軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

22 悪い話

護衛されたままエーデルガルド公爵邸に着いた俺たちを出迎えてくれたのは、妙に迫力のある笑顔を携えた公爵閣下だった。

ネルとアミナを怖がらせないように笑顔を維持しているんだろうけど、逆に緊張感を増幅させてしまっていた。

その事に若干ショックを受けたように、頬を引きつらせたけど。

「お父様、そのようなお顔をなされても彼女たちには受け入れられませんわ」

その隣で少しあきれ顔のエスメラルダ嬢が話に入り、少し空気が緩んだのを確認し。

パンと小さく拍手して。

「よろしければお茶でもご一緒しませんか?今日は私のお気に入りのアップルパイをうちの者に作ってもらったの」

甘いものでアミナたちを釣り始めた。

アップルパイと聞き、少し興味を持ったネルとアミナ。

どうすればいいかと俺に視線を投げかけてきたので、一回イングリットに視線を送った後に二人に向けて頷いた。

エスメラルダ嬢であれば、二人を悪いようにはしないだろう。

念のためイングリットにも二人の側にいてもらおう。

恐る恐る頷いた二人に、表情がパァっと明るくなるエスメラルダ嬢。

「それでは早速参りましょう。リベルタ、あなたもお父様とのお話が終わりましたらこちらにいらしてね。イリスもお話ししたいと申しておりましたわ」

「わかりました」

「約束ですわよ。ロータス頼みましたわ」

そんなに俺たちと話したいのかと思いつつ、ここは頷いておく。

公爵閣下の面前でお嬢様のお誘いを了承するのは中々怖かったが、断るのも失礼だ。

「かしこまりました」

ロータスさんに念を入れるあたり、何か俺に話でもあるのか?

あの日の馬車の中以来、ゆっくりと会話をする機会もなかったから久しぶりに話したいとか?

