作品タイトル不明
485.食堂『オアシス』
私の手料理満載の打ち上げパーティーは、錚々たるメンバーの予定もふまえると、前世のように昨日の今日で開催されるわけもなく3ヶ月後となった。王妃様より聞いたメンバーに、招待状を送ると料理のリクエストと共に、もちろん参加すると返事が次々と届いた。それを見て春季休暇で屋敷に戻り、一緒にリスト作成をしていたサラと苦笑した。
「このメンバーとリクエストを考えると、食材もある程度良い物を揃えないといけないよね。休暇中に集めておかないとねぇ」
「そうですね。使う調味料に関しても、早めに注文しなければいけないのでは?」
「あー、調味料は買いに行くわ」
「あぁ、ベルデがいますからね」
「うん。それより、問題はこっちだよね〜。はぁ〜」
手に持った手紙をジッと見ては、ため息をついた。参加の返信と共に、私宛に届いた……というか、ショウ宛に届いた手紙。送り主は、王宮第二騎士団第3班のヘイデンさん。届いたのは、もちろん騎士寮でもなくランペイル家ではなく文官科と一般科の寮。男装のショウを公にしていないのに、どうやって私に届いたかというと……生徒会に入っているキャシーちゃんが、寮母であるデネブ夫人に手紙を託されたから。寮生に届く手紙は、寮母が受け取り各部屋に届けていく。その中に、一般科にも文官科にもいないショウという生徒宛に手紙がきた。デネブ夫人は、もしかしたら他の寮かもしれないと考えた。ちょうど、その時にキャシーちゃんが所用でデネブ夫人の所を訪ねたことで、その手紙について相談したそうだ。そして、キャシーちゃんはもしかして……と私に連絡をくれたというわけだ。
ヘイデンさんからの手紙の内容は、この前のお礼に今度の休みにでも食事を奢るということだった。場所はヘイデンさんの行きつけの店で、偶然にもリキの実家の食堂。私達も一般科の時から、冒険者活動をすると時々食べに行っていた馴染みの店。リキの両親と兄夫婦が切り盛りをしていて、アットホームで活気のある食堂。もちろん騎士科になってからも皆んなで良く行くし、リキの家族は私達が貴族であっても変わらず接してくれるからとても居心地のいい店だった。
「行くにしても、食堂でリキが手伝っていたらバレるよね。ここは、先にリキに相談しておくべきかな?」
「そうですね。先に、話を通しておいた方がいいでしょうね」
「よし!じゃあ、行ってくる」
「はい。お気をつけて」
思い立ったら吉日。今は14刻を回ったところ、昼のランチラッシュも落ち着いている頃だろうと、私は早速リキの実家の食堂に向かった。食堂は、王都の中央マーケットのある大通りから一本入った所にある。店の名前は 『オアシス』。冒険者の憩いの場になりたいという、元冒険者だったリキパパが付けた名前で、名前の通り多くの冒険者の腹を満たしてくれる。
「いらっしゃ〜い」
店の扉を開くとドアベルがなり、中から元気な声が聞こえる。声の主は「ぽっちゃり体型が悩みなのよ〜」と言いながら私のお菓子を食べることが好きなリキママ。
「こんにちは〜」
「あら?ジョアンちゃん、久しぶりね。さぁ、座って座って」
「ありがとうございます。これ、宜しければ皆さんで」
「まぁ、いいのぉ〜。ありがとう、嬉しいわ。ちょっと待っててね」
手土産に持ってきたパウンドケーキを大事そうに抱えたリキママが奥へ行くと「リキーー!下りてきなー、ジョアンちゃんよー」と、いつも通りに2階にいるリキを呼んでいる。それを聞きながら、苦笑しながら待っていると昼寝していたのか怠そうなリキが頭を掻きながらやって来た。
「よぉ、どうした?」
「ごめん、寝てた?」
「あー、まぁな。討伐依頼、朝までかかっちまってな」
「ごめん。先に文飛ばせば良かった」
「いや、気にすんな。そろそろ起きないと夜の仕込みの手伝い間に合わないって思ってボーッとしてた時だったし」
「そおよ〜。ジョアンちゃんは、気にしなくて良いから。はい、ミックスジュース」
「ありがとうございます」
以前、吹き出物や肌荒れが酷くてと悩むリキママとリキの兄嫁さんの相談を受けて、ビタミン不足だと思った私はミキサーで作るミックスジュースのレシピを教えた。『オアシス』ではミキサーを持っていなかったのでストレージに入っていた物を渡すと、リキを含めたリキファミリーから対価を払えないと言われた。それならばと店特製の魔羊の樽漬けが欲しいとお願いすると、1年間私が店を訪れるたびに1樽ずつーーだいたい5人分ーー貰うようになった。魔羊の樽漬けとは、前世のジンギスカンみたいなもので、私は前世からジンギスカンが大好きだったので1年契約が終わると、今度は代金を払ってコンスタントに買いに来ているほどだ。
リキママが、再び奥に行くのを見送るとリキが私が訪ねてきた理由を聞いてきた。バングルの盗聴防止機能を作動させるのを了解をもらい、ヘイデンさんからの手紙のことを話す。もちろん野営でのことも……。
「……はぁー。お前なぁ〜、貴族令嬢なんだからテントに男連れ込むなよ」
「いや、語弊があるから。それに、あの時は男装だったし……」
「だとしてもだ!もう少し、危機感を持てよ。カズール先輩だからって気を抜いたんだろ?まあ、ヘイデン兄ちゃんもシェルトン兄ちゃんも、そんなことはしねぇーけどさ」
ヘイデンさんとシェルトンさんは、ここの常連客だけではなくリキの幼馴染だったらしい。だから今でも『オアシス』を利用していて、王宮第二騎士団の同僚達を連れて来ることがあるらしい。
「で?その時、カズール先輩の班は、4人だったんだろ?」
「うん。カズール先輩とヘイデンさん、シェルトンさん、マットさん」
「でも、確か予約してたのは6人だったぞ。その4人とジョアンを含めても、あと1人。他に誰が来るか知らないんだろ?」
「手紙には書いてなかった」
リキが言うには、先日ヘイデンさんから文が届いて、個室を予約したいと。『オアシス』には、3部屋の個室があり基本予約制になっているらしい。とはいっても、食堂の個室を利用するのは家族で誕生日などで祝う場合や、少し贅沢をしたい冒険者達。そして第二騎士団のメンバーは、良く個室を利用するらしい。
「あと1人……」
「もし、最後の1人がジョアンの男装を知るヴィンス先輩とかなら即バレだぞ。ノア先輩もだけどな」
「ちなみに、その2人がここに来たことは?」
「あるぞ。ヘイデン兄ちゃん達の同級生だから、同窓会的なこと年1でな」
「マジか……。断った方が良いかな?」
「バレたくないなら、念には念を入れた方が良いんじゃねぇか?」
「んー、だよねぇ〜」