軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

22 かくれんぼ巧者

「それじゃ、ちょっと行ってきます」

「まさかとは思いますが、一人で行くんですか?」

「はい、そうじゃないと称号が取れないので」

称号というのは意図して取ることもできるが、人によって意図せず取ってしまい気づいたら称号をつけているというパターンもある。

「……ひとまず、説明をしなさい。そうでなければ私もそうですが、彼女たちも心配で納得ができないでしょう」

今回取ろうとしているのはかくれんぼ巧者という称号だ。

効果は隠密系スキルの効果上昇という、名前通りのわかりやすい効果だ。

「それもそうですね」

流れで一人でオークの森に乗り込もうとしたが、クローディアにそう言われて、確かに何も説明しないで一人でオークの森に行くのは彼女たちが納得できないだろうと思い直した。

なので、かくれんぼ巧者の取り方と、取る意味を説明する。

「俺が欲しい称号はかくれんぼ巧者という称号なんですよ。これは隠密系のスキル効果をあげてくれる称号で、進化も備えている称号です」

「聞いたことがあります。斥候兵がよく持つと言われる称号ですね」

「一人で行動することの多い、斥候が取りやすい称号というやつですね。それが俺にとってかなり都合のいい称号なんですよ」

首狩りアサシンというのは文字通り、暗殺をしてクリティカルヒットを狙うことをコンセプトにしたビルドだ。

戦闘の労力を最小限に、そしてソロでも活動できなおかつパーティーでも斥候役として活動できるようにと考えられた構成だ。

そうなってくると戦闘方面を強化する形で称号を選んだ方が一見強そうに思えるのだが。

「俺の戦い方は、正面で戦っていても敵から見たらいきなり隠れるように俺の姿が消えて、視線を動かして探している隙に急所を突き大ダメージをあたえるスタイルを目指してまして。その為に必須な隠密系スキルを最大限に活かせるのがかくれんぼシリーズの称号なんです。かくれんぼ巧者の称号は進化させると、かくれんぼ名人、かくれんぼ達人と進化していきます」

首狩りアサシンに関して言えば、隠密系を強化した方が強くなる。

相手からの認識が逸れた時、その瞬間が攻撃のタイミングであり、スキル構成上不意を突くことでクリティカルダメージが上昇する系統のスキル構成なのだ。

となれば隠れたり、いきなり見えなくなったり、姿が捉えられなくなるような隠密系のスキルが必須であり、生命線だ。

「かくれんぼ巧者は、最大まで成長させると隠密系スキルの効果が十パーセント上昇と、気持ち程度の効果です。ですけど、かくれんぼ名人になると三十パーセント、達人になると五十パーセント上昇と、かなり隠密系スキルの効果上昇が見込めます」

おまけにパーティーで動いている最中は斥候として活躍もできる上に、アタッカーとしてもヘイトを貯めないアタッカーとして活動できるというメリットがある。

「なるほど、称号として有用なのはわかりました。ですが、そこでなぜ一人でオークの森にはいる必要があるかという話になります。強くなり、オークくらいなら簡単に倒せるというのはわかっておりますが、一人で行動することによる不測の事態が起き、危険になるという可能性は捨てきれません」

そのメリットの大前提である、かくれんぼシリーズの称号効果を語ったプレゼンでひとまず有用性は認めてくれた。

「この称号を取るには単独行動と隠密術を持っていることが必須だからですね。その状態で、自分とクラスが同等かそれ以上の複数の敵を相手に、一定時間見つかった状態で、逃げ切りながら一定箇所に潜伏する必要があるんです」