「リベルタ」

「はい」

「悪いが、こちらの用件を先に片付けるぞ」

「わかりました」

その疑問の解消は公爵閣下の話を聞いてからになるがな。

女性陣の楽しそうなお茶会とは逆で、こっちは真剣そのもの。

見慣れ始めている公爵閣下の執務室にクローディアと共に案内され、そしていつものお高そうなソファーに身を沈め、話をすることになる。

「さて、来てもらって早々に悪いが、良い話と悪い話どちらから聞きたい?」

俺たちの会話に、貴族特有の世間話はない。

単刀直入に切り出した公爵閣下の真剣な顔に、俺はこの場合どちらから聞くべきか数秒考え。

「……それじゃぁ悪い話から」

「そうか」

俺は嫌なことを後回しにするのは面倒だと考えるので、あえて悪い方から聞いてみた。

「王の密偵がお前を探っている」

「ボルトリンデ公爵じゃなくて?」

「奴は今火消しに忙しいからな。先日の王都での騒ぎで冒険者ギルドとの関係が悪化しすぎた」

てっきりボルトリンデ公爵がちょっかいをかけてきたと思ったのだが、俺の予想は外れちょっかいをかけてきたのは王家という話。

少し意外だと、驚いた俺の顔に公爵閣下は苦笑を浮かべ。

「お前でも予想を外すのだな」

「俺は予言者じゃありませんよ。占星術も手相占いもできませんし」

「何でもできるわけではないか。それを知れただけでも儲けものだな」

「むしろ閣下から見た自分の印象が気になるところですが」

ひとまず、今回館に招かれた理由の予想を外したことに安心した。

未来の知識はあっても、常に未来の知識が当てになるとは限らないんだよ。

俺の中で最大の警戒対象がボルトリンデ公爵だったというだけで、王家もちょっかいはかけてくるかなぁと思ってはいた。

「ちぐはぐな存在としか言いようがないな。お前は毒にも薬にもなるかと思えば、使い方によっては何もなさない存在になる。無害ではない、何もなさない、そんな印象だな」

「……それって不気味な存在って言ってません?」

「そうとも言えるが、不思議と恐怖心は抱かん。だから不気味とは違うな」

だが、王家のことは頭の片隅に置いておいてもきちんと引っ張り出さないと今回の予想はできなかった。

公爵閣下の俺への印象もそうだ。

悪いとは思ってはいなかったが、ここまで変な印象を持たれているとは思いもしなかった。

予想はあくまで予想。

絶対ではないと実感できる。

「そうですか、そんな俺だから王家も興味を持ったと?」

「そうらしいな。私も何かしてくるとは思ったが、まさか影を使ってくるとは思わなかった」

王家からのアプローチ、あの王様に興味を持たれるのは正直一番嫌な話なんだけど。

「公爵閣下から見て、陛下は俺に何を求めていそうです?」

「・・・・・ボルトリンデ公爵からの宿題を手伝ってほしいのだろうさ」

「宿題?」

FBOで王家から与えられるクエストは、内容が面倒、報酬がしょぼい、連続なのが大変の三拍子が揃ったプレイヤーからの評判が悪いクエストばかり。

それを知っていてなおかつボルトリンデ公爵の件も絡んでくるという、面倒×面倒という組み合わせに苦虫を噛み締めたような顔になってしまう。

「東の方に穀倉地帯があるのは知っているか?」

「ええ、この国での食糧の最大の産地ですよね」

「そこに妙な兆候が出ているとボルトリンデ公爵から王へ報告があった」

「……妙ですね」

しかし、聞かないわけにはいかない。

わざわざ迎えをよこしてまで話す内容だ。

ここで耳を塞いで聞いていませんでしたと言うにはリスクが高すぎる。

どこかで聞き覚えのある内容。

おそらく秋頃に発生する、イナゴ将軍のイベントの前兆だ。

腕を組み難しそうな表情で語る公爵閣下が問題だと思っているのは、その情報を王家に報告したのが北に領地を持っているボルトリンデ公爵だということ。

「普通、こういう情報って東のマーチアス公爵が報告してくるんじゃないですか?」

「それが筋であるのは間違いない。だが、おかしなことに情報を持ってきたのはボルトリンデ公爵だ」

公爵閣下が腕組を止め、代わりに机を指でトントンと叩く。

「マーチアス公爵はなんと?」

「そのような前兆は確認しておらずの一点張りだ」

「?王家の領地と接している地域ですよね?普通に巡回の兵士くらいは配置していると思うんですけど」

何が起きている?

東と北の公爵の間で何か変な関係ができているとか?

「配置はしているだろう。あそこは国の食糧庫と呼ばれるほどの重要拠点だ。何もしていない方がおかしい」

「ですよね。だとしたら何も感じていないというのもおかしい」

本当に何をしたいんだ?

関連するクエストはない。

そもそもボルトリンデ公爵がジャカランを英雄に祀り上げようとする行動自体がゲームでは知らないことだし、東西南北すべての大陸に英雄が現れること自体おかしい。

いよいよ原作から大きくずれ始めてきたか。

「ん?ちょっと待ってください、そこでなんで俺への調査が入るんですか。普通に王家が兵を出して解決すればいいだけの話で、この話と俺に何の関係が?」

と、考えこもうとしたときに話がかなり脱線していることに気づく。

そもそも悪い話として王家が俺に興味を持ったという流れなのに、ボルトリンデ公爵が王家に変な報告したという話が混じってくる。

「先行部隊が現地を調査した結果、ホッピングソルジャーのダンジョンを発見した。しかも猶予があまりないスタンピード直前のきわめて危険な状態。そこでだ」

「はい」

「先日のスタンピードはお前の知識のおかげで被害を最小限に抑え込めたと言っていい」

「はい」

「そういうことだ」

「……もしかして」

「ああ、私に知恵を貸したのがお前だというのがばれた」

「あちゃぁ」

そっと顔を逸らして申し訳なさそうに、公爵閣下は本当の悪い話を教えてくれた。

冷静に考えれば多くの兵士が詰めていた城壁にも行ったのだ。

俺がその場にいるのを目撃していた人が一人や二人なわけがない。

王家が本気で調査すれば、その情報くらいはすぐに手に入るか。

今までは完全にノーマークだった上に、公爵閣下が隠蔽してくれていたから問題なかったけど、先日の風竜のダンジョンの件で完全に目をつけられたか。

目を覆い、嘆くしかない。

「それって、もしかして俺に現場に行って対応してくれと頼むために身辺調査をしているって流れじゃ」

「その通りだ。王命を出されれば私の立場であっても断ることはできん。加えて国の一大事になりかねない危機だ。これを断れば最悪当家と王家の関係が悪くなり、そこを狙って他の公爵家が介入してくることが考えられる」

