軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

11 人面樹

奇声を上げ、こっちに向けて威嚇の咆哮をあげるトレント。

その姿は正しく木の化け物。

木の枝を人間の四肢のように自在に動かし、こっちに寄るなと駄々をこねる子供のように振り回し始めている。

トレント自体の大きさは、そこまで大きくはないが。

「人面樹かよ」

隠れていた本体の幹の部分から苦悶の表情を浮かべる人間の顔みたいなものが出てきた。

その特徴から今回のトレントが進化した先は人面樹と呼ばれる存在だというのがわかる。

人面樹のクラスは6。特徴としては隠密能力はそこそこに優れているが、それよりも秀でているのが。

『■■■■■■■■!!!』

「その人魂に触れないで!!呪いの効果がある!!」

「「!?」」

デバフスキルである呪い系のスキルだ。

墓地とかで出るような怪しげな人魂が、人面樹の周りを飛び交い始める。

接近してそれに触れれば対象者にデバフを付与する効果。

「効果は色で判断して!!青色は速度減少!赤色は継続ダメージ!黄色は一瞬だけど硬直する!」

「緑色はなんですか?」

隠れ潜み、そして複数のデバフを駆使して相手の動きを阻害して根っこの攻撃によってとどめを刺す。

「防御力低下!黒はスキル封印!ついでに紫は全ステータスダウン!!」

人面樹の持つデバフは全部で六つ、赤、青、黄、紫、緑、黒の六色。

「あとは足元も注意!スワンプマジックで足元が沼地になる!イングリットはエアクリーンを維持して、人面樹の周りを巡回しつつ人魂の排除!箒で払いのければ消える!」

「承知しました」

「俺たちは人面樹を中心において攻撃を開始!クローディアさんは雷掌波を主軸に動きを牽制して!」

「わかりました」

それぞれの効果を一気に叩き込むのは大変かもしれないが、姿かたちを見るまでトレントはどの派生形に進化しているか見当がつかないんだよ。

地面から伸びてくる根っこを避けつつ、鎌槍の鎌部分にマジックエッジを展開。

トレント系相手だと、槍で突くよりも鎌で薙いだほうがダメージが通る。

根っこを切り捨てながら前進するが、当然だけど本体にダメージを通らせないように人面樹が根っこを壁のように展開する。

だけど、その対応はすでに知っている。

前に進む足を一瞬止めて、目の前に壁を作らせる。

「次に来るのは右後ろか、となれば」

そっちに視線を誘導してからの背後からの奇襲、だけど右後ろからということは左側に追い込みたいという意志を感じる。

あえてその誘いに乗るのもいいけど、リスクとリターンを考えたら。

選ぶ先は右。

攻撃が来るよりも早く、右に跳び、左脇腹を根っこの槍が掠めて通り過ぎるのを脇目に、根っこの壁を越えようと回り込む。

「はぁ!!」

「気合入っているな、戦いに手を抜かないのを信条にしてるクローディアさんなら当然だけど」

そんな俺よりも先に人魂と根っこの防衛網を潜り抜け、迸る稲妻をあげてトレント本体に攻撃を加えている人物を、根っこの壁を周り込んで見ることができた。

「浅いですか」

トレントに対して打撃は効きにくい。

一番有効なのは叩き斬る系の攻撃だ。

手応えの無さから、クローディアは即座に離脱をする。

その判断は正解、実際にさっきまでいた箇所に根っこが襲い掛かっている。

「どうです?」

「……防御を崩さねば有効打は与えられませんね。ですが、そう何度も無傷であの防衛網を抜けられるかはわかりませんが」

飛び退いた先に回り込み、手ごたえを聞いてみれば芳しくないと一緒に湯気の中を走りながらクローディアは見解を伝えてくる。

「動きを封じるのは難しいですので、私が出せる一番威力のある技も出しにくいですね。うまく注意を逸らせれば別ですが」

「大技系は基本的に隙が大きいですからね、小技では出鼻をくじかれるのが多いですし」