「危険を含まねば取れない称号ということですか」

そして、それが強くなるために必要だと言えば、クローディアは否定できない。

覚悟があり、そして根拠がある。

この二つが揃っている段階で、善人として止めるということはクローディアの中からは消えた。

「わかりました。そういうことでしたら止めません。保護者としては失格かもしれませんが、あなたの場合大人の常識という枠組みに組み込んでしまってはダメですからね」

俺が言っておいてなんだけど、大人としては失格というのは確かにと頷いてしまう。

子供一人をオークの中に送り込む。

絵面が最悪である。

だけど、俺が神に遣わされた英雄という存在であることがクローディアの中にあるので、問題は外聞だけだと判断してくれたようだ。

「あなたの目的通りであるのなら誰にも見られる心配はないでしょう。ですのでこれだけ言っておきます。無事に帰ってきなさい」

「わかりました」

その外聞も基本的に隠密行動なので大丈夫だろうという判断でゴーサインを出した。

そして物語ならこういう場面で心配してくれるのがお約束である筈のネルたちの反応はと言えば。

「リベルタだから大丈夫ね」

「そうだね、リベルタ君だから」

「リベルタ様なら問題ないですね」

「なんだろう、信頼されているのはわかるけど、こう雑に扱われている感が否めないのは?」

俺だから大丈夫だろうと言われ、信頼されていると思えば悪くないのだが、こうもあっさりだと少々複雑な心境だ。

いや、危ないから止めて!!とヒロインチックな対応をされても困るけど、これはこれで反応に困る。

「何かあったら大声で叫んでね!!助けに行くから」

「アミナほど大声でないと思うけどな」

「大丈夫よ!!私がしっかりとリベルタの声を拾ってあげる!!」

それでもちゃんと心配しているとわかるような声援は送ってくれる。

「その時は全力で逃げてる時の悲鳴だと思うから頼むわ」

そんな心配を背に受けながら、俺は一人で森の中に入った。

オークの知覚は、嗅覚、聴覚そして視覚の順番で優れている。

となるとおおよそ見つけられるパターンとして多いのは匂いでの発見だ。

これが意外と厄介で、ゲームの世界に匂いを再現させると自然と風向きを気にするようになる。

風下に向けて自身の匂いが流れるとなれば、そっち方向から敵が来るということがわかる。

そしてこの森も流れる風の方向はだいたいわかる。

「鬼さんこちら手の鳴る方へ!!」

ならば、オークを数体引き連れて森の中を走り回ることはわけない。

「武器持ち無しなら、このまま逃げるのは楽だけど、もう少し増やしたいな」

当然だけど敵を倒すなんてことはしていない。

そして称号の習得確率というのは苦労を重ねた分だけ跳ね上がるようにできている。

神様視点で言うのなら、試練の難易度が高ければ高いほど目に留まり、これだけの偉業を成し遂げたのだから称号をあげようということになる。

ということで、モンスタートレインという行為は本来であれば唾棄すべき行為なのだが、周囲に誰もいないことを確認しつつ、追ってくるオークたちを増やすという行為を慎重に行う。

浅い部分でのオークは一体から三体ほどで行動していることが多い。

今、本当に手を叩き引き連れているオークの数は四体。

理想は十体のオークから逃げて、そして一瞬の隙を突いて隠れ、そして称号を獲得したいところ。

となれば都合よく、オークの数を調整しなければならないのだが。

「うげ」

そこで嫌な物を見てしまった。

つい、声に漏らしてしまうほどの嫌悪感。

モンスターが意図的ではなく偶然集まってできてしまう空間。

通称、モンスターハウスと呼ばれるエリアに踏み込んでしまった。

その数は。

「二十三かぁ」

引き連れていたオークを含めると二十七体。

予定の約三倍の数。

「数を減らすにしても、ちょっと多いかなぁ」

口元が引きつる、だけど誰かに押し付けるわけにもいかない。

ここら辺にモンスターハウストラップはなかったはず、となると意図してこれを作り出した輩がいるのだろうが。

たぶんだけど、どこぞの冒険者のパーティーが遁走してかき集めてしまった集団がここにとどまっていたのだろう。

血走り、自分たちの縄張りに入った子供に怒り心頭な目が俺の方に向く。

「まぁ、これなら首狩りアサシンのムーブを思い出すための錆落としにはちょうどいいか」

サーチ&デストロイ。

その言葉を体現するように。

『ブモオオオオオオ!!!』

雄たけびと同時に、一斉にオークたちは俺に向かって突進してきた。

武器持ちも三体混じっている。

一気に厄介な奴らに目をつけられたなとため息を吐き、前門のモンスターハウス、後門の引き連れていたモンスターたちという構図。

「まずは、隠れるか」

匂いで追尾できるオークから隠れる絶好の場所。

それすなわち。

「かぁ、できれば避けたいんだけど」

水の中。

森の中に水源はあるがそれはオークたちの水場でもある、綺麗とは言い難い。

そしてそこに飛び込むのも躊躇われる。

ゲームの時は嬉々として飛び込み、そしてオークたちをやり過ごしたが、それはゲームの話であり。現実でどんな病原菌か潜んでいるかわからない水場にツッコめと言われると無理ですという嫌悪感が勝る。

