軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

31 双子

俺の存在になど目もくれず、風竜の縄張りであるダンジョンに無礼にも攻め込んできたロイヤルデュラハンとその配下に対して宣戦を布告する一撃は、莫大な魔力を込めた風竜のブレス。

射程も、威力も、そして攻撃範囲も飛竜のブレスとは比べ物にならない。

放たれた風竜のブレスで射線上にいたドラゴンゾンビが二体消し飛んだ。

『■■■■■■■■■!!!』

あのタフなドラゴンゾンビを一撃でだ。

空の王者は地上に降りず、周囲に風魔法を展開して、そのまま蹂躙を始める。

強烈なブレスの後も連続で風魔法のウィンドカッターを放ち、鋭利な風の刃が入り乱れて空から降り注ぐ。

うん、悪夢かな。

風竜を倒せるのではとの考えが頭をよぎったが、身の程知らずな俺の感情が秒で白旗を揚げる。

飛竜に通用しているから、この大弓が風竜に通用すると考えるのは早計。

その慢心をもってして挑んでしまえば死は確実。

おまけに、頼みの焔魔の大弓には竜殺しの効果がまだ付いていないのだから勝ち目が薄いというか、絶無に近い。

「うわぁ、一方的」

制空権を持たないロイヤルデュラハンに風竜を倒す術はたった一つしかない。

奴が持つスキルの首狩り。

首という急所にのみ特化で作用するクリティカルアタックスキル。

消費魔力が高く、さらに一度使えばリキャストタイムが三十秒必要であり、スキル発動後の初撃は首以外のところではダメージマイナス補正がかかるというスキル。

さらに防御されれば不発が確定するというデメリットを抱え、使い方は非常に難しい。

代わりに、首への攻撃に対しては特効を付与する。

その効果は防御値無視、クリティカル確定、クリティカルダメージ増加、確率で即死を与えると言う、首にさえ決まれば一撃でボスすら殺すことが可能なスキルだ。

プレイヤーたちの間でもデュラハンに挑んで、事故るのはだいたいこの攻撃が首に当たったとき。

それくらいに危険性が高いのだけど、弓矢とかウィンドカッターとかの遠距離攻撃には付与できず、

剣とか刃物がついた手に持つ武器じゃないと当たり判定に入らないから、このスキルは近接攻撃に特化したスキルになる。

「うーん、上空から爆撃されたら手も足も出ないよなぁ」

ロイヤルデュラハンを含めて、首狩りスキルを持っている敵を確実に殺すには風竜がしているように遠距離から一方的に攻撃するに限る。

「デュラハンは・・・・・まぁ、撤退するよな」

ドラゴンゾンビの中でもひときわ体が大きい、代わりに首から上がない個体にロイヤルデュラハンは跨り後退を開始。

殿に生き残ったドラゴンゾンビを配置し、二体のドラゴンゾンビを引き連れて撤退を開始した。

「風竜は・・・・・ひとまずドラゴンゾンビは無視して追撃を開始する感じか」

相性最悪、そして勝てないステータス差に撤退を選択するのは間違っていない。

そもそもの話をするなら挑む方が間違っているのだけど、デュラハンからしたらダンジョンの防衛用のドラゴンゾンビを確保するために飛竜ダンジョンに挑んでいるのだろう。

せっかく確保したドラゴンゾンビを犠牲にしての撤退。

もしかしたら、冒険者や騎士に減らされたドラゴンゾンビを確保しに来ていたのかもしれない。

ロイヤルデュラハンが支配するダンジョンのベースはゴブリンダンジョンだ。

ダンジョンで召喚できるのはあくまでゴブリン系統だけだから、ドラゴンゾンビはデュラハンが自ら赴いて素材を確保しないといけない。

それを放置する風竜ではないということか。

「さて、俺はどうするか」

息をひそめ、岩陰に隠れ、風竜のヘイトを買わないようやり過ごした。

どうするかと呟いたが、選択肢の中には一応風竜と戦うという選択肢もある。

見つかれば戦闘になるのは明白。

そして今ならヘイトはロイヤルデュラハンが持っているから不意の一撃を放ってダメージアドバンテージを取ることもできる。

ぎゅっと焔魔の大弓を握り、じっくり考える。

頭に考えがよぎり、そしていくつか計算して、その結果は。

「うん、無理」

すっと力が抜けた。

計算に計算を重ね、立ち回りを考えたがどうあがいても全ての条件で負ける未来が見えた。

低レベルでクラス6の風竜討伐は装備とスキルを充実させてようやくできる偉業だ。

しかも、ゲームでも死に戻りを繰り返してかろうじて達成できるほど困難な道のり。

一個しかない命をここで賭けられるかと言われれば、まだその時ではない。

ジャカランにイリス嬢が狙われている現状を考えると、ここで風竜を仕留めておきたいという願望はある。

だけど、勇気と蛮勇は異なる。

さすがに今ここで風竜に挑むのは、違うと思いなおす。

「時間も時間だ、そろそろ脱出しないとまずいよな」

一度で竜殺しの装備を作れなかったことは残念だったが、今日はこれ以上の戦果を得るのは欲張りすぎているなと思い、そのまま撤退に入ろうと思ったとき、すこし異質な風を感じた。