ダメージを通すのがなかなか面倒な相手、隙を見て接近することはできるがそれでも削りきるだけの時間が確保できない。

ちまちまと削るには相手の体力が多すぎるというわけで、前途多難というのだけはわかった。

クローディアはともかく、俺とイングリットにとっては相手は格上だ。

「ですが、それを当てねば勝ち筋もないのです。どうしますか?一か八かに賭けますか?」

「そんな無茶する必要はないですよ。活路は俺が作ります」

「わかりました、ではタイミングを見計らいましょう」

だけど、無謀とは欠片とも思わない。

「ご無事でしたか」

「ああ、確認したいことは確認できた、ここから反撃に入るよ」

ちょうどイングリットのエアクリーンエリアに入れて視界も回復。

「かしこまりました。では」

「ああ、ネルとアミナに合図を」

そしてトレントの進化先が人面樹であること、そのスキルの発動とスキル回しを見て確信した。

相手の必殺の手札までわかれば、あとは調理するだけ。

イングリットは預けていたマジックバッグからクラッカーのようなものを取り出す。

円錐状の物体に、尖った部分の先には紐がついている。

一見すればパーティー用の遊具に見えるが、これも立派なマジックアイテムなのだ。

消耗品で一度限りであるが、効果はいたって単純。

「放ちます」

イングリットはそれを空にめがけて掲げ、紐を引っ張った。

円い底の部分から飛び出した光の玉が空に浮かびあがり。

蒸気の中に消え去り、そして空に光の玉を作り出す。

湯気で覆われたこの場所からでもしっかりと視認ができるほどの光。

いわば照明弾だ。

『リベルター!!』

そしてなぜか空から聞こえるネルの声。

そして湯気を突っ切って飛んでくる人影。

「お待たせ!!」

「ちょっと、ネル運んできたの僕だよ!!」

別行動していた二人だ。

エアクリーンの空間は広がったと言っても、さすがに五人では狭い。

それに、蒸気の中を常にアミナに飛んでもらうのも危険だ。

ここは森の中、アミナにとっては苦手な土地になる。

なので一番体重が軽いネルを抱えて上空で待機してもらって、敵を発見次第来てもらうという手はずとなっていた。

「ネル、行けるな?」

「まっかせて!!」

そして木に対して有効な武器は斧。

トレントに一番有効なダメージを与えられるネルを温存した状態で相手の能力を把握できた。

「アミナは上空に戻り次第追い風の歌を展開、そのあとは喝采の歌と交互に歌いながらトレントの上空を旋回、蒸気の中からくる攻撃には注意してくれ」

「まかせて!」

指示を出して、すぐにアミナが飛翔しようとするがアミナめがけて根が飛びつく。

飛ばせてなるモノかと、強い意志を感じる人面樹からの攻撃。

「させません」

すかさずイングリットが割って入り、箒を翻してその根を振り払う。

軌道が直線状な上に、払いのけるという攻撃において最高の性能を誇る箒は見事にアミナの離陸時間を確保した。

蒸気の上に飛び立ち、そして数秒後に空から聞こえるアミナの歌声。

体に活力が湧くような感覚がバフの付与の成功を教えてくれる。

「人面樹のおかげで周囲にモンスターがいないからガンガン歌える。さぁ、一気に畳みかけるぞ!」

「ええ!」

「かしこまりました」

「参りましょう」

トレントは縄張り意識が強い、それは同類だけではなく他のモンスターに対してもだ。

自分の縄張りに入ればサーチ&デストロイ。

自分より弱いモンスターどころか場合によっては格上すら糧に成長してしまう。

なぜそんなことをするかと言えば、モンスターがトレントの縄張りで暴れてしまうとそこに注目が集まり、トレント自身も狩られることを学習しているからだ。

平穏な森こそトレントのテリトリー。安全を確保するため、そして自身が成長するため注目されず敵がいないというトレントにとって一石二鳥の空間は、アミナの歌で周囲のモンスターを惹きつけることのない絶好の場を作り出す。

