作品タイトル不明
487.ボン
ムジカ領に行くにあたり、筋は通そうとボンに文を送っておいた。そして、王都を出発して2刻間弱でムジカ領に到着。領都の門では、門衛だけではなく怒っているボンと苦笑いのコッシーが待っていた。その後ろには、何人もの領民の人々が。
「あっ、ボン!コッシー!久しぶり〜」
「久しぶりじゃねーわ!2刻前に珍しく文送ってきたかと思ったらーー」
「あー、はいはい。その前に手続きしないと、門衛さん達困ってるし、カレンさんを早く送って行きたいんだよね」
「ん?あっ、悪い。仕事を滞らせてしまったな」
「いえ。こちらとしては、噂のペガサスを見られただけでありがたいですから」
手続きを難なく終えて、領都の外れにあるカレンさんの家へと向かう。
「ってか、何で付いてくんの?後で、ちゃんとボンの家行くって」
「あ?お前、あんな派手な登場しておいて「はい、そうですか」で済むわけないだろうが!俺が付いているから良いが、そうでなかったら野次馬で前に進めないぞ」
「あー、それはごめん。んで、ありがとう」
「おう、わかればいい」
ムジカ領の領都をうっかり通り過ぎてスノーで旋回してしまった為に、多くの領民がスノーを目撃してしまい、今も周りを子供達がキャッキャと並走している。ちなみに、カレンさんはこの状況に居た堪れないとボンとコッシーの乗ってきた馬車にボンの所の侍女さんと乗っている。
「コッシー。これ」
「ん?クッキーか?」
「さすがに子供達をこのまま連れて行けないでしょ」
「あー、足止めか。じゃあ、コッシー。悪いが子供達に配り屋敷で待っていてくれ」
「かしこまりました」
コッシーは、文官科に入ってから正式にムジカ伯爵家の従僕見習いとして契約したらしい。その片手間で、私達の絵姿を描いて小銭稼ぎしていたらしい。そのコッシーがボンの後ろから降りて、子供達に声をかけるとスノーの周りから離れて今度はコッシーの周りに集まりだした。
それからしばらく走るとカレンさんの家が見えて来た。馬車から降りるカレンさんを、一般科では同じぐらいの背丈で小太りだったのに今では私よりも頭3つぐらい高くなりスラッとしたボンがエスコートをする。カレンさんは、領主の息子のボンに恐縮しながらも馬車から下り家へと向かう。
カレンさんの実家では、領主の馬車から下りてきたカレンさんを見て驚き外へと飛び出して来てボンに平謝りをしていたがボンが説明をすると、今度は私に頭を下げお礼を言ってきた。
「初めましてジョアン・ランペイルと言います。いつもカレンさんにはお世話になってます」
そう言って頭を下げると、バシッとボンから後頭部を叩かれる。
「いったー。何よ、ボン」
「はぁ〜。お前、相変わらずだな。だけど、お前が初対面の人にホイホイ頭を下げると他の貴族もそうだが、1番困るのは下げられた人だぞ」
「あっ……ごめん。皆さんも、すみません」
カレンさんの家族の驚く顔を見て、自分がやらかしたことに気づいた。申し訳なく思い謝ると、カレンさんに似ている青年が緊張しながらも話してくれた。どうやらカレンさんのお兄さんらしい。
「い、いやいやいや、確かに驚いてしまいましたが、その、カレンからあなた様のことは聞いておりましたので……」
「え?」
「ごめんね、ジョアンちゃん。だって、ジョアンちゃんやベルちゃんが、私に気軽に話しかけてくれるのが嬉しくて」
「えっ、だって色々とアドバイスもらったりしてるから。あっ、カレンさんのお母様は?」
「わ、私ですが?」
「お誕生日おめでとうございます。あと……こちらも。大したものではないのですが皆さんで食べて頂けたらとお持ちしました」
「綺麗なお花に色々と……いいんですか?」
「はい。もちろんです!」
カレンさんを、また明後日迎えに来ることを約束して私はボンの屋敷に向かった。ボンの屋敷では、領主であるボンパパとボンママが出迎えてくれた。手土産として、ストレージから出したミランジと紅茶のパウンドケーキ、ブランデーケーキはとても喜ばれた。昼食を一緒にと言われたが、これから用事ーーアルバイトのことは伏せたーーがあるからと丁重に断り、領都から再びスノーで文字通り飛び出した。途中でベルデに【転移】をしてもらい、王都に着いたのは11刻。スノーを王都のタウンハウスに預けて簡単な昼食としておにぎりを食べたら、『オアシス』に向かった。
「遅くなりました〜」
「いーのよ。こちらこそ、カレンを届けてくれてありがとうね」
「いえ、お安い御用です」
リキママと話した後は、早速厨房へと向かう。厨房では12刻からのランチタイムに向けて、リキパパとアルバさん、リキが仕込みの真っ最中だった。エプロンを着けながら、近い所にいたリキパパに戻ったことを報告する。
「戻りましたー」
「おお、おかえり。悪いな、ムジカ領まで連れて行ってもらって」
「いえ、大丈夫です。何を手伝えば?」
「あー、じゃあ、スープの味付け頼んで良いか?」
「了解です。ちなみに、今日のランチは?」
「今日は、A定食がジェットブルの煮込み、B定食がコカトリスの卵とじ丼だ」
ジェットブルの煮込みは、ビーフシチューのようなもの。コカトリスの卵とじ丼は、親子丼のことだ。『オアシス』では王都の飲食店でどこよりも早く、米を取り入れた。もちろん私とベルが、リキパパとアルバさんに試食してもらい力説したから。最初は、お客さんに見向きもされなかったが、騎士団も米を取り入れているという情報とバースト領でも行った試食会で、王都の下町でも人気に火がついた。
「じゃあ、コンソメスープにしますね」
「あぁ、任せた」
他の準備をしていたリキが、作業を終えて私の所にやって来て驚いた顔をしている。
「なぁ?何でメガネしてんだ?目、悪かったっけ?」
「あー、これ?これ、伊達メガネ。似合う?」
「まぁ……知らない奴からしたら、どう見ても平民だな」
そう今日の私の出立ちは、おさげ髪に銀縁の伊達メガネ、そして服は以前カレンさんと一緒に買い物に行った服。七分袖の白シャツと紺色のハイウエストのフレアスカート、そしてお店のロゴの入ったエプロンを着けている。
「でしょう?でも、本当は冒険者服の方が動きやすいんだけどね。で、どう?可愛い?」
「おう、これならカズール先輩が来ても大丈夫だな」
「へ?えっ、えっ、いや、その、別に、そ、そんなんじゃないし」
「ぶっ……。動揺しすぎだろ」
「う、うるさい!……よし、出来た。ちょっと味見して」
「ん……美味っ。なんかいつもと違う」
「具をバターで炒めてみたの」
「……もう一鍋作った方が良いかも知れない。お代わりくるぞ」