軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

17 精霊遊戯

アミナに大丈夫だと言ったのは半分は気休めだったが、半分は本気だった。

「本当だったら、温泉なら卓球っていう遊び道具を用意したかったんだけど卓球台はともかく、ラケットとボールは俺に作るのは無理だったよ!!」

「なにそれ!」

FBOではミニゲーム感覚で精霊とこういった遊戯を楽しめるイベントがあった。

ステータスを限界まで伸ばしている状態であれば、割と余裕でクリアできるようなイベントで、ゲーム内の世界をより楽しむという雰囲気を前面に押し出しているイベントだった。

しかしそれではヌルいと、もっととんでもないゲームを要求するプレイヤーはいる。

やっていることは戦いではなく、また今アミナと一緒にやっているような感じの競技スポーツというよりは、町内会の運動会といった感じの気軽にやる娯楽スポーツの雰囲気だった。

勝てば手ごろな景品がもらえると言うミニイベント。

そこに物足りなさを感じ、もっとはっちゃけたいと願う声が続々と上がり、そんなプレイヤーたちの声にこたえて生まれたのが封印モードだ。

プレイヤーのステータスとスキルの封印という、レベルゼロステータスゼロ状態で、ガチステータスの精霊に挑むという鬼畜ゲーができたのだ。

俺は一応、そのモードを攻略したことがある。

だけど決して一発でクリアしたなどとは口が裂けても言えない。

きっかけは何だったかは忘れた。

それほど壮絶な戦いを制した達成感のほうが、鮮明に記憶に残っているからだ。

「温泉の定番の遊び道具だ!」

「そんなの知らないよ!!」

そんな記憶をこうやって久しぶりに思い出している。

楽しみながら修羅の道を進む。

そんな気狂いの類のゲーム内容だったと思いつつ、今は彼女との遊びを楽しむ。

精霊を呼び出すためにはまず、俺とアミナが楽しむことが重要だ。

カンカンと軽快に羽根が飛び交い、そしてコート内を〝俺は〟全力で走る。

そしてアミナは器用に片足で地面を蹴りながら両腕の翼でコートの中を飛びまわり、片足で羽子板を振るってはじき返してくる。

異世界での常識というか、現実世界ではありえない光景。

異種族というものが存在するこの世界ではこういうのは当たり前なのだ。

なんならアミナのこれはまだかわいい方で、中には腕が複数組ある種族で、羽子板を複数本持って鉄壁の守りを見せるやつもいたくらいだ。

この世界での羽子板のルールはいたって単純、二本のポールの上に伸ばした紐の上を、羽子板で打った羽根が通過し、相手コート内に羽根を落とせばいい。

バドミントンのルールに近いのだ。

ただ、地球でのバドミントンと違いこっちにはスキルがあり、人の姿に近いが人と違う個性的な体を持った異種族が存在する。

アミナの空中殺法と言うべきテクニックも、その部類に入る。

空を舞うのは朝飯前、鳥に似た足を手のように器用に使うのもお手の物と言わんばかりに、中々きわどく打ち込んだ羽根にも対応してくる。

「お菓子は僕の物だぁあああああ!!」

「素直でよろしい!!だけど、まだ甘い!!」

「ああ!?」

本能的に最適解を導き出すタイプのアミナの反応速度は中々だが、羽子板を使うテクニックが追い付いていない。

スマッシュを打つと見せかけてのドロップショットに引っ掛かり、アミナが伸ばした足の先にある羽子板の手前で羽根が落ちた。

「俺の勝ち!クッキーもーらい」

「うー!もう一回!」

「ダメよ!次は私の番なんだから」

「じゃぁイングリット、俺と交代だ」

「いえ、私はネル様の後でお願いいたします。ネル様もリベルタ様と対戦されたいようですし」

得点制ではなく、羽根が落ちたら負けというシンプルな勝負、勝ったらクッキーを一枚食べられるというルールで、ほんのりと甘いクッキーを頬張った俺が羽子板をイングリットに渡そうとしたが、そっと拒まれ、そしてちらりとネルの方に視線を誘導されて目を向けた先のワクワクと尻尾を振りながら俺を見る彼女の姿を見て、俺はイングリットに羽子板を渡すことはできなかった。