これだから貴族っていうのは嫌なんだ。

俺は自由気ままに成長したいだけなのに、なんで力があるのだから世のため人のために働け、他者のために時間を割けと強制してくるんだよ。

「……確かに悪い話ですね」

「すまないとは思っている」

「いいですよ。閣下も色々と手を尽くしてくださっているのはわかっていますし」

公爵閣下を責めても仕方ない。

今回ばかりは身から出た錆だ。

俺の行動の結果が、こういう流れを引き寄せたと考えよう。

「今回強引にネルやアミナを連れてきたのは」

「ああ、王家の使者が二人に接触する可能性があった」

「王命を出されれば、二人が断ることはできませんよねぇ」

今回の無理矢理なお迎えには王家から頼みに対して対策を練るための時間稼ぎという意味があった。

「屋敷の方は私の部下を向かわせ、警備させているから安心しろ」

「ひとまずはそれで納得します。問題はそのホッピングソルジャーのダンジョンのスタンピードをどうにかするという話ですよね。何とかしろというのなら何とかしますけど」

唯々諾々と王家の命令に従っていれば、御しやすい相手だと思われて今後も面倒事を押し付けられる。

清廉潔白な王ではないことはわかっていて、さらに国のために必要なのも理解していたが、こうも清濁の濁った部分を見せつけられると俺から陛下への好感度が下がってしまう。

「何とか出来るのか?」

「はい、ただ」

「ただ?」

「正直今の状態だと厳しいんですよね。元々そのイナゴ将軍との戦いには紛れ込む予定で動いていたんですけど、予想よりも時期が早そうで。こっち側の準備が整っていないんですよ」

まぁもともと底値の好感度だったから俺は気にしないけど。

それよりもこのまま準備不足でイナゴ将軍に挑むのだけは勘弁願いたい。

クラスを上げ、これからジョブを取得するという流れになっているにも関わらず、そんなことは良いからこっちを何とかしろと泣きつかれている現状。

「現状では勝てないと?」

「最低でもネルかイングリット、下手すれば全滅と、パーティーメンバーの命と引き換えの攻略になりますね」

「……ここでの私の判断が重要になるということか」

「はい。もし陛下の話に今すぐゴーサインを出すって言うのなら」

「待て、わかっている。さすがに国のために死ねと命令を出すつもりはない」

できるできないの話で言うのなら、できる。

だけどそれは犠牲ありきの話。

それをやれと言われても断固として拒否する。

ちらっとクローディアを見たら、彼女も少しだけ鋭い視線を公爵閣下に向けていて、それを感じている公爵閣下は俺とクローディアの視線に頭を振って否定する。

「何が必要だ?」

「時間とイベントを成功させるための人員、それと鍛冶師ですかねぇ」

そして俺に必要な物を聞いてくれる辺り、無茶振りをしている自覚はあったようだ。

「時間はダンジョンに入って間引き作戦を決行すれば稼げます。最低でも中層までは進出する必要はありますけど」

「……何とかしよう」

こちらの要求は前向きに受け止めてくれている。

「イベントとはなんだ?祭りでもするのか?」

「それに近いことはしますね。アミナのジョブを獲得するのに分神殿で歌を奉納する必要があるんですよ。そこで動員する観客を集める際にすこーしばかり人手が必要で」

「どれほどだ?」

「できれば五百人は」

「少しという言葉を知っているか?」

「一万人規模の観客を集めることを考えれば五パーセントほどの人員ですので少しかと」

「少しではないではないか!?一万人!?反乱でも引き起こす気か!?」

「いいえ、本当に歌を聞いてもらうためだけのイベントですよ」

しかしさすがに一万人規模、俺の中では少し観客少なめの武道館ライブくらいの動員だけど、公爵閣下はすぐには頷けなかった。

「むしろこれをしないと、イナゴ将軍に完勝できる算段はつかないんで」

だからと言ってこっちも引く気はない。

アミナの至高の歌姫就任は今後のパーティー火力に直結するから、絶対にこのタイミングで獲得する。

「む、むぅ。商人ギルドに応援を要請し、人夫を集めて・・・・・」

飢饉を引き起こしかねない大災害を防ぐために必死に頭を働かせてくれているようだ。

「あ、ちなみに来訪者のメインはたぶん精霊になると思うんで教会側にも応援を要請した方が良いですよ」

「なん、だと?」

「下位精霊だけじゃなくて上位精霊も来ると思います」

「……リベルタ」

「はい」

となるとイベントの情報を隠しておくのは得策じゃないと、どんな観客が来るのかをしっかりと知らせておく必要がある。

「どこが少しだというのだ!!!!」

そして正直に伝えたことによって公爵閣下に怒られるのであった。