に飛び込む。

この異常暴食個体を処理できる数が、このレイド戦の成功のカギを握る。

喰らえば喰らうほど強くなる、エサは何でもいいという馬鹿げた個体。

「道を作るわよ!!」

「頼む!!」

その個体までの間には絶賛迎撃地点に襲い掛かっているホッピングソルジャーの大群が立ちはだかっている。

普通に範囲魔法攻撃しても、弓矢で射かけても、その場で立ち止まり仲間をむさぼる異常暴食個体には攻撃が届かない。

味方を盾にして、その場で強くなる。

このまま放置すれば、一時的に空腹を紛らわせて他の個体に紛れ込んでしまう。

それを避けるには。

「パワースイング!!」

自力で道を切り開くしかない。

ネルの一撃で一瞬だけどホッピングソルジャーの群れに穴が開く。一気に五体のホッピングソルジャーを吹き飛ばし、その個体でボウリングのように周囲のホッピングソルジャーを道連れにしてみせる。

「どんどん行くわよ!!」

パワースイングのリキャストタイムは三秒。

前に進み通常攻撃の一撃でホッピングソルジャーを屠り、そして道を切り開きながらパワースイングで再び足場を確保するという力技。

ホッピングソルジャーのクラスは3。

本来であれば同格のはずだが、EXBPで強化されたネルを有象無象のモンスターでは止めることはできない。

スキルではなく通常攻撃であっても、当たれば胴体から一刀両断され、黒い灰となり消え去る。

ブオンブオンとネルのハルバードが空気を圧し切る音が、そのまま火力と直結し、振り回すだけで敵をどんどん屠る。

アミナの歌の惹きつけ効果のおかげで大多数のホッピングソルジャーは俺たちのことなど意にも介さない。

そして、気づくことができない、気づかせないことこそが。

「俺のスタイルなんだよ」

ネルが切り開いてくれた道に俺は入り込み、気づかせないように作り上げたマジックエッジの鎌。

「首狩り」

そして前に進もうとしていた異常暴食個体の首を刎ね飛ばした。

「次探すぞ!!」

「ええ!」

ドロップ品はなし、ネルが倒した個体でいくつか魔石が転がっていたが拾っている余裕はない。

素早くホッピングソルジャーの群れの流れから脱出してそのすぐ脇を走り、群れの中で止まっている個体を探す。

「ちょっと深いところに二体いるが、ネル行けるな!!」

「まっかせて!!」

今度は近くに二体。

それを見つけて、再びネルが道を作り俺はその背後につき援護を始める。

ネルのハルバードのスイングは群れの中であっても勢いよく敵を吹き飛ばし、それによって群れの流れに事故渋滞を起こす。

ぶつかり、転がされ、そして踏み潰されるという悪循環をネルは生み出し、この流れの乱れは迎撃している味方にも援護になる。

「首狩り」

そしてネルが暴れれば暴れるほど、俺への注目も減り、敵の背後に忍び寄りそのまま首を狩って一撃で殺すことができるようになる。

一体を仕留め、次の個体に向かおうとしたが。

「跳んじゃう!」

食事の方が先に終わり、そのまま前に進もうと前傾姿勢になっている。

首狩りのリキャストタイムが終わっていない。

距離的に攻撃は届く、であれば。

「ネル!二百ゼニだ!!」

「!わかったわ!!」

飛び立とうとしている異常暴食個体の右足に鎌部分をひっかけ、前につんのめらせる。

一瞬でいい、止まれば御の字。

その停滞時間さえあれば十分だ!!

チャリンとコイン同士が弾きあうような音が響く。

「ゴールドスマッシュ!!」

跳躍して、大上段から振り下ろされるネルの一撃。

お金を捧げ、威力を向上させるゴールドスマッシュのエフェクトで武器に黄金の輝きを纏った攻撃は異常暴食個体のホッピングソルジャーの脳天をかち割り、一撃で灰へと還した。

「あ!スクロール!」

「マジか!?」

そしてその場に残ったスクロールをネルは手早く回収して、俺と合流する。

「どっちだ!?」

突進か、空歩か。

後者であれば、このレイド戦かなり楽になるのだが。

「空歩!!」

「おっしゃぁああああ!!幸先良いな!!すまんが、先に使わせてくれ!!」

「いいわよ!!」

三次元機動が追加されることによって、このレイド戦の勝ち筋が増える。

投げ渡されるスクロールを掴み、速攻で使用する。

〝空歩〟

これは前衛なら必須技能と言っていいスキル。

最前線で戦うFBOの廃人たちの御用達スキル。

「このままツッコむ!三時方向!数二!」

「!わかったわ!」

群れの中で孤立するのは無謀だと言えるかもしれないが、沼竜の装備、そして空歩という立体機動が可能になった今ならネルをサポートしつつこのホッピングソルジャーの激流をかき分けることが可能になる。

瞬時に突き進む方向を理解したネルのハルバードがうなりを上げ、そして群れを削り飛ばし始める。

仕留め切れない敵が、攻撃されたことによってヘイトをネルに向ける。

空中に吹き飛ばされ、正面に集中している彼女の背後に着地しようと翅を羽ばたかせるが。

「悪いな、もう、そこはお前たちだけの空間じゃねぇんだよ」

空中を一歩だけ、そう、ほんの一歩だけ硬く踏みしめられた大地と同じ要領で飛び出し、しっかりとした踏み込みでマジックエッジで強化した鎌槍の刃がネルを狙うホッピングソルジャーの顔面を貫く。

「さぁ、どんどん行くぞ」