「よし!かかってこい!!クッキーを俺が全部食べても文句言うなよ!」

「大丈夫よ!アミナの戦いを見てやり方はわかったわ!!」

この世界にはこういう遊びがあまりないのか興奮気味のネルに俺は笑いかけてサーブを放つ。

最初の一打目はゆったりと弧を描くようなサーブ。

ネルは俺と同じようにコートの中を走り、羽根の下に回りこみ打ち返してくる。

体力寄りのステータスだから、中々鋭いリターンが返ってくる。

だが。

「よいっしょっと!!」

全ステ封印状態でも精霊相手に勝ちを拾える俺に隙はない。

素早く返して、羽根を撃ち出した先はコートの角。

ネルの身体能力なら余裕とまではいかないけど拾える位置。

「ここ!」

「そう来ると思った!!」

全ステ封印状態で勝負に挑むのに重要なのは、相手の行動を制限して、いかにして相手の行動を読み切るかという点のみ。

先回りを続けねば絶対に勝てないのがこのゲームの肝なのだ。

「ああ!?」

打ち返したと同時にボレーでネルには拾えない反対の位置に羽根を落とす。

慌てて追いすがるも、ネルの目の前に羽根は落ち。

「勝利!!」

大人げないと言うことなかれ、アミナもネルも手を抜いて勝利を譲っても喜んでくれないのはわかっている。

なので全力で技術を使うまで。

「くやしい!!」

「うん、美味い!」

二個目はさすがにちょっと口の中が渇いたので、そばに置いておいた水の入ったコップにも手を伸ばす。

恨めしそうに俺を見て、そしてチラチラとクッキーの入ったバスケットを見る。

勝たないと食べられない。

そのルールを理解しているので、彼女は心底悔しがるのだ。

そんなやり取りをしているときだった。

『人の子、その勝負に勝てばそれを貰えるのか?』

頭に響くような声で誰かが問いかけてきた。

ハッとなり、そして辺りを見回すといつの間にいたのか、緑色、いやエメラルドグリーンと言えばいいのか、綺麗に輝く一羽の鷲がそこにいた。

「……ええ、そうです。一つ勝負します?」

『ふふふ、その意気は好ましい、楽しみだ』

釣れたと一瞬、思考に邪な物が入りかけた。

だけど、すぐにそれを追い出して顔に出す意思はこの言葉に限る。

精霊さん、遊びましょ。

今だけは頼みごとをごっそりと忘れて、そのまま遊びに興じるべきだ。

人語を解する精霊であれば、まず間違いなく期待以上の能力は持っている。

『そうとなれば、この姿では少々不便だな』

「ん?」

さてどうやって勝つかと、悩んでいるといささか以上に不穏な言葉を発した。

この姿だと不便だとおっしゃった?

今の見た目は立派な緑色の鷲、精霊としては小柄と言うべきか。

中位精霊の中にはそういう鳥の姿の精霊もいるが、普通はもっと大柄で、鷲というより大鷲と表現した方が良いような感じなのだ。

中位精霊としては小柄すぎるのに、人語を解す。

もしや。

その正体に心当たりが出てきたタイミングで、緑色の鷲が光った。

「ふむ、この姿を取るのも何百年ぶりか」

冷や汗と同時に、口元が引きつる。

現れたのは綺麗な緑色の長髪をなびかせた偉丈夫。

人でいう年頃は四十代から五十代前半といった感じの、綺麗に年を取ったと言えるような、かっこいい男とはこういうものかと男が男に憧れるような大人の男性が現れた。

自分が思い出したのが悪かったのなら謝る。

ネルとアミナにどや顔をした天罰とでも言うべきなのだろうか。

「さて人の子、その楽し気な遊び、私にもやり方を教えてくれ」

「いいですよ」

中位精霊を想定していたのに。

なんで上位精霊、それも人の姿に成れるという貴重な大精霊が姿を現すんですかねぇ!?

中位精霊相手でハードモードでどうにかなる算段だったけど、上位精霊の中でも有数の実力を持った大精霊だと話は変わってくるぞ!?