岩陰に隠れていると言っても、ある程度の風は吹き抜ける。

ここは渓谷型ダンジョンの山頂の一つ、岩陰以外に身を隠すことができない岩山の頂。

そこに風が吹くのはなんらおかしなことではない。

だけど、俺はその風に嫌な予感を感じて、その風が吹いてきた方向を見てしまった。

「……」

結果的に言えば、その行為は正解だった。

代わりに、マジかと口元を引きつらせることになるのだが。

なぜ、そこにそれがいるという疑問よりも先に俺が口にした言葉は。

「俺、運悪すぎだろ」

自身の運の悪さを嘆く言葉であった。

俺の視線の先にはロイヤルデュラハンを追いかけていったはずの風竜の姿があった。

ロイヤルデュラハンを追いかけるのを止めて戻ってきた?

否、断じて否。

現在進行形で、向かった先で戦闘音が響き、そしてけたたましい風竜の雄叫びがここまで響いている。

では、こいつはなんだ。

答えは単純、風竜はもう一体いた、それだけのことだ。

「双子を引くなんて、土壇場で運が悪すぎるだろ」

ダンジョンが生成する際に、一定の強さをもつダンジョンにはとある条件で発生する現象がある。

それはボスが増えるという、馬鹿げた現象だ。

普通に普段通り攻略しているとき、遭遇したFBOプレイヤーがバグとして報告してきて、そういうこともあるのかなと当時の俺は思っていた。

だけど、FBOの運営の回答に全FBOプレイヤーは愕然とした。

『ボスの増殖の件はバグではなく仕様です。一定以上のクラスのダンジョンを生成する際にはごく低確率でボスが増えるようになっております。これはドロップ品の配布率を増やすための措置です。ご理解のほどよろしくお願いします』

ダンジョンボスが増える。

これを聞いて、最初は大丈夫か運営と心配したが、よくよく考えてみればボスでしか手に入らないアイテムもあるので、これはこれでいいのかとゲーム時代では受け止めることができた。

だけど、現実で竜と戦う準備もできていないこのタイミングで出会うのは違うだろと嘆きたくなった。

「しかも俺のこと気づいてるしぃ!?」

口の中に溜まる魔力の波動を見て、俺は即座に岩陰から飛び出してダッシュを敢行。

それに遅れること数秒後にブレスが吐き出されて、俺は大きな岩の背後に飛び込むことで九死に一生を得た。

「クソ野郎!!0.05パーセントの確率を引くとかどんな運の悪さだよ!!」

ダンジョンボスの双子化現象は検証の結果その全容が解明されている。

まず発生するのはクラス4以上のダンジョンから。

発生する確率は全て均一。

そして発生するのはダンジョンの鍵で生成されたダンジョンのボスに限定される。

それ以外の条件はない。

種族、属性問わずありとあらゆるダンジョンでその現象は確認された。

そして、とある運が悪いFBOプレイヤーレイドが0.05パーセントをさらにもう一回踏んで、三つ子ボスダンジョンを発生させたことがあった。

しかも、そのダンジョンがクラス9であったからそのレイドパーティーは全滅。

運営に双子までじゃなかったのかよ!!とクレームを入れたが、運営からは。

『非常に低確率ではありますが、双子以上になることがございます』

という回答が返ってきて、炎上したのであった。

アイテムロストにデスペナルティが発生したプレイヤーたちの堪忍袋の緒がぶちぎれたのは間違いない。

というか、ここにも風竜がいるっていうことはもしかしてダンジョンの奥のボスの縄張りにはもう一体風竜がいる可能性があるってことか?

