軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

11 アイ活

「リベルタ様クローディア様、お帰りなさいませ」

「お、イングリットか。お疲れさまだったね、皆どうだった?」

FBOをプレイしていた時代にも悩まされたピンク髪の嫌な予感を回避して、そのまま変態錬金術師を訪ねた。手土産の米化粧水に狂喜した奴は、俺の依頼を快く引き受けてくれて、あっという間に人面樹の素材から木材加工用のパーツを作り上げた。立会ってくれたクローディアは、無言でずっと顰めっ面したままだったけどね。用事を済ませて帰宅してすぐに錬金作業台の改造作業を完了した。

無事に必要な設備を手に入れて、そしてそのまま復活したアミナと一緒に作業を開始する。

『これをこうか?』

『え、こんなにいれるの?』

『記憶があいまいだからなぁ。とりあえずあやふやなままでもいいから作ってみるに限る』

『いいのかなぁ』

なにせ作ったのはだいぶ前で、要領を忘れてしまっているからその感覚を思い出しつつトイレットペーパーを作成してみた。

『一応紙はできたな』

『すっごいボロボロ、薄くしすぎだよ。これじゃ文字をかけないよ?インクも滲むし、ペン先ですぐに破れちゃいうそうだし』

『いや、この薄さが必要なんだ!!』

『なんで?』

試行錯誤を繰り返す。道具は間違いなくFBO時代にも使ったもの、そしてアミナのカンストした錬金術スキルもある、俺の知識もある。

であれば作れるはず。

『キタキタキタキタ!!!この薄さ、この柔らかさ!!この白さ!!』

『ええ?本当にこれでいいの?なんか縦にやけに長いけど』

『それでいい!!こっちの木の棒に巻き取るぞ!!』

『いいけど…リベルタ君、いつも以上にわけがわからないよ』

思い返せばかなり暴走している感が否めなかったけど、それはそれで仕方ない

我ながら傑作のトイレットペーパーを生み出すことに成功した。

一緒に作っていたアミナは困惑しながらも、完成品を片手に喜びの舞を踊る俺に向けて拍手してくれたのは記憶に新しい。

「なんというか、すごかったわ」

「うん、僕、もう草に戻れないかも」

「素晴らしきものでした、ぜひとも量産の体制を整えたいところですね」

「アレがなければ旅がつらくなりそうです」

そして作ったからには、感想を聞かせてほしいと思うのは人の性。

ただいきなり使ってくれと頼むのはさすがに無理。

生理現象に関係することだし、ひとまずは実物を皆に見せた。

トイレットペーパーという名の紙を作り出したことにまずは驚かれ、その柔らかさ手触り、さらに利便性を知り驚愕。

その用途がトイレの後に使う物だと知ってさらに女性陣が困惑したが、作ったからには使うしかないとごり押しして、今日一日放置していたのだが。

どうやら全員使ってみて、見事に陥落したようだ。

ネルとアミナがもじもじと恥ずかしそうに報告してきた。

まぁ、普通にトイレットペーパーの感想を聞いているんだけど、内容がトイレに関することだからいうのは恥ずかしいだろう。

イングリットは無表情だが、これは良いものだとサムズアップしてくれる。

旅の辛さを知っているクローディアは知れて良かったのか、知らない方が良かったのかと迷いを見せてきた。

「気に入ってくれたのなら、何より。それじゃ、クローディアさんいいですよね?」

そしてトイレットペーパーの良さを女性陣全員が理解してくれたのなら次の段階に進むことができる。

危険性はなく、そして価値があると認めてもらうためにクローディアに確認すると彼女は苦笑しつつ頷いてくれた。

「あれは、間違いなく貴族の女性にとって生活に革命を起こす物です。リベルタの計画にエーデルガルド公爵もきっと支援を約束してくれるでしょうね」

その表情を見るに、彼女の脳裏には周囲の女性陣に詰め寄られて困惑する公爵閣下の様子が目に浮かんでいるようだ。

かく謂う俺も同じように奥さまやエスメラルダ嬢やイリス嬢に怖い顔で詰め寄られる公爵閣下の姿を幻視している。

「ならイングリット、トイレットペーパーと米化粧水を包んで公爵閣下に手紙と一緒に送ってくれ。手紙の内容はこのトイレットペーパーの生産方法を教える代わりに俺たちの今後の活動のスポンサーになってほしいということだ。条件次第では米化粧水のレシピも教えると伝えてくれ」