ベリーハード通り越してナイトメアモード。

そんな相手に対して、コンコンと軽くラリーをしてみる。

「あ、ここではスキルとかは禁止ですよ。風魔法とか使ったらいくらでもズルができてしまってつまらなくなります」

「わかっている。場がしらけるようなことは私もしたくない。しかし、ふむ、なるほどこれはこうやって遊ぶのか。ふふ、久しぶりに楽しめそうだ」

見るからに風の大精霊。

その能力を全力で使われたら、間違いなく勝てない。

せめてフィジカル勝負だけに絞らなければ楽しむことなどできない。

こうやって真剣勝負ではなく、ただ単純に羽根を飛ばし合うのも悪くはないが、だんだんと慣れてくるとこれが面白いものかと首を傾げ始める。

「慣れました?」

「ああ、どう打てばいいかはわかったぞ。ルールも先ほどのそこの少女二人と君がやっているのを見たのでだいたいわかった」

「なら、早速やりましょう。勝った方が、そこにあるクッキーを一つ食べられます」

「うむ、それを楽しみに来たと言っても過言ではない。なにせ、私が人里におりると大変なことになるからな」

飽きさせてはダメだ、ここで真剣に楽しませる。

予定がちょっと変わって、ハードモードがナイトメアモードに変わっただけのこと。

「そうですか、まぁ、いまはそんなことどうでもいいでしょう」

「ほう、どうでもいいと来たか」

「そうです、遊ぶ前にごちゃごちゃ言ったら興ざめです」

「うむ、確かにその通りだ。楽しむのに横槍は無粋だな」

さてと久しぶりのナイトメアモード、なんだか俺も楽しみになってきた。

ドキドキと高まる心臓の鼓動は緊張か?

否、これから強者に挑めるというゲーマーとしての興奮だ。

「おお、私を前にしてそんな笑顔を見せてくれるか人の子よ」

強い敵を面倒と思う人もいるとは思う、だけど、俺はこう思うんだ。

「はい!きっとあなたに勝てたら最高に楽しいじゃないですか!!」

「!そうか!そうだな!私もそう思うぞ!きっと私に勝てたら君は楽しくなり、私は悔しくなる、逆もまたしかりだ!私は君に勝てればきっと楽しいだろう!!そして君は」

「悔しくなるので負けません!!」

「うむ、では早速」

ゲームは楽しんでなんぼだと。

偉丈夫の精霊の手でつままれた小さな羽根。

「楽しむとしよう」

そしてそれは優しく放り上げられ。

偉丈夫が羽子板を構えた。

それは決してお世辞にも洗練された構えではない。

スポーツ選手から見ればお粗末と言うべき、素人がかっこいいポーズを想像して勝手に考えた構えであった。

だが、その構えをした途端に俺は体をずらし反応した。

放り投げた優しい動作とは裏腹に、羽子板を振りぬいた速度がえげつないからだ。

「はい!」

ブン、でもブオンでもない。

ヒュンと綺麗な風切り音が鳴り響く前に反応し、打ち返す。

皮肉なことにそんな速度で放たれたら、当然羽根などコートの外に出てしまう。

反射的に、羽子板を上にあげてスマッシュを打つような感じで振りぬくと確かな手ごたえを感じた。

「うむ!強すぎると綱の外に出てダメか!!これは力加減が必要だな!」

上から下なら鋭角に地面に叩きこむようなイメージで放つことになるのでかなり力を込めても問題ない。

「なるほど!上からたたき込むように打てば問題ないのだな!!」

俺の動きを見て学び、にっこりと笑った偉丈夫は楽し気に俺のスマッシュを軽々と返す。

下から上に掬い上げるように返したから当然羽根は山なりの弧を描く軌道になる。

「む、これでは」

「いただきです!!」

一度スマッシュを打たせるとこうやってスマッシュループになる。

美味しく飛んできたロブショットを再びスマッシュで返す。

「なんの!」

全力で返せば羽根はコートの外に出てアウトになるが、偉丈夫は一瞬で力加減を把握して、絶妙にコート線の内側に落ちるようなショットを打ち返せるようになっている。

「せいや!」

「まだまだ!!」

「はい!」

「ほい!」

段々とうまくなっている、ロブショットからどんどん低空に、そしてついには。

「そういえば、こういうのも打っていたな!!」

「そうですねっと!!」

「ははは!!攻守交代というやつだ!!」

スマッシュにドロップショットを合わせてきた。

勢いのあるスマッシュの勢いを殺し、ドロップショットを打ち返すなんて芸当に一瞬反応が遅れるが、打ち込む場所がまだ届く場所であったから前に飛び込み今度は俺がロブショットで相手コートに羽根を打ち返すしかなかった。

そうなると待っていましたと言わんばかりにスマッシュの構えを取る偉丈夫。

「たしか、こうだったな!!」

そして見様見真似のスマッシュは。

「あ」

気合が入りすぎて見事に空ぶって、そのままぽつんと羽根が地面に落ちてしまったのであった。

「ぬおおおおおおおおお!?しまったぁ!?」

「勝ったぁああああああ!!」

あっけない結末、されど全力で遊んでいる俺と偉丈夫は全力で悔しがり、全力で喜ぶ。

頭を抱え叫ぶ偉丈夫と、ハイスペックな大精霊にまずは一勝をあげられたことに俺は素直に喜ぶのであった。