軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

18 ダンジョン開放エリア

さすがにクラス3のダンジョンを家の中で開放するのは問題があるので、翌朝、朝早くから装備を整えた俺たちは冒険者ギルドが管理する広場へと足を運ぶ。

ダンジョンを開放できるエリアは、国が指定し、国と冒険者ギルドが合同で管理していて互いに優先スペースを確保している。

万が一の時、合同で対応できるようにするための措置とゲーム時代では語られていた。

場所は、城壁の外だ。

当然と言えば当然だ。

王都内にモンスターがあふれる可能性がある施設を作るわけがない。

「すっごいね」

「本当にすごいわ」

そしてただの平野に兵士や冒険者を配置するだけの施設でもない。

王都の外、南西部にその建造物は存在する。

ゲーム時代にもその施設はあったが、こういう使われ方はしていなかったなぁ。

「四年に一度の武闘大会でも使用されるコロシアムです。平時はダンジョンを設営するための施設として活用されております」

中央の広場にダンジョンを作るための区切りが仮設され、観客席には前側の席に長槍を持った兵士、中段に弓兵、最上段には魔法兵が配置されている。

イベント用の設備の有効利用というわけか。

頑丈な石壁で四方を囲まれ、そして円周状に取り囲む観客席からは、中央を正確に攻撃できるように兵士と冒険者が配置され万が一の時は即座に鎮圧できるようにしている。

広場そのものがかなりの広さで、野球の試合が普通にできそうだ。

「この施設を使うためにはあそこにあります受付で手続きをする必要があります」

ゲームの時にはないシステム。

そこに少しワクワクする気持ちを感じつつ、イングリットの先導で受付の方に行く。

「受付には二種類の窓口がございまして、向かって左側が貴族用、右側が冒険者や一般の方用となります」

受付窓口で明確に差が出ているのは近づいたら分かった。

イングリットが示した貴族用の受付窓口は、広めのスペースが確保され、ティーラウンジが併設されている。

受付する職員も教育を施された貴族の令嬢、あるいは令息がしているようで、服装も綺麗に整っている。

受付を済ませたら場所が空くまでそこで待機するということか、専属の職員もいて忙しそうにメイドや執事が動き回っている。

対して冒険者や一般用の方は簡素と言えばいいだろうか、そこに受付があるだけで、それ以外は座るスペースもなく、その場で立ってたむろって、ガヤガヤと騒がしい光景。

受付する人は基本的に女性のみ、粗野な冒険者に対しての対応が板についているような芯の強そうな受付嬢がずらりと並び冒険者たちを捌いている。

貴族側と異なり、機能性を重視した制服を着こんでいるのを見ると市役所の受付という雰囲気が出ている。

優雅と粗野、その二つが共存しているという中々不思議な光景だ。

「俺たちは貴族用の方に行くのか?」

「いえ、私たちは別の受付に参ります」

コロシアムが広いとはいえ、スペースは有限。

場所の空き待ちでこうやって人が屯するほどこの施設は人気なのだ。

これから予約を取ったらまた後日ということになりそうな気がして、段取りを失敗したかと思ったがイングリットがご安心をと先導し受付とは別の場所を目指した。

貴族からしたら、人目を避けるということは割とある話。

表の受付からは逸れて、イングリットは人目の少ないエリアへと歩を進める。

そこはあからさまにVIP御用達と言わんばかりのエリア。

馬車が乗りつけできるようになっている設備も設置されていて、本来であればそこで馬車から直接施設内に出入りして姿を見せないようにするのがマナーとでも言わんばかりに、豪華な鎧を着た兵士が左右を固めている門がそこにあった。