「木の上、だめだ、茂みの中、うん、突進されて終わる」

森の中でかくれんぼをするというのは人同士であれば結構隠れる場所があるのだけど、嗅覚の優れた相手だと途端に隠れる場所に制限がかかる。

そんな折に耳に入る音が俺に希望を与える。

それは水が叩きつけるような音。

すなわち、滝だ。

オークの森の中には山の方から流れてくる川がある。

その川の途中に滝がある。

「まだ、マシか」

それを把握している俺は、そのまま滝の方にオークの群れを引き連れて向かう。

前方に冒険者がいないことだけを祈りつつ、突進力が殺される森の中を利用して一定の距離を保ちつつ滝を目指す。

「おー、怖い怖い」

しかし、あれだけの巨体が群れを成して森の中を動くとなれば、スムーズに移動できるわけがない。

木や岩にぶつかり、そしてそれらをなぎ倒してまで直進してくるオークたち。

その攻撃が直撃しようものなら、間違いなく俺に待っている運命は決まる。

木に身を隠そうともその木ごと破壊してくるというのは下手な脅迫よりも怖いものだ。

だけど、それは俺にとって緊張感を生み出すだけのスパイスでしかない。

段々と大きくなる滝の音、そして隠れるという行為が必須な上、一回はオークたちの視線を切る必要がある。

ただ滝つぼの中に飛び込めばいいというわけではない。

「タイミングは一瞬、そしてチャンスは一度きり」

森の中を駆け、そして距離を離し、さりとて追う意欲を失わせない距離感。

いい感じに目隠しになるモノがあればいいなと思いつつ。

何かないかと探していれば、意外とそういう物はあったりする。

滝の音が本格的に聞こえ始めている。

距離はそこまでない。

オークたちの雄たけびと、そして物を砕く音が背後に迫る。

最高の緊張感、それを感じつつ、俺は一瞬だけオークの群れから視線を消せる木の陰に飛び込み、そして槍を使って素早く木の上に登る。

そしてそのまま樹上を猿のように移動して一気に滝が目前にある川の中に飛び込むのであった。

飛び込む瞬間、俺が木に登った所で木の周りにオークたちが屯って俺を探している様子がちらっと見えた。

こっちには気づいていない。

それを確認できた俺は、流れが急な川の底で槍を突き立て、流れないように体を固定した。

かくれんぼ巧者を取るために必要なのは逃げることではなく隠れること。

探す存在がいて、そしてそこから一定時間見つからないことこそが重要になる。

オークの群れに追いかけられ、そして隠れ潜む。

冷たい水に、流れの速い川。

深々と刺した槍の回収も含めて、とんでもない場所に隠れてしまった。

どれくらい我慢すればいいか、一分やそこらでは少なくともかくれんぼ巧者の称号はつかない。

ゆえにじっと、動かないでただひたすら呼吸を止める。

一分経ったか、二分経ったか。

段々と呼吸が苦しくなってきた。

だが、この過酷な環境で隠れている状況が一番称号を獲得する条件を達成しやすい。

三分経過、そろそろ限界と思いつつ、まだかと待つ。

四分経過、もうこれ以上待つと脱出と川からの離脱のための体力がなくなる。

もう限界かと思ったとき。

『称号、かくれんぼ巧者を授けます』

それは来た。

すぐに川のそこから水上を目指す。

「プハ!」

流れに抗いながら、水面に顔を上げ、そして流れないようにできるだけ川底に槍を突き立てて、岸を目指しそして川から離脱。

「ギリギリ、本当にギリギリ」

呼吸が荒い。

岩陰で、呼吸を整え、そしてそっと岩陰から森の中を覗き込む。

「俺を見失って探すのを諦め始めたか」

そこには、俺を探していたオークたちが探すのを諦めている姿が見えた。

隠れきった。

それも大勢のオークたちからだ。

それが称号を授かるための一定時間という部分に当たる。

要はヘイトが消え去るまで隠れ続ければいい。

集めたヘイトが多ければ多いほど、消えた際にもらえる経験値が多いと考えればわかりやすいだろうか。

今回はモンスターハウスにぶち当たって、たまたまこの短時間で称号を獲得できるほどの経験値を得られたということ。

「さてと、後処理に入りますかね」

称号を獲得できたのならあとは、集まったオークたちを処理する。

それがこの集団を作り出した俺の責任だ。