「かしこまりました」

結果は良好。

イングリットが即座に頷いてくれ、クローディアもトイレットペーパーの実用性を知り、太鼓判を押してくれる。

しかし、こいつを個人で生産するのは現実的ではない。

家庭用で個人的に作るのならともかく、大量生産で商売をするとなればそれ専用の工場が必要になる。

さすがにトイレットペーパーを作り続けるためだけに人生を捧げたいとは思わないし、公爵閣下としても俺にそんな役割を求めていないだろう。

「これでひとまずはOKと。公爵家への根回しはイングリットに任せるとして、俺たちは活動の準備を始めようか。ネル、ジンクさんに会う約束は大丈夫?」

となれば、アイデアを渡して生産を任せ儲けを折半するのが妥当だ。

さすがにトイレットペーパーで十万ゼニを稼ぐのは土台無理な話。

いや、もしかしたら貴族の人たちがこぞって買ってくれてあっさりといけるかもしれないが…さすがにないよな?

「お父さんはいつでもいいって言ってたわ」

とりあえずはそっちは公爵閣下の返答を待つとしよう。

貴族社会を知る二人の太鼓判があるから、公爵閣下にトイレットペーパーと米化粧水を送り、その意図を書いた手紙を添えれば、貴族関連を抑えることはできるはず。

そうなってしまえば変な横槍は入らないはずだ。

公爵閣下の返事が来るのには時間がかかるはずだから、その間にアミナの称号、駆け出しのアイドルを取るために、ジンクさんとのアポイントを取ってある。

前に想定していた通り、ネルの実家の商会にアイドル部門を設立する。

「それじゃぁ、行こうか」

そのためのプレゼン資料は作っている。

活動期間はとびとびで、前世の本業のアイドル関係者からしたらふざけているのかと怒られるようなやり方だが、そっちに本腰を入れるのは難しいのでそこは勘弁してほしい。

そんなこんなで、ネル、アミナ、クローディアに俺の四人は久しぶりにネルの実家の商店に行き。

そこでのんびりと商売していたジンクさんと会い。

「うーん、こんな商売の仕方があるんだね。うん、よくできている」

のんびりとお茶を飲みながら俺が用意したプレゼン資料をジンクさんに読んでもらっている。

対面する形で向かい合い、ネルとアミナが俺の左右に座り、後ろにクローディアが座っている。

商店街の小さな商会であっても、顧客と面会するための応接室はある。

そこに招き入れられた俺たちがジンクさんに見せている資料は広告効果に関してまとめたものだ。

ようは有名人がこの化粧品を使っているとか、美味しいと噂しているとか、その宣伝能力を駆使して売り上げを伸ばすという手法。

アイドル事業という存在そのものがないこの世界では、この方法は斬新かつ新鮮に映るだろう。

「この資料を読む限りだと、アミナちゃんが吟遊詩人みたいに歌ってうちの店を宣伝してくれるっていう話だね。私としてはありがたいけど君たちに何のメリットが?報酬もいらないという。正直、商人にとってただよりも怖い物はないんだよ?」

そのメリットは、インターネットがないこの世界だとかなり顕著に効果が出るだろう。

噂話という物を娯楽にしているこの世界ならではの広告効果。

「はい、俺たちというか俺の本命はアミナの称号獲得とジョブ取得が目的なので、それ以外は二の次です」

「ジョブって、そういえばネルもそんなことを言っていたような。え?もうクラス3になるの?」

「正確にはまだです。ちょっと欲しいダンジョンの鍵を手に入れるのに手間取ってまして、それが手に入り次第クラス3になってジョブ取得に移ります」

「私はクラス3になるのって商人仲間でお金を出し合って護衛を雇ってやっとの思いでなったんだよ?」

俺の話すことは荒唐無稽かもしれないけど、ジンクさん的には俺の話には一定の信頼性があるみたいだ。

まぁ、娯楽に飢えているこの世界でアイドルみたいな活動はお祭りの一種として受け入れやすいのかもしれない。

「まぁ、そこは色々と方法がありまして」

「娘がどんどん強くなっていくのは良いけど、私の苦労は何だったんだと思っちゃうよ。まぁ、そういう事情があるなら私としては受けてもいいよ。悪い噂を流されるわけじゃなさそうだし。商会に部署を一つ作るだけだしね。人員はリベルタ君とアミナちゃんとネルとあとは……」