遠目からでもわかる、兵士たちの視線は鋭い。

メイドの格好をしているイングリットと、司祭の格好をしているクローディアがいるから警戒の視線にさらされている程度で済んでいる。

もし、俺とネル、そしてアミナというトリオで来ていたら兵士たちに排除の指令が出され入り口にたどり着く前につまみ出されていたかもしれない。

それくらい、俺たちに向けられる視線は排他的な物を感じる。

ここは特別な場所だと、雰囲気で物語っている。

それがありありとわかる。

ため息をつきたくなったが、それをしたら絡まれる原因になるので堪えて、前を見据える。

「何用だ。ここは特別な方のみが使用できる場所である。用がないのなら早々に立ち去れ」

そしてその門に用があることが明白になる距離に踏み込んだ瞬間に、フルフェイスの兜の奥から警戒心をむき出しにした警告が飛んで来る。

まぁ、ネルとアミナが乗る巨大なゴーレムを引き連れての登場だからその警戒は当然の対応。

警告を聞き入れないのならと、槍を握る手に一瞬力が入るのがわかった。

兵士のピリピリとした空気が漂う中、気にせず無表情のままイングリットは一歩前に進む。

「やんごとなきお方からの推薦状がございます。ご確認のほどよろしくお願いします」

怯みもせず前に出たイングリットはここに用があると宣言し、兵士たちの一歩手前で足を止め、手提げの鞄から手紙とそして懐中時計のような物を取り出して見せた。

「それは!?」

それを見た瞬間兵士たちの雰囲気が一変する。

俺たちのような凸凹な一行が持っていること自体が驚愕の品。

エーデルガルド公爵家の家紋が押された封蝋の手紙。

そして懐中時計のような代物は、エーデルガルド家の家紋が刻印されたペンダントのようなものだ。

「失礼しました!ただいま確認を取ります。少々お待ちください!」

それを偽装するのなら極刑は間違いない。

こうやって堂々と取り出している段階で、偽物を疑うことはしないが念のため確認すると門兵は言う。

対応の変わりように、イングリットは満足気に頷く。

「はい、ではこちらを」

「承ります」

警告から一転、丁寧な対応になり、隊長らしき兵士がイングリットから丁寧に手紙のみ受け取った。

ペンダントは渡さず、封蝋をされている手紙のみ兵士に渡すのはそういう手順だからだろうか。

実際それであっているらしく、手紙だけ受け取った兵士はその場で確認するのではなく門の脇にある小窓をノックする。

小窓が上向きに開き、そこに手紙を差し込むと手紙はその中に入る。

「なるほど、あの中で手紙の中を検めるということか」

そのやり取りの意味を理解して、頷くと一歩下がって俺たちに合流したイングリットも頷いてくれる。

「はい、ここは貴族の中でも高位の方がお忍びでやってくるエリアですので私たちのように徒歩で来るケースはほぼありません。なので最初は警戒されましたが、手順としては正式な物なので問題ありません」

本来であれば、家紋のついた馬車という身分証明書のような物で乗り付けるのが一般的、それによって相手がどこの家か判断できるので問題なく対応できるのだが、平民の子供を連れたメイドと司祭という組み合わせに警戒をさせてしまったか。

ゲームにはないそのシステム。

現実になるとこういうこともあるのかと新鮮な気分になる。

「確認が取れました。これより門を開きます。門をくぐられましたら担当の者が対応いたしますのでその者の誘導に従ってください」

「かしこまりました」

そして物の数分で確認を終えたのか、再び小窓が開きそこに兵士が顔を近づけると頷きこっちに近づいて来た。

許可は下りたようで、門は開かれそこには一人の老執事が立っていた。

「本日対応させていただきます、ヒューリーと申します」

一礼するその姿は洗練され、俺が平民であっても礼儀を忘れないという雰囲気がにじみ出ている。

目線からして、俺たちを侮っていない。

この場にふさわしい人物として、接客をしている。

「代表の方は、あなた様でよろしいでしょうか?よろしければお名前を頂戴できれば幸いです」

そして彼はまっすぐ、イングリットではなく俺を見た。

この面々で行けば、クローディアの方を代表者だと思うはずなのに、迷うことなく俺を見た。

どういうカラクリなのかはわからないが。

「リベルタです」

「リベルタ様ですね。当施設は初めてのご利用ですか?」

「はい」

偽ることなく俺は頷き自己紹介した。

そこから始まる説明にも頷き、先を促す。

「では、中にて施設を説明させていただきます」

こちらにとヒューリーが先導する形で門をくぐり、俺たちが入ると門は閉められる。

魔道具によって照らされている通路の先にあったのは地下へとつながる階段。

「本施設では、地下にある設備を使ってダンジョンをより快適に攻略できるようになっております。安全には細心の注意を払っており、スタンピードを防止するための対策部隊が常に駐屯し、万が一の攻略の失敗にも対応しております。救助に関しましても承っており部隊員は精鋭を集めたダンジョンのプロフェッショナルでございます」