注目を惹きつけるのは人面樹だけ。

「でも、お前は攻撃ができない!なぜならお前の攻撃は対地特化で、対空攻撃手段が皆無だからな!!空を飛んでるアミナは探すことすらできない!」

歌を感じ取ることはできるが、トレントの探知機能は根っこ。

それ以外の五感機能は鈍いどころか皆無。

視覚はない、聴覚はない、味覚?あるはずがない。

嗅覚も言わずもがなだ。

唯一ある感覚は触覚、根っこが敏感で幹の部分は鈍感。

歌をスキル効果の影響で認識して、スキル使用者のアミナを探知しようとしているが、探知可能部位のほとんどが地中に埋まっているうえに空に放てる攻撃手段が皆無なのだ。

呪いの人魂も人面樹本体から離れて一定の高さまで上がるとそれ以上上昇ができない。

根っこを伸ばそうにも、自分の身長以上の高さまで来ると足りなくなる。

土魔法で石礫を放つ魔法を持っているけど、上空を旋回しているアミナに当てられるような射程ではない。

スワンプマジックは地面に作用する魔法だ。

すなわち、上空で歌えば余裕でバフを振りまき、注目効果で人面樹の注意力を散漫にできる。

「隙ありよ!!」

こうやって、アミナに注目を集めてしまったがゆえに、大きくハルバードを振りかぶるネルをトレントは見逃す。

「断裂戦斧!!」

防御力を削るハルバードの一撃は、人面樹の幹に大きく食い込む。

切りつけた部分という局所的な効果であるが、防御を下げながらの一撃。

『!?』

「ヘイヘイ!こっちも無視しないでくれよ!!」

手早くハルバードを抜き、もう一撃の体勢になるネルの隙間を埋めるように俺も切りつけ、防御力の下がった個所にめがけてマジックエッジで強化した槍の刃先を突き入れる。

『!!!???』

ざっくり入り込んだ一撃に驚いたトレントが、上に注目している場合ではないと俺たちに攻撃を加えようとしたタイミング。

「一瞬ですが、動きは止められます」

雷を纏った掌をクローディアは幹にめがけて打ち放った。

ビクンと木が揺れるのはなかなか見ない光景だ。

人面樹を挟み込むような形でクローディアが放った一撃は一秒に満たない時間であるが確かに相手の動きを止めた。

「はぁ!!」

そこから繋がる連打。

鉄拳と金剛身によって金属のように硬くなった彼女の四肢で、崩拳、崩蹴撃、拳と足に宿る防御ダウン効果が付与された攻撃たちによって人面樹の体を削り取る。

「断裂戦斧!!」

衝撃が複数方向から交互に来て、それによって人面樹は迎撃という思考にとらわれて範囲攻撃をするという判断をできなかった。

一方からの攻撃であれば、そっち方面の根を動かし対応すれば問題ないという思考。

その行動パターンは散々見てきた。

「退避!」

タイミングを見計らった俺の掛け声で全員が飛び退いた直後に、再び地面から人面樹を中心に根っこが剣山のように飛び出す。

後ろに跳んで、躱した。

ネルとクローディアの防御力ダウンの痕跡はしっかりと残っている。

効果時間を頭の中でカウント。

「よっこいしょ!!」

トレントの根というのは実は数に限りがある。

無数にあるように見えるが、有限。

剣山のように飛び出た根っこを引っ込ませる前に鎌状にしたマジックエッジの刃で刈り取ってやると、それを嫌がるように瞬く間に地面の中に根っこが引っ込む。

引っ込むタイミングで牽制用の人魂が展開される。

「お任せください」

だが、その人魂はイングリットの箒が払いのけ、消し去る。

出るタイミングがわかれば、対処も容易。

どんどん人面樹の行動が後手後手になっていくのがわかる。

「もう一回!」

「これならもう少し長めに殴れそうですね」

戦いには流れがある。

人面樹の行動パターンを把握すれば、その流れに乗ることは容易だ。

「そろそろか?」

相手が使ってくるスキル的にそろそろ使ってきてもおかしくはない。

ネルが最初に叩きつけた場所と同じ個所に再びスキルアタックを決めて、だんだん人面樹が殴りがいがあるサンドバッグに見え始めているクローディアは反撃が来るまで華麗なスキルコンボを叩き込んでいく。

徐々に蓄積していくダメージ、いかに体力お化けのトレント種であってもそろそろ切り札を使いたくなってくる。

「お、来た来た」

そこに予兆を見つけ、必殺技を使ってくるタイミングを掴み、俺たちは万全の態勢で迎え入れる。

普通相手が必殺技を使う時は、こう驚いたり、なんでと絶望したりするのだが。

「タイミング合わせろ!!」

こいつの場合はそこまで気を付ける必要はないので、地面がわずかに光ったタイミングで俺たちはいっせいに地面を蹴り。

「わっ、本当に地面が爆発した」

「なるほど、土属性にこのような魔法がありましたがこれが切り札ですか」

「一気に地面がめくれ上がりましたね」

空中に避難すれば、存外回避ができたりする。

ほんの少しジャンプするだけじゃダメージを抑えることはできないが、今の俺たちの身体能力だったら軽く二階に飛び上がれる程度の高さには跳躍することもできる。

クエイクボム。

地面を爆発させて、相手の行動阻害と脚部にダメージを与える魔法スキルである。

直撃を受ければ、防御を固めたタンク系のキャラビルドでもただでは済まないスキル攻撃である上、知らなければ初見殺しの技でもある。

だが、いかんせん空中へ避難すれば回避することができるという点と。

「さぁーて、根っこを刈り取る時間だ!!」

トレント種の共通の弱点である根っこが露出してしまうという致命的な欠陥を兼ね備えてしまっている。

当たればパーティを全滅させることができるトレントの起死回生の必殺技は、俺にとっては弱点部位を露出する行動でしかない。

本体に近い根っこを鎌状に生やしたマジックエッジで嬉々として刈り続ければ、どんどん根っこ攻撃が減っていくというこちらとしては好循環、相手には悪循環を押し付けられる絶好の機会。

今回のノーリッジの騒動の敵が刈り取られるまでいったい何分持つであろうか。