作品タイトル不明
448.本領発揮
私は時間を貰ったお礼と自己紹介をした。店主さんはベアルトさん、女将さんはラスカさん。その2人が揃ったところで料理について聞いてみたら、やはりレシピを購入してその通りに作ったらしい。
「なんで、ショウがそんな事を聞くんだ?」
「あー実は、そのレシピを知っているっていうかーー」
「何?もしかして “食の女神” と知り合いだとか?」
「ちょっと、あんた何言ってんのよ。聞くところによると女神様は貴族様って言うじゃない?いくらショウがエグザリア王国の人だからって、ねぇ?」
「そりゃそうだ。ガッハッハハハ」
「ブッ、クククククッ」
しまいには、私が “食の女神” だと知っているはずのガロンまでが笑い出した。
カッチーン!あーったまきた。
“食の女神” の実力、見せつけてやろうじゃん。本領発揮じゃー!!
ガタッ「わかりました。私が作ってみせますよ、本当の唐揚げを。それから卵焼きもね!ベアルトさん、厨房借りますね」
「えっ?声が……」
「はっ?髪が変わった?」
「あっ、ショウ!?」
料理するのに邪魔になる変声機と金髪のウィッグをパッと取り外し、厨房へ向かう。その後ろをバタバタとベアルトさんがついてくる。
レシピに載っている唐揚げと卵焼きは塩味。セウユ味だとセウユを購入するところから始まるから。
ボウルにストレージから取り出した鶏ももーー旅の途中で狩ったコカトリスだけどーーを一口大に切り、塩、胡椒、砂糖、酒、おろしションガーにおろしガーニックを入れ揉み込む。味が染み込む間に卵焼きを作る。
卵に、塩、砂糖、水をかき混ぜて、手早く焼いていく。ポイントは常に弱火。そうしないと卵が固まりボソボソとしたものが出来上がる。四角い形にする為に、両端を折りたたんでから巻いていく。
「はい、まずは卵焼き!」
テーブルにトンッと出すと、3人はそれぞれフォークを使い食べた。
「「美味い!」」
「まあ、全然違うわ」
私の唐揚げの粉は、片栗粉と小麦粉のハーフ&ハーフ。揚げる前に軽く粉をつけて、まずは低温で揚げること4分ぐらい。一度取り出して5分程のベンチタイム。その後、高温で2分ぐらい揚げる。
「どうして2回揚げるんだ?」
「まずは低温である程度火を通すの。で、休ませる事で余熱で中心部まで火が通るけど、そのままだとベチャっとしてるから、カリッとさせるため高温で揚げて表面の水分を飛ばすの」
「じゃあ、揚げ物は全部2度揚げる方が良いのか?」
「ううん。厚みのある肉だけね。魚だったり薄い肉だと水分が抜けすぎてパサパサになっちゃう。ベアルトさんの唐揚げは高温でずっと揚げているから、表面が黒くてパサパサなの」
くし切りのリモンを添えて、テーブルに運ぶ。まずは、そのまま食べて貰う。
「アッツ、うっま!」
「ハフハフ……揚げ方が違うだけで、ここまで変わるのか……」
「ん〜、コレもベアルトが作るのと違うわ。肉汁がこんなに溢れてくる」
1つ目を食べ終わったところで、リモンをかけて食べて貰う。
「あっ、リモンをかけた方がサッパリするな」
「確かに。また、さっきとは違う」
「あたしは、こっちの方が好きだね〜」
うんうん。これこれ、やっぱり唐揚げはカリジュワじゃないとね〜。そして、コカトリスうっま!ルフバードより旨味があるわ。また、狩らないとだわ。
「……もしかして、坊ちゃ、いや嬢ちゃんが女神様なのか?」
「ん?あ、はい。いつの間にかそんな二つ名がついていた “食の女神” ことジョアン・ランペイルと申します。あっ、ちなみに男装していたのは色々と理由があるので、内緒にして下さいね」
と、ニコッと笑うとベアルトさんとラスカさんは無言で、うんうんと頷く。
「で、どうでした?レシピだけでは実際と違いますよね?」
「ああ、ここまで違うとは思わなかった」
「味付けは出来ても調理方法が分からないからね〜」
そっか。味付けはレシピでいいけど、調理方法か……。前世のレシピ本みたいに、写真載せてこと細かく説明書きするのも難しいし、ましてや料理教室やらテレビの料理番組なんてないし……。
ん?ないなら作れば良いのか?
「……ーい、おーい、ジョアンちゃーん戻ってこーい」
「ん?あっ、ごめん。ちょっと考えごとしてた。で?何だった?」
「いや、俺じゃなくてベアルトが」
ベアルトさんは、急に立ち上がり私の前に来ると片膝をつき頭を下げて言った。
「女神様!どうか弟子にして下さい!!」
「へ?」
「俺は、元々ハイロー侯爵家で私兵団をしていたが、怪我をして腐っていた時にハイロー侯爵家の料理長から料理の世界を教えてもらった。この店は、元々ラスカの親父さんの店で俺は常連だったんだ。親父さんが腰を痛めて引退するって言うもんで、俺がこの店を譲ってもらったんだ。だが、目新しいものを出さないとどうしても新しい客が来てくれねぇ。そんな時に女神様の料理のことを知った。俺は藁にもすがる思いでレシピを購入したが……やはり食べたことのないものを作るのは……難しい。どうか俺に、女神様の料理を伝授して欲しい。頼む!」
ベアルトさんが再び頭を下げてる。それをラスカさんとガロンが見守っている。
「あーっと、今すぐ返答するのは難しいわ。でも、ちょっと考えていることがあるから、もう少し待って欲しいの。それでも、良いかな?」
「ああ。考えて貰えるだけでもありがたい」
「んじゃ、ほら、さっさと立って!……ともかく、今はさっき教えた2つだけでも、他にアレンジ出来るから。唐揚げの味付けを変えることも、卵焼きの中に入れたりする事も出来るから色々とベアルトさんも考えてね」
「わ、分かった」
こりゃ本格的に料理屋を作るか、料理教室をやるかだな〜。
まずは、お母様と相談してみてだよね。
頭の中でやる事リストを作り、その後は皆んなと色々な話をして大衆食堂を出たのは、アフタヌーンティータイムを過ぎた頃だった。