階段は広く、そして頑丈に作られていることからもこの下の空間の広さがうかがえる。

そこを通る際に兵士の待機所の中がちらりと見えた。

中の空間にはぱっと見じゃわからないほどの数の兵士が詰めている。

彼らの装備もなかなか立派なもので、金がかけられているなという感想しか出ないが、ここの秘匿性のことを考えると惜しむべき投資ではないのはわかる。

「どけ!!怪我人が通るぞ!!」

そしてその兵士の詰め所の隣にある部屋に担架で怪我人が運ばれる。

貴族の子弟とかではない、護衛の兵士か、それとも師匠的な何かか。

「怪我の治療に関しましても手練れの治癒師をご用意しております。事前に寄付を頂ければポーションの方も十分にご用意して万全の体制をお約束します」

「ずいぶんと大けがをしているように見えましたが?」

「あれでも物の数分で回復して出てくるでしょう。後遺症もございません」

瀕死とはあのことか、四肢が変な方向に折れ曲がり、血だらけになり、かろうじて生きているという様子の人物を五体満足で復活させるとヒューリーは言った。

クラス4の回復役が最低でも5人、クラス5であるのなら3人は常駐しているとみるべきか。

さっきの兵士の詰め所でも、クローディアほどではないが相応の手練れがいるのか。

警備、そして治療という面でサービスが充実しているというアピールをしつつさらに奥に進むと想像していたよりも大きな地下空間に案内された。

「本施設を利用されるのは、ダンジョンに挑むことを秘匿することを希望する方が多くございます。その理由としては展開するダンジョンにて得られるドロップ品を狙う輩が後を絶たないからです。なのでダンジョンを展開する部屋までのルートは案内の者との同道が必須となります。リベルタ様方には私が同道いたしますので勝手な移動はご遠慮願います」

秘匿性を重視し、誰とも会わないように配慮している。

ある意味で俺たちにはちょうどいい施設というわけか。

「強権で押し通そうとした場合には?」

けれど、それも権力に負けてしまえば意味のない秘匿性、人の口に戸は立てられぬとはよく言ったものでこの施設の職員が口を割る場合もある。

その点を聞いてみると、ヒューリーはにっこりと笑い。

「さて、最初の頃はそのような方はいましたが、その都度丁寧にご説明しましたら皆様納得していただけましたな」

知る必要はないと、釘を刺されたかのようにドキリとする静かな声。

実際に問題になっていないからこそ、公爵閣下もこの施設を推薦してくれたということか。

裏で一体どういう対応をしているか気になるところだけど、そこに踏み込んだらろくなことにはならないだろうな。

「一応確認しますけど、国の認可は受けていますよね?」

「それはもちろんでございます」

非合法の施設じゃないことを確認して、ひとまずはこのまま案内されることを納得する。

「リベルタ様のお部屋はこちらになります」

そして一つの部屋に案内され、中に入ると。

「おおー」

思わず感嘆の声が漏れた、てっきりだだっ広い空間でも広がっているのかと思えば、そこはまるでゴルフの屋内練習場のような空間だった。

入って正面が広がっており、入り口付近にくつろぎスペースが設置されている。

「お食事もご用意できます。お飲み物のご注文の際には私にお申し付けください。他にそちらに入浴施設、装備の洗浄のサービスも行っておりますのでご入用になりましたらなんなりと」

至れり尽くせり、ダンジョンの中のサポートも言えばやってくれそうな雰囲気。

さすがにそれはしないが、ダンジョンから出た後にひと風呂入れるのは良いことだ。

汗だくになるし、装備も泥まみれになるからな。

暖かいお湯に入れるだけで、かなり楽になる。

うちのパーティーは女性陣が多いからな。こういうサービスはかなりありがたいな。