軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

4 謁見

国王陛下って、本当ならこの国の頂点のはず。

俺みたいな平民が直接会えることなんてまずないし、なんなら遠目で御姿を見るだけでも幸運だと思うほどだ。

物語に登場する異世界の王様と言えば、堂々として威厳に満ちその背中に追従したくなるようなカリスマを持ち、民の生命と生活を背負う気高き存在であるイメージだが。

そんな人物は空想上の物でしかないと今痛感している。

「エーデルガルド公爵、この少年が貴殿のいう風竜を討伐せし者か?」

そして南の大陸の国王の顔は知っている。

何度も王家絡みのイベントをやっていれば、嫌でも覚える。

なかなか面倒なイベントを寄越してくる割には、報酬が微妙なことで有名な国王だ。

FBOプレイヤーの中でも人気順位は下から数えた方が早いと思うくらいに人気がない。

そんな国王陛下と現在進行形で謁見中である。

結局、あの後は英雄になる意志はあるがまだ子供のため公爵閣下が後ろ盾になり今後の成長に期待するという流れに強引に持っていくということで決着。

というか、それ以外に対応する方法がないと誰もアイデアが出ずに終わったのが正直なところだ。

俺の持ち味はゲームの知識を活かして迅速果断な対応で動き回ること、下手に貴族のしがらみに囚われてしまうとその持ち味が消えてしまうのだ。

だからこそ、俺は話すことなく、王の御前で膝をつき頭を垂れ、ジッとしている置物と化す。

全ての対応は公爵閣下に丸投げ、そしていざという時のために保護者として隣には同じ姿勢のクローディアが司祭として正装を着て同席してくれている。

「はい、この度の風竜ダンジョンを攻略せし我がエーデルガルド家の英雄でございます」

「……普通だな」

そんな俺であっても、国王、聞こえているぞ。

悪かったな!モブ顔で!!

比較対象はなんとなくわかる。

噂に聞く悪童の体格は俺とは全然違う。

ジャカランみたいに筋骨隆々の巨体じゃなくて申し訳ないね!!

肉ばかり食べるからか本当に見た目だけは逞しくてうらやましい限りだね!

「名を何と言ったか?」

「リベルタと」

「ふむ、リベルタ。面をあげよ」

「はっ」

がっかりしたという声音から、俺が絶世のイケメンであったり、とんでもないオーラを放っていることを期待していたのだろうけど、生憎とこちとら転生したての頃は餓死寸前の孤児だったんですよ。

最近はようやく筋肉とかつき始めているけど、細マッチョみたいな体には程遠い。

それに俺の戦闘スタイルは、死神構成ビルドなんだよ。

目立っちゃ意味ないのよ。

そんな悪態をつきつつ顔をあげて、ようやく国王陛下のご尊顔を拝することができたが、一瞬誰?と頭の上に疑問符が立った。

第一印象は、顔色が悪いだった。

げっそりとこけた頬。

覇気がなく、どこか怯えたような雰囲気。

そして俺にわずかな期待を抱く瞳。

原作ではもっとマシな風体だったような気がするのだが。

「うむ、リベルタよ。此度は風竜ダンジョンの踏破まことに大儀であった。そなたの働きは英雄と言ってもよいほどの偉業だ」

俺を褒める国王陛下の背後に、縋るように震える小型犬が見えたような気がしたのは俺だけだろうか?

何かに怯えている、仮にも一国の王がだ。

誰かに怯えているのを必死に隠そうとしている。

一体何に?

「陛下」

「!なんだボルドリンデ公爵」

国王が話している最中だというのに遮るように声を発した人物を俺はチラ見する。

病弱に見えるような青白い肌、のっぺりとした顔つき、これで舌の先が二つに割れていようものなら蛇と呼んでしまいそうな男。

決して国王陛下を敬っていないのが明白な態度で、その男は一歩前に出た。

「そのような子供に英雄の重責を背負わせるのは酷ではありませんかな?」

嗜めるように、優しい口調で、そして笑顔も携えているというのに、本音が垣間見える。

『俺のところに英雄がいるっていうのにどういう了見だ!?』

そんな本音を裏ににじませての登場。

でたな厄介者と思いつつ、こいつに国王陛下が反応しているということはすなわち恐怖の対象がこいつということになる。

ジュゼッペ・ボルドリンデ公爵。

通称城蛇公爵。

「そうは言うが、風竜を二体も討伐して見せたのだぞ?」

「それもエーデルガルド公爵が報告しているだけのこと、実際はどうなのか不透明でございますね」

南の大陸では厄介者としてプレイヤーの中では有名な男。

野心が強く、自分の代で玉座につきたいと虎視眈々と狙い暗躍するやつだ。

「ボルドリンデ公爵、それは私の言葉を信用できないと言っているのか?」

「いえいえ、小人族であるのならともかく、常識的に見れば子供が風竜を倒すなんてことを信じろという方が難しい話ですよ。いかに国に忠誠を誓っているエーデルガルド公爵のお言葉でも、ねぇ?」