「保護者として私が監督しますのでご心配なく」

「あ、ハイ、よろしくお願いします」

思いのほかスムーズに話がまとまり、それじゃさっそくと契約書を作り始める。

唯一驚かれていたのはクローディアが保護者として参加している事実。

有名人が娘の後見人みたいな立場になって、間接的にとはいえ商会に属してくれるという事実にジンクさんも恐る恐るという雰囲気を隠せていない。

「でも、歌だけで人が集まるのかい?私もたまに市場の広場に行ってそこで歌っている吟遊詩人を見かけるけど、ほとんど人がいなかったよ?」

「世知辛い現実ですねぇ。でも心配ご無用です。一応、とある場所でやれば一定の集客は見込めますので」

ジンクさんの手により契約書が作成される。

これがないとアイドル事務所として活動していない判定になるから、意外と重要な工程なのだ。

「はい、内容がよかったらここにサインして、そうしたら君たちは正式にうちの商会の芸能部門の従業員っていうことになるよ」

「ありがとうございます」

「いいよ、スタンピードのときに君がこの商店街を守ってくれていなければこうやって商売を続けられなかったかもしれないしね。それに米化粧水をうちに卸してくれているおかげで最近食卓にお肉が並ぶことが多くてね。この前なんて、妻がいいワインを仕入れてくれたんだ。それもあって、もしかしたら店を大きくして従業員を雇えるかもって最近よく話すんだよ」

一応信頼を築いていたおかげか、やり取りもあっさりとしたものだ。

商人として店を大きくしたい、そんな欲もあってか俺に期待を寄せてくれているみたいだ。

「もしかしたら、アクセサリーよりも芸能事務所の方が本職になるかもしれませんね」

「あはははは!それはいい。私が歌劇団一座の座長か。それはそれで興味はあるよ」

アミナの成果次第では本当に、ネルの実家がアイドル事務所になる可能性があるんだよなぁ。

笑い話で流しているけど、俺としてはアミナの後任に才能のある子を入れて、俺が育成すればそのまま軌道に乗れそうな気がするんだよね。

こういっちゃなんだが、この世界は民衆の娯楽が少なすぎる。

それを踏まえて言えば、アイドル活動という民衆向けの娯楽は受けそうな気はするんだけどなぁ。

だけど現実は難しいと思っているジンクさんの考えも否定はできない。

そこは仕方ないと思い、俺は必要な書類を手に入れたことに満足した。

「君なら心配はいらないだろうけど、一応うちの商会の看板に泥を塗るようなことだけはしないでくれるかい?」

「わかりました。十分に気を付けます」

これは信頼の証、商会の名前を使っていいという許可証。

大切にアイテムバッグの中に入れる。

これでひとまず用事は終わった。

「それじゃぁ、俺たちは行くところがあるのでこれで失礼します」

「もういくのかい?」

「はい、やるべきことがあるので」

「忙しないね。いや、商人ならその忙しさを喜ぶべきかな?」

「もっと時間が欲しいと思うくらいですよ」

最後に商人らしい言葉に見送られ、忙しないが店を後にする。

「リベルタ、行くところって?」

「温泉」

「え、今から入りに行くの?」

次に目指す場所はこの前精霊たちと戯れた温泉地。疲れたから温泉に入るのではなく。

「いや、精霊たちにアミナのライブイベントの告知をしに行くんだ。ついでに今から精霊たちの前でミニライブをやる」

そのためにわざわざマジックバッグに楽器を入れてきたんだ。

アミナの目指す至高の歌姫の獲得条件である観客動員数。

これは別に種族は問わないのだ。

人であろうがモンスターであろうが、精霊であろうがアミナの歌を聴いてくれて、歌を神様に奉納できれば問題ない。

過去に力技で、分神殿前でスタンピードを引き起こしてモンスターに歌を効かせて注目を浴びまくって至高の歌姫を獲得した猛者もいたくらいだ。

俺も試したことがあるかと聞かれれば、楽器の演奏はともかくとして歌うというのはどうも不得意分野のようで試したことがない。

下手ではない、だが、一定以上のうまさにならないというか、才能の壁に阻まれているという感覚が抜けきらないから諦めたのだ。

「え?なんで精霊さんたちに聴かせるの?」

「観客が人族である必要性がないからな。分神殿という神の領域なら精霊たちも来やすいし、人よりも自由な精霊の方が集客率は良い。お祭りとかでも精霊が来るって言うのはよく聞く話だろ?」

「え、人じゃなくていいの?」

「うん、結論から言えば集中して歌を聴いてくれる存在がいればいいだけだからな。一番ノリがいい精霊というのは波に乗れば一気に集まる」

そんな俺でも知っている、至高の歌姫を確実に取る方法。かなり目立つが俺はもう国王陛下にも謁見して、公爵閣下とのつながりも貴族たちに認識されている。

だったらここで開き直ってやる。

さてさて、どれくらい派手な催しになるかねぇ。