軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

24 後の精霊祭

さて、祭りと言えば屋台。

それが俺の中でのイメージだ。

道の左右に色とりどりの食べ物や飲み物を売る屋台が並び、そこから肉やソースの焼ける香ばしい香りが漂い、胃袋を刺激し、財布のひもを緩めさせる。

普段にはない祭りの非日常感がその場を楽しむという雰囲気を盛り上げさせる。

「ねぇ、リベルタ君。本当に来るんだよね?大丈夫?」

そんな空気をかけらも感じさせない今回の祭りの総責任者を任せられたネルの父親のジンクさんは、服の上から胃の辺りを押さえるような仕草で若干顔が青ざめながら俺に聞いてきた。

「心配ご無用です。しっかりと営業して大勢引き連れてくると確約を頂きましたので」

「本当に?正直、エーデルガルド公爵様の書状がなかったらここまでのことは絶対にしなかったよってくらい全力でやったんだ。これで何もなかったら大赤字待ったなしだ。おまけに巻き込んだ商店街の皆になんて言われるか」

公爵閣下とのやり取りからすでに一か月の時間が経っている。

その間王家やら貴族やらと色々と俺たちのことを調べようとする連中が動き回っていたようだが、すべてエーデルガルド公爵がシャットアウトしてくれた。

その間せっせと俺はネルたちと一緒に商店街で屋台を出してくれる人を集めたり、ジンクさんを俺たちのイベント興行に巻き込んで公爵家に連れていったり、件の温泉地に行って精霊たちにアミナのライブイベントが正式決定して、おまけに当日はこのライブのために用意した美味しい食べ物の屋台が出たり、ここでしか手に入らないアミナのアイドルグッズとか色々と買い物ができたりするということを宣伝して、精霊たちの期待値を爆上げしたりと四方八方に走り回っていた。

そんな俺とジンクさんが二人でやきもきしながら立っているのはトプファ様の分神殿の広場。アミナのライブ当日の今日、そろそろ約束の刻限で精霊たちが来てもおかしくない時間だからだ。