厭味ったらしい口ぶりにイラっとするが、ここで俺が出張っても意味がない。

そもそも、平民の俺が割って入ったとしても何も好転しないのだ。

エーデルガルド公爵からしても、この程度の嫌味は日常茶飯事なのだろう、表情一つ変えずに対応している。

笑みを浮かべるボルドリンデ公爵と無表情のエーデルガルド公爵。

そこに挟まれる国王陛下。

あ、今一瞬お腹あたりを押さえようとした。

うん、なんとなくやせ細った理由が分かった。

あの二人に挟まれたらそりゃストレスで胃とかやられるよな。

「そうか、私の言葉だけで足りぬのなら彼女の言葉も添えようではないか」

「……ずいぶんと珍しい方と知己を得ているようですな」

視線だけの鍔迫り合いといえば一見平穏に見えるが、彼らの纏う空気が異常すぎて純粋な圧になる。

言葉一つ一つに気を遣い、それが胃に多大なるダメージを与えているんだろうなぁ。

そう考えると、切羽詰まって必死に俺を招集しようとする気持ちも理解できる。

許す許さないはさておき、呼び出された理由は納得した。

なるほどここまで職場が最悪だと、藁にもすがる思いになるよな。

「クローディア司祭、あなたもこの平民の子供を英雄とお認めになるので?」

「そのことに関して言えば、見極めている最中と言えましょう」

そしてここでも話をするのは俺ではなく、神殿に所属する司祭として貴族の間でも有名なクローディアがスッと立ち上がる。

ボルドリンデ公爵がまっすぐ彼女を見ると、クローディアもまたその視線に真っ向から向き合う。

「なるほど、この少年にはあなたほどの方に英雄の素質があると思わせる何かがあるのですね?」

英雄候補を先に擁立している身として、俺の存在が相当鬱陶しいのだろう。

さっきからチラチラと俺の方を見てくる瞳が冷たすぎる。

ポーカフェイスを維持しないで、素直に驚いたり怯えたふりをした方が子供っぽいか?

周囲の貴族の視線も鬱陶しいったらありゃしない。

値踏みするような視線を浴び続けるのは正直、勘弁願いたいのだが。

「でしたら是非ともその実力をお目にかかりたいものですね!!そうでしょう皆の衆!」

そして俺の価値を測るための舞台を用意しようとしないでくれよ。

「いかがでしょう陛下、私を含め皆英雄〝候補〟殿の実力が気になっている様子。ここは一つ、私がしてみせたあの時のように彼の実力を見ることを提言します」

俺からしたら、見世物になるのは予想通りだけどやるのは気乗りしない。

プレイヤースキルを見せるのは自分の手の内を見せるような物。

嬉々として受けられる内容ではないのだ。

個人的に王様にアピールできると考えても気乗りはしない。

かといって、手を抜いて実力を過小評価されるのもエーデルガルド公爵のメンツを潰すことになるのでそれもできない。

「ふむ、エーデルガルド公爵はどうだ?私としてはボルドリンデ公爵の提案を採用したいのだが」

この話は国王陛下からしても渡りに船、俺の実力を確かめたいのは彼も一緒。

「是非もありません、対戦相手に関しては提案者であるボルトリンデ公爵が用意してくれるでしょうし」

「ほぉ、よろしいので?」

「私の方で用意して貴殿は納得するか?」

「いえ、でしたらお言葉に甘えましょうか。竜殺しの英雄と戦いたい部下はいくらでもいるでしょうし、胸を借りますね?」

こういう流れになるだろうことは事前に公爵閣下に聞いていた。

だからこそ、勝手に話が進むのを諦めの心で傍観できる。

『いいかリベルタ、今回の謁見は間違いなく横やりが入る』

城までは公爵閣下の馬車で来た。

そこで真剣な顔で謁見での流れを説明してきた公爵閣下の言葉を思い出す。

『十中八九、ボルドリンデ公爵当人が出てくる。私の言葉に異議を唱えることができる者がいるとすれば奴くらいだ。出遅れたとしても、奴に対抗して英雄を擁立しようとしている私が一番目障りだからな』