もし仮に三つ子を引いてしまったとしたら、ファンブルと言っていいほどのロイヤルデュラハンの運が俺にも降りかかるとかどんな事故だよ。

「くそ!不壊オブジェクトじゃなかったら死んでたぞ!!」

ボスの攻撃から身を隠せる場所がなければ、さっきの攻撃で死んでいた。

大岩に風竜のブレスがぶち当たって、その大岩を起点にして拡散するようにブレスが飛び散っている。

ブレスを撃っている間はさすがに移動はできないし、他の攻撃はできないが。

「取り巻きも呼ぶんじゃねぇよ!!こっちはクラス2の雑魚だぞ!?そんな奴に全力とか大人げねぇんじゃねぇの!!」

ボスが攻撃できないのなら取り巻きが攻撃すればいいと言わんばかりに飛竜が集まり始めて。

「お前は墜ちてろ!!」

集まる前に、俺はヘッドショットかまして最初に飛んできた飛竜を何度も見た谷底に叩き落とす。

「逃走経路は・・・・・無理だろ!!」

こいつがいるのなら山頂になんか登らなかったと後悔するぐらいに山頂から下山するためのルートは細く、険しい。

走り抜けるのは困難なくらいに道は荒れて、細く、一歩間違えれば崖に転落してしまう。そんな道を風竜とその取り巻きの飛竜の攻撃をかいくぐりながら移動せねばならないのだ。

大体のことならできるかどうかと首をかしげながらも困難に立ち向かってきたが、流石にこれは無理ゲーだと本能が叫んでしまった。

隠れられる場所は一応あるけど、風竜に探知されてしまった今ではその道は地獄の一丁目への道のりになってしまった。

「……」

つーっと額から汗が流れる。

どうする?

欠片も可能性を感じられない逃走に身を投じるか。

欠片でも可能性を感じられる闘争に身を投じるか。

どっちを選んでも、もしかしたらという言葉が付きまとい、いい意味でも悪い意味でも結末を用意されている。

『■■■■■■■■!!!』

「ああ!?もう!選択肢をくれるなら選ぶ時間くらい待てよ!!」

悩む時間すらない。

俺はゲームで選択肢に時間制限がついているタイプって嫌いだったことを思い出しながら、旋回して大岩の裏に回ってくる飛竜を出会い頭にヘッドショット。

怒りと焦りのおかげで一周回って冷静さが戻り集中力が上がったような気がする。

何をすればいいかわからない段階で、確実にわかること。

敵を殺さねば俺は死ぬ。

その事実が本能的に体を動かし綺麗なヘッドショットが完成した。

「わかりました!わかりましたよこん畜生!!そんなに俺と戦いたいのかよ!!いいぞ、やってやるよ!!ゲームに人生と青春のすべてを捧げたゲーマーの悪あがきを見せてやるよ!!」

その一撃を決めたことで覚悟が決まった。

逃げることは土台無理だ。

崖からノーロープバンジーをやって生き残る自信もなければ、細い道を駆け抜けて風竜から逃げ切る姿も想像できない。

煙玉を駆使しても、ここは開けすぎて姿を隠しきるには量が足りない。

なら、やるしかない。

「広場で良かったよ!畜生!!」

不幸中の幸いなのは、ここにはダンジョン特有の破壊不能オブジェクトがいくつか設置されているという点。

そして心もとないと言わざるを得ないが、まだ矢が残っていること。

さらに言えば飛竜を倒し続ければいずれは焔魔の大弓に竜殺しの特効が付与されること。

逃げるよりも戦った方がマシで、お釈迦様の垂らす蜘蛛の糸なみに細いけど勝ち筋がまだ残っている。

俺はまずはこのフィールドを把握するために、大岩の陰から飛び出した。

「そう来ると思ってたよ!!」

風竜の攻撃手段は基本的に風属性の攻撃が多い。

風のブレスに、風魔法が遠距離戦での基本攻撃。

風魔法は鋭利な風の刃を飛ばすウィンドカッター、吹き飛ばし効果のある風の衝撃波を出すウィンドハンマー、範囲魔法でウィンドカッターを風竜を中心にして周囲にまき散らすように放たれるテンペスト。

空から地面に叩きつぶすような感じで風が吹き下ろされるダウンバースト。

そして俺が一番嫌だと思う、風竜で一番厄介な攻撃魔法。

「空気を無くすってそのクラスで持っていい技じゃないだろ!?」

エアーゼロフィールド。

一定の指定範囲内の空気を一瞬だけど無くしてしまうという対生物用のかなり極悪な魔法だ。

アンデッドとか無機物系のゴーレムには欠片も効果のない魔法だけど、生物系には一瞬でも呼吸を止め下手をすれば意識をとばす可能性のある魔法攻撃は殺傷能力が高すぎる。

俺が風竜と戦う際に、注意すべきナンバーワンの攻撃であり。

全力で走ってこの広場の地形を把握しつつ。

「だけど、それがなかったら勝てないんだよな!?」

唯一俺が勝ち筋を作れる魔法でもあるのであった。