屋台の準備は万端、炭起こしも済んで食材の仕込みも万全。

そしてこの日のために職人街から買いあさった自信の品々。

そこに構える商店街の面々の視線を背中に浴びているので、ジンクさんの胃のストレスがピークなのだ。

「お、来た」

「ほ、本当に来た」

心配のストレスで少し体重が落ちてしまったジンクさんの顔に安堵と驚愕と不安が入り混じった表情が浮かぶ。

公爵閣下の私兵による道路封鎖と、クローディアの根回しによって教会に協力を得て、この分神殿の広場周辺には関係者以外はいない。

会場設営を手伝ってもらって、ついでにイベントの運営の手伝いもしてもらっている親方たち職人衆と、屋台を出店してくれる商店街の面々しか人はいない。

そんな閑散としていた空間が今、祭りの賑やかさを得る。

神殿の広場に次々に開く、精霊回廊。

そこから出てくるのは。

「リベルタよ!!来たぞ!!」

気合十分、楽しみますよと高揚した気分を全身で表す上位精霊の面々であった。

真っ先に現れたのは風の上位精霊。

「人間の食べ物は久しぶりだ!アミナの歌が始まるまで盛大に食べるぞ!!」

次に出てくるのは地の上位精霊。

「あらあら、珍しい物がいっぱいね。どれにするか迷っちゃうわ」

続いて水の上位精霊。

「酒だ!酒はないのか!!」

そして火の上位精霊が現れて、あとは続々と中位、低位と数多くの精霊たちが姿を現す。

「まずは第一陣として我らが来た。この後も続々と来る予定だが準備は大丈夫か?」

「皆さんに楽しんでもらえるように、できる限りのことはしましたよ。今日は存分に楽しんでください」

「言うに及ばず!!」

「念のため確認ですが、ここら一帯は関係者以外立ち入り禁止エリアにしてもらっています。興味があってもここ以外の場所には立ち入らないように周知を願います」

「うむ、それに関しては我らから良く言い聞かせておいた。中位精霊たちが小さき精霊たちをまとめる故、心配はない」

代表者として風の上位精霊と会話をし、俺とジンクさんはそっと道を譲るように脇に逸れ。

「それなら結構です。皆様も待ちきれないご様子ですし・・・・・それではお祭りを始めます!」

そう宣言すると、精霊たちから歓声が沸く。

「まずはあそこに行くぞ地の!」

「おお!風の!さっきから美味そうな匂いがプンプンするぞ!!」

「火の!あっちにお酒があるわ、それを確保してそれからそれから」

「わーったわーった!付き合ってやるからその手を放せ!!」

続々と道になだれ込む精霊たちの姿を見て、商店街の面々はギョッとして、慌てて作業に入る。

料理を提供する屋台の人は、追加で調理を始め、アクセサリーなどを並べる屋台は商品を奥からいつでも出せるようにする。

「リベルタ君」

「はい」

「本当に精霊様が来てくれたんだね」

「最初からそう言ってますよね?」

「これって夢かな?」

「テレサさんのお店に行けば嫌というほど忙しくなって現実を受け入れられるのでは?」

「そうか、そうかぁ、そうだよね」

上位精霊は好き勝手に動き回っているが、先陣を切ることでここは楽しむ場所だと中位や低位の精霊たちにアピールしてくれている。

低位精霊はおっかなびっくりという感じで周囲を見回しているが、中位精霊が引率してくれているようで集団で行動することにより安心して祭りを楽しめるようになっている。

屋根の上をちらっと見ると、見張りの兵士たちが本当に精霊が来たと驚いている顔が見えた。

「それじゃ、俺はネルの店に向かいますので、ジンクさんも良き商売を」

「ああ、いい機会だ。いい精霊石を手に入れさせてもらうよ」

トラブルがないように公爵家の兵士を配置してもらっているが、どう見ても中位精霊の方が兵士たちよりも強い。

精霊たちも兵士の存在には気づいているが、互いに手出ししないことが暗黙の了解になりつつある。

上位精霊の言いつけを守り、人の常識の範囲内で楽しむ精霊たちは多少窮屈かもしれないが、それでも普段食べれない物を食べれたり、手に入らない物が手に入るという現実で楽しめているようだ。

『そ、それ、ください』

「お、おう、いくついる?」

『み、三つ』

「わかった。飛び切り美味いの用意してやるからな!」

『ぴ!?』

「あんた!こんな小さな精霊様に大きな声出すんじゃないよ!」

肉屋の店主が用意している餅の肉巻きを購入しているやり取りに、笑いが漏れる。

悪意がないからこそ、おずおずと勇気を振り絞り自分の精霊回廊から取ってきた精霊石を店主に渡して商品を受け取る。

そのやり取りにほっこりとしたものを感じつつ、見回りを兼ねてネルの店を目指す。

『かぁ!!この酒は美味いなぁ!』

『ねぇ、次は』

『あ!次はあれを食べるぞ!!』

『待て!もう一個!もう一個食べるのだ!!』

上位精霊たちのはしゃぎっぷりは見なかったことにして、残りは中位精霊が見守る中で低位精霊たちが買い物をするという様子。

中位精霊たちも、興味を持った物があったらしっかりと買っている。

精霊石の価値と商店街が用意したものでは価値が釣り合わないのではと思うかもしれないが、そこはしっかりと精霊側と打ち合わせをしている。

基本的に屋台で取り扱う精霊石は中位精霊が用意できる精霊石までとなっている。

それも一番高い商品に対してだけ使うような物で、基本的には低位精霊の用意した精霊石がこの場での基本通貨になる。

事前に採掘道具を用意し、精霊たちに精霊石を用意してもらいそれを精霊全体に配布したわけだ。

じゃぁ、上位精霊たちが実質タダで飲み食いしているのかと言えばそういうわけではない。

上位精霊たちの精霊石はこの祭りを企画してくれたことのお礼として、運営資金として提供された。

事前に渡されているので、その精霊石はエーデルガルド公爵家の宝物庫に一旦保管されていて、祭りが終わった後に集計し俺とエーデルガルド公爵で分け合う手はずになっている。