忌々しいと顔に書いてあるかの如く眉間に皺を寄せる公爵閣下であったがそこで感情任せに終わらすような方ではない。

『そこで奴はお前の実力を試すようなことをするだろう。竜を殺すほどの実力者であることの真偽もそうだが、奴からすれば真実であるのならその実力も見極めようとするだろう』

淡々と、ボルドリンデ公爵が何を求めて行動を起こすか、その理由を説明してくれる。

俺の知っているボルドリンデ公爵の行動パターン情報とも合致する内容。

『お前には、できうる限り実力を隠し対戦相手を圧倒してほしい。それも奴の抱える英雄候補を上回るインパクトを与えるほどにだ』

『随分と無茶を言いますね』

そんな相手に情報を与えるのは得策じゃないのはわかる。

だけど、手加減して英雄だと周囲に印象付けろとはなかなか面白いことをおっしゃる。

『お前ならできると信じているからこそだ』

『できないとは言いませんけど、無茶なのは承知してくださいよ。俺としては面白そうだからいいですけど』

まず間違いなく、俺の所持するスキルは使わない方がいいだろう。

おまけに卑怯と取られるような武器を使うことも避けた方が良い。

そしてなおかつ観客受けする派手さのある武器となればあれしかあるまい。

そんなことを考えつつ、保護者のクローディアと一緒に騎士に案内されたのは城の敷地にある練兵所だ。

近衛騎士が訓練に使う場所だから設備も充実しており、王家や貴族たちのために観覧席も用意されている。

護衛の観点からもここ以外の場所はない。

「……本当にそれでいいのか?」

「はい、これでいいです」

国王陛下の御前ということで、使用する武器は当然だが木製だ。

訓練用の多種多様の木製武具が並んでいるので中々圧巻である。

あらかじめ目星をつけていた武器を手に取り、二、三回振りその手ごたえを確認するとここまで案内してくれた騎士が困惑しながら問いかけてくる。

本当だったら槍を使いたいところだけど、公爵閣下からそれは避けるように指示を出されている。

だったら今回くらいは遊び心全開のネタ武器に走ってもいいじゃないか。

「ずいぶんと大きな得物を選びましたね」

「もともとは壁を壊したり、門を壊したりするための道具らしいですし」

「そんな代物も扱えるのですね」

「一撃必殺は男のロマンです。そこら辺は必修科目として習得済みです」

選んだのは身の丈以上の大槌。

丈夫に作ってある分中々に重く、ずっしりとした感触がある。

だがステータス補正で振り回されることなく使うことができる。

前世の肉体じゃ持ち上げることもできないだろうし、やろうとしたらぎっくり腰間違いない。

「とりあえず、ボルドリンデ公爵が用意した対戦相手を一撃で吹き飛ばして終わらせれば納得してくれますよね」

「それができれば最善ですが、油断はだめですよ」

「負けたくないので、油断はしませんよ」

久しぶりに使ってみるが、中々いい感じに振ることができる。

腰を入れての全力スイングをしてみると、いい音が鳴る。

「うん、いい感じ」

ちらっと案内してくれた騎士の顔を見てみると顔面が蒼白になっている。

「怪我をしないようにと一応言っておきますね」

「むしろ、相手の体を粉々にしないように手加減しないといけませんよ」

大槌は文字通りの一撃必殺ができる。

それをまともにくらったらどうなるか想像するのはたやすい。

子供と大槌の組み合わせもなかなかギャップがあるから油断してくれそうな気もする。

「そこまで余裕があるなら心配いりませんね」

「クローディアさんクラスの実力者が出てきたら全力で逃げますけど」

「あら、逃げるのですか?」

「手加減して勝てる相手じゃないので、せめて使い慣れた槍を持ってきたいところです」

「確かにその通りですね」

瞬殺して終わり。それを目標にしてイメージを固める。

「相手の準備も終わったそうだ。準備の方はいいか?」

「大丈夫です」

相手側の準備も終わったようで、俺も騎士の指示に従って練兵場に出る。

「へぇ」

そして対戦相手を見ると思わず言葉が漏れた。

相手は一人だと思ってたら、十人もそろっている。

全員が全員、武器を持っているということはそういうことだろう。

なるほどなるほど。

「どうやら手加減はいらないようだな」