俺の見る限り、地水火風のクラス7の精霊石がずらっと揃っていた。

これだけで現在の価格で祭りの運営費用が賄えるどころか、大幅な黒字になったと言っても過言ではない。

おまけに今回手に入る精霊石の市場価値は高く、物を売れば売るほど大きな儲けが出るという商人からしたら喉から手が出るほどの素晴らしい環境が出来上がっている。

商店街の人たちには阿漕な商売は厳禁と口酸っぱく言っているうえに、後ろ盾には公爵家がいるということでいたってまともな商売を心掛けている。

「お、だいぶ繁盛しているな」

「あ!リベルタ!!早く手伝って!!」

そんな祭り会場で俺たちもネルの万能の商人のジョブ獲得を目指すために店を出している。

何を売っているかと言えば。

「最後尾はこちらです、順番を守ってお並びください」

ライブ会場にはお約束の物販だ。

たった一か月、されど一か月。

アミナのアイドル衣装に、ライブの選曲、振り付けに、演奏の音合わせとやることが多すぎて頭がパンクしそうになったが、それでもここまで走り抜けることができた。

忙しい中でも公爵家の推薦状片手に職人たちに金に物を言わせて大量生産をしてもらった、アミナのオリジナルアイドルグッズ。

アミナの歌を聞いている精霊たちは、アミナの顔やデフォルメキャラが描かれたグッズを見て物欲を刺激されネルが経営する店に殺到している。

用意したのはアミナの顔をデフォルメしたキャラクターをハンコで押した団扇と、ワンポイントでデフォルメアミナの顔を刺繍したタオル。

そして錬金術で大量に作った、サイリュームモドキ。

万能の商人の獲得には全部で十種類の商品を用意する必要があるので、団扇を地水火風に合わせて黄色、青、赤、緑で色分けして四種。

タオルも刺繍は一緒だけど、タオルの色を同様の配色で区別して四種。

そしてサイリュームも同じようにして、商品の種類を合計十二種にした。

これで条件はクリアしてネルのジョブクエストを進行させている。

クローディアが行列の整理をして、イングリットが品物の補充、高速で精霊石を鑑定して商品を受け渡しているのがネルという役割で店を回している。

「お、おう」

ネルに呼ばれて俺も慌てて店の応援に入る。

「ネル、アミナは?」

「公爵様のメイドさんたちに連れられて目一杯にオシャレにしてもらっている最中よ」

「ほー、そりゃいいことだ」

てきぱきと、商品の受け渡しと会計を済ませる彼女の姿はまさに商人。

「はい、団扇と手拭いの二点で精霊石四個いただきますね。あ、サイリュームもいります?でしたら精霊石五個になります!」

追加の注文にも的確に反応して、しっかりと売りさばく。

「リベルタはそれをお願い」

「わかったよ」

ここにいないアミナは絶賛準備中、アイドルにはアイドルの準備作業があるということだ。

ネルに指示されたカウンターにも人だかりができている。

俺はカウンターに立ち、さっそく商売開始。

「申し訳ございません、あの絵はこちらのくじを引いていただいた際の当たりになりまして」

そしてネルの方の受付で、俺の方に誘導されるお客が来る。

「こちらで、その絵が買えると聞いたのだが」

「はい!こちらではあの絵が当たる可能性があるくじを販売しております!」

「くじ?」

この屋台に紛れ込ませたのはガチャだ。

事の始まりは、アイドルイベントならブロマイドも必要だなとノリでアミナに試作のアイドル衣装を着てもらった際に画家も数人呼んだ。

その人たちに各衣装のアミナを描いてもらいブロマイド代わりにしようと思ったが、さすがに大量生産できるものではなく、そして一枚描くコストも中々高い。

だったらいっそのこと貴重な景品として、精霊石を使ったガチャにすればいいのではと思った。

祭りの屋台みたいに悪徳な商売はしないために、しっかりと何かが当たるように工夫はしている。

一回精霊石三個で引けるくじで、百本の木の棒のくじを用意して当たりは一本。先端が金色になっているのが当たりで、他は団扇の青、タオルの赤、サイリュームの緑と色分けされていている。

買い物を終えた精霊たちが公爵家推薦の画家たちによる、俺が少しだけ指定したアイドルキャラっぽい描き方によって完成したアミナの姿絵欲しさにガチャを回すって言う寸法。

『ああ!?もう石がない!?僕ちょっと掘ってくる!!』

『私も!?』

『某も!!』

小さな精霊たちが、サイリュームや団扇を抱えて自分の精霊回廊に飛び込む姿を見ると、うん、なんか教えちゃいけない沼を教えてしまった気分になる。

『ちょっと!!もう十回も引いてるんだけど本当にあたり入ってるの!?』

「入ってますよ、はい、ここに」

『もう一本右だった!?』

しかも、このガチャはクレーム対策としてすぐに棒を全部抜いて確認させることができるから対応も簡単。

風の中位精霊、見た目はアヒルと人を混ぜたような見た目をしているオネーサンがムンクの叫びのような顔を披露しているが、気にしない。

『もう十回よ!!』

「すみません。お一人様一度につき十回までとなっておりますので、もう一度まわしたいのなら最後尾までお並びください」

『取っておいてよ!!絶対にその絵!取っておいてよ!!』

自分が提案しておいて何だが、ガチャって言うのは精霊をも狂わせるのか。

アミナの絵は十枚。

すでに三枚放出して、新しい絵を補充しているが、このペースだとライブまでに完売しそうな勢い。

「……」

「ネル、どうかしたか?」

俺がガチャの窓口を請け負ったことで、ネルにも余裕ができて俺の方に視線を向けてくるが。

「精霊さん達、破産しないわよね?」

「しない、はず」

ガチャの危険性を知っている身として、一瞬天井を設定すべきか悩